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ジーク君の冒険1

 

 僕の名前はジークフリート。十二歳です。


 みんなからはジークって呼ばれています。名前は大層なものですが、生まれは田舎の農村で、両親は農民です。何を考えてこんな名前を付けたのかと聞いてみたら、カッコよさそうだったからと答えられました。もうちょっと、良く考えて名前を付けてもらいたかったです。名乗る時に凄く恥ずかしいので。


 家族は両親と妹がいます。僕と家族はアドラ王国南部の小さな村に住んでいたのですが、その村が悪党に襲われ、僕ら家族はそいつらに誘拐されてしまいました。そのまま、僕らは奴隷として売り飛ばされそうだったのですが、そこに師匠――アロルドさんが現れ、僕らを助け出してくれました。その後、村が滅んで行くあてが無かったところを師匠に拾われ、今に至ります。師匠のおかげで、僕ら家族は離れ離れになることもなく、全員で元気に暮らせているというわけです。


 僕の両親は王都の近くに師匠が用意してくれた、エダ村という場所で魔物の皮革製品を作りつつ、農業をしています。両親と妹は仲良く、エダ村で穏やかに暮らしているのですが、僕はというと――


 僕は一応冒険者として働いています。冒険者というのは、人から色々な依頼を受けて働く人たちで、荒事をしたり雑用をしたりする人です。なんで冒険者かというと、やっていることが冒険だからという理由だそうです。良く分からないですけど、確かに冒険をしている感じはあります。僕も森の奥や、洞窟の中、廃墟の中を探索して魔物を狩ったりしている時は冒険してるなぁって思いますから。


 師匠については……まぁ、色々とついていけない時もありますけど、助けてくれた恩もありますし、鍛えてくれてもいるんで嫌いではないです。好きかと言われると良く分からないですけど。

 家族を助けてくれたり、お金を稼ぐ手段を与えてくれたことは、もちろん感謝しています。何を考えているか分からない所はありますけど、絶対に動じない所は凄いと思いますし、強いところも尊敬してます。うーん、全体的に見れば好きの方に傾いているような気がするけれども、不思議なことにハッキリ好きと言いきれない物があります。

 修行に関しては……良く分かりません。よくよく考えると修行をしていた時の記憶がハッキリとは無いので。ただ、すっごく辛かったということだけは、体が憶えているというか、頭が記憶しておくことを拒否した結果、体だけに記憶が残ったのかもしれないです。

 修行の結果自体は劇的で、自分の体が作り変えられていくような気がします。最近は岩を殴ると、岩に拳の跡が付くようになりましたし、効果は確かみたいです。変な話ですけど、体を動かしているだけなのに頭も良くなってきたような気もしますしね。

 でも、それだけ効果があっても修行は嫌なんですよね。どういうわけか分からないですけど体が修行を避けるんです。どうしてなんでしょうか? 命の危険のある魔物退治の方が気楽に思えてしまうんですよね。どう考えても、修行の方が危なくないはずなのに変ですよね。まぁ、修行中の記憶は殆ど無いんですけどね。


 師匠の修行のおかげで戦うこと自体に困ることは無いです。戦闘の心構えなんかも教わりましたし。それに師匠以外にもグレアムさんとかオリアスさんが剣技や魔法を教えてくれていますし。でも、戦い以外だと、困ることばかりなんですよね。


 例えば――



「ジークの兄ぃ、お疲れ様です!」


 冒険者に出くわすと大体、こう言って頭を下げられます。頭を下げてくる相手は、おじさんと言っていい年齢の人で、僕と同じ年の子供がいてもおかしくない人です。


「えっと、僕の方が年下だよね。というか、僕は子供なんだけど」

「関係ありやせん。俺達の間じゃ、ジークの兄ぃの方が上ですから」


 みんなこんな風に言ってきて、僕は止めて欲しいと思っているのですがやめてくれません。上とか言われても困ります。恥ずかしいですし、期待されても、それに応えられるだけの能力は無いですから。しかし、そういうことを言っても、笑い飛ばされるだけなのが辛いです。


