バカと妄想と七日目の黄昏
淫靡の花園への扉を開いた、家から追い出されて七日目の夕方。
性堂に入ったら、すっごく空気が悪いんですが。なんでしょうかね。これ? なんか淫乱シスターと司祭のおじさんと、昨日、俺に金を貢いでくれた司教のデブおじさんに、黒い服着た気持ちの悪い集団がいるんですが、なんでしょうかね、揉め事ですかね?
雰囲気がシュラバティック・サツバツィスみたいな? いや、修羅場っぽくて殺伐としてるなって言いたいだけなんですがね。なんか、黒い服の奴らは殺す気マンマンな気配がしてますよ。怖いですね、トイレに行きたくなるぜ。まぁ何があったかは想像がつくんだけど。
きっと淫乱シスターに金払ってヤらせてもらおうと思ったけど、結局金だけ取られてヤらせてもらえなかったってところだろう。嫌だねぇ、焦らすのが女の嗜みなんだから、そこは乗ってやらなきゃ。淫乱シスター的に嫌よ嫌よも好きのうちって感じで、やんわりと断ってたら、本気で拒否されたと思って、黒い服の奴らがキレてしまったんでしょう。これだから粋ってもんが分からない奴らは嫌だね。
見た所、今までずっと禁欲してたみたいなツラしてるし、女の感情の機微などわからんのでしょう。キミらの近くのデブおじさん見てみなさいよ、昨日の夜も思う存分、女性を弄びましたって雰囲気でてますから見習って、女に慣れてね。
おっと、淫乱シスターさんが泣いていらっしゃいますよ。いやぁ、ガチで怖かったんでしょうね。うんうん、大丈夫大丈夫、俺に任せておけって、こういう馬鹿共はちょっとお仕置きしなきゃないかんよな。
まぁ気にしないで良いよ、俺って揉め事とか結構好きだからね。それに困っている人を助けるってのが人の道ってやつだし。
「おやおや、これはどういった御用ですかな」
お、司教のおじさんですよ。今日も俺に金を貢いでくれませんかね。まぁ、それはそれとして、そういえば俺ってなんでここに来たんでしたっけ?
「さぁな、どういう用事だろうな?」
分からないんで、できれば、俺が何でここにいるのか、教えてくれませんかね、司教のおじさん。
「ふふ、それが分からないから、困っているのですよ。貴殿が何を考えてここに来たのか」
「たいした事は考えていないさ」
俺が何か考えていると思ってんの? 俺が考えてるわけねーだろ。そんくらい俺が言わなくても分かれよバカじゃねーの。そうかバカなのか、この人、そうかバカだからニコニコ笑ってんだな、今も笑ってるし可哀想にな。
まぁ、可哀想でもあるし、一応、『フッ』ってな感じで笑い返してやりましたよ。笑顔で通じる心と心。
「ふふ、そうですか。昨日の話も貴方にとっては茶番だったということですか」
「そうでもない。なかなか面白い話も聞けた上に、良い物も貰えた。そのことを、ある人に、この話をしたら随分と喜んでもらえたので、俺としては中々に実りあるものだったよ」
宿屋の娘さんに話したら、結構ウケてたよ。金貨も渡したら喜んでもらえたしね。まぁ、そういうわけなんで、出来れば今日もお金をくれると嬉しいんですが。
「……どうやら、私は踊らされていたようですね。最初から私を油断させ、行動を起こさせるつもりでしたか。追放されたとはいえ、流石はアークス伯爵家の狂公子、いや『ロード・アンタッチャブル』と呼ばれるだけのことはあります。全てを破滅させる決して触れてはいけない暗黒の貴公子。その異名は伊達ではなかったようだ」
え、なんだって? ごめん聞いてなかった。ロード・アンタッチャブル? ええと、あれだよね、あれ美味しいよね。
「噂は噂、所詮は家門から追放された馬鹿息子だと思い、侮っていた私が間違いだったということか。私の調べでは、守旧派を庇護する貴族との接触は無かったはずだが、外の騒ぎから、貴族の私兵が動いているのは明らかのようだ。まさか、私の調査網を抜けて接触を行っていたとは、思いもよらなかったよ」
『うらぁーっ! 舐めてんじゃねぇ、ぶっ殺すぞ! 魔法ぶちかますぞクソどもがっ!』
聞こえてくる声は、コレはアレですねぇ、オリアスさんが一人で騒いでますねぇ。楽しそうで何よりです。で、なんの話だっけ?
「功を焦った私が動き出すのを誘導したということか。革新派の存在をを快く思わない貴族からの依頼で、革新派の不正を暴き、革新派の勢いを削ぐ腹積もりなのだろうな。だが、そんなことをしても無駄だ! すでに、この国の主流は革新派の手に移ることは決まっている! 私は守旧派の聖女を排除した功績によって、新たな教会での地位を確保してみせる! 今更、止まれるものか!」
え、なんだって? むずかしい はなしは やめろ! おれが わからないだろ!
