魔法使いの館
殴り込みをかけに行こうとは思ったものの、どこに行けば良いのか分からないので、しばらく待機する俺達。ババアはカタリナが治療中だし、死ぬことはないと思う。まぁ、死んでも老い先短いだろうし、特に問題はないと思う。
「ええと、エリアナさんに相談してからの方が……いや、報告してから、他の人にも連絡して、人が集まってから、皆に相談して……」
ジーク君が何か言ってますね。子どもじゃないんだから、そんなことしなくても良いだろうに。まだまだガキだぜ。こういうのは、サッと行ってサッと解決するのが一番良いと思うんだな、俺は。
おや、ジーク君が何か言っている間に探知一号が帰ってきましたね。キチンと情報集めてきたんだろうかね。俺に報告してください。
――うん、良く分からないけど、探知一号が持ってきた情報を聞いて、冒険者連中もにわかに盛り上がってきているようです。
攫われた子の名前はキリエ・エーデルベルトという名前だそうです。なんと貧相さんでした。まるで予想もしてなかった事実に驚きだね。後、連れ去られた先はエーデルベルト子爵邸だそうです。貧相さんと同じ姓だけど不思議だね。そういうこともあるのかな。どういう理由で連れていかれたのかは分からないとか。まぁ、理由は関係ないよね。囚われの女の子がいたら、助けに行くのが常識だし。
それと、面白い話ですが、このエーデルベルトとかいう貴族が、ウチの魔法道具の不買運動をしていた新式魔法使いの元締めだそうです。つまりはアレだね、既に俺達に喧嘩を売っていたわけだ。これは許せないね。舐めたマネをした奴らをタダで済ませるような、甘い考えの奴は冒険者ギルドにはいないからね。みんなが殺る気マンマンになるのは当然かな。
「エーデルベルトっていうと、魔法使いの名門家系で有名だねぇ。昔は宮廷魔法使いも多く輩出していたらしいけど、最近はどういうわけか、一族の人間の魔力量が少なくなってきて、落ち目だとか言われてるね」
グレアムさんが何か言ってますが、別にたいしたことじゃないでしょう。おや、ジーク君、顔色が悪いですよ。ニヤニヤしていて気持ち悪いグレアムさんを見習えとは言わないけど。これから、囚われの女の子を助けに行くんだから、もう少し意気揚々な感じを出してね。
「えっと、やめておいた方が良いと思うんですけど……」
なんだ、行かないの? まぁ、お留守番でも良いんだけどね。まぁ、それだったら、アレだな――
「ついてこないなら、俺が帰って来るまで、修行しておけ」
別にやらなくてもいいんだけど。って、ジーク君、顔が真っ青で汗がすごいですよ。
「行きます! 連れていってください! うん、人助けは大事ですよね!」
乗り気になってくれて嬉しいぜ。ということで、出発しましょう。全員で真正面から、エーデルベルト邸に乗り込んでやりますよ。だいぶ前から喧嘩を売ってきてくれていたようですから、相手をしてくれるでしょう。
「いやぁ、楽しいねぇ」
「くそっ、なんでこんなことに……」
楽しそうなグレアムさんだけど、捕まって苦しんでいる子を助けに行くんだから、不謹慎だと思う。ジーク君は、少しは楽しそうな顔をしようか、子どもなんだから。
「さて、行くか――」
俺の合図に合わせて、冒険者の一団が走り出します。先頭はエーデルベルト邸の場所を知っている探知一号に俺とグレアムさん。その少し後ろにジーク君、冒険者の一団と続きます。
ババアを助けてから、時間が経っているので、既に王都は夜の闇に包まれています。その中を完全武装の集団が走っているのだから、外野が見たら、中々に壮観でしょう。実際、俺達の姿を見た人たちは、腰を抜かしています。まぁ、それぐらい格好いいということだよ。
探知一号の先導のもと、やがて俺達はエーデルベルト邸に到着します。なんというか家と言うより城って感じの所でした。まぁ、関係ないよね。
