宴もたけなわ
「私の時にはパーティーなんてしなかったんだけど?」
うーん、エリアナさんから凄い気配がしてますね。
これは触れてはいけない感じがするので放っておきましょう。カタリナとキリエが上手い具合に窘めているようだし、ここで俺が何か言っても仕方ないと思うんで。
それはさておき、殿下の挨拶も終わったし、イーリスの紹介も終わったようです。
紹介で話があって、初めて知ったけど、イーリスって成績優秀だったんだね。知らんかったわ。
まぁ、それはどうでも良いんだけどさ。とりあえず、王子に婚約の御挨拶でもしておこうかな。
しかし、婚約ぐらいで、こんなに大袈裟なパーティー開いて、破談になったらどうするんだろ? 既に一回、破談にしてるのにな。
「挨拶にでも行こうか」
俺は顔は普段と変わらないものの、危険な気配を発しているエリアナさんと腕を組んだまま、ウーゼル殿下の許に向かう。
招待された人間しか来れないから、一応この会場にいる人間は殿下に危害を加えないという前提があるようで、警護に付いている騎士の人数は少ない。まぁ、歓談が目的であるのであんまり人が多いのも空気が重くなるから避けてるんだろうけどね。
エリアナさんはニコニコとしながら、俺に付いてきてくれたけれども、カタリナとキリエは嫌がった。でも、無理やり連れてきたけど。
だって、王子様と話すんだぜ。女の子的には王子様と会話とか憧れの展開じゃない? なんだったら握手でもしてもらったら良いと思うんだ。
なんか殿下の前に行こうとしたら人だかりが凄いね。
みんな、お祝いの挨拶をしようと思ったんだろう。考えることは同じなんだろうけど、俺って待ってるの嫌なんだよね。まぁ、待つけどさ。俺も人間が出来てきたから、ちゃんと順番とかは待ちます。
「良い気になってるわね」
エリアナさんがイーリスを睨みつけています。睨みつけた先のイーリスの周りには殿下の他に何人か取り巻きがいますね。ちなみに全員、男です。俺の周りも女の子だけだし、なんだか親近感が湧いてくるぞ。
カタリナとキリエは顔が青くなってるけど、気にしなくても良いと思うんだよね。王子様だって人間なんだしさ。普通に人と話すのと同じで良いと思うんだよね。
無礼だとか言われて何かされそうになったら、王子をぶち殺して城から脱出すれば良いだけだし心配はいらないと思うんだよね。何かあった時のために、大砲を王都のあちこちに用意してるから、城を砲撃することだって出来るしさ。
おっと、そんなことを考えていたら、殿下と目が合っちゃったよ。困ったな、ちょっと恥ずかしいぞ。突然、姿を現して驚かせてやろうと思ったんだけどな。
ん? なんで固まっているんですかね? 殿下とイーリスにその取り巻きの人達。
「アロルド……?」
ええ、その通りです。ウーゼル殿下の御学友だったアロルドです。
えーと、知り合いだったよね? なんで、そんなに驚いた顔をしてるんだろうか?
「お、おい!?」
どうしたんでしょうかね。ウーゼル殿下が辺りを見回していますよ。
おや、皆さんが俺と殿下までの道を開けてくれましたね。みんな本気でビビっているのが気になりますけど。
「な、なぜ奴がいる!?」
俺以外にもエリアナさんもいますよ。まぁ、それは今は置いといて、何故ここにいるからと言えば、パーティーに来たかったからなんですけど。それじゃマズいかな。
とりあえず、招待状があるから来たとか言っておくか。偽造だけどさ。
懐から招待状を見せてっと、これで大丈夫でしょう。
「どうして貴様が招待状を、私はそんなもの――」
なんですかね、言いかけて途中で止まってしまったぞ。まぁ、俺に送っていないと言いたいんだろうけどね。
うーん、偽造だとかこの場で言っちゃうとマズいのかな?
王家の人間の文書が偽造されて、それにみんな騙されて、暗殺しようと思えばできる距離まで近づけちゃったのがマズいってことだろうか? 責任問題になるって奴かな。ついでに、王家とか王宮の人間の無能さもバレちゃうって話だろうか。そんなの気にしなけりゃいいのにな。
「――いや、確かに送っていたな。送り忘れていたのではないかと不安だったので、急に貴様が現れて取り乱してしまった」
ああ、そうっすか。それなら仕方ないね。でもまぁ、そんな状況になっても俺は取り乱しませんけどね。周りの人達も俺と同じ感じの人がいるみたいで、何言ってんだって感じだよ?
