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酒乱令嬢の再臨



 相当にグダグダがあった結果、食事会は始まった。始まったは良いが……


「キッサマー! アロルド殿は私と話しているのだぞ!」

「そちらはエリアナ殿と話していれば良いだろうが!」

「貴様が言えた義理かー! エリアナ殿に親し気に話しているくせに!」

「兄者がアロルド殿にちょっかいをかけなければ黙るぞ! 確証はないがな!」


 すっげー仲が良い兄弟だね。俺達の事は無視して、兄弟で熱くなってるよ。俺達いらないんじゃね? つーか、兄と弟が一緒にいる意味が分からんちんなんだけど。アレかな、別々にやって、自分がいない時に悪口言われたりしてると嫌だから、一緒にいるのかね?

 あ、エリアナさん、もう少し飲んだら? ほら俺が注いであげるよ。

 うん、エリアナさんが遠い目をしてるね。そういう時は飲んで気分を変えようぜ。おお、良い飲みっぷりだね。一気飲みですか。でも、それって酒精が一割前後あるよね。それを今の所、三百ミリリットルですか。トイレ近くなったりしないかな?


「あのっ!」


 エリアナさんが空になったグラスを叩きつけるように置く。それガラス製品で高いから丁寧に扱おうね。まぁ、それはそれとしてお酒が空になったみたいだし、ドヴァドヴァとグラスにお酒を注いでおこう。


「私たちを! 呼んだ! 理由が! 知りたいんですが!?」


 エリアナさんが元気になりつつあるね。よかったよかった。なんだかエリアナさんが話あるようだし、俺も今のうちに飲み食いしておこうっと、エリアナさんは勝手に話してていいよ。


「そ、それはですね」

「兄者、頼む」

「弟よ、貴様はいつもそれだな。ええと、ですね。我々の臣下が最初にアロルド殿とお会いした時に無礼を働いてしまったので、その謝罪をしておこうと思いまして」


 はぁ、あんまり美味しくない料理だな。つーか、パイが二種並んでるとか、どういう脳味噌だよ。小麦の生産地だから、凝ってみましたとか? それだったら、最初の酒を林檎酒にしておけよ。林檎酒はこの辺りの名産だろうが。他所から来た奴には、土地の物を出して、そこから会話を広げていくのが普通じゃね? 

 俺は礼儀作法とか客のもてなし方の一例として、そういうことを教わってるんですけど。まぁ、こいつら田舎者だし無理か。俺って実は結構良いところの生まれなんでー、優雅な貴族らしい振る舞いとか染みついちゃってるんですー。


「そういうのは必要なくて、さっさと話せと言っているんですけど。私たちを呼んだ理由は他にあるでしょう? この土地ではゾルフィニルを筆頭に魔物が溢れているというのに、貴方がたは、その対策よりも跡目争いの方に終始している、その理由を聞いてみたいですね」


 おっと、気づいたらエリアナさんのグラスが空じゃん、注いでおこうっと。ん、馬鹿兄弟、エリアナさんがキレ気味だから、ビビってしまっているようですね。こんなに可愛いエリアナさんにビビるなんて情けない奴らだなぁ。


「それはですね……、えっと、我々だけの力じゃ、領内の魔物をどうにもできなくなってきているので、その手助けを――」


「それだったら、普通に依頼をすれば良いですよね。わざわざ、私に結婚を願い出る必要なんかは無いと思いますが」


「それはですね、えー、エリアナ殿に一目惚れしてしまったので――ひっ」


 エリアナさんがテーブルを叩きました。馬鹿兄弟の二人が完全にビビっていますね。エリアナさんも目が据わってきています。まぁ、俺には関係ないかな。


「本当のことを話していただけませんか?」


 エリアナさんがニッコリと笑っています。いやぁ、美人さんが笑ってると、幸せな気持ちになれるね。馬鹿兄弟はそうでもないみたいだけど。


「わ、私は今後のことを考えて冒険者ギルドを味方に引き入れたかっただけだ」

「今後? 跡目争いの後ろ盾になってもらいたいというわけではなくて、その後ですか?」


 おや、エリアナさんの眼がトロンとしてきましたね。そろそろ酔っ払ってきたかな。


「そう、今後だ。ゾルフィニルを退け、オレイバルガス領の実権を握り、西部の主になってからの話だ」

「おい、チャールズ、気安く話すな!」


 なんか焦ってますね、馬鹿兄弟。秘密にしていることがあったら、ハッキリ言っておいた方が良いんじゃないかな? まぁ、それはそれとして、俺もお酒をグイッと。えーと、これはラム酒かな? エリアナさんにも飲ませてくか。あら、エリアナさん完全に出来上がってますね。まぁ、酔ってるときは可愛いんで別に構わないけど。


