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魔女の家にて

 


嫌な予感は当たりました。今、俺の前には貧相さんが座って、俺の理解できない話しを延々と喋っています。


 男に絡まれていた所を助けて貰った事の、お礼をしたいと言われたので貧相さんのお宅にお邪魔したわけですが、そのお宅がどう見ても魔女の家で、中に入ると外観と同じく魔女の家って感じで空気が悪くて、調子悪くなりそう。つーか汚い、掃除しろよって綺麗好きな俺は思う。


「でね、その魔法と魔法を組み合わせるとね――」

「そうか、それは知らなかった」


 貧相さんはお茶も出さずに喋っています。これは、俺が悪いのかな? 『魔法が得意なんだな』って、なんとなく貧相さんが魔法使いっぽいので言ってみたら、それから貧相さんはノリノリになって魔法のことを喋り出しました。挨拶すらマトモにできない感じだったのが、自分の興味のあることになると饒舌です。いやぁ、気持ち悪い。

 まぁ、喋り以外でも、この貧相さんは馬鹿みたいに魔力があるんで、それが無遠慮に俺の感覚をビンビンと刺激するんだよ。我慢はできるけど、あまり愉快ではなく気持ち悪いんだよね。よくもまぁ、こんな子に絡んだもんだな、あいつら。


「オリアス兄さんの方法だと手軽だけど――」

「なるほど、そういう考え方もあるのか」


 ごめんね、俺はキミの話し全く理解できてないの。ちょっと俺には難しいかな。


「起動と停止ができるようにすると、使い勝手も上がるから――」

「それはすごいな」


 聞いてる風だけど、俺は全く理解してないよ。ただ相槌打って、肯定的な感想を並べているだけです。基本的にこれで人生乗り切ってきたからね。マトモに人付き合いをしたことがなさそうな奴なんか簡単に騙せるよ。基本的に決まったパターンで何とかなるし。


「えっと……ごめんね。その……私だけ話してて……」

「いや、面白い話しが聞けたので良かったよ。もう少し聞きたいぐらいだ」

「そ、そうかな……」

「ああ、そうだとも。そもそも綺麗な女生と話していて退屈を感じる男はいないのだから、もう少し自信を持って話しても良いと思うね」

「え、あの、それって……その……」

「ああ、キミが綺麗だという意味だよ」


 まぁ、退屈を感じる男は俺自身なんですがね。とりあえず、ヨイショしまくったし、もう帰っても良いんじゃないかな。ちなみに、顔は好みではあるよ、うつむきがちで暗い印象はあるけど、顔立ち自体は可愛らしいものだし、身体は貧相だけど、それは子どもだからだよね。俺は子どもに欲情はしないので、守備範囲外なんだよね。

 まぁ、綺麗と言ったのも社交辞令みたいなものですよ。俺だって貴族の生まれですから、優雅な物言いくらいは出来ますよ。ノーブルトークって奴だね。


 おや、貧相さん。顔が真っ赤になってますよ。どうしましたか? もしかして、俺の言葉を本気にしましたか? ははっ、そんなことでは貴族社会は生きていけませんよ。

 まぁ、そういうのは、どうでも良いとして、そろそろ帰ってもいいですかね。お家の人が帰ってきますよ、貧相さん。


「帰ったよ」


 おや、ババアの声が聞こえました。うわぁ、ババアと目が合っちゃったよ。早く帰ってエリアナさんとカタリナを見て、汚れた目を清めないと。


「なんでアンタがいるんだい?」


 おい、ババア、初対面の相手になんだ、その態度は? ぶっ殺すぞ。俺が女子供老人に優しい男だと思ったら、大間違いだぞ。大変なことになって死ぬぞ、いいのか!

 まぁ、俺は冷静なんで、そんなことはしませんけど。ノーブルな俺は優雅に受け流しますよ。


「勝手に居座っているだけだ。すぐに帰る」

「はんっ、別に構いやしないよ」


 いや、もう帰りたいんだけど。って、なんでババア、俺の前に陣取って座るの? ババアとトークタイムかよ。まぁ良いけど。


「こらっ、キリエ! お客に茶も出してないじゃないかい! なんで、アンタはそういうことに気が効かないんだい!」

「す、すいません。師匠……」


 ババア怖いよ。怒んなよ、ババア。貧相さんという名前のキリエちゃん泣きそうな顔で走って行っちゃったよ。つーか、すぐに茶とか準備できんの? 炭とか準備してる家に見えないんだけど。そうなると、薪から火を熾すの? え、時間かかる系で、このババアと一対一でお話しかよ。


