王都への帰還
新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
俺はようやく王都へと帰って来た。
ドラゴン退治に行ったはずなのに、良く分からないグダグダに巻き込まれて時間ばっかり食ってしまった。王都を出発した時は夏だったはずなのに、もう秋にもなっているし、なんというか時間が経つのが早い。
帰って来たら、エダ村は要塞みたいになってて、要塞の中では冒険者候補が、特訓を受けてるみたいだし、なんだか俺がいない間に凄いことになってるようだ。
ギルドの本部もいつの間にか、増築されて、どこの大貴族だよって感じの邸宅が俺の住居兼ギルド本部になってるしさ。
俺って、仕事とプライベートに一定の距離を取りたいから、仕事場と家が隣接してるとか、微妙に嫌なんだけど、誰に文句を言えば良いのかしら。
まぁ、俺がいない間に儲けて色々やってくれたんだから、怒るのも良くなさそうなんで、俺は大人しくしていることにしました。
そう、俺はすっごく大人しくしていたのです。王宮から再三の登城要請があったけど、全く動かないくらい静かにしてました。
すいません、嘘です。単に外へ出るのが面倒くさいなぁって気分だっただけです。俺はエダ村に引きこもって体を鍛えたり、本を読んだり、オレイバルガス領で見つけて拾ってきた馬のドラウギースの世話をして、ノンビリと過ごしていました。俺も大人になったし、季節は秋だし、落ち着いた生活をしたかったんです。
まぁ、そう言う話はどうでもよくて、俺の拾ってきたドラウギースの話の方が大事だよね。
俺のドラウギースは頭までの高さが三メートル超えてる凄くでっかい馬で、鬣は金色で体毛は黒っぽい感じ。
ジーク君は俺のドラウギースを魔物だなんて言うけど失礼な話だ。ちょっと牙が生えてて、オーガの頭を食いちぎって咀嚼したり、地竜の頭を踏み砕いて脳髄をすすり、腹を牙で引裂いて内臓を食ったりするくらいなのにな。
偏食で草じゃなくて肉を食うのが、馬としてはちょっと変だけど、まぁそれも愛嬌だよな。たまに人間を食おうとするけど、結局食わないし、問題ないだろ。
良い馬だから大事に世話をしつつ、たまに遠乗りに出て、近場の森でゴブリンを食わせれば機嫌が良くなるんで、世話はしやすいとは思うけど、みんなビビッて世話してくれないんだよな、なんでだろうか。
まぁ、俺が世話すりゃいいし問題ないとは思うけど。
で、ある日のことだ。その日も俺は、エダ村で穏やかな時間を過ごしていた。もう、いっそ農家にでもなろうかなってくらいの感じで過ごしていたわけです。
でもまぁ、俺は若いため、そういう生活をし続けることも出来ないようで、その日、兄上が俺を尋ねてやって来た。
「少し食事でもどうだい?」
兄上がそう言ったので俺はホイホイ付いて行く。だって、タダメシにありつけるんだから、ついて行かなきゃ損だろ。
そういうわけで、兄上についていったんだけど、兄上が連れてってくれたのは俺の実家だった。実家のメシは食い飽きたので、正直いらないんだけどなぁって思いながらも、兄上の顔を潰すのも良くないので、素直に御馳走になった。
メシは、まぁ普通だった。特に言うことも無しです。
食事の時間は穏やかに過ぎていき、兄上に西部であったこと聞かれたりしたので、適当に答えておいた。兄上に一番受けていたのが、俺の『西方僭王』という渾名を教えた時だった。
ついでに、食事の席にいた知らないオジサンもなんだか楽しそうにしていました。
「僭王か。いっそ、オレイバルガス家を滅ぼして、本当に王になってもらっても構わなかったのだがな」
なんか、すっげー物騒なことを言うオジサンです。いい歳こいて、そういうのは良くないと思うな。俺は年取ったら、落ち着いた人間になろう。
「まぁまぁ、宰相閣下。西部に今、潰れられると困るんですから、冗談でもやめてくださいよ」
兄上がオジサンを窘めている。宰相ねぇ……どっかで聞いたことがあるけど偉い人なのかね? まぁ、そんな偉い人が気軽にメシを食いに来るとも思えないので、たいした人じゃないでしょう。
「アロルドもナザール閣下の言葉は真に受けない方が良いよ。中々に過激な人だからね」
宰相のオジサンはナザールさんですか。まぁ、この先会う機会もなさそうだから憶えなくてもいいかな。
「過激とは随分な言いぐさだ。私は国を思って言っているだけなのにな」
「貴族が多すぎるから、その貴族を減らすために西部で内戦が起きれば良いと思っている人が過激ではないとは思えませんね」
マジかよ。悪い奴だな。ぶっ殺そうぜ。
「言い方が悪いな、セイリオス君。それでは、キミの弟が誤解してしまう。私は、中央で仕事も無く年金だけを貰い続ける穀潰し貴族共に、西部で労働し自らの糧を得て欲しいと思っているだけで、そのために西部の貴族には少し嫌な思いをしてもらうのも仕方ないかとも思っているだけだ」
