セイリオスの眼差し
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いやぁ、我が弟ながら空気読めなくて最高。
悪気はないんだろうけど、結果的には大変なことになったね。まぁ、最初からこうなることを見越して、出席させたんだけど。
呪いとか抜きにして、これだけ人の神経逆撫で出来るのは、持って生まれた才能だね。
父上と母上が小さい頃に必死の思いで貴族風の物言い覚えさせたけど、会話の中身まで気を使えるようにはできなかったから、ヤバいくらいに不遜な感じになっちゃってるし、もう色々とヤバい。
おもっくそ、笑ってやりたかったけど、それやると僕も空気が読めない人間になるから我慢してたけどさ。
まず最初の時点でありえないっしょ。
婚約披露パーティーで女を複数連れとかさ。これから、この女性を愛していきますって、一応は純愛を訴える場なのに、そこに何人も女を囲っている姿を見せるとか喧嘩売りに来てるよね。
それ以前に、こういう公式の場で連れてくる女性は基本的に一人なんだよね。いっぱい女の人を囲ってる貴族でも外聞が悪いから奥さんしか連れて来ないからね、普通は。
それでも連れてくるってのは、よっぽどの馬鹿か常識知らずって思われるんだよね。
僕の奥さんなんか、アロルドの事を露骨に軽蔑してたからね。まぁ、普通の人だからしょうがないけどさ。
でもまぁ、周囲の神経を逆撫でするには良いよね。
アロルドが連れている女の子は皆、美人だしさ。女は劣等感と嫉妬、男は羨望と嫉妬を感じずにはいられないし。なんだかんだで、男の夢だからねハーレムは。
ついでに会場入りせずに入り口で待機してたのもヤバいね。
アロルドがいるのが分かって、怯えてる人いっぱいいたしさ。ほとんど脅しかけてるよね、あれ。
貴族の中では絶対関わり合いたくない男ナンバーワンに位置してるからね、アロルドは。
アロルドがいるって分かった時点で大抵の貴族は大人しくなるし、アロルドが今後も王家が主催するパーティーに参加すると思った貴族もいるだろうか、そういう人の中にはアロルドがいるってだけで、参加を見合わせる人もいるだろうし、これから王家主催のパーティーなんかは寂しくなりそうだね。
まぁ、それだけアロルドが恐れられてるってわけだけど。色々とやってきたし、仕方ないね。
会場入りしてからも結構ヤバかったし、くそ面白かったな。
陰口叩いてる奴らに食って掛かるのって、ああいう空気読めないとこ最高なんだけど。
大抵は知らんぷりされるんだけど、脅しかけて認めさせちゃったからね。
陰口に対して、ああいう真似をするのは優雅じゃないって言われるんだよね。高貴なものはちょっとの陰口なんて気にしないっていう建前があるからなんだけど、完全無視だからね。
ついでに、アロルドは、そんな気なくても生きて返さないみたいなこと言ってて、陰口叩いてた奴らは滅茶苦茶ビビッてて最高に受けたよ。
まぁ、その後もグチグチ言ってたみたいなんで、僕がキッチリ始末をつけておいてあげようかな。
なんで女連れじゃないのって感じの事を平気で言っちゃったのも良かったね。ついでに、それを美女三人を侍らせながら言ってるのはヤバかった。笑いを堪えるのが大変だったよ。
いや、その人たちも好き好んで、一人でパーティーに来てるわけじゃないから。案外、ちょうど良い相手がいない奴も多いからね。
あと、甲斐性なしとか言うのも禁止だから。マジで金持ってない人もいるからね。最後の頼みのお金の力も無い男たちが、この場に悲しく一人で来てるんだよ。
昔はパートナー連れじゃないと、パーティー参加できなかったけど、一人の男が多すぎて、それ無しなったから、女連れが当然ていうのは古い価値観だからね。
でも、煽りには最高だった。主催者が若い男だから、招待客も若い男が多かったのが良かったね。殺意に満ち溢れてたけど、敗北感もあって、どうしようもなくなってた姿は、見てるこっちとしては最高に面白かったよ。