「審問官! あの男に神罰を! 奴は新たなる神の秩序に弓引く神敵である!」
そういや、おデブの司教さん。敬語を忘れてますよ? 俺のことを敬いましょうよ。おっと、黒い服の人達、いたんですか?
キミら、その顔、状況がイマイチわかってない感じでしょう。人から言われたことに従うだけじゃなく、ちゃんと頭使った方がいいと思うよ。
あ、やめてください。襲い掛かって来ないでくださいよ。つーか、槍を突き出すんじゃねぇよ! 刺さるだろ、ふざけんな! もういい、お前の槍取りあげっから。おい、離せよ。
え、なんですか? なんか俺に向かって突いてきた槍を掴んで、持ちあげたら、人間も一緒に持ちあがったんですけど、普通に手放そうよ。いつまで掴んでんだ放せよ。もう、振りほどくからな!
……なんか、俺が槍を掴んだら、その持ち主が頑なに手放そうとしなかったので、振り払おうと思いっきり振り回したら、なんか周り人にめっちゃ、ぶつかって、ぶつかった人達が吹っ飛びました。
……まぁ、そうだよね。槍の先に人間と同じ重さのハンマーが付いていたとして、それを振り回して、人に当たったら、人が吹っ飛ぶよね。正直悪かったと思って、俺は槍を放り投げました。なんか、ベチョって音が聞こえたけど気にしちゃ駄目だね。
「調子に乗るな! 異端者め!」
なんですかね。最後に残った黒い人が襲い掛かってきましたよ。なんか、ちょっと強いですね。
「神の名のもとに、貴様を裁いてやる!」
なに言ってんだろうね。
俺に勝てるつもりなんでしょうか。お前みたいなカスが俺に勝てるわけねーだろ。バカか?
剣を抜いて、そいつの槍を思いっきり叩いてやりました。握力が足りないせいか、そいつの槍が吹っ飛びます。もっと鍛えましょうね。まぁ、それだけで済ますわけにも行かないので、そいつの右腕を肘から斬りおとしてやった。
これから先は勝てない相手には挑まないようにしようね。
そういうわけで、さいなら。ってな、感じで、腕の辺りを抑えてうずくまっている邪魔なバカを蹴飛ばして、遠くにやる。
なんか、デブのおじさんがグヌヌってやってますよ、顔真っ赤です。俺が強すぎて、憧れちゃった系かな。とか、なんかやっていると入り口が騒がしくなってきました。
「オラー! 聖女はどこだ! 助けに来たぞ、ゴラァッ!」
オリアスさんですね。五月蠅いです。
「よーし、聖女様、司祭様、こっちです。俺についてきてください!」
なんか、隙を見て、オリアスさんが淫乱シスターと司祭のおじさんを連れていってしまいました。なんなんですかねぇ、あの人、去り際に「後は頼んだ」とか言ってましたよ。
まぁ、淫乱シスターに障ると性病が移りそうだから、触りたくなかったんで良いんですけど。俺って潔癖症気味だから、ばっちい感じがしそうなものって嫌なんだよね。
「貴様ぁ! 神の意思に従う、我々に刃向うことがどういうことか、わかっているのかぁ! いつか貴様の身に神罰が下るぞ!」
なんか黒い服の奴が色々と言っていますね。なんですかね? 神とか信じちゃってる系ですか? いい歳して恥ずかしくないんですかね?
俺は信じませんよ。見たことないですしね。たぶん、神様って、貴方の妄想の存在なんじゃないですか? そんなものに熱心になるとか恥ずかしい人達だなぁ。神罰とかあるわけないじゃないですか。まぁ、ここは俺が教えてあげるとしましょう。
「神罰などあるわけがないだろう」
とりあえず、聖堂の奥にある。なんかでっかい像の脚を剣で斬って、像を床に転がします。なんか、大事なものっぽい感じだし、これに色々とやって、神様が怒んなかったりしたら、神様とかいないでしょ。とりあえず、像に唾でもかけてみますか。ほら、ペッと。
……何も起きませんね。唾をかけても、怒らないとか、神様がいるとしたら、なんなんでしょうね。
「神とは随分と寛容なんだな?」
唾かけても怒らないとなると、どうすれば良いんでしょうかね。何をかければキレるんでしょうかね。
…………そういえば、さっきから微妙にトイレに行きたかったんだよな。…………他にかけるものないしかけてみるか。女の子に見られてないし、出しても良いよね。うん、そうしよう、というわけで俺はズボンの前を開けました。
ジョンジョロジョン
――――ふう、すっきりだぜ。なんか高そうな像はびちょびちょだけど、これだけ教会で好き勝手やったら、神様だって出てくんじゃね?つーか、これで出て来なかったら、神様とかいないと思うんだけど。何にもないですねぇ。
なんですか? 司教さんに黒い服の人達、皆さん顔が真っ青ですよ?