「ふにゃー、これラム酒ですね。えーと、ダルギンさんが持ってきた奴かなー」


「え? ああ、そうです」


「なんでラム酒があるんですかねー、ラム酒ってサトウキビが原料でしたっけ? 王国でサトウキビを栽培しているとこなんて、南部のごくわずかな地域ですよね。でも、そこでは造ってなかったような。あれー不思議だなぁ、他に造ってるとこと言ったら、南部より更に南のイグニス帝国だったかなぁ。あそこってサトウキビ栽培が盛んらしいし」


「あ、ああ、イグニス帝国経由で私の所に流れてきたんです」


「あはは、そんなわけないじゃないですか。イグニス帝国の品は王国では取り扱い禁止ですよ。手に入れるなら、イグニス帝国の人から直接貰わないと」


 へー、物知りだねエリアナさん。ご褒美にもうちょっと飲んでくださいよ。ん? 馬鹿兄弟の気配が不穏なものになっているね。


「どういうことだ。兄者、まさかイグニス帝国と通じていたのか!」

「言いがかりだ!」

「売国奴の言うことなど誰が信じるものか!」


 なんか揉めてるね。彼らは放っておいて、エリアナさんは飲んでください。えーと、これはチャールズって奴が持ってきた酒かな。色は透明だけど、なんだろうね。


「チャールズさんの持ってきた、お酒もラム酒ですねー。色は透明だけど、製法の違いですね」


「貴様ー! 自分のことを棚に上げて、よくも!」

「いや、違う! 待て、兄者!」


 うわぁ、兄弟で取っ組み合い始めちゃったよ。なんていうか、こいつら油断しすぎじゃない? つーか、全体的にいっぱいいっぱいに見えるんだけど。どう考えても、ノンビリと畑でも耕してた方がいい人たちだよね。なんか、頭使うのが根本的な部分で苦手そう。


「あのー、いい加減にしてくれません。長引くと嫌なんですけど」


 あら、エリアナさんがプンプンモードだよ。


「待ってくれ、我々の話を聞いてくれ、そうすれば、君達も我々に手を貸してくれる気になるだろう」

「そうだ、まだ帰るのは待ってくれ、我々の話を聞いてからでも遅くはない」


 うーん、この馬鹿兄弟は本当に俺らに帰られると困るみたいだね。あんまり困らせるのも可哀想だし、エリアナさんをなだめるか。とりあえず、頭でも撫でておこうっと。いやぁ、髪サラサラで触っていて気持ちいいです。


「ふにゃー」


 エリアナさんも気持ちが良さそうで何よりです。あ、馬鹿兄弟は勝手に話していて良いよ。


「――ことはアドラ王国の建国に始まります。アドラ王国の建国の経緯は御二方もご存じだと思いますので、省略します」


 すまん。知らない。というか憶えていない。でも、知らないっていうのは恥ずかしいので黙っていよう。


「――しかし、その経緯は王家によって改竄されたものなのです」


 エリアナさん、何食べる? 果物の方が良いよね。よし、俺が取ってあげよう。

『アロルド君、飲んでないねー。もっと飲みなー』

 エリアナさんが俺のグラスに酒をなみなみと注ぎます。いやぁ、美人のお酌は嬉しいね。


「――元々、ガルデナ山脈の西には強大な王国が存在していました。その王国は、山脈を超え、今のアドラ王国の土地までも支配していました。しかし、突如として、その王国は滅亡したと伝えられています。今、ガルデナ山脈を越えた先には魔界と呼ばれる世界が広がっているとも伝えられています」


 はぁ、酔っぱらってきちゃったぜ。エリアナさんは……うん、飲んでるね。俺は止めないから、好きに飲んでいいと思うよ。俺ももう少し飲もうっと。


「今のアドラ王国の土地は数名の貴族が中心になって統治していました。しかし、ガルデナ山脈の先にある王国が滅んだと知るや、今の王家の祖となる男が軍を率い、各地を武力で制圧していきました。もとは貴族でも何でもない、ただの軍人です。その男が、正当な血筋にあたる貴族を屈服させ、この土地の支配者として君臨した。それが、アドラ王国建国の真実です」


 ああ、うん。聞いてるよ。たぶん聞いてる。


「今、大公家と呼ばれている貴族は、本来アドラ王国を統治していた者達の末裔です。我々からすれば、今の王家などは簒奪者にしか思えないのです。それは、貴方もそうではないのですか、エリアナ殿」


 エリアナさん呼んでるよ。全く聞いて無さそうだけど、聞いてるフリくらいはしてあげなよ。


「イスターシャ家こそ、正当な王家の血を継ぐものです。ガルデナ山脈を越えて、魔界から逃げ延びた、滅んだ王国の王家に連なる一族、それがイスターシャ家――エリアナ殿の一族なのです。今の王家が、自らを王家と名乗るよりも、貴方がそう名乗る方が正当性があるはずです」