「随分と間抜けなことだが、招待状は俺の手元にあるので気にするな」
学友だったし、これくらい気安い感じでも良いよね。だって、殿下と取り巻きは仲良さそうだしさ。俺とも仲良くしようぜ。
「あ、ああ、そう言ってもらえると助かる……」
うーん、なんかウーゼル殿下の顔色が悪くなってきたし表情も引き攣ってるんだけど、どうしたのかな?
まぁ、いいか、とりあえず婚約の御祝いでもしておこうか。
イーリスの顔色も悪いし、二人とも調子悪いようだから、早めに済ませた方が良いな。
「婚約おめでとう、ウーゼル殿下にイーリス嬢」
「ああ、ありがとう、アロルド」
「ありがとうございます、アロルド様」
なんか、どうしていいか分からない感じだね。凄く困ってるように見えるぞ。そんなに邪魔だったら、追い出せばいいのにな。滅茶苦茶に抵抗するけどさ。
しかし、エリアナさんは何で挨拶せずにニコニコとしているだけなんだろうね。
「エリアナも久しいな」
「お久しぶりです、エリアナ様」
ほら、二人もエリアナさんに気づいてるんだから、挨拶しとこうよ。なんか顔色悪いけど、気のせいだろう。
「お久しぶりですわね。殿下にイーリスさん」
「あ、ああ、息災であったか?」
「ええ、勿論です。実家を追放されましたけれども、アロルド様に助けていただいたお陰で、今もこうして健やかに過ごせております」
そういや、元婚約者だってのに殿下は何もしなかったんだよね。少しくらいは援助をしてやるのが人の情だとも思うんだけど、どうなんだろうね。
「イーリスさんは、今も変わらずに殿下の御寵愛をお受けしているようで羨ましい限りですわ」
「いえ、そんな……」
「ご謙遜なさらないで。殿下がこれほど盛大にパーティーを催してくれるのですもの、御寵愛のほどがうかがえますわ」
目が笑ってないですエリアナさん。
「エリアナ……怖い……」
キリエが怖がってカタリナと俺に引っ付いてくるんだけど、どうすんの?
殿下とイーリスも気まずい感じになってるよ。何か言おうにも、周りの人の目を気にして言葉を選んでるようだしさ。
その点、エリアナさんはノーガードでかかって来いやって感じが凄いですね。失う物が何も無いから、いくらでも攻めれられるぜって雰囲気だし。
ここは、俺がちょっと場の空気を変えて和やかに話せるようにしないとな。
「何はともあれ、めでたいことだ。このようなパーティーを催した以上、また婚約破棄ということにはならないだろう」
どうっすか、話を変えてみたんだけど?
ん? なんだか空気が冷えたような。まぁ、いいか、話を続けよう。
「とはいえ、イーリスは気をつけた方が良い。ウーゼル殿下が、また婚約している相手とは別の女性を愛してしまうかもしれないからな。一度、人の婚約者を奪っているのだから、もう一度無いとは限らない」
ウーゼル殿下にも言っておこう。
「ウーゼル殿下もイーリスに捨てられないように気をつけた方が良い。一度、婚約者を捨てているのだから、今度はウーゼル殿下が捨てられるかもしれないからな」
とりあえず、それとなくアドバイスはしてみたんですけど、どうっすかね。
なんか、場の空気が冷えてる感じがするけど、気のせいだよね。
「何はともあれ、婚約したのはめでたいことだ。二人とも似た者同士のようだし、また婚約破棄になるということも無いだろから、俺の心配も杞憂だろう。お互い、婚約相手を捨てている前科があるのだから、通じ合う部分もあるのだろうしな」
「貴様、無礼だぞ!」
おっと、殿下の取り巻きが騒いでいますね。
えーと、確か近衛騎士団の団長の息子さんだったかな。王国騎士団とは違うらしいけど違いが分かんないので放っておきましょう。
「すまないな。なにぶん、こちらは社交界から身を置いていたのでな。学園で優雅に過ごしていた、そちらのように礼儀作法を憶えておく必要も無かったからな」