王国騎士団の副団長に喧嘩売るつもりはなかったんだろうけど、結果的に喧嘩売った形になったのも悪くなかったね。
華々しい活躍が何も無い彼らからすれば、西部の魔物討伐は是が非でも自分たちの手で成し遂げたかったんだろうけど、その機会を奪われちゃったからね。文句を言いたかったんだろうけど。アレじゃあねぇ。
アロルドに悪気は無かっただろうけど、周囲が聞く限りでは、王国騎士団はヘボって認識されただろうし、これから肩身が狭くなるんじゃないかね。もっというと、舐められると思うな。あの場にいた貴族は王国騎士団を確実に侮るだろうね。
いやぁ、大変だ、王国騎士団と言えば国の守りの要なんだし、それが大したことないと思われるってことは、王家の有する武力が大したことないって思われるのと同じだからなぁ。まぁ、そうなってもらった方が良いんだけど。
僕としては、貴族連中には徹底的に王家を舐め腐って欲しいんだよね。
出来れば、王家とかたいしたことないんじゃね?ってくらいになってくれるといいなぁ。
まぁ、それもアロルドのおかげで上手く行ってるんで、心配はいらないんだけどさ。
いやぁ、王子にお祝いの言葉を送ってるとことか最高だったよ。
途中、父上が泡吹いて倒れちゃったしさ。まぁ、常識的に考えたら滅茶苦茶ヤバいよね。完全に王子に喧嘩売ってたもん。エリアナもノリノリだったし、すっごく性質悪いよね、あの二人は。
王子も追い出したかったようだけど、追い出すわけにもいかなかったしさ。
物騒な真似して、自分の婚約披露の場にケチをつけたくなかったんだろうけど、そういうとこ甘いよなぁ。まぁ、仕方ないかな。招待状を偽造した僕が言うのも難だけど、招待状が偽造されたなんて話になったら、色んな人間の責任問題になるし、王子だって責任取らなきゃならんしね。
アロルドの偽造の招待状がバレても、それ一通だと限らないし、偽造の招待状で暗殺者が潜り込んだ可能性だってあるわけだから、パーティーも中止しないといけないんだよね。それを避けたいから、公にするのを避けたんだろうけど、判断甘いね。
それの関連で血生臭いのも避けたかったから、無礼討ちも出来なかったようだし、守る物がいっぱいある人間は大変だなぁ。アロルドなんかは何でもアリに生きてるから守る物とか関係なしだからね。やったもん勝ちな場面では滅茶苦茶強いよ。
とにもかくにも、王子はアロルドを排除しなきゃならなかったね。これで成り行きを見守っていた貴族の皆さんは思うんじゃないかな。
『王族にあそこまで無礼な口を聞いても大丈夫なんだ』とか『ウーゼル殿下は甘い』とか『これだったら、自分も王家に強気に出ても大丈夫だろう』とかさ。
いやぁ、王様になった後、大変だね。
みんな触れようとしなかった、婚約破棄を話題に出したのも良かったなぁ。
一回やってんだから、もう一回やるんじゃないって感じのこと言っちゃ駄目だよ、アロルド。どう考えても、王子たちに非があるんだから、言い返せないからね。
いやぁ、凄く面白かった。王子なんか怒りとか恥とか、グチャグチャに混じって大変なことになってたんだけど。
王子の取り巻き連中に喧嘩売ってるのもナイスだよ。お偉いさんの息子さんたちだから、そいつらも侮っていい雰囲気を作るのは重要だよ。彼らが将来、親の跡を継いだ時に、甘く見られて舐められるようになるからさ。
無意識で全方位に喧嘩を売れるとか凄まじい才能だよね。羨ましいんだけど。
男としての甲斐性の差も見せつけたのは、王子はきつかっただろうなぁ。
王子って言っても、そんなに使えるお金は多くないからね。西部で荒稼ぎしてきたアロルドと比べると財布の中身に差があるのは仕方ないんだろうけどさ。
あそこまで差を見せつけられるとねぇ。金貨百枚のドレスとか頭おかしいでしょ。何をどうしたら、そんな値段になんの? 流石に僕もアレは引いたんだけど。金持ちすぎて、こっちの頭がおかしくなりそうなんだけど。