「なんだ、貴様――」
門番が居ましたが、グレアムさんが速攻で排除。鞘に収めたままの剣で門番二人を殴り倒しました。
「んじゃ、行くとしますかねぇ。腕の手足の骨を二三本も折ってやりゃ、良いでしょう」
まぁ、どうなんだろうね。二度と俺達に歯向かう気力がなくなれば、それで充分だと思うから、グレアムさんの方向性が良いのかな? 俺は全員斬り捨てるくらいのつもりだったんだけど。
「え? ああ、そうですよね。うん、普通それぐらいにしますよね」
うん、どうやらジーク君も俺と同じ考えだったように見えますね。そうだよね、普通、殴りこみって言ったら、命の取り合いだと考えるよね。
おっと、そんなことを考えている内に、邸内が騒がしくなってきました。
「とりあえず、有象無象は俺達が引き受けるからアロルド君は、ご自由にどうぞ」
グレアムさんがそんなことを言いだしたので、お言葉に甘えて自由行動をさせてもらいます。だって、集団行動とか苦手なんだもん。出来ないわけじゃないけどさ。
おっと、魔法が飛んできたので、剣で斬り払います。ザランド爺さんの『鉄の玉座』の使い心地は今日も最高ですよ。これを使えばドラゴンでさえぶった切れそうな気がします。
さて、俺を攻撃してきた魔法使いは――ジーク君に脚を踏み折られた上に顎を砕かれて失神してますね。怖いなぁ、いつの間にあんな子になってしまったんだろうジーク君。
まぁ、元気になったから、良いとしますか。そんなことよりも、俺の方もさっさと行動しないとね。
というわけで、エーデルベルト邸内に侵入した俺。なんか大変な騒ぎになってますね。ついでに、魔法使い連中が俺を狙ってきますよ。まぁ、室内かつ近距離で魔法使いが俺に対して出来ることなんて何も無いんで、出会う度にぶん殴って倒し、グレアムさんに言われた通り骨を三本折っておきます。うーん、剣を使う相手がいないのはつまらないね。
なんだか外も大騒ぎになってます。結構遅い時間に来たから、みんな寝てたのかな。寝間着のまま俺に向かってくる人も多いですし、寝間着のまま外へと逃げ出していく人もいます。もう少し早い時間にお邪魔したほうが良かったかな。
結構、ここで暮らしている人が多いのはアレですかね、内弟子って奴でしょうか? やっぱ名門らしいし弟子とかも多いんでしょう、弟子が多いと楽しそうですし、俺も早くいっぱい弟子をとれるようにしよう。
うーん、そういえば俺って、ここに何をしに来たんだっけ。なんか当初の目的から逸脱して、殴り込みがメインになっているような。まぁ、それでも良いかな。
などといったことを考えながら、邸内を探索する俺。魔法使いの家とか言われているので、なんかあるかなぁと思って探していますが、気持ちの悪いものしかありませんね。
屋敷の地下には、水槽の中に浮かんだ赤ん坊とか妊婦とか、あとは兄弟姉妹とか、親子が線で結ばれて、子どもを産んでるみたいに書かれた家系図とか、『近親交配による魔力量の安定化の報告』とか、意味が分からないので、どういうものなのか誰かに話して意見を伺っておこう。うん、そうしようと思って、地下を出ようとした時でした。
魔法の矢で足を貫かれたのは――
ものすげー痛い! 足に光る矢が突き刺さってるし、なんだこりゃ! 思わず、床に転がる俺の目に入って来たのは、普段はボサボサだった髪を整え、小奇麗な服を着たオリアスさんの姿だった。
てめぇ、この野郎、間違って撃ったじゃすまねぇぞ。ってアレ? ちょっと待て、殴り込みにオリアスさん居たっけ? えーと…………うん、いなかったな。じゃあ、なんでオリアスさんがいるんだろうか?
「狂気の館へようこそ、アロルド・アークス――」
なんか格好をつけたオリアスさんが言います。
「この俺――オリアス・エーデルベルトが、もてなしてやろう」
格好をつけて喋る前に俺の足をぶち抜いたことを謝れや、クソ野郎! ぶっ殺すぞ!