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救援


 いやぁ、なんだか色んな人から凄い凄いと褒められてしまって照れてしまいますなぁ。

 やっぱり勝つと褒められるもんだね。負けたり、パッとしなかったりするとどうなるか分からないけどさ。

 それを考えると、傭兵の人達はどうなんだろうね。偉そうなことを言っていた割には何もしてないし、居心地悪いんじゃないかしら? まぁ、俺の知ったこっちゃないけどさ。

 ああいう、ならず者は見てると嫌な気分になるから、居心地の悪さに耐えられなくなって、どっかに行ってもらっても良いと思うんですが、なんだかんだで居座っていられる図々しさは凄いと思うから、置いてやっている。そのうち何も出来ない我が身を恥じて、傭兵から足を洗ってくれるといいんだけど。


 まぁ、それはさておき、コーネリウス大公領の領都サウロスに向かうとしますかね。


 探知一号が戻ってきて、サウロスがイグニス帝国の軍に囲まれているって報告をしてきたしさ。大変そうだし、助けに行くのも悪くはないと思うんだよね。


「もう少しゆっくり考えてから行動しても良いんじゃないですか? 先ほど戦ったばかりですし、貴族の連中に、これだけ酷いことをやっているんだし、多分助けても良いことないと思いますよ」


 エイジがそんなことを言うが、分かってないな。つうか、俺も分かってない。俺って何か酷いことをしたかな。やったことと言えば……

 南部貴族の領地とかから、根こそぎ物を取って来たことかな。あと、家族とか連れてきたくらい? 別に何もやっていないと思うんだが、何を酷いことをしたのか分からない。分からないので、これに関しては放置して、エイジが分かっていないことの方に考えを移そう。

 ゆっくり行動するとか言ったっけ? 意味分からんね。ノロノロと考えたりしてギリギリまで行動せずに悩んでどうするんだ?

 重要なのは決断の速さだと思うんだがな。間違っていようが、とにかく決断されるのは早い方が良いだろ。絶対の正解なんて誰も分からないだろうしさ、もし分かる奴がいても、俺は分からないんで関係ないし。

 正解が分からないなら、何を選んだって結局一緒だろ。ギリギリまで悩んで正解が出るなら、それでいいんだろうけど、間違ってたら、時間をかけたせいで挽回のための残り時間とか無くなってそうだしさ。

 それなら、間違ってもいいから、さっさと動こうぜ。で、ヤバくなりそうだったら、早々に諦めて別の手段を考える。それで良いだろ。失敗しても良いから、さっさと判断して、何回も行動を起こしてたら、正解だって出るんじゃないかね。良く分からんけどさ。

 とにかくグダグダ悩んで時間を浪費するより行動。そのほうが俺が楽で良いよ。頭使わなくて済むしさ。


「考えるのが好きならば、お前がやると良い。俺は行動する」


 なんかあるんだったら、エイジに考えて貰おうか。どうせ、馬には乗れないんだし、これから向かう先には居ても仕方ないんだしさ。


「ついてこれる者はついて来い。俺はサウロスに向かう」


 俺がそう言うと、王都から連れてきた冒険者百人がついてきてくれることになったので、一安心だ。なにせ、俺はサウロスの場所とか分からんからね。

 グレアムさんとオリアスアさんも一緒に来てくれるようだし、細かいことはこの二人にお任せしましょう。基本的に、俺は俺のやりたいことしかできないしさ。


 俺は冒険者たちを引き連れて、砦を出発する。移動は基本的に馬で、不要なものは何一つ持たないので極めて快速に行動できる。馬の飼葉を積んだ馬車が追いかけてくるので、全速力というわけにはいかないのが、多少の難点だけれども、頑張ってくれているお馬さんのお腹を空かせるのも可哀想だしな。