美女三人を侍らしているのも見せつけられたし、色々、男として負けたような気分になったんじゃないかな。まぁ、僕にとっては笑える見世物だったけどさ。
『良い男の所には良い女が集まってくるのでな。殿下も気をつけた方が良い』
最初の時点で舐め腐ってて最高なんだけど。
『とはいえ、甲斐性が無いと辛いものがあってな。三人分のドレスで金貨が三百枚飛んだ時には驚いたものだ。もっとも、それを着た彼女たちの美しさを目にして更に驚いたがな』
そんな金、王子には出せないからね。財力の差をアピールされるときついからやめてあげて。
『贅沢をさせてやるのにも甲斐性がいるが、殿下ならば大丈夫だろう。イーリスも我儘を言ってやるも悪くは無いぞ。男というのは女の我儘をどれだけ叶えてやれるかで器が知れるという話もあるくらいだからな』
それいったら、王子の器はアロルドに劣ってることになっちゃうよ。王子じゃアロルドみたいに女の子の我儘を叶えられるだけの財布の余裕も時間の余裕もないから。
もう、無礼討ちにしちゃえよ。王子様さぁ。まぁ、出来ないんだろうけどさ。本当に情けない奴だなぁ。
場の空気とか無視してやっちまえば良かったのにな。まぁ、やろうとした瞬間にアロルドに殺されるだろうけどさ。
そういう判断は出来ていたのかな。でも、そんな風に小賢しく立ち回ったせいで、成り行きを見守っている貴族からは侮られちゃったよ?
これから先、誰もキミの言うことは聞いてくれなくなっちゃうよ?
貴族の大部分は王家に忠誠を誓ってるんじゃなくて、王家の力に忠誠を誓ってるんだからさ、弱い王家なんか相手にしないよ? いやぁ大変なことになりそうだね。
しかし、実際に並んでみると、アロルドと王子じゃ、王子が可哀想になってくるね。
王子は美男子なんだけど、いかんせん線が細いかな。アロルドは目つき悪いけど男前と言えなくはないし、なによりガッシリとしていて体格良くて、押し出しの良い風貌だからなぁ。
アロルドの方が堂々としてて場を支配しているし、何も知らない人が見たら、アロルドの方が身分が上に見えるんじゃないかな。王子も悪くはないんだけど相手が悪いね。
王様が出てきても、それが変わらなかったのが凄いと思うよ。
西方僭王なんて言われるのも当然だね。身に纏う雰囲気だけで言えば王様より王様っぽいし。
アロルドと並ぶと王子も王様も格が落ちるのがハッキリ分かるのがなぁ。たぶん、みんなそう思ったんじゃないかな。
アロルドの方には、そんなつもりは無かったと思うけど、傍から見てれば王様を見下してるようにしか見えなかったのが、なんともね。
完全に舐め腐った態度だったし、それを見ていた貴族連中も、どうして好き放題に言わせているのかって感じだったろうね。失望とか憤りとか、アロルドだけじゃなく王様の方にも向かったんじゃないかな?
王様も手出ししたくても出来ないのが哀愁を誘うなぁ。
アロルドを敵に回すと、冒険者ギルドが敵に回るし、それは嫌なんだろうね。本当に小賢しいことを考えてるから嫌になるな、まったく。
まぁ、気づいてないみたいだけど、パーティー会場は冒険者ギルドの面々の手に落ちてるから、下手なことは出来ないんだけどね。
こういう時の為に、僕が準備していた甲斐があったよ。何かあったら、この場にいる全員を冒険者ギルドを使って、皆殺しにできるしさ。
とは言っても、それは最後の手段なんだよね。
あまり、追い込んで、王様に変なことをされると嫌なんで、僕が割って入り、それとなく取り成しておこう。
――うん、まぁ、あんまり効果はなかったね。でも面白かったし良かったよ、アロルド。
特に、婚約披露のはずなのに、自分のドラゴン討伐の話をメインにしちゃった所とかヤバいんだけど。完全にパーティーの趣旨ぶっ壊しちゃったじゃん。
王子の婚約より、ドラゴン退治の方が派手だし、アロルドの方が注目浴びちゃってるよ。
いやぁ、可哀想だなぁ、一生に一度の婚約披露をぶち壊されちゃってさ。これ、凄く恨まれちゃったんじゃない?