そういや、貴族って国から年金を貰えるから、働かなくても生きていけるんだよな。羨ましいぜ、俺も貴族になれないかなぁ。まぁ、俺も元は貴族なんですけどね。しかし、なんで貴族じゃなくなったんだっけか? もう、記憶が曖昧だぜ。
「それに関して、アロルド君は良くやってくれた。キミの行動は西部を混乱させ、現地の貴族の力を削いでくれたのだから。貴族同士が僅かな領地と富を求めて争う混沌とした地域になった西部を、王家の力で統一し、今、王都にあぶれている貴族を送り込むという私の計画の助けになってくれたことには感謝してもしきれないよ」
「計画?」
何を言っているのか、全く分かりませんねぇ。
「そうか、セイリオス君は何も話していなかったのか。まぁ、別にたいした話でもない。アドラ王国には貴族が多すぎるので適当に間引いてしまいたいというだけのことだよ。適当に間引いて治めるものがいなくなった土地を少数の貴族が統治する。そして、毎年、爵位を持っているだけで仕事も何も無い貴族を減らして、国の無駄な出費を減らすというわけだ」
「それと西部が何か関係が?」
「単にあの土地の人間が王家に反抗的だっただけだ。今回の魔物騒動の責任を取ってもらって適当な家を取り潰そうかとも思ったが、その役はアロルド君がやってくれたようで我々も助かった。特にキミに後ろ盾になってもらった領主貴族の振る舞いは素晴らしい。多少の領地と財貨を求めて隣領に攻め込んでしまっているようだしな。あの調子ならば、西部の貴族も互いに食いつぶし合ってくれるだろう」
あんまり興味ないなぁ。別に俺は西部の人間ってわけじゃないし、基本的に他人事だからね。
「私としてはオレイバルガス家を潰してもらっても良かったのだが、まぁ、そこまで期待するのも酷というものか」
えー、潰れてもらったら困るんだけど。俺ってアイツらに金とか貸してるしさ、金返って来なくても俺はそこまで困らないけど、エリアナさんとか困るみたいだし、潰れるのは良くないね。潰れて欲しいとか思ってる、このオッサンはもしかして俺の敵なんじゃない? 敵だったら殺っちまいますか!
「アロルドに期待するよりも、ご子息に任せてみてはいかがですか? 優秀という噂はかねがね、うかがっていますよ」
兄上も殺って良いよって気配出してくれてるけど、どうすっかね? 兄上がやるならそれでも良いんだけど。兄上は、殺気出してるけど、行動には移していないみたいだし、俺が動くのはどうなんざんしょ。
「アレは駄目だ。ウーゼル殿下の婚約者に熱を上げて、殿下たちに金魚の糞のように付いて回るようになりおった。その上、その男爵家の小娘に唆されて、平民のための政治を志すなどと抜かしておるわ」
「それは、また……正義の心に目覚めたということですかね?」
兄上が苦笑してますね。いいじゃん、正義の心、俺も目覚めたいもんだ。
「正義などという近視眼的な物を政治に持ち込まんで欲しいものだ。政治に携わる以上、汚濁を飲み下す度量が無ければやっていけんというのに、アレの考えでは国は立ち行かん」
マジっすか。じゃあ、正義の心は無しの方向性で、なんか駄目そうだし。
「若い内はそういう方が好まれるでしょうから、もう少し長い目で見てあげるべきではないですか? 実務を経験すれば変わることもあるでしょうしね。今の内は民思いの熱い志を持った青年で売り込んでいくのも悪くはないと思いますが」
「そう長い目で見ていられる状況でもなかろう、我が国は。宗教対立を隠れ蓑にした貴族同士の暗闘。南部の混乱。貴族に払う年金による国庫への負担。果てはイグニス帝国が我が国攻め込もうとしている噂まである。いずれ、大きな乱が起きるのは間違いない。その時、国を任せられる人材が育っていなければ、どうなることやら」
大丈夫、ヤバくなったら、別の国に逃げ出しますから。俺は若いし、体力があるからなんだってできるだろうしね。
「あの男爵家の小娘が、ウーゼル殿下の婚約者という立場で好き放題を言っておるのが腹立たしい。あの小娘の手で王国が衰退するやもしれぬというのに、殿下を含めた、あの小娘の取り巻き共は鼻の下を伸ばすばかりで、役に立つのかどうか……」
男爵家の小娘ってのが誰かは分からないけど、オジサンも苦労してるんだね。
「こうなっては、君達二人が頼りだ。私の考えを理解してくれる若者たちは貴公らしかおらぬ。どうか、今後も王家とアドラ王国のために働いてくれ」
「もちろんです閣下。不肖の身なれども、このセイリオス・アークス、王国のためにどのような悪行でも成し遂げて見せましょう」