 まぁ、それでも行軍速度は相当に速いようで、二日でコーネリウス大公領の領都サウロスに到着した。どうやら、イグニス帝国の軍は到着していないようで、一安心。

 南部連合軍は一足早く到着し、守りを固めているようだけど、頑張れるのかね? この辺りは、戦場が近いせいで物資の回収をさせなかったから、食べ物が無いってことは無いと思うから大丈夫だと思うけどさ。


 とりあえず、領都に入れてもらいましょう。えーと、正門付近に行って名乗れば良いかな。


「門を開けよ! アルロド・アークスである!」


 名前だけ言えば良いよね。最近は俺も有名になったようで、名前だけ言えば大抵はどうにでもなるしさ。


「しばし、待たれよ!」


 ほら、名前を言っただけでなんとかなった。でもまぁ、時間が掛かるようなので、しばらく待ちますかね。お酒でも飲みたいところだけど、持ってきてないし、茶でも飲んで待ってますかね。菓子も欲しいけど、無いし我慢しますか。


 そういうわけで、茶を飲み始めて、数十分が経ちました。

 門は開かず、オリアスさんがイライラしだして、門をぶち壊そうなどと言っていますが、俺はそんなことよりもトイレに行きたいんだけど。

 することがないからといって茶を飲み過ぎました。正直マズいことになっている。

 俺としてはこの場を辞して、小便でもしたいのだけれど、状況はそれを許してくれそうになかった。

 領都の正門が開き、武装した兵士たちが現れたからだ。歓迎してくれているのは嬉しいけれども、そういう気づかいはいらないんで、トイレに行かせてくれませんかね。


「貴様がアロルド・アークスか?」


 武装した兵士の一団が道を開け、厳つい顔の貴族が現れました。どうでもいいです。

 厳ついって言っても、微妙にやつれているし、負け犬の雰囲気がするため怖くもなんともないので、そんな人より、俺はトイレの方が大事だね。


「そうだが、何か用か?」


 もう面倒だし、この場で小便してしまいましょうかね。


「何か用かだと? よくもそんな台詞を吐けるものだな。今頃ノコノコと現れおって、貴様のせいで我々がどれほどの被害を被ったか知らんとは言わせんぞ」


「知らんよ」


 すいません。マジで知りません。ですので、知らないって言っておきました。なんか、どっかで知らない時は知らないってハッキリ言おうって教わった気がするしさ。


「貴様っ、貴様のせいで我々はロクな補給も得られずに、惨めな敗走を続けるほか無くなったのだぞ!」


 言ってる意味が分かんないんだよなぁ。


「敗けたのは、そちらの無能が原因ではないのか? そもそも、俺がこの地に来たのは、そちらが一度敗けた後だ。何を言おうと、その事実は覆せんぞ」


「そう言う意味では無い。我々が言いたいのはだな――」


「失礼、限界だ」


 漏れそうだったんで、立小便をしてしまいました。なんか言おうとしていたところ悪いんだけど、俺も緊急事態だしさ。スマンね。


「――ふぅ、話の続きをどうぞ?」


 いやぁ、スッキリしたんで、もう良いですよ。何か話があったようだし、どうぞ続けて喋ってください。

 なんだか、俺達を取り囲んでいる兵士とかが、ドン引きしているけれど俺には関係ないね。


「貴様は我々を舐めているのかっ!」


「舐められないとでも思っているのか?」


 本当に何を言っているんでしょうね、この人はさ。面倒だけど説明してやるか。


「敗け続けている奴等にどうやって敬意を払えば良い? 勝つことが重要とされる中で、敗けた奴らなど信用に値しない」


「貴様が、何もしなければ――」


「勝っていたと? そうか、それはすまなかった」


 マジか。だったら悪いことしてしまったね。じゃあ、なんとかしてやらんとな。


「では、俺は今から何もしないでいよう。そちらの口ぶりだと、それで勝てるような物言いだったからな。そちらが逃げるばかりで回収できなかった物資も全て預かっているが、それも俺の物である以上は出す必要がないだろう」


