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相談

 


「サウロスを捨てるようなことは出来ぬ!」


 我ながらマトモなことを言ったと思ったのだけど、凄く拒否られています。何が嫌なんでしょうねぇ。


「救援に来たと思えば、都を捨てるだと!? 先祖代々守り続けてきたコーネリウス大公領の領都なのだぞ!?」


 俺は今サウロスにあるコーネリウス大公のお城で、南部の貴族連中に取り囲まれて怒られています。

 こんなことなら、何も言わなければ良かったと思い、俺は同じミスを繰り返さないために黙っていることにしました。


「なんとか言ったら、どうなのだ!」


「なんとか」


「貴様ー!」


 ほんとにこいつ等、訳わからんのだけど。言った通りにしたらキレるしさ。マジで面倒なんだけど。

 もうハッキリ言っていいかな?


「なぜ、卿らは進んで敗けようとしているのだろうか? 今この瞬間、俺を詰問している時間もそうだが、これが卿らの勝利に繋がることなのか? そうであるなら、どうやって、この意味の分からない時間を勝利につなげるのか、俺に懇切丁寧にご教授いただきたいものだ」


 いや、マジで分かんないから、教えてもらいたいんだけど。だって、俺の意見に反対ばっかするなら、対案があるんだよね。

 ないならないで、別に良いけどさ。俺も何となくで、反論しちゃったりすることは良くあるから、そういうのは許します。


「……それは、だな……うむ、そうだ。籠城をして、中央からの援軍を待つのはどうだろうか?」


「無理だな。待っている間に攻め落とされるだろう。そもそも、中央の軍が、いつ来るのかも分からないのだぞ。いつ来るともしれない援軍を待ち続けられるほど、卿らに精神的な余裕はあるのか? いや、卿らだけでなく、このサウロスの住人に耐えられるのか? 籠城をするのなら住人の協力が必要だ。これを甘く見ると、敵に良いようにやられるぞ」


 ぶっちゃけ、民間人は信用ならないからね。みんな忠義とか恩とか言うけど、そういうのより普通に生きている人は目先の利益の方が大事だからね。目の前に金貨の山が積まれれば、大抵の人は裏切ります。俺だって裏切りますし。

 裏切らないようにするには、徹底的に教育するしかないけど、そんな時間無いよね。時間が無い以上、民間人の協力は得られないと思って行動したほうが良いと思うんだよ。

 今の状態で戦うと、城門を開けるのに協力してくれたら、民間人には手を出さないってことを敵さんに言われたら、すぐに開けちゃいそうだしさ。


「アークス卿は砦を守った経験もあるだろう。それでも無理だと言うか?」


 コーネリウスさんとは別の貴族が質問してきました。俺に質問されても困るんだけど。あんまり考えてないんだし、まぁ、それでも言えることはあるけどさ。


「無理だな」


「無理ではないだろう。砦を二度守ったという話は聞いている。砦を守れるならば、より堅固なサウロスを守り切れないはずがない」


「ここが堅固だという考えが間違っている。俺が守っていた砦は戦の為に改修したが、この領都は民の暮らし易さの為に改修されている。そのせいで攻め易さが違う。この領都は極めて落としやすいぞ」


 領都の周りはだだっ広い平原で軍を展開しやすい。城壁の周囲には空堀も無しで、長梯子とか掛け放題だし、領都を囲む城壁は八方向に大門があるから、石壁を破らずに門を破るっていう楽な方法が取りやすい。水路をガッツリ引いているのもマズいよね、水門とかで水路を防ぐような造りじゃないから、水路は領都の外に繋がった状態のままだしさ。あと、街の区画が整理され過ぎちゃってるから、立てこもってどうこうとかも無理だし、一旦街中に敵が入ったら、この城まで一直線だよね。