ん? なんですか、兄上? 俺も言えって感じの視線ですね。でも、何を言えば良いのか分からないけど、とりあえず、善処するということだけ言っておこう。
「俺の出来る範囲であれば、どのようなことでも協力しましょう」
俺の出来る範囲って言っても、その日その日で違うから注意してください。たまに、家から一歩も外に出たくない時があったりするので、そういう時は俺の出来る範囲は、家の中のことだけになるんで、そこの所はよろしく。
「君達のような志ある若者は王国の誇りだ」
なんだか分からないけど、ナザールさんは、そんな風なことを言って、満足して帰っていきました。
「結局、何を言っていたか、理解しているかい?」
ナザールさんが帰った後、兄上が俺に質問してきました。はは、俺に分かるわけが無いだろうが。まぁ
分からないとハッキリと口にするのは恥ずかしいので分かったフリをしておきますかね。
「要約すると、あの人はアロルドに西部で好き勝手やってくれて、ありがとう。これからも、その調子で頑張ってねって言いに来たんだよ」
「そうなのか?」
「まぁ、微妙に違うけど、だいたいはそんな感じだね。別に気にしなくていいことなんで、忘れていいと思うよ」
それに関しては心配いらない。もう、何を言っていたか憶えてないから。
「彼はさして重要でもない。本人は謀略家を気取っているようだけど、世の流れが読めていないからね。乱が起きるのが、次の世代? 随分と見通しが甘いことだ」
そりゃあね、何が起きるのか分からないのが人生だし、明日、この国が大爆発して消滅することだってありえないわけじゃないし。
で、なんの話しだっけ? ナザールさんの話だったかな。それに関しては正直どうでも良いんだけど。
「ま、アロルドは何も気にせずにノンビリと自分のやりたいようにやってくれればいいよ。お膳立ては全て僕がやっておくからさ」
うーん、兄上がそういうなら、俺は好き勝手やるけど。とりあえず、さっさと帰って寝たいかな。
「ああ、そうだ。今度、王宮でウーゼル殿下の婚約発表のパーティーがあるから、それには参加してくれ。兄からの頼みなんだから、聞いてくれるよね?」
「分かった。参加しよう」
なんか、急に兄上がパーティーがあるから参加しろって言ったけど、それなら頼まれなくても行くんだけどね。俺って華やかなのは好きだしさ。
「王子の婚約に被せて、竜殺しの英雄の登場とか色々ゴタゴタが起きそうで楽しいぞ。アロルドも騒がしいのは好きだろ?」
当り前だろ。俺は揉め事とか結構好きだぞ。
「招待状は僕が偽造しておくから任せてくれ。いやぁ、楽しみだな。寝取った女の元婚約者と、自分が捨てた男を自分たちの婚約発表の場に呼び寄せるとか、どういう神経をしてるんだって、ウーゼル殿下達の評判は落ちるだろう」
うーん、なんか良く分からないけど、兄上が楽しそうなんで、良いとするか。
「言わなくても分かるだろうけど、パーティーだからパートナーは連れてきてくれよ? 服装はなるべく華美な物で、王子たちが着る物より高くなるようにした方が良いな」
「その点は心配いらない」
社交の場でみっともない格好をするわけがないだろうに、わざわざ言わなくても分かってるっつーの。心配性な兄上だぜ。
とりあえず高い服を用意するか。それとパーティーだからパートナーが必要だな。なるべく綺麗なドレスを用意しないとな。えーと、エリアナさんにカタリナにキリエの三人分で良いかな。従者も連れていかなければいけないけど、それはジーク君でいいや。
「ふふ、父上と母上が必死の思いで仕込んだ礼儀作法は体に刻み込まれているようで良かったよ」
まぁな、パンチやキックを食らいながら体で礼儀作法を覚えたし、余裕っすよ、余裕。
「その調子で、パーティーでも頑張ってくれ。ウーゼル王子の声望を貶められるようにさ。次期国王の評判が落ちれば、諸侯貴族の中に良からぬことを考える者も出てくるかもしれないからね。そういう人たちは、いずれ来る騒乱の火種になるだろうから、今の内に育てておかないと」
はぁ、そうっすか。揉め事は良いけど、厄介ごとは御免なんで、そこら辺はなんとかして欲しいんだけど。
「将来の混沌の為に、今は地道に頑張ろうじゃないか」
頑張ってください。俺はエリアナさんとかに、どんな服を着せるかしか頭にないんで。兄上は兄上で勝手にすれば良いんじゃないかな。
揉め事は良いけど、厄介ごとは持ち込まないでね。そこんところだけはよろしく。
――しかし、不思議だよなぁ。兄上はナザールさんの前では国を守るみたいな雰囲気を発していたのに、俺と二人きりだと、王国ぶっ潰すみたいな雰囲気出しててさ。
まぁ、王国がどうなろうと俺にはさして関係ないと思うし、どうでも良いことだよね?
最近は書き溜め無しのライブ感重視で書いています