主役食っちゃったせいで、王子とかに凄く睨まれてて受けるんだけど。いやぁ、笑えるわ。
ほらほら、王様。舐められてるんだから、毅然とした態度を示さないと。
ここでハッキリと言えるかどうかで、貴方の今後の明暗がハッキリするんだからさ。
後で暗殺とかは駄目だよ。それやると、公衆の面前で何も出来なかったって、結局馬鹿にされるからさ。今、なんとかしないと。
大声出して怒るのがみっともないとか、空気を壊すとか考えてるのは駄目だよ。
ほら、やっちゃえ、そっちがやったら、僕も出るからさ。そうすりゃ全部が良い具合にいくんだよね。だから、頼むよ――
「申し訳ありません! 南部大公より火急の報せです!」
ああ、くそ、タイミング悪いなぁ。こりゃ駄目だ。
「王国南部にイグニス帝国軍が襲来! 繰り返します、王国南部にイグニス帝国軍が襲来! 既に王国最南端は帝国の手に落ちました!」
来るのは思ったより早かったけど、攻め上がりは遅いな。まぁ、良いけどさ。
さて、ここから、上手くやっていきますかね。まずは王様とか、この場にいる連中を上手く丸め込まないとな――
◆◆◆
いやぁ、上手く行った上手く行った。ちょっと色々あったけど、概ね問題なしだ。
アロルドに関しては、やっぱり余計なことは言わずに率直に頼むのが一番だね。
「あなた、どうかなされたんですか?」
おっと、笑みがこぼれていたかな? 気をつけないと。馬車の中とはいえ、誰が見てるかも分からないからね。
まぁ、見てるというよりは、見張られているって感じかな?
ちょっと鬱陶しいし、追い払ってこようか。
「少し風に当たりながら帰るよ」
奥さんに、そう言って、僕は馬車を降りる。いつもの事なので、特に何も言わずに馬車は走り去っていった。
秋が深まりつつあるので、少し涼しいけれど、興奮して熱くなった体にはちょうど良い。
「キミらも、そうだろう?」
僕は待ち伏せをしていた騎士たちに声をかける。
「随分と勘が良いな」
騎士達は五人、装備から見て近衛騎士団だろうか。
近衛騎士団は王族直属で王様からの命令は絶対だ。その辺りは、軍務卿の指揮下にある王国騎士団とは話が違うのだけれども、まぁ、それはどうでもいいか。
とにかく、近衛騎士団は王様の命令で結構汚い仕事をやったりするってことだけ知っていれば問題ないんだよね。
「うーん、僕を見せしめにでもしに来たのかな?」
「答えるとでも思っているのか?」
「別に答えなくても良いよ。どうせ、アレだろ。さっきのパーティーの時に僕が余計なことを言ったからアロルドに手出しできなくなった腹いせと、今以上に調子に乗ったらどうなるかってことをアロルドに教えるために僕に脅しをかけようって感じだろ?」
近衛騎士は何も言わずに剣を抜き、僕に近づいてくる。
「中途半端に目立つなら、処理のしようがあるけど、アロルドにあそこまで目立たれると手出しできないからね。イラつくのも分かるけどさ、それなら本人にハッキリと言えば良いんだよ。それを、こんな小細工でなんとかしようとかさ」
僕に近づいた騎士が剣の切っ先を僕の顔に突きつける。
「それ以上喋るな。大人しくしていれば、苦痛は与えん」
なんともまぁ、お優しい。でも、こいつらの思い違いはどうしようもないな。その言い方は、まるで僕に抵抗の手段が無いようじゃないか。
「……はぁ、アロルドが目立ちすぎるせいか、どうにも僕は甘くみられやすいようだ。弟が武闘派ならば兄は知性派だとでも考えるのだろうかね?」
「黙れ、この剣が目に入らないのか?」
「よくよく考えてくれよ、弟が幼い時に一番遊ぶのは誰だ? 弟のキチガイ染みた遊びに付き合わされるのは誰だ? それはな――」
僕は顔面に突きつけられた剣の切っ先を噛み砕いた。
「――兄だ。つまりは僕が一番、アロルドの頭のおかしい遊びに付き合った経験があるんだ」