「……アンタのことは、まだ信用しきれていないけど。アンタのおかげでアタシら古式魔法使いが日の目を浴びることができるようになったのは事実だ。そのことを、素直に喜ぶことは出来ないけど、弟子たちに希望を与えてくれたことは感謝してる」

「たいしたことはしてないさ」


 ごめん、ババア。貧相さんの方を見てて聞いてなかった。貧相さんが竈っぽい場所に手をかざすと火が着いたんだけど、アレはなんだろうね? 何もしてないのに、ずっと燃えてるみたいだし、不思議なこともあるもんだ。


「でも、それとこれは、話しが別だ。アンタはキリエと何を話してたんだい?」


 おや、ババア、微妙に殺気が出てますよ。怖いなぁ。


「別にたいしたことは話していない。いや、そうとも言えないか。彼女の研究を話していたわけだしな。それをたいしたことではないとは言えないな」

「気障ったらしい物言いだね」


 だって貴族ですもん。キザっぽく振る舞いますよ、そりゃあね。まぁ、それが不快にさせたら御免ね、すいません。謝りましたんで許してください。心の中でだけど、気持ちが大事って聞いたことがあるしね。でも、ババアの殺気は消えません。


「あの子は、アタシが預かった大切な子だ。あの子に手を出すっていうなら、アタシは容赦しないよ」


 普通に怖いよ。孫に対して過保護な婆さんが出すような殺気じゃないんだけど。なんかガーディアンっぽい殺気が出てるんだけど、どうすんの? まぁ、子どもに手は出さないから大丈夫です。


「その点は心配いらない。俺は彼女をどうこうしようなどという気持ちはない」

「ふん。口でなら、なんとでも言えるね」


 じゃあ、どうすれば良いんですかね。つっても教えてくれないんだよね、こういう人って。すっげーめんどくさい。


「あ、あの……お待たせしました……」


 うん、なんかいいタイミングで貧相さんが来てくれました。感謝です。ババアも、もう話すことは無いみたいですね。じゃあ茶を飲んでお暇しましょうかね。

 そういう感じで、最後の方は特に何もなく帰れました。茶? ははっ、クソ不味かったですよ。


 帰りはババアも何も言わず、穏やかな雰囲気で帰れました。貧相さんは名残惜しそうにしてましたが、俺はキミにそれほど興味がないんだ。さようなら。

 ああ、それはそうと、貧相さんの家の周りに魔法使いっぽい奴らが隠れていたので、全員ボッコボコにしておきました。理由? 女の子と老人しかいない家の様子を伺っている怪しい男どもってだけで、ボコボコにしない理由がないと思うんですけど。まぁ、これはたいしたことじゃないですよね。


 ああ、そう言えば、全く関係ない話しですが、ギルドに帰る途中、飲んだくれて地面に寝っ転がっているグレアムさんを拾って帰りました。俺に負けてから、憑き物が落ちたようにサッパリとしたグレアムさんは同時にダメ人間になりました。昼間は冒険者の仕事で魔物を殺しまくって、夜は飲んだくれてから娼館にしけこむ日々です。人生楽しんでて羨ましいね。


 まぁ、グレアムさんは放っておいてもいいんですが、その日から、オリアスさんの雰囲気が少しおかしくなりました。正確には貧相さんの話しをしてからです。魔法使いの知り合いが出来たことを伝えたつもりなのですが、喜んでは貰えなかったようで、なんかムカつくなぁ、もう少し俺の努力を褒めろや。

『そうか、キリエが……』とか言っていたけど、キリエって誰ですかね、貧相さんの話しをしていたつもりだったのですが、オリアスさんの受け止め方が斜め上過ぎて、俺は困惑してるんだけど。まぁ、すぐに気にならなくなりましたけど。俺も色々とやることがあったんで、オリアスさんのことを気にしている暇がなくなったってだけですが。



 まぁやることと言っても、たいしたことではなく、ウチの魔法道具の不買運動の対策なんですけどね。探知一号に調べさせたら、新式魔法使いが扇動していたとか。扇動していた奴は、当然ボコボコにしておきました。二度とウチには逆らわないでしょう。ですが、そういうことが何度もあるとイラつきますね。

 俺はしばらく、その対処に専念せざるを得なかったわけです。まぁ、やることは扇動している奴を見つけて、しばらく喋れないくらいに殴り倒してやるぐらいでしたけど。楽ではあったんですけどね。でも忙しいことは忙しかったんです。

