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サウロスに向かって

 平原でイグニス帝国軍と戦ってから数日が過ぎた。


 追撃したグレアムさんがノール皇子にものの見事にやられてから、俺は三十分で造った砦を引き払って、元の砦に戻った。

 帝国軍は二手に分かれたようで、一方はサウロスに籠っている方、もう一方はコーネリウス大公領の最南端にある城砦に籠っている方という具合にだ。

 このうち、最南端の方はノール皇子がいるので、あんまり関わり合いになりたくない。なにせ、ねぇ……


「絶対に殺す。あの野郎、殺してやる!」


 グレアムさんが滅茶苦茶、荒れるくらい強いようですし。

 なんでも、青黒い肌のネレウスって男にメタクソにやられてしまったようで、とても機嫌が悪いんですよね。

 まぁ、やられたって言ってもグレアムさんが一騎打ちで負けたわけじゃなくて、軍と軍をぶつけて負けたわけですし、それに加えて死者は少なくて大多数が怪我人なんで、言う程被害は大きくなかったとも言えるんだけどさ。

 つっても怪我人の大半は動けないようなんで、今後の戦力として考えるとちょっとキツイかなぁ。無理して働かせても良いんだけどさ。


 まぁ、そういう風にヤバい人もいるようなんでノール皇子の方は後回しにしたいかな。

 とりあえず、サウロスの方をなんとかしたいわけだけど、サウロスには相当な数の帝国兵がいるのが多少困るんだよな。ちょくちょく嫌がらせしてるけど、効果があるのか分からんしね。

 南部の各地に散らばっていた帝国貴族の部隊もサウロスに集結しているようだから、これからも増えそうなんだよなぁ。

 予定では、もう少し散らばっている貴族を片づけたかったんだけど、それをするための精鋭部隊がねぇ……


「なんだよ?」


 目が据わっているし、普段と全く態度が違くて、凄く怖いんですけど、グレアムさん。

 俺の部屋に来てイライラするのは止めてもらえませんかね。正直、俺の方もキレたいんだけど。

 グレアムさんがやられたせいで、帝国貴族狩りが滞っているんだけど、どう責任を取ってくれるんだろうか?


「別に何でもない」


 まぁ、俺は大人なんで、いちいち騒ぎ立てたりしませんよ。

 もっと、建設的に将来の事を考えようじゃないか。


 俺は将来的には働かずに食っていけるような身分になって、美人の奥さんと可愛い子供に囲まれて大豪邸に住むんだ。寝ていてもお金が入ってくる生活で贅沢をしながら面白おかしく暮らすんだ。


 うーん、将来はこういう感じでいきたいんだけど、いけませんかね?

 お金が足りなそうだから、難しいかもしれないね。はぁ、嫌だ嫌だ、貧乏は嫌だなぁ。


 将来の事を考えていると悲観的な気分になりそうだから、もっと生産的に現実のことを考えた方が良いかも。つっても、現実においては俺のすることは無いんだよな。

 これから帝国軍と戦うのは王国軍らしいし将軍も新しく誰かが来るだろ。俺はノンビリ見学でもしてようかな。


 しかし、やってくる人に何もやってないとか言われたりするのも嫌なんだよな。

 結局の所、やったことと言えば、帝国の奴等をちょっと片づけたことくらいだし、何かやっておいた方が良いかも。


「サウロスでも落としておくか」


 なんとなく口に出してしまったけど、悪くない思いつきかもしれんね。働いているアピールとしては申し分ないと思うんだけど。

 何日か城壁を囲んで大砲をドッカンドッカン撃っていれば、なんとかなると思うし、今すぐやってしまうのもアリかな。

 そういうわけで、さっさと出発しましょうか――




 ――で、五千ほどの兵を引き連れてサウロスに到着したわけだけど、いやぁ面倒だ。

 都市に兵士の全てを押し込むことが出来るわけが無いから、帝国軍はサウロスの周囲にいくつか野営地を建設していたようだけど、指揮官同士の中が悪いのか非効率的に野営地を離していたので、適当に襲撃をかけておきました。

 馬で三時間くらいかかる距離を開けているせいで、援軍を呼ぼうにも援軍が到着する頃には相当に被害を受けてしまっているようで可哀想ですね。それに加えて伝令に関しては、〈探知〉の魔法を使って周囲を警戒している斥候役の冒険者が排除してくれるので、援軍の要請自体が届かなかったりもするので、尚更可哀想ですね。

 向こうの兵士は食うものも食わずといった感じでやつれていて、士気も戦意も欠けているので、俺達の相手にならず、簡単に踏み潰せるけれども、簡単だからといって手間がかからないわけじゃないので、面倒なことこの上ない。

 ついでに、一つの野営地を壊滅させるたびに、こっちの兵力が百から二百は減るせいで、消耗もあるんだよな。一回襲撃をかけたら、兵士を休ませなくちゃならんしさ。

 こういう面倒事を無くすためにグレアムさんには頑張ってもらいたかったけど、敗けちゃったせいで計画が狂っちゃったんだよなぁ。


 まぁ、言っても仕方ないし、適当に潰しながらサウロスに向かいますかね。

 放っておいても食糧が無くなってどうにもならなくなるだろうけど、どうにもならなくなったらサウロスを放棄して、ノール皇子と合流するかもしれないし、そうなると困るような気がするんだよな。

 できれば、今の内に仕留めておきたいかなぁって思うけど、上手く行くかね?