何が無礼かは分からんけど、冒険者やってましたからっていう理由で無礼は許してもらいましょう。つーか、お前ら学園では身分を気にするなとか言っていたし、良いじゃん良いじゃん、気にすんなよ。俺なんか、誰にタメ口きかれても許すぜ。
「嫌がらせをするためだけに、こんなところまで来るとは随分と品が無いことだね。それに、そんなに女性を侍らして恥ずかしくはないのかい?」
えーと、今度は宮廷魔法使いの親玉の息子だったかな。まぁ、どうでもいいよね。
「婚約者がいる女性の周りをウロチョロしているような輩に品格を問われるとは思わなかったな。卿こそ、未婚の女性にあらぬ噂を立てかねない自らの行いについて恥を感じないのか?」
一応さ、イーリスはまだ結婚してないんだから、その周りに男がいると変な噂がたったりするからやめた方が良いと思うんだよね。
「アロルド……!」
宰相の息子さんが、俺を睨んでいますが、まぁ気にしなくていいでしょう。なんかあったら、もう一発殴るぞ。
「エリアナ……」
なんか、エリアナさんを見ている美男子がいるけど誰でしょうかね。エリアナさんによく似ているから、お兄さんかな。お兄さんなら、御挨拶しておかないとな。
さて、俺はお祝いを言ったわけだし、ウーゼル殿下からお返しの言葉を頂いてもいいと思うんだけど、どうなんですかね。
殿下は顔を赤くしてプルプルしてるし、イーリスは顔が真っ白になってるし、どうしたんだろうね。紅白は縁起が良いとか、誰かが言っていたような気がするし、まぁ良いことなんでしょう。
「貴様は……貴様は何をしに来たんだ」
ようやくといった感じで殿下が口を開きました。とりあえず、顔の色とかは元に戻っていますね。
「祝いに来たのだが、まずかったか?」
まずかったなら、まずかったとハッキリ言えば良いのにな。言うと良くないんだろうか? 面倒くさいね。
「貴様、その口の利き方はなんだ!」
騎士団長の息子さんが怒ってきますけど、殿下が手で制してくれました。つーか、いちいち無礼とか言うなよ。お前は偉いわけじゃないだろ? 騎士団長の息子ってだけじゃないか。偉いのはお前のパパさんなんだから、お前が俺に対して上から目線で何か言ってくるのは、なんか嫌だ。まぁ、黙ってるけど。
「私とイーリスを祝福しに来てくれたことは感謝する。だが、卿の冗談は笑えない。卿と私の仲であるから許せるがな」
そんなに仲良くなかった記憶があるけど、まぁいいか。
なんかエリアナさんが俺の隣でウキウキしてる気配を出してるけど、どうしたんでしょうね。
「エリアナもよく来てくれた。色々と私に思うことはあるかもしれないが、それでも祝福してくれる貴女の懐の広さに感謝したい」
「お気になさらず。私はお二人が幸せだというだけで救われた気分ですもの。きっと、あのまま結婚していたら、お互いに不幸になったと思いますもの。ところで、今日のイーリスさんの御召し物、素敵ね」
え、なんで急に話変わるの? イーリスの顔色悪いままなんだけど、大丈夫なの?
「え、ええ、殿下が私の為に用意してくれた物です」
「私には、何も下さらなかったのだから、イーリスさんが愛されているのが良く分かるわ」
へぇ、殿下が買ってくれたんですか。まぁ、エリアナさんの服とかアクセサリーも俺が買ったけどさ。
しかし、殿下もケチだなぁ、王子なんだから金持ってるだろうに、俺がエリアナさんに買ってあげた物より安そうだぞ。
「私のドレスもアロルド様が用意してくださったの。お互い男の方に苦労かけていますわね」
なんか、エリアナさんがニッコリと俺の方を見てきましたね。別に苦労してるとは思わないんだけどな。綺麗な女の子が綺麗な服を着ているのを眺めるのは好きだし、欲しい物を買ってあげるのも男の甲斐性って奴だしね。
「別に苦労という程の事も無いさ。金貨百枚程度の出費、エリアナが美しくなるのなら安いものだ」
おっと、俺が金貨百枚とか言ったら、殿下の顔がピクピクと引き攣り出したね。
エリアナさんは勝ち誇った顔してるし、イーリスは微妙に恥ずかしそうに自分のドレスを見てるし、どうしたんだろうか?