 とはいえ、嫌われたり避けられたりしているわけではないので、困りはするものの、冒険者からの扱いは、そこまで気にすることではないんです。ただ、冒険者以外、特に同年代の子たちからはというと……



 それは、エリアナさんが大暴れしてから数日経った、ある日のことでした。僕は依頼を終えてエダ村に戻って来たんです。家族も住んでるし、実家みたいな物なので、休みが取れれば帰ってきます。

 帰って来た僕は南部から一緒にエダ村にやって来た子供たちに会いに行きました。せっかくだから一緒に遊ぼうと思ったんです。僕はまだ子供なんだから、おかしくはないでしょう? それに、イレイヌちゃんっていう僕の好きな女の子もいるので、仲良くなりたかったですしね。こういう小さな機会を大事にしながら、すこし離れているように感じる距離感を戻していこうという思惑が僕にはあったんです。けれども――


「みんな何してるの?」

「あ、ジーク……」


 僕が会いに行くと、みんな微妙に困った顔になりました。


「遊ぶなら混ぜてよ。あ、それとも冒険の話聞きたい? えっと、今回はね――」

「いいよ……いっつも怖い話ばっかりだし……」

「おい、ジーク、イレイヌが困ってるだろ、やめろよ!」


 え? 酒場とかでは冒険話をすると、みんな喜んでくれるんですけど。大人だって、喜んで聞きに来てくれますし。


「俺達、これから森に探検に行くんだよ! お前は帰れよ!」

「えっと、探検だったら、僕も行くよ。斥候役も出来るくらい鍛えてるし、森の中の歩き方も学んだし、何があっても大丈夫だから」

「俺達は、そういう探検がしたいんじゃないんだよ! おまえと行ってもつまんないんだよ!」


 そんな……僕は皆が危なくないように徹底的に危険を排除しようと思って言っただけなのに、そんな言い方ってないと思うんだけど……


「みんな行こうぜ。イレイヌも、こんな奴に関わってると頭おかしくなるぞ」

「うん、そうだね。ジークとは、ちょっと一緒には遊べないかも……。ごめんねジーク、あなたは無理。じゃあね」


 イレイヌちゃん……イレイヌちゃんが男の子と手を繋いで、どんどんと遠ざかっていきます。どうしよう、僕はイレイヌちゃんに嫌われてしまったようです。これは、どうすればいいんでしょうか。


 そんな風に僕とエダ村の子供たちの関係は遠ざかるばかりで困っています。正直に言うと、イレイヌちゃんに嫌われたのが一番つらいです。他の子たちは、まぁそれなりというか。まぁ嫌われても別に気にならないんですけど。





 とまぁ、それが困ることなわけです。いったい、どうすれば良いのか僕には分かりません。イレイヌちゃんの機嫌を取って、仲直りできるようにするには。


 一人で考えても答えが出ない僕は冒険者ギルドにて、どうすればイレイヌちゃんと仲直りできるかを相談しました。


「――ということがあったんです」


 僕はイレイヌちゃんとの諸々を話しました。南部に小さな村に居た頃からの幼馴染で、攫われた時は不安な僕を慰めてくれた優しい子だったということを説明し、あと可愛いということも付け加えて。


 聞いてくれたのは、僕とパーティーを組んでくれているヴェイドさんです。ヴェイドさんは冒険者ギルド立ち上げ時からのメンバーで斥候役としては冒険者一の実力者。探知関係の魔法を得意としています。


「そうなんだ」


 ヴェイドさんはあまり口数が多くありません。疲れていて口を開くのが面倒だと常々言っています。ヴェイドさんは師匠の手足となって色々と調べ物も頼まれますから、疲れるのも当然なのかもしれません。


「どうすれば良いんでしょうか?」

「贈り物をしてみるとか」

「贈り物ですか?」

「プレゼントをすると女性は喜ぶっていわれてるし」


 そうですね。それならいけるかも。ただ、何を送れば良いのか。この手のことだと、ちょっとヴェイドさんはあてになりません。ヴェイドさんはギルドの受付のアミリーさんが好きなようで、度々アプローチをかけてるけれども目立った成果はあげられていないし、成功の経験が無い人からアドバイスを貰っても、効果は望めないと思うので。というわけで、僕は他の人に話を聞くことにしました。