 だから、と言って良いのかは分からないですけど、そのせいで、ちょっと雰囲気が違うことに気づかなかったわけです。そう、オリアスさんの雰囲気がおかしくなっていることに。そして、気づいた時には、オリアスさんが俺の前に姿を現さなくなっていました。


 オリアスさんが姿を現さなくなった直後、俺はそういうこともあるかと、たいして真剣に受け止めずにいた。そうして、オリアスさんが消えてから数日が過ぎた。それでも、オリアスさんは姿を見せない。


「サボりにもほどがあると思うけどねぇ」


 グレアムさんはギルドにある俺の自室でノンビリとしています。まだ、日が落ちきっていないため、遊び歩くのは控えているようです。なんでそういうのを気にするのか不思議で仕方ないんだけど。日が高いうちでも遊び歩いてる奴はいっぱいいるのに、この人は、それが出来ないとか。なんなんでしょうね?


「まぁ、魔法道具の製造自体は、他の魔法使いのおかげで滞ってはいないのだから、そこまで気にすることもないだろう」


 そうは言ってみたものの、俺としては、さっさと増産して儲けを増やしてエダ村に宿泊所を建てたいだけどね。俺の中では、夢が広がりまくって、賭博場も開く予定になってるし、ワクワクだぜ。とか、そんなことを思っていたら、ギルドの外が騒がしくなってきました。


 俺が鬱陶しいなぁなどと思っていると、グレアムさんが剣を持って飛び出していきます。まぁ、駄目になっても、ぶった斬り系の人だから。すぐに問題を片づけてくれるでしょう。だいたいの状況には対応してくれるはずなので。



 ――そう思っていたのですが、対応できる状況とは違っていたようです。グレアムさんが困った顔で戻ってきました。


「すまんね、ちょっと来てくれないかなぁって思うんだけど」


 そう言われて俺が出向くと、そこには血まみれのババアがいました。この間、会ったババアだね。

 すげー血が出てるけど、適切に手当てすればギリギリ死にはしないだろうと思うので、俺は慌てません。まぁ、それでも死にかけてるので、死にそうな感じでババアは口を開きます。俺はそれを余裕を持って聞いていました。


「……キリ、エが、攫われた……」


 息も絶え絶え、死にそうな様子で話すババア。そうっすか、攫われたのか。じゃあ、助けにいかないとな。何時、誰が、何処で、何で、どうやって攫われたのか、俺には全く分からんけど。そういうのは関係ないよね。誰かが攫われたなら、助けに行くのが普通だしね。全く状況は理解できてないけど。

 まぁ、細かいことは誰かが調べてくれるだろ。俺は助けに行けば良いだけだろう。うん、ということで任せたぞ探知一号、という感じで、偶然その場に居合わせた探知一号を見る。


 おい、なんで『え、俺ですか?』って顔してんだ。お前しかいないだろうが、俺が人探しなんか出来ると思ってんのか? そんな俺の思いが通じたのか、探知一号は泣きそうな顔で何も言わず、その場を走り去っていった。アイツは何も言わなくても行動してくれるから楽だぜ。


 あとはメンバーかな。組織だった相手なら、人数居た方が良いだろうし。うん、ということで、そこら辺にいる冒険者は全員参加な。無理矢理連れていくからな? グレアムさんは……うん、行く気マンマンだね。ジーク君も連れていくか。


「え、あの、ちょっと待ってください。なんで、そんな、いきなり助けに行くことになっているんですか? 状況とか全く分からないんですけど。あの、師匠もグレアムさんも、剣を持つ前に少し冷静になったほうが……」


 ジーク君が何か言っているが無視。そもそも、人助けに理由を求めるなよ。助けを呼ぶ声があったら、それに応えるのが人情って物じゃないかな。面倒くさいので説明はしませんがね。


 これで、完全武装の冒険者が三十人はいることになるな。これなら大抵の相手はなんとかなるだろう。状況が掴めていない奴も多いし、俺も掴めてないけど大丈夫だ。ババアに怪我を負わせて、誰かを攫ったなんて悪党を懲らしめに行くってだけ分かってりゃ充分だろう。というわけで、俺は周囲で成り行きを見守っている冒険者連中にただ一言指示を出します。


「殴り込みをかけるぞ」


 冒険者連中は呆然としていて、ジーク君は青い顔をしていて、グレアムさんニヤニヤしているけど、たぶん大丈夫だろ。イケるイケる!






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