祭りの日は七日目
家を追い出された日から七日目。特に言うことなし。いや、やっぱり言いたいことはあるかも。オリアスさん、うっざいなぁって声を大にして言いたいね。でも言いません。悪口を言うのは良くないことなので。だけども、とりあえず死んでくんないかな、あの汚にいさん。
なんで、死んで欲しいかっていうと、あのクソは朝っぱらから宿に来て、
「ちょっと、出かけようぜ。良い物あげるから」
なんてことを言ってきたわけで。賢い俺は良い物くれるって言ったら、行かないと損しそうだからと、ホイホイついてきてしまったわけです。
俺としては、お菓子でもくれるのかと思ったんだけど、どうやら違うようで、オリアスさんに連れられて王都を出て、王都から少し離れた原っぱに来たわけです。
賢い俺は原っぱに到着して気づいたわけですよ。あ、これ菓子くれるパターンじゃねぇな、と。なにせ、周りに建物なんか何一つないですからね。
お菓子くれるって言ったような気がしたけれども、どうやら俺は騙されたようだ。まぁ、俺は賢くないし仕方ないね。こういう時は内心の悔しさを押し殺して、黙っていよう。
そう言えば、オリアスさんが延々と魔法について喋っているが、たいした話ではなさそうなので、聞く価値はないと判断して聞き流す。つーか、魔法しか話題がねぇのかよ、死ねカス!
「何だかんだ言ってもよ。やっぱり魔力の量ってのは、親譲りの物なわけだ。魔力の量が多い親から産まれた子どもは基本的に魔力の量が多い。ウチの国の貴族は昔から魔力の多いのが多いから、それが受け継がれて、今も貴族は魔力の量が多いわけだ。たまに貴族の血が平民に混じることはあるけれども、平民なんかは魔力が少ないのが多いから、子どもとか孫まで、魔力が強い血を濃く残せねぇ。だから、平民は魔力の量が重要になる新式魔法は向いてねぇってわけ」
お、なんか、すっげぇ遠くから野犬がこっち来る。石投げちゃおっと。ていっ、……おお、頭吹っ飛んじまった。グッロいなぁ。でも、もう一回。……おうふ、身体が半分に千切れてしまいましたねぇ。石が当たっただけで死ぬとか野生動物的に大丈夫なの?
「世間一般で出回っている錬金術とか、教会の浄化魔法や回復魔法も、実は古式魔法なんだぜ。何が言いたいかっていうと、古式魔法はすごくてカッコイイ。新式魔法はすごくなくてダサい。そういうわけで、アロルド君も古式魔法を勉強しようぜ。昨日は駄目だったけど、古式魔法はアレだから、勉強すれば誰でも出来るようになるからさ、な?」
え?なんだって?
うーん、もしかしたら、俺は難聴系なのかも。時々、話がきこえないんだよねっと。あ、ちょうちょだ。ちょうちょ行っちゃう。いや、ちょうちょ行かない、おっと、ここで、花にとまって花の蜜を吸っています。和みますねぇ。
まぁ、話を聞いてなくても真面目な顔して頷いてれば良いでしょ。賢い俺の処世術って奴です。
とりあえず、ちょうちょでも眺めて和みますかって。気づいたら、野犬に囲まれてますねぇ。最近の野犬て、大きいんだなぁ。まぁ、生まれて初めて見るんですけどね。おお、四足歩行なのに、オリアスさんの肩くらいの位置に頭があるよ。
おや、なんか飛びかかってきました、野犬さん。とりあえず飛びかかってきた野犬の首に手を伸ばし掴みます。俺、野生動物って嫌いなんだよね。なんか不衛生な感じがして。まぁ、そういうわけなんで、掴んだ首を握りつぶしました。まぁ野犬だし、いいよね。