「…………神をも恐れぬ狂公子…………」
なんか言ってますが、それよりもどうしたんでしょうかね。アレは?
「神罰というのは、いつ俺に下るんだろうな?」
なんか一向に来る感じがしないんだけど、そこんとこ、どうなってんの?やっぱり、神様とかいないんじゃね?
「き、貴様、せせ聖像に、ななんという冒涜を、ゆる許されることではない、貴様にはいつか必ず神罰が下るぞ!」
いや、そのいつかってのが気になっているんですけど。いつかって、いつなんですかね。そのうちとかだったら、神罰とか関係なく、俺が死ぬことだってあるわけだろうし、それって神罰関係ないんじゃないですかね。
「すぐに罰も下せないとは、神というのも無力なものだな」
まぁ、神様なんて、キミらの妄想だろうから力なんてないだろうしね。現実を見ようよ、神罰とかもキミらの思い込みだぜ。まぁ、もしくは神様がいるんだとしたら、俺は愛されてるから、おしっこかけても許されるって感じなんじゃないですかね?
「神罰が下されないということは、俺は神に愛されていて、俺の行動は神に許容されているということではないのかな? だとしたら、貴様らが言う神罰とは、なんなのだろうかな? 神の考えも理解できずに神罰だなんだと、言っていたことになるのだろうか?」
なんか、すっげぇ睨まれてんですけど、俺。黒服の人達、怖いんですけど。ま、まぁ、あれだね、否定ばっかりしているのは良くなかったね。きっと神様って、この人たちの心の中の大事な友達なんだろうし、否定するのは可哀想だし、認めてあげたほうが良いよね。一応、フォローでもしておきましょう。
「まぁ、そのうち俺に罰が下ることもあるかもしれんな――――」
あ、そうだ。一応、伝えておいた方が良いかもしれないので言っておこう。
「だが、貴様らが、それを見ることは不可能だろうよ」
いや、だって明日、神罰が下るとしても、キミらとは明日以降、会うことなんかないと思うぜ。キミらは定職に就いているけど、俺って定職に就いてないから、生活パターンとか被らなさそうだし、そうなると、今後、再会するのって絶望的だと思うんだよね。だから、俺に万が一、キミらの妄想が具現化して、神罰が下ったとしても見ることは不可能じゃない?
分かってくれたよね?
「ふざけるな! 私はこんなところで終わらんぞ、こんな狂人の手にかかって死んでなるものか!」
うわ、デブ司教が、なんか大声出しやがった。
つーか、狂人って何よ。人に悪口言ったらダメなんだぜ、この豚野郎!
テメェみてぇな醜く汚らしいゴミは、豚にナニ突っ込んでブヒブヒ言ってんのがお似合いなんだよ。死ね!てめえは生まれてきたのが間違いだったな、どうせテメェみてぇ醜いカスを産んだ親もきっと最底辺のゴミなんだろうよ。豚みてぇな親父とお袋だろに違いないな。いや、豚か? お前、豚だもんな。きっと両親揃って豚なんだろう。そうかそうか、なんだ、お前は結構優秀なんだな、なにせ二足歩行で歩いて人間の言葉しゃべれるもんな。いやぁ上等な豚だぜ。でもまぁ、人間様と対等に話そうとすんのはいけねぇな。ほら、さっさと豚小屋に帰って雌豚相手に腰でも振ってろ。ガキでも作って、最後は人間様の食い物になるのが、お似合いだわな。おっと、てめぇなんか誰も食わねぇか、だって、お前くっさいもんな。いやぁ、俺の見込み違いだわ。失敗失敗、食い物にもならねぇんじゃ、豚としても最底辺だな。
悪口はいけないぜ。もっと相手を思いやろうぜ、司教さん。
おっと、なんだか、そんなことを考えている内に、なんか色々起こっていますなぁ。
「閣下、何を!?」
「おやめください、これはこれでは!」
「ひぃっ、たすけっ」
なんか、デブ司教から、黒い煙が出て黒い服の人達が悲鳴をあげながら、煙に包まれていきますね。いやぁ何がなんだか。
「生贄を使った悪魔召喚術。使いたくなかったが、こうなってしまった以上、もはや全てをなかったことにするほかはない。私も滅ぶだろうが、貴様らも道連れだ!」
え、なんだって? ごめん、聞いてなかった。
なんだか煙が消えていきますね。おや、知らない人がいますよ。煙が晴れたら、なんだか知らない人がいます。中々に個性的な人です。肌は真っ黒で、尻尾が生えていて、頭に角、背中に羽ですよ。まぁ、俺は外見で人を判断することはないんで、とりあえず友好的に行きましょうかね。