 なんとかしようと思えば出来るだろうけど、それに労力使うくらいだったら、ここは諦めて別の所で戦った方が良いと思うんだよね。


「やろうと思えばやれなくはないだろうが、それには工事が必要だ。だが、その工事をできる人員も時間も足りないのだが、それでも、ここで戦うと?」


 なんだか、コーネリウスさんの顔色が悪くなってきましたね。


「グレアム。貴様はどうなのだ? 南部貴族の一員として、このサウロスを捨てていいのか?」


 コーネリウスさんがグレアムさんに声をかけました。グレアムさんの話だと、グレアムさんの実家とコーネリウス大公家は親戚なんだとか。まぁ、グレアムさんも南部出身だし、ご近所さんは親戚ってことは良くあるし、気にすることでもないかな。


「俺もここで戦をする必要はないと思いますねぇ。ああ、そうそう、今の俺は南部貴族じゃなくて、アロルド君の手下なんで、アロルド君の意見には全面賛成です。もう南部貴族とか、そういうしがらみに生きてないんで、そこの所はお忘れなく」


 もう良いかな。さっさと、行動したほうが良いと思うんだけど。俺はここを出ていくけど、残りたい人は残ってねって感じかな。


「議論はもう良いだろう。意見が一致しないならば、各々が思った行動をすれば良い」


 というわけで、解散です。さいなら――






「で、どうするんだい? 逃げると言っても簡単に逃げられるのかどうか」


 たぶん、無理だと思うね。逃げられないってことは無いけど、簡単には無理かなぁ。

 城の窓から、外を見てみると、領都の周辺に帝国の軍勢が集まりつつあるし、逃げ出す準備が整うのと同じぐらいのタイミングで、向こうの包囲が完成しそうだな


「何か方法を考えてくれ」


 面倒くさいから、グレアムさんにお任せです。そもそも、俺は色々と考えたりするのは苦手なんで、グレアムさん任せにしたいのに、グレアムさんはちっとも考えようとしないから、この機会に頑張って考えてください。


「俺が考えても仕方ないだろう。俺は細かい指揮は出来るけど、方針を示すのはアロルド君の仕事じゃないか」


 あれぇ? そうでしたっけ? なんか違うような気もするんだけど。なんかおかしくない?


「ここまで、アロルド君の言う通りにして失敗したことは無いんだ。今回も大丈夫だと思うよ」


 つってもなぁ、俺は頭の出来が良い方じゃないし、俺の考えてることなんて大体の奴がお見通しだろうしなぁ。うーん、困ったぜ。

 まぁ、お見通しされてるんなら、それはそれで仕方ないし、色々考えてもどうにもならないな。


「アークス卿……」


 おや、コーネリウスさんじゃないですか。どうしたんでしょうね?


「俺は邪魔になりそうだから、失礼するよ」


「ああ、準備を進めておいてくれ」


 グレアムさんは行ってしまったし、さて、コーネリウスさんは何の御用でしょうかね。捨てられた犬みたいな様子ですけど、大丈夫じゃなさそうですね。


「何か、御用ですか?」


「いや、用というわけではなくてだな……」


「では、世間話ですかな。俺は構いませんよ」


 割と暇ですし。細かい仕事はオリアスさんとかグレアムさん、時々ジーク君がやってくれるから、俺は仕事をしているふりですから。


「う、うむ、では世間話ということで……」


 なんだろうね。挙動不審なんだけど、大丈夫かしら、この人。


「君は私を軽蔑しているのだろう? 家柄だけの無能だと」


「いえ、別にそんなことはありませんが?」


 いや、急に何を言いだすんでしょうかね、この人は。


「いいや、嘘だ! 君のような有能な若者は私のような者を老害と蔑んでいるに違いない!」


 いや、老害ってほど年を取っていないと思いますけど。


「私だって、頑張っているんだ! 見た目で武辺者だと思われて、一度も戦などしたことがないのに皆から頼られて、どうしろというんだ。大公家の当主だからって、なんでも出来るわけが無いじゃないか!」


 いやぁ、マズいです。コーネリウスさんが泣きだしてしまいました。いい歳したオジサンが本気で泣いているのはきついです。


「皆、私に無理ばかり言って、どうしようも無いじゃないか。私に期待しないでくれ! もう限界なんだ! 勝てと言われても、勝ち方が分からないんだから、どうしようも無いだろ! 文句を言うなら、自分でやってみろ! 私に全部の責任を押し付けるんじゃない!」


 ええ、どうしちゃったの、この人は?