その後も何匹か、野犬が飛びかかってきましたけど、殴り殺してやりましたよ。だってくっせぇんだもん。こいつら血の匂いするし。
そういえば、オリアスさんはどうしたんでしょうか。
「魔法使い舐めてんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」
絶好調なようです。たぶん魔法だと思うけれども、風の刃で野犬の足の腱を切って動けなくしたり、目玉を火の魔法で直接焼いたりして、動けなくしてから、光の矢を出して、野犬の頭を撃ちぬいて始末しています。怖いなぁ、関わらないでおこう。
まぁ、そんな感じで、野犬を二人で殺し回っていたら、なんかすっげぇ、デカい野犬が出てきたんですよ。いやもう、俺よりデカいの。ちょっとビビったけど、まぁデカいだけだったね。
なんか襲い掛かってきそうな雰囲気がしたから、剣を抜いて、縦に真っ二つにぶった切ってやりましたよ。くっそ雑魚です。まぁ、デカいといっても犬ですから、普段から魔物と戦っている俺の相手にはなりませんよ。
「……アロルド君って、どういう鍛え方してた?」
オリアスさんが、なんか良く分かんない質問をしてきました。別にたいしたことはしてないですし、隠すこともないので教えますよ。
「とにかく撃ちこみの威力と速さだけをひたすらに鍛えたな。大岩を持ちあげ、丸太を振り回して、腕力を鍛え、脚には縄で鉄塊をくくりつけていた。そして、延々と岩に木剣を打ちこみ続けた。そんなところだ」
「へぇ……、すっげぇね……」
いえいえ、こんなの普通ですよ、普通。まぁ、家を追い出される頃には、イマイチ鍛錬ができませんでしたけど。なんか、岩がすぐに砕け散るようになったんで、マトモに訓練が出来なくて、素振りばっかりだったし。とにかく速く剣が振れるような動きを目指して、素振りばっかりでした。
まぁ、普通の剣術が良く分からなかったから、そういう鍛錬してたんだけどね。駆け引きとか技巧とか意味わからんし。極めつけに精神性とか、なんじゃそりゃって感じ。
めんどくさい駆け引きよりも、相手よりも速く動いて、防ぐのが不可能な速さと威力の剣をひたすらに叩き込んだほうが良くねって感じでした。
精神とか形のないものの話をされても、俺は困りますよ。なんで身体使って戦ってんのに、精神の話が出てくんですかね。余計なことは考えずに、とりあえず自分の剣に集中して、ひたすらに剣を叩き込み続ければいいんじゃね? って、思ってたわけです。
まぁ、現状、困ってないから良いよね。そんな適当な感じでも。
と、そんな風に俺が、カッコよく物思いにふけっていた所、俺の気づかぬ所でオリアスさんは、ドン引きする行為にふけっていました。
何をしていたかというと野犬の死体をかっさばいて、その身体の中から宝石みたいなものを取り出していました。
キモいんですけど、何この人? って、思ってたら、オリアスさん。いえ、血で汚れているので汚リアスさんですね。なんか汚リアスさんは、笑いながら俺に宝石みたいなものを見せてきます。
「これは魔石ってもんだ。魔物の体内に存在する、魔物の核みたいなもんだ」
なんか宝石みたいなものを持ってオリアスさんが言っていますが、俺が殺したのは野犬なんですがね。なんで、野犬から魔物の核が出てくんですかね。ホラ吹いてじゃねぇよ、死ねよカス!