 いや、無いだろ。何時の話してんのこいつら。えーと、建国が四百年くらい昔だっけ? そんな昔のことなんざ、誰も知らねーよ。少なくとも俺は知らないし、どうでいい。


「はぁ、そうなんですか」


 エリアナさんもどうでも良さそうだぞ。ダルギン君、キミの話は退屈なんだよ。


「正当なる貴族の血である大公家と正当な王家の血が結ばれれば、我々は正当な王国の血を継ぐものとして、今の簒奪者たる王家を打ち破る正当性を得ることが出来るはずです」


「……そのために私に結婚を申し込んだと?」


 はぁ、なんだか良く分からないけど。エリアナさんが好きってわけではなくて、エリアナさんの血統が目的だったということですか、ダルギン君。うわぁ、最低だな。


「貴方も貴族の生まれであるなら、貴族の結婚が利害に基づくものだと知っているでしょう。私と結ばれれば、貴方は女王となることも出来ます。決して悪い話ではないと思いますが?」


 いやぁ、悪い話だと思うよ。愛の無い結婚とか寂しい物だって聞くし。というか、ダルギン君が王国打倒とか出来る気がしないんだけど。今までの駄目っぷりを見てるとさ、つーか、今も言う必要ないよね。え、もしかして、本当におバカさんですか? いや、弟にドヤ顔かましてる場合じゃないよね。


 これは駄目だね。こんな馬鹿にエリアナさんはやれません。ハッキリと言ってやりましょう。


「エリアナは俺の物なんでな。お前にやるわけにはいかんよ。血筋だとか、そんなつまらん理由でエリアナを欲するような輩には尚更な」


 保護者だしねー。良い男が見つかるまでは俺が守ってやらないといけないわけですよ。ん? エリアナさん、なんで熱っぽい眼差しで俺を見てるんですかね。で、ダルギン君はなんでグヌヌって感じで俺を見てるのかな?


「分かっているのですか、エリアナ殿、そんな男について行ったところで、貴方に――」


 言い終える前に、エリアナさんが投げた酒瓶がダルギン君の顔面に直撃して、ダルギン君が倒れる。


「うっさい馬鹿! お前みたいな馬鹿はこっちから願い下げじゃ、ボケェ!」


 まぁまぁ落ち着いてください、エリアナさん。頭撫でてあげますから。


「ふ、やはり兄者は愚か者よ。エリアナ殿とその血統を後ろ盾にして、中央に対して影響力を強め、いずれは王家に対して反旗を翻そうとしたのだろうが。そんな面倒な手間など必要ない」


 ん、チャールズ君が俺を見てますね。


「さぁ、アロルド殿。今の王家が間違っているという事は理解できたはずだ。俺と協力して、今の王家を打倒し、正当な血によって統治される王国を――」


「ボケカス、死ねぇ!」


 エリアナさんが酒瓶を投げて、今度はチャールズ君を倒しました。いやぁ、凄いですね。


「お前らみたいな、ノータリンの言うことなんか、誰が信用するかバーカ! お前らみたいな奴には頼りません。私はアロルド君、一択です! 王国潰すなら、アロルド君に頼むっつーの、ボォケェ!」


 いやぁ、エリアナさんが超元気。なんだか、嬉しくなってくるね。


「くそ、我らにこんな真似をしてタダで済むと思うなよ」

「者ども、出会え出会え」

「なんだこの野郎、私にはアロルド君がついてるのよ! お前らなんかアロルド君に任せれば余裕綽々よ!」


 まぁまぁ、落ち着いてくださいよ、エリアナさん。ほら、なんか馬鹿兄弟の手下がやってきましたよ。


「アロルド君、後はお願いね。なんだか私気分がちょっと……」


 あ、エリアナさんが口元を抑えてヨタヨタとしながら、ぶっ倒れました。


「ふふ、こうなっては仕方ない。どんな手段を取ってでもエリアナ殿は頂く」

「俺に手を貸してもらえるまで、ゆっくりと話をしようではないか、アロルド殿」


 えーと、俺は囲まれてますね。で、エリアナさんは昏倒してます。うん、これは困ったね。

 つーかさ、そこの馬鹿兄弟、お前ら本当に仲良いね。滅茶苦茶息が合ってるように見えるんだけど。最初っから、そうやって仲良くやってた方が良かったんじゃない。

 まぁ、それは置いといて、エリアナさんを抱えた状態で、この状況はマズいね。


「「ものども、かかれぇ!」」


 ちょっと、状況が良くないので、俺はこの場は諦めることにしました。











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