「うう、すまない。見苦しいところを見せた」


 本当に見苦しかったんだけど、大丈夫ですか?


「本音を言えば、君が来てくれて助かったんだ。正直に言うと、私は限界だった。帝国が攻めこんでくるなどという思いもがけない事態に対処しようと頑張ってはみたが、私は無能で……何も出来ず……敗け続けてばかりで……う、うぅ、うぅぅ」


 とりあえず、ハンカチを貸してあげましょう。


「すまない……向いてないことは自分でも分かっていたのだ……だが、コーネリウス大公家は南部のまとめ役であるから、南部の貴族を指揮する立場にならざるを得ず……南部の貴族も、私に従うとは言っているが実際には私に責任を押し付けるばかりで……私は南部の貴族を統率する立場であるから、威厳溢れる姿を見せねばならず、君に対しても高圧的に接してしまって、その事は済まないと思っているのだ……」


 涙が止まる気配が無いんですけど、この人は精神的に大丈夫なんでしょうか? いや、大丈夫じゃないだろ。

 いやまぁ、なんか、大変なのは分かったよ。うん、可哀想だね。


「正直、私はもうどうすれば良いのか分からない。だから、君に会って、どうすれば良いか聞こうと思っったのだ。君が私を気に入らないという気持ちは分かるし、先ほどの私の振る舞いも謝罪するので、どうか助けて貰えないだろうか、この通りだ」


 コーネリウスさんは突然跪き頭を床にこすり付けだしました。いや、ヤバいでしょ、行動が全く読めないんだけど。

 まぁ、それは置いといて、なんだか困っているみたいだし、助けてあげましょう。助けて欲しいって言われたら、断るのも可哀想だしね。それに、俺は基本的には頼まれたら断らない男ですし。


「頭を上げてください。随分と大変だったでしょう、心中お察しします」


 いやぁ、こんな精神状態の人に大変な仕事を押し付けちゃ駄目だよ。そりゃ勝てるわけないわ。でもまぁ、ここからは俺が何とかしてあげましょう。


「安心してください。ここから先は、俺の言うことを聞いていれば大丈夫です」


 俺がそう言うと、なんだかコーネリウスさんの顔が明るくなりました。


「何かしでかしたとしても、全部俺が悪いと考えれば良いんですよ。貴方は俺の操り人形。何をしても、悪いのは操っている俺ですから、何をしても気に病むことはないんです」


 とりあえず、責任転嫁できる存在がいれば大丈夫だろ。勘だけど、責任感で押しつぶされそうな状態みたいだし、そこら辺を上手く解消してやったら良い感じになるんじゃないかな。

 あと、自分で決定することにも疲れてるみたいだし、俺が決定してあげよう。自分で決定したことじゃなければ、そんなに思いつめることも無くなるだろうしさ。


「俺の言うことを聞いていれば問題はありません。ですから、早々にサウロスを引き払う準備をしましょう。それが良いと思いますが、どうですか?」


「君がそう言うなら、そうしよう。それで、問題が解決するなら、私が君の提案を拒否する理由は無い」


 うん、なんだか上手く行きそうです。

 コーネリウスさんも泣きわめいたのが良かったのか、随分とスッキリした感じで、去って行きました。

 あとは、イグニス帝国の軍勢に囲まれた、この都市をどうやって脱出するかだけれども――


「面倒くさいから、突破しようか」


 半端な策を練ってどうこうするより、そっちの方が分かりやすくて良いよね。

 うん、決定だ。グレアムさんとかに相談しよう。そうしよう。







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