「俺も最近、知ったんだが、この魔石には魔力とか魔法を貯めておくことが出来るみたいで、色々と利用法がありそうなんだわ。まぁ、魔石のことを知ったのは俺も最近のことだし、いまいち把握しきれてねぇんだけどよ。まぁ、色々と試してみた結果、面白いものが出来たわけだ」
なんか、俺の理解の及ばないこと言いながら、汚リアスは素焼きの小ビンを投げてきたので受け取る。硝子ビン使えよ、中身が見えねぇだろ。
「魔石を砕いて、水に溶いたものに、回復魔法をかけたのが、そのビンの中身だ。信じられないかもしれねぇけど、それを飲めば回復魔法と同じ効果が生じて傷を治せる」
へーそうなんですか。俺は回復魔法使えるから、関係ない話ですかね?まぁ、貰っておきますが、そう言えば、くれるって言ったかな?言ってなくてもいいや、貰っておこう。
「魔石も昔は使われていたらしいが、どういうわけか、いつの間にか使われなくなって、全く価値がないものになってた。だが、これから先は違う。魔石が金になる時代が、必ずやってくる」
そうなんですか。俺は今はお金を持っているので関係ない話ですね。ははっ、貧乏人はそうやって金策に励んでろ。汚リアスさん、金の話で熱くなりすぎてキモイですよと思ってたら、なんか俺を見てます。
「というわけで、いつか金になるだろうから、今日手に入った魔石は全部やるよ。いつになるか分からないけど、必ず儲かるから、マジで。これで、昨日渡せなかった礼の代わりということで、よろしく」
はて、何時のお礼でしょうか、まぁ貰えるものは貰っておきましょう。くそ汚くて変な病気の元になりそうなので、触りたくなかったけれど、袋に入った魔石を汚リアスさんからもらいました。でっかい犬からは、見た目通りデカい魔石が出たけれども、身体の中から取り出したものなので汚そうで、俺スゲー嫌なんだけど。そういう所は全く気づかいできねーのな。さすがは汚にいさんだけあるわ。汚リアスさんは。
「俺としては魔物の素材も渡したいんだけどなぁ、何百年か昔には魔物の素材を使ったものも、あったらしいが、今じゃ、どうしようもないしな」
何言ってんだコイツ。俺たちが倒したのは犬だから、関係ないだろうに。もしかして、汚リアスさん、おバカですか、いやぁ可哀想だね。言ってくれれば、賢い俺の爪の垢くらいは煎じて飲ませてやるけど、どうっスか?
とまぁ、そんな風に、俺は汚リアスさんのことを思いやっていたんだけど、汚リアスさんは何も言いませんでしたよ。俺が気を遣ってやったのに、なんだこの野郎、ハッキリと言わなければ察することが出来ないとか、人付き合い駄目だろコイツ。
そういう感じで、色々とオリアスさんにイラつきながら、王都に戻って来た俺たち。すっげー腹減ってますよ。いつの間にか夕方です。もうすぐ陽が落ちる頃合いですね。うん。
そういや、朝も昼も汚リアスに付き合ったせいで食えてないんだけど、最悪じゃね、汚リアスさんて。まっずいなぁ、飢え死にしちゃうよ。とか思っていた時になんか騒がしいですよ。
俺がお腹空いて泣きそうなのに気遣い無しとか、鬼畜ばっかりやな、この街。とか、思っていると、なんか教会の前に人が集まっていますね。お祭りですかね。行ってみましょう。
「この教会に邪法を行った者がいるという通報があったのだ。何人も教会の敷地内に入ることは許さん」
「ふざけんじゃねぇよ! 聖女様がそんなことをするわけねぇだろうが!」
「それを判断するのは、貴様らではなく、異端審問官と司教閣下だ。貴様らは大人しく立ち去れ」
「異端審問官が来てるってことは、最初っから聖女様に罪をなすりつけるつもりじゃない!」
「あの人殺し共がマトモに調べるかよ!こいつ等、最初から聖女様と司祭様を殺すつもりだ!」
なんか騒いでますけど、なんでしょうかね。祭りですかね?祭りですね。
生まれて初めて祭りというものを見ますけれど、すっげえ熱気ですよ。いやぁ、祭りの時はみんな興奮するらしいですけど、俺もちょっと燃えた方が良い感じ? んじゃまぁ、ちょっと最前列行っちゃう系?