別にたいした額じゃないと思うんだけど、どうしたんだろうね。俺が西部の人に頼めば、それくらいはすぐに集まるんだから、殿下だって、王子様なんだから集められると思うけど。
「まぁ、アロルド様ったら、そんなことを言って」
エリアナさんが俺に引っ付きながら、殿下とイーリスに対して勝ち誇った感を隠さずに言う。
「今となっては私も幸せですわ、殿下。婚約を破棄された当初はどうしようかとも思いましたけれど、アロルド様のように素敵な殿方と出会うことが出来ましたもの」
なんか、また周りの空気が悪くなってきたんだけど気のせいだよな。
エリアナさんとイーリスっていう可愛い女の子が中心にいるんだから大丈夫だろう。おっと、カタリナとキリエのことを忘れていたよ。
ええと、カタリナは……なんか、俺に対して尊敬の眼差しを向けてくるんだけど、なんなんだろうね。キリエは……割とどうでもいいって感じに見えるね。
二人とも殿下を見ても、こんなものかって感じになってるし、王子様に会えたんだから、もっと感動して欲しいもんだ。
「う、うむ、それは良かった。……ところでアロルド、そちらの御令嬢方は?」
なんかウーゼル殿下が話を変えましたね。別に今の話を続けていても良かったんじゃないかな? まぁ、いいけど。とりあえず、紹介しておこうか。
「彼女たちは俺のパートナーだ。こちらが――」
「カタリナと申します。以後、お見知りおきを」
「キリエです。よろしくお願いします」
はい、良く挨拶できました。
エリアナさんも含めて全員が美人だから華があっていいよね。
「そ、そうか。パートナーと言ったが全員か……」
なんだか、殿下の表情が引き攣っていますね。ここは、一つ冗談を言って、場を和ますか。
「良い男の所には良い女が集まってくるのでな。殿下も気をつけた方が良い」
うーん、ちょっと掴みが弱かったかな。もう少し言っておくか。
「とはいえ、甲斐性が無いと辛いものがあってな。三人分のドレスで金貨が三百枚飛んだ時には驚いたものだ。もっとも、それを着た彼女たちの美しさを目にして更に驚いたがな」
あれ、これでも駄目ですか? どうっすかな。
「贅沢をさせてやるのにも甲斐性がいるが、殿下ならば大丈夫だろう。イーリスも我儘を言ってやるも悪くは無いぞ。男というのは女の我儘をどれだけ叶えてやれるかで器が知れるという話もあるくらいだからな」
『嘘つけ!』ってツッコミを入れて欲しいんだけど、ちょっと分かりづらかったかな。うーん、すべってしまったぞ。
「まぁ、アロルド様ったら、殿下は倹約家であらせられるのですから、そんな無理をおっしゃっては駄目ですわ。それに、イーリスさんのドレスを見れば分かるように、殿下は殿下に出来る限りのことをしてイーリスさんを満足させていらっしゃいますわ」
えー、そうかな? イーリスのドレスって、ちょっと野暮ったくない?
エリアナさんとかのドレスに比べると安っぽく見えるし、もっと高そうなの買ってあげればいいのに。
それにイーリスもなんだかなぁ、確かに可愛いんだけど、エリアナさんとかカタリナに比べると、美人度で負けるんだよね。
まぁ、可愛いのは確かなんだけど、エリアナさんの顔の造形が完璧すぎるせいで、並ぶと差があるように見えちゃうのがなぁ。
イーリスも、この会場の中にいる女性陣の中では上位なんだろうけど。エリアナさんと並ぶと田舎娘に見えちゃうのが何とも。
もう少し垢抜けたドレスとかにしてくりゃいいと思ったけど、そうしたら品が無く見えちゃいそうだし、難しいね。素材的に華やかな場所が向いてないのもあるなぁ。
まぁ、それはさておき――
「殿下、婚約者を忘れて他の女性を見るものではないな。視線が何度もエリアナに向かっているぞ」
そりゃ、美人さんだから見たくなるのは分かるけど、婚約者が隣にいるのに、それは無いと思うよ。
おっと、恥ずかしかったのか、顔が赤くなってますね。でも、あとでイーリスに何か言われるよりは良いと思うよ。
「既にエリアナは殿下の婚約者ではないのだから、あまり物欲しげな視線を送られても困るな。イーリスのように、素朴で素敵な女性がいるのだから、エリアナを見る必要はないだろう? それとも、もう一度、エリアナと婚約でもするか?」
『出来るわけねーだろ!』ってツッコミ入れて欲しいんだけど、やっぱり無しですか。こういう時、ジーク君はボソッとだけど、なんか言ってくれるから良いんだけどな。
ところで、そのジーク君は……なんだか死にそうな顔色で、遠巻きにこっちを見てますけど、どうしたんでしょうね。
「あまり、息子とその婚約者を虐めてくれるな。アロルド」
おっと、なんかオッサンの声がしますね。俺達を囲んでいた人混みが割れて、そこから偉そうな人が出てきました。ええと、確か――
「お久しぶりです。陛下」
うん、国王陛下だったな。俺と腕を組んで隣にいるエリアナさんが微妙に緊張しているけど、どうしたんでしょうかね。そんなにビビることもないと思うけど。
「うむ、久しいの。エリアナも久しぶりだのう。ますます美しくなったようだ」
「お久しぶりでございます、陛下」
エリアナさんは緊張はしているけど、特に問題は無いみたいだね。カタリナとキリエは何か死にそうな顔になってるけど心配いらないから。
なんかあっても、ぶち殺して逃げれば良いだけだからね。
「其方が、ウーゼルに何か言いたい気持ちは分からないでもないが、ここは余の顔に免じて許してやってはくれんか?」
「許すも何も恨みはありませんよ。ここに来たのも御祝いを述べるためだけですので。エリアナも同じだと思いますが?」
「ええ、殿下とイーリスさんに恨みはございませんわ。今は私も幸せですもの。ただ、私の実家の公爵家には言いたいことはありますけれど」
エリアナさんが王子の取り巻きの美男子を見てますね。やっぱり家族なんですかね?