 おや、なんだか顔色が悪いですね。


「ま、待て、それは困る。風の噂で聞いたが、王から南部への援軍として派遣されてきたのであれば、我々に協力する義務があるだろう」


「ふむ、確かにそう言われたような気もするが、協力の形など、それぞれだろう? 俺が手を出さない方が上手く収まるというならば、手を出さずに静観するのも、ある種の協力ではないかな?」


「そんなバカな話があるか! 救援に来たのだから、それらしく行動するのが当然だろう。それなのに

 貴様らは我々の富を奪うことしかせずに、マトモに戦おうとすらしていないではないか!」


 むむ、心外だな。俺達を盗人みたいに言いやがって、問題はそっちにだってあるだろうに。


「奪ったとは言うがな、俺達が回収しなければ、そちらの持つ富とやらは全てイグニス帝国の手に渡っていたのだぞ。俺は敵に利する結果になるのを防ぐために動いていたのだ。そちらが、敗けることも何も考えず、後方に宝の山をそのものにしていたのが悪いのであって、俺が非難される筋合いは無い!」


 いや、もしかしたらあるかもしれないけど。怒られるのは嫌だし、俺の方が怒ってみせて、話をうやむやにしてしまいましょう。大きな声を出したのが良かったのか、明らかに向こうが弱気になってきました。


「言い合うのもいいけどよ。そろそろ、イグニス帝国の奴らも来るし、中に入るなら入る、入らないなら入らないで、どうするかハッキリしようぜ」


 おっと、オリアスさんが話を変えてくれましたね。さて、どうすっかね。助けに来たんだし、一応、サウロスに入れてもらいたいんだけど。


「……分かった。この場だけでも過去の事は水に流し、協力してもらいたい。今はどのような輩の手も借りたいのでな」


「俺は別に協力する必要は感じないがな。まぁ、救援に来たのだから、助けてはやるが」


 良かった良かった。じゃあ、とりあえず、領都の中に入れてもらいましょうかね。武装した兵士達も、ほっとしている様子だしさ。

 最初から何も言わずに中に入れてくれりゃ良いのにね。まぁ、何かと文句も言いたい年頃なんでしょう。そういうのを許すってのも大事なことよね。


「そういえば、卿の名を聞いていなかったな」


 結構話した気がするけど、厳つい顔のおじさんの名前とか俺は知りませんでした。別に名前を知らなくても、結構なんとかなる時が多いので、いつも気にしないし、結構早くに忘れてしまうんだけど、一応聞いておきましょう。


「ニーズベル・コーネリウスだ」


 ふーん、コーネリウスさんね。姓がコーネリウスだから大公さんですかね。

 別に大公だからどうとか思わんけど。だって、ダルギンとかケイネンハイムさんとか、大公二人と顔見知りなんだし、今更それが一人増えたからってねぇ。


「そうか、では案内してくれ。俺達は、それなりに忙しいのでな」


 なんだか、凄くイラッとしている様子だけど、まぁいいか。なんだかんだで、言うことを聞いてくれそうな雰囲気だしさ。

 ああ、あと言っておかないとな。


「そちらも、色々と人や物を準備する必要があるだろうから、素早く済ませよう。何を持ちだして逃げるかは良く考えなければならんだろうしな」


 ん? なんでしょうかね、ニーズベルさんが驚いた顔で俺を見てます。


「救援と言っていなかったか?」


「ああ、言ったな。だから、助けに来たのではないか――」


 なんだか、状況の理解具合に関して齟齬があるようなので、ハッキリと言っておきますか。


「俺達は、ここから逃げ出すための手助けに来たのだぞ」


 そういうわけなんで、さっさとサウロスから逃げ出す準備をしましょうよ。

 時間は有限なんですから、立ち止まってる暇はないと思うんですけど、分かってんでしょうかね?





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