「言わせておけば貴様ら……教会を侮辱するということがどういうことなのか、教えてやる必要があるようだな!」
最前列来たけど、なんだろうかね、これ。
槍持った奴らが、教会の入り口を通せんぼしてんだけど。これってアレかね。場所取りとか、そんな感じ?本で読んだことあるけど、祭りとかの時に自分たちが良い場所を取るために人の邪魔をする人がいるとか。
うっわぁ、悪い奴らだなぁ。なんか言ってるけど、そういう悪いことする奴らの話とか聞く必要なくね? でもまぁ、祭りだし、あんまり強気でも駄目だよね。なんか、他の人は大人しい感じだし、ここは俺がちょっと一肌脱ぎますかね。
なんというか、こう毅然とした態度で俺は一歩前に出る。
「アロルドさん?」
「おい、アロルドの旦那が来てくれたぞ!」
「あの人がいるなら百人力よ!」
「アニキ、なんとかしてください。このままじゃ、司祭様や聖女様が!」
おうおう、任せておいてくれよ。俺がビシッと言ってやりますよ。しさい様とか、せいじょ様は良く分かんないけど、俺に任せておけって。
おいおい、槍持った人達、なんで俺を睨んでるんですかね? 今は祭りなんだよね。仲良くやろうぜ、でもまぁハッキリと言わないといけないことがあるよね。俺も苦しいけど、心を鬼にして、厳しい顔で言ってやらなきゃ。
「そこを退け」
言ってやりました。って思ったら、なんか槍持った奴らが、身構えてますよ。怖いなぁ、この人たち、とりあえず身体の距離が遠いと心の距離が遠いらしいので歩み寄りのために近づいてみましょうかね。こう一歩一歩、ゆっくりと。
「貴様、手向かいする気か?」
え? なんだって? お向かいする? 何言ってんだ?
「構わん、こいつも異端者だ。始末しろ!」
って、なんかいきなり、槍が突き出されました。いや、おふざけにしても良くないっしょこれ。とりあえず、突き出された槍の柄を掴んで力を入れたら、へし折れました。どうやら、玩具の槍のようですよ?
これって、余興って奴かね。それなら、別にいいんかな。とりあえず、俺に突き出された槍は全部へし折ってやりましたよ。
そしたら、なんか剣を抜いて、襲い掛かってきた人達がいたんで蹴っ飛ばしたり、投げ飛ばしたりしてたら、なんか大騒ぎで困ったね。これってアレですかね。喧嘩祭りって奴? 遥か遠くの国で行われているっていう祭りですか?
お祭りだったら、盛り上げないといけない感じですかね。じゃあ、僭越ながら、俺が一言。
「行くぞぉっ!」
「「「おおおおおおおおおっ!!」」」
なんか盛り上がってますね。とりあえず、俺も騒ぎましょうか。手近な相手を殴り倒し、続いて、もう一人も蹴り倒す。いやぁ、なんか熱気がすごいね。おっと刃物を持っている人がいるねぇ。刃物は良くないなぁ。熱くなりすぎなんで、ちょっと俺が倒しておこうかな。
「貴様、異端審問官が恐ろしくないのか!?」
いや、全く怖くないんだけど。異端審問官ってアレだろ、なんか公開でエロいことする人たちだろ? 俺が読んだことのある本だと、みんなエロいことしてたぞ。
「むしろ会ってみたいんだがな」
いや、マジで会ってみたいんだけど。だって異端審問官だよ? エロって言ったら異端審問官。異端審問官って言ったら、エロじゃん。なんか会いたくなって口元に笑みがこぼれてしまいますよ。おっと、どうしましたか顔色悪いですよ、エロいのは嫌い? じゃあ見なくて済むように、ここで寝かせといてやるよ。ってな感じにパンチ。
「アロルド君! ここは任せて、早く行け! 聖女様は聖堂で異端審問官に捕まっている!」
おっと、なんか汚リアスさんが叫んでますよ。普段だったら無視なんですが、ちょっと聞き逃せないワードがあったよ。
性女に性堂で異端審問官とか、なんかキーワード揃いすぎでヤバいね。少し頑張ろう。
「邪魔だ、消えろ」
俺の前になんか色々と鬱陶しい人達が現れたけど、今の俺は止められねぇよ。つーか、玩具の槍で何してんだって感じ、簡単に折れる武器持ってくるとかアホですか。付き合ってられないので、殴り倒して、俺は進む。
そして、俺はついに到着した。俺を邪魔する全てをなぎ倒し、性堂へと。聖堂の入り口の扉は大きいが、俺の期待も大きい。この先に、淫らな花園が広がっているのだ。期待しないわけにはいかないだろう。俺も男だ。夢見た光景が、扉の先にあるのならば、否が応でも期待は高まる。
「いざ、参る!」
俺は、ゆっくりと扉に手をかけ、楽園への入り口を開いた。