 最南端の方は俺が南部に到着した頃に既に帝国の物だったし、略奪出来てないから食糧やらは余っているかもしれんし、逃げられると態勢を整えられそうなんで嫌なんだよなぁ。

 もしかしたら、山越えをして帝国の方から援軍が来るかもしれないし、早く何とかしておいた方が良い気がするけど、出来るかね?


 まぁ、こっちも援軍来るだろうし心配はいらないんだろうけどさ。

 適当に相手の十倍ぐらいの兵士さえ用意できれば、小細工なんかせずに力押しで勝てるだろうから、援軍をケチられると困るんだよね。いっぱい連れてきて欲しいもんだ。


 おっと、そんなことを考えている内に、サウロスが見えてきましたね。

 うーん、なんだか、外から見ても都市の空気が悪いなぁ。なんなんだろうか?

 サウロスの中心にある、城が内側から爆発したようになっているのはなんだろうね。城の中で火遊びでもしたんだろうか?


 まぁ、向こうがどうであれ、俺のやることは変わらんけどもね。とりあえず、さっさと城壁をぶち破って都市の中に入るとしますか。

 向こうも防衛戦の準備は出来ているようだから、手加減の必要も無いだろうし、最初からドカンと行かせてもらうとしようかね。

 サウロスの周囲に野営していた帝国軍は俺達が襲撃しまくった結果、ノール皇子の方へと向かっているようで、サウロス攻略をしようという俺達にちょっかいをかける余裕はなさそうだからな。

 ここで、本当はグレアムさんがノール皇子の許へ向かう帝国軍の背後を突くって感じなんだけど、敗けちゃったせいで、背後を突ける精鋭が減っちゃったんだよなぁ。


「何か言いたいことでもあるのかい?」


 おっと、一緒についてきたグレアムさんを見ていたのを気付かれたようです。

 態度は戻っているようにも見えるけど、とっても機嫌が悪いようなので黙っておきましょう。

 さっさと攻め落とし、適当に戦闘でもあれば、グレアムさんの機嫌もすぐ直るでしょうし、今は放っておくのが一番。

 それに、早く攻め落としておかないと、これからやってくるであろう新しい将軍に小言を言われそうだし、急ぐのは悪いことじゃないよね。


 ――いっそ、更地にするつもりでやってしてしまおうか?


 うーん、思考が邪悪になってきているけど、まぁ悪いことじゃないでしょう。

 人間というのは誰しも邪悪な内面があるわけで、時々邪悪な一面が出るのは仕方ないね。

 そういうわけなんで良心の呵責を感じることなく、俺は大砲をサウロスにぶっ放す方法だって取れるわけです。

 元は味方の治める都市だけど今は敵の物だし、ちょっとぐらいぶっ壊れるのは仕方ない仕方ない。

 それに俺は南部の人間じゃないから、南部の都市がどうなろうと知ったこっちゃないんだよね。事が終わったら、中央に帰るし、そうしたら南部のような田舎に来ることは無いんだし、どうなろうと別にどうでもいいよ。

 壊して文句言われたら謝れば良いだろうしさ。そういうわけなんで、撃ってしまいますね。


「撃て!」


 オリアスさんが号令を出して、大砲が発射される。急造だから三十門って所だろうか?

 壊れる度に魔法工兵が新しい大砲を作ってくれるが、三十門以上になると安定供給は難しそうだ。まぁ、三十門の一斉射撃でも充分過ぎるみたいだけどさ。

 そういえば、火生石の在庫が少なくなっているようだから魔物を狩って魔石を集めさせないとな。

 なんて、余計なことを考えていたら、いつの間にか砲撃が止まっていた。


 なんで止めてるんだろうかね?


 そう思ってオリアスさんを見ると、オリアスさんは肩を竦めて、サウロスの城壁に向かって顎をしゃくって見せる。

 なんだろうと思って城壁を見ると、サウロスの城壁には白旗が上がっていた。


「降伏のようだねぇ」


 えーマジかぁ。

 百発ぐらい大砲撃っただけだぜ? そりゃ城壁のあちこちに大穴が空いてるけど、市内には着弾してないようだし、まだやれるだろ。アッサリ負けを認めすぎだって。

 グレアムさん何もやってないし、これじゃイラついたままだと思うんだけど、どうするんだよ。


 サウロスの門から白旗を掲げた騎士がやってくるけど、アイツに文句を言えば良いのかね?


「降伏しますので、どうか命だけは御助けください。我々は既に食糧も無く、戦う意志を持つ者もおりません」


 うーん、なんだろうね。

 いきなり平伏されてしまったぞ。文句を言おうにも、なんだか言いにくい雰囲気だ。

 まぁ、サウロスを落とせたってだけでも良いとしときますかね。

 たぶん、これで新しくやってくる将軍から小言を言われることは無いと思うぞ。

 グレアムさんに関しては……良い大人なんだから、自分で解決するでしょうし、放っておきましょう。


 とりあえず、これでコーネリウス大公領の北側は掌握したことになるのかな。

 サウロスはコーネリウス大公領の真ん中辺りにあるわけだし、サウロス以南は帝国の支配地域って区分したほうが面倒がなくて良さそうだな。


 そういうわけで、これからはサウロスより南の敵をなんとかするって方向性で行けば良いか。

 まぁ、なんとかするのは新しく来る人であって、俺は関係ないから別に良いんだろうけどね。

 

なんにしても早く終わらせて欲しいもんだ。いい加減、戦争は飽きてきたしさ。










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