「女性には何を送ればいいんでしょう?」


 僕が相談した相手は、師匠、グレアムさん、オリアスさんの三人です。


「俺達に聞かれてもねぇ……」


 グレアムさんは困った顔で頭を掻いています。街で見かける度に違う女性と歩いているので頼りになるはずです。相手がグレアムさんより年上なのが気になりますけど。


「子供が何を好きかなんて分からねぇよ」


 オリアスさんはそう言っていますけど、オリアスさんがちょっと子供っぽい見た目の子がいるお店に良く行っているのは知っています。そんな人が子供の好きな物を分からないなんてことは無いと思います。


「とりあえず花でも贈っておけばいいんじゃねぇの?」


 オリアスさんの意見は花ですか。無難だし、それも良いかも。


「宝石とかかな。アクセサリーも喜んで貰えると思うけど」


 グレアムさんの意見は宝石とかですか。うーん、冒険者も女性に宝石とかをプレゼントするって、よく聞きますし、そういうのもありなのかもしれません。女性は高級品を喜んでくれるみたいな話を酒場でも聞いたことがありますし。


「いや、菓子でも贈った方が良いだろ」


 それまで黙っていた。師匠が口を開きました。でも、お菓子ですか?


「えっと、理由は?」

「花も高価な品物も理由が無く受け取りにくいし、貰っても困るものだからだ。その点、菓子は受け取りやすく、処理も楽だから貰っても困らない」


 師匠の言っていることが分かりません。女性って花とか宝石を渡せば喜んでくれるんではないんでしょうか? うーん、これに関しては師匠はあてにならなかったかな。グレアムさんとオリアスさんの意見を採用して、花と宝石を送ることにしよう。でも、そうなると、お金足りるかなぁ……



 ――結論から言って、ちょっと厳しいと判明しました。


 宝石店に行って、大きな宝石のついた指輪とか探したんですが、僕の貯金ではどうにもならなそうでした。


 ですが、僕は冒険者です。お金を稼ぐ手段はいくらでもあります。

 最近はギルドを介さず、僕に直接依頼をくれる人も結構いるので、その人たちをあてにすることにしました。そういう人たちは大体貴族の方々で、報酬を多めに包んでくれるため、お金が欲しい僕にとっては、ありがたい存在です。


「冒険者など辞めて、我が家に仕官せんかね?」


 こう言ってくれる方が多いのですが、貴族の家に仕えるだけの能力などは僕にはありませんので、断ります。剣を振る以外も要求されるような仕事は僕には無理だと思います。読み書き・算術・地理・歴史はエリアナさんに教わっていますけれども、貴族の家に仕える人に要求される水準には達していないと思いますし。


「うーむ、残念だ。もしも、気が変わったら言ってくれ。きみなら、いつでも歓迎するぞ」


 そんなやり取りが挟まれつつ、僕は貴族の依頼を受けました。依頼の内容はというと――


「魔物を一頭狩ってきてほしいのだ。剥製にして飾るためにな。なるべく大きい物が良い。物によっては報酬を上乗せしよう」


 問題ない依頼です。貴族の方から僕に来る依頼は殆どが魔物の剥製作りで、特に困るような作業も無いので、僕は依頼を受けることにしました。


 普通なら、ここでパーティーを組むのでしょうが、僕は単独ソロで行動をすることを選びました。その理由はパーティーを組むと報酬を山分けしないといけないので、なるべく多くのお金を必要としている僕からすると、良い選択だと思えなかったからです。


 僕は大型の魔物を探すために王都から出立します。修行の成果によって、体力の消耗を考えなければ馬より多少遅い位の速さで走れるようになった僕は王都から少し離れた、木々が鬱蒼と生い茂る山の中に向かいました。なぜ、そこを選んだかというと、そこに地竜と呼ばれるドラゴンの一種がいるという噂を聞いていたからです。