僕は噛み砕いた剣の切っ先を吐き捨てながら、騎士達に説明する。
「もっとも、キミらとしては、それがどうしたって言いたいだろうけれど、これが中々に重要なことでね。まぁ、詳しく説明しても仕方ないんで端的に説明するとだね――」
「僕はアロルドと同じ程度には強いってことだよ」
切っ先の無くなった剣で騎士が斬りかかってくるが、僕は手刀でそれを受け止め、逆に剣を砕く。
「まったくもって、男の戦いというものが分かっていないな」
僕は剣を失った騎士の頭を拳で粉砕する。
僕を囲んでいた騎士たちが一斉に動き出すが、なんとも無粋だ。
「男の戦いというのはタイマンか、数が多い相手に立ち向かうものだよ。集団で囲んで何とかしようなどというのは、男の風上にも置けない」
真っ先に向かってきた騎士の腹を蹴り飛ばす。内蔵の破裂と背骨を砕いた感触がした。
続けて、もう一人の騎士の胸を鎧の上から殴る。鋼の鎧が陥没し、心臓を潰した感触がした。
更に、もう一人を襲い掛かってきた騎士の頭を蹴る。頭が千切れて吹っ飛んでいった。
「うーん、手応えがない。弱いにもほどがあるね」
最後に残った騎士は腰を抜かしていた。
「キミらは僕を謀略家だと思い、自分で戦う力は無いと思って襲ったんだろうけど。それは認識が甘かったと言わざるをえないね。僕は言うなれば暴力家で、殴り合いの方が好きなんだ。謀をするのは、そうする必要があるからで、本音では全部、殴って解決したいんだよ」
腰を抜かした騎士はへたり込んでいる。
あまりにも情けない。男らしさというものが無くて嫌になる。死を恐れずに立ち向かってくる気概は無いのだろうかね。
「やはり駄目だな。こういう奴らが蔓延る世の中は良くない。小賢しさばかり学んで、生き物としての力強さを失っている。まぁ、僕も準備段階の今は小賢しく立ち回っているから、人のことは言えないけどね」
僕は、へたり込んでいる騎士の頭を踏みつけ、徐々に力を入れていく。
「せっかく力を手に入れたんだ。それを思う存分に振るいたいものだけれど、それをするには今の世の中は平和すぎる。屍山血河が延々と続く戦国乱世にでもなってもらわないと、存分に力を振るう機会には恵まれないだろう。だから、僕は世の中を変えるのさ。今はそのための準備段階なんだけど――」
不意に抵抗が無くなり、足元を見てみると僕は騎士の頭を踏み砕いていた。
「つまらんね。いずれ、歯ごたえのあるやつが出てくるといいんだけど」
恨みはないが、結果的に皆殺しにしてしまった。まぁ、たいして困らないけどね。王様も知らん風を装うだろうし、全部なかったことになるだろう。暗殺しようとしたなんて、公には言えないだろうしね。
騎士の人達は可哀想だけど、死に損になるだろう。まぁ運が悪かったということで、あの世で諦めて欲しいものだ。
僕は〈クリーン〉の魔法を発動させ、手足に付いた血汚れを落とし、服を新品同然に綺麗にする。
あの勇者から教わった魔法の中では、これが一番使い勝手が良い。僕の場合は戦闘用の魔法を使うより、殴った方が強力なので、彼の言う生活魔法というものの方が使い勝手が良い。
もう少し教えてもらいたいところだが、あの様子ではいつまで持つかは分からないな。少々痛めつけすぎたかもしれない。今日ぐらいは少し優しく聞いてみるとしようか。
「まぁ、その前にやることがあるか……」
せっかく、アロルドを一軍の将として南部に送り込ませることが出来るんだ。色々とお膳立てはしてあげないと。
「それに、今後の事を考えると仲良くしておかないとな」
僕が見ているのは腕力だけで全てが解決する世界。それを辿り着くためには今の秩序を壊さないと。そのためには、まだアロルドの力が必要だ。
だから頑張ってもらわないといけない。そのためにはいくらでも協力するさ。