おっと、陛下を忘れてたぜ。なんだか、陛下が困った顔をしているけれど俺に関係あることかな?
「うむ、そう言ってくれるとありがたい」
色々とあったおかげで、エリアナさんと会うことも出来たんで、別に殿下に対して、どうこうって気持ちはないんだけどな。
「エリアナのように素晴らしい女性を殿下が手放してくれたのは感謝したいですし、それを陛下が咎めだてもしなかったのも有り難い限りです」
ん? 陛下と殿下の動きが止まったぞ。まぁいいか。
「もっとも、陛下と殿下が御認めになったイーリスはエリアナに輪をかけて素晴らしい女性なのでしょう。それならば、陛下も二度と殿下の婚約破棄騒動に巻き込まれることはないはずですから、陛下も御安心でしょう」
おや、陛下の護衛の騎士から殺気が漏れてますね。物騒だなぁ。
「とはいえ、エリアナよりも素晴らしいとなるとイーリスも相当な人物ですな。エリアナは俺の冒険者ギルドの事務運営を全て任せても安心なくらいですから。エリアナが男であったなら、宰相の座も容易かったかもしれません。それよりも優れているとなると、イーリスは相当ですな」
今度はイーリスの動きが止まったんだけど、なんすかね。そういうの流行ってんの?
おっと、兄上の気配がしますね。後ろから近づいてきます。
「まぁまぁ、皆様その辺にしておきましょう。せっかくの楽しいパーティーなんですから」
兄上は楽しそうで良いですね。まぁ、俺もいい加減、お喋りばかりじゃなくて、ちゃんとパーティーを楽しみたいんだよね。
「アロルド、殿下とイーリス嬢の為に贈り物を用意していたのを忘れたのかい?」
おっと、兄上に言われて贈り物を用意していたのを忘れていたぜ。
なんか凄く空気悪いけど、俺の贈り物を見れば、空気も良くなるだろ。
というわけで、指を鳴らして運ばせてみる。
指を鳴らしただけで、運んできてくれるのは、この会場にいる使用人の半分くらいが斥候役の冒険者が成りすましているからです。
ちなみに贈り物を会場に運ぶ係はグレアムさんと探知一号です。この二人も使用人に成りすまして城の中に待機してます。
パーティー会場の出入り口の大きな扉が開くと同時に会場に悲鳴が巻き起こる。
ん? なんで悲鳴?
人波をかき分けて、俺の贈り物が台車に乗っかって運ばれてくるけど、別にたいしたものじゃないよね。
「そ、それはなんだ?」
陛下が狼狽えながら俺の贈り物を指差しているので、答える。
「大黒竜ゾルフィニルの頭部の剥製です」
贈り物だから一番希少価値がありそうな物を用意したんで気に入ってもらえると思うけど、どうだろうね。
「王家の命で西部の魔物討伐をした際に手に入れました。二匹いた内の一匹で、俺が一人で狩った獲物です」
「そ、そうか」
贈り物に文句をつけるとか、人としてやっちゃいけないことだからすんなよって感じの視線を皆に向けておく。
殿下と、その取り巻きが俺に対して怯えた視線を向けてるのは気になるけど、まぁいいか。
とりあえず、これで俺がドラゴン討伐に成功したぞってことは分かってもらえたと思うから、もう良いでしょう。御祝いもしたし、いい加減、普通にパーティーしようぜ。
なんか、皆固まってるし、俺が音頭を取った方が良いかな。
「では、皆様方、俺のドラゴン討伐と殿下の婚約を祝し、今宵の宴を楽しみましょう!」
なんか、順番違ったような気がするけど、まぁ良いよね。
陛下が凄い目で俺を見てるけど、俺が仕切っちゃまずかったかな。でも、文句言ってこないし大丈夫だろう。
とりあえず、お酒飲んで、なんか食べよう。話してたら腹減っちゃったよ。