 地竜は翼を持たない四足歩行のドラゴンであり、ドラゴンとしての格は最下位だという話ですが、剥製として飾るなら充分なはずです。

 貴族の方が剥製を飾る理由は権威を見せつけたり、自分の武力を誇示するためですから、出来るだけ見栄えのする物が良いとも聞いているので、一応ドラゴンである地竜なら満足してもらえると思います。


 僕は山の中を〈探知〉の魔法を使いながら進みます。僕の魔法の習熟度だと、立ち止まり集中して使えば、二十メートルの範囲内の生き物の存在は把握することができ、歩きながらだと、十メートル前後にまで落ちるので、時々立ち止まりつつも、地竜に勘付かれないように慎重にその存在を探りながら進みます。


 時々、別の魔物の存在を探知しますが、基本的にはやり過ごす方向性で進むことにしました。

 師匠なら問答無用で全てを斬り殺して進んでいきそうですが、僕の場合、それをすると地竜と対峙した時に体力が尽きる可能性があるため、なるべく魔物には見つからないようにします。そうして、三日ほどの探索期間を経て、僕は地竜を見つけることが出来ました。


 見つければ後は簡単、仕留めれば良いだけです。


 地竜は僕の存在に気づくなり、吼え猛って突進してきますが、所詮は真っ直ぐ突っ込んでくるだけなので、対処に困ることはありません。というか、僕にとってはチャンスでした。

 僕は鍛冶師のザランドさんが僕のために打ってくれた『銀枝』と名付けられた細身の剣を抜き放ち、突進してくる地竜に合わせて、僕も前に出る。

 僕は突進してくる地竜に合わせてスライディングをして、その巨体の下を潜り抜けつつ、すれ違いざまに、地竜の喉元にある逆鱗を『銀枝』で貫く。すると、僕が地竜の股下を潜り抜け、地竜が僕の真上を駆け抜けと同時に、地竜が力なく崩れ落ちます。

 僕は地竜が死んだんだろうと思って近づいてみると、やはり地竜は死んでいました。あっけない幕切れだけれども僕の戦いなんて大体はこんなもんなんです。基本的に急所を攻めて、サクッと終わらせることにしているので知能が低い魔物相手だと、さほど苦労もしません。

 今回は、逆鱗がドラゴンの急所で、そこを貫かれると死んだり、動けなくなったりすると言われているので、そこを狙ったわけだけれど、正解だったようです。もっとも、即死するのは地竜の場合だけかもしれないので、他のドラゴン相手にはやりたくないですが。


 まぁ、そんな風に簡単に終わったわけですけれど、こういう方がみんな幸せです。僕は危なくないので幸せだし、貴族の人は殆ど傷の無い地竜の剥製が手に入るので幸せ。それによって、僕への報酬が増えて、さらに僕が幸せになるというわけです。何も問題はありません。


 たとえ、地竜を仕留めたのが僕じゃなくて、貴族の人とその人の家臣ということになってもです。


 ギルドを通さず、冒険者個人へ依頼を持ってくる場合は大体がこういう結果になります。手柄を横取りされると言っていいのか良く分からないですけど、高額の報酬が払われるのは、諸々の事情を口外しないようにという口止め料も含まれているということです。見栄やら何やら色々な都合があるということだと思って、僕は気にしないようにしてます。

 でもまぁ、今回の貴族の人はかなり良い部類です。報酬の減額をしたり、報酬に関して知らん顔をする貴族の方なんかも多いですから、ちゃんと増額してくれた今回の依頼人は相当に良い依頼人に入ります。

 僕なんかは子供なんで結構、報酬を誤魔化されたりするんですが、今回の依頼人はそういうことはしませんでしたし。


 まぁ、お金を貰えるなら大抵のことは我慢できます。僕は農民の出なんで我慢強いですからね。それに今はイレイヌちゃんと仲直りするのが最優先だから、あまり余計なことを気にしても仕方ないですしね。







次回も続きます

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