集合
結局、帝国に寝返った人たちは自分たちの領地に危害を加えないことを条件に、今度は俺に寝返りました。
俺に付いてきて王国に戻って来ていた王様と顔を合わせた時のお互いの表情は凄かったね。
『処刑せよ!』
『お待ちください。我々の身柄に関しては、ヴェルマー候の預かりですので、陛下が決定するようなことではないかと』
――王様たちはこんな感じのお話をしていました。
帝国から俺に鞍替えした人たちは、アドラの王様より俺の方に媚びを売ってきますけれど、まぁ俺はそれで嫌な思いをしてるわけでもないんで放っておきましょう。
俺は別に今すぐ、王国を裏切った人たちを殺すつもりはないですからね。これから先はどうなるか分からないけどさ。
とりあえず王都を攻め落としに行く俺の軍に加わってくれるそうなんで、役には立たなそうだけど頭数はあって困るもんでもないから連れて行くことにしました。
ヴェルマーから連れてきた俺の兵と、俺に協力してくれる西部とかの貴族の兵、それに加えて帝国から寝返った人たちの兵。他にも俺が買った時のおこぼれに預かろうとアドラ王国の貴族の中で、帝国に降るか抵抗するかで、まだ立場を明確にしていなかった人が優勢と見て俺の軍に加わろうとします。
そういうこともあって、いつの間にか大所帯になってしまいました。10万近くいるのかな?
大所帯になったメリットは、大軍相手に攻めてくるようなアホなことはしない帝国の奴らは何もちょっかいを出さなくなったこと。
それと、そんだけ人が集まってると、みんなに支持されてるってことはこっちのほうが正しいのかな?って世間の人々は思うようになるので、進軍する道の途中にある町や村は好意的な対応を示してくれます。
世間一般では俺達は正義の味方ってことになってるらしいので、誰だって正義のある方を応援したいだろうから、俺達を応援してくれるんだろうね。
まぁ、結構な数の町や村を焼いてるんで、逆らったらヤバいと思ってるのかもしれないけどさ。
こんな風にメリットもあるけどデメリットもあります。デメリットは一言で表せるんだけどね、ぶっちゃけ烏合の衆なのよね。ノリとか雰囲気で付いてきてるだけだから、十万って言ってもマトモに戦えるのは三万くらい? それ以外は賑やかし要員で、頭数を揃える以外の役目が無いのよね。
そのくせ、なんか偉そうだしさ。見た瞬間、役立たずそうだって分かるのに、自分に先陣を切らせてほしいとかいう貴族の人がいっぱいいるし、それ以外にも自分に重要な役職を回して欲しいとか頼んでくるんだよね。
そういう奴らって、頼みを断ると引き下がるかと思ったら、逆に脅しにかかるんだぜ? 要求が受け入れられないなら、我が軍は協力できないとか言ってさ。我が軍って言っても、着飾って強そうに見せてるだけの雑魚どもが百や二百いるだけの集団だぜ? そのくせ一人前に俺に対してイキりちらしていらっしゃる。
そういう奴らだけじゃなくて、他にも俺が偉そうにしてるってだけで面白くないって奴もいるのよね。
王様を蔑ろにしてるとかゴチャゴチャと言ってる奴ら。蔑ろって言っても、俺の軍の後ろにくっついて回ってるだけの奴に対して蔑ろにしてるも何もないと思うんだ。
ウーゼル殿下はそれなりに頑張ってると思うよ? 西部の連中とかをまとめて、最低限戦える程度には訓練を施したみたいだしさ。
でも、王様はなぁ……。特に何もせず、たまに俺の所に来ては「頑張ってるな」って程度の毒にも薬にもならない激励をしていくだけなんだよな。
俺なりに気を遣ってるつもりなんだけど、それが気に食わないっていうなら、どうしろっていうんだろうね?
俺が総大将みたいな感じでいるのを辞めて、王様にそれを任せろって? もしくは、功績を全部ウーゼル殿下に譲れって? それで、そうした場合の見返りは何なんでしょうかね?
俺が後ろに引っ込み、王様とか殿下を顔を立てたとして、俺に何か得でもあるのでしょうか? 無いんじゃないかな?
こんな風に色々と面倒を起こす奴も多いんで数が多いのも考え物だね。こういう連中は集団の中で、自分が頭だって感じに命令を出しやがるから嫌だよね。俺がたった一つの頭だってのを理解してないんだもん困るぜ。体一つに頭が幾つもあったら困るだろ?
とりあえず、俺にゴチャゴチャ言ってた連中は全員、ぶっ殺しておきました。こういう奴らに気を遣って、なぁなぁで生かしておくとロクなことにならなそうな気がするんでね。
当然、反発する奴らもいるけど、そういう奴らは俺がちょっと睨んだだけで大人しくなりますよ。中には俺に対して反抗して兵を動かす奴もいるけど、ぬるい訓練しかしてない兵士が俺の所の兵士に勝てるわけもないので、速攻で皆殺しにして終わりにします。
帝国との決戦前に仲間割ればかりで、さすが烏合の衆って様相を呈していたけども、十万はいたんじゃないかって兵が敵と戦ってもいないのに色々あって、八万くらいになった頃には、みんなの気持ちは一つになりました。
誰が一番上で誰に逆らってはいけないかってのをハッキリと分からせた結果、誰も俺につまんないことは言わなくなって、俺の言葉に逆らわなくなりました。俺を頭として、頭である俺の命令で手足のように従順に動く軍団です。帝国との戦いの前に十万いた軍勢が五万になった頃に、そういう体勢がようやく完成しました。
なんで人数が減ってるのかと言うと、つい先日、リギエルとかいう帝国の将軍の奇襲を受けて三万人が行方不明になったからです。賑やかし要員の雑魚共だったので、行軍速度についていけず脱落していたところを狙われたようですね。
こっちの兵がどんだけ死んだかはしらんけど、三万を殺しきるのは難しいだろうから、賑やかし要員の連中は逃げたっきり戻ってこないのもいるんじゃないですかね。
まぁ、本命の方には手を出してこなかったんで、何も問題は無いです。むしろ、足手まといが減ったので行軍速度は大幅に上昇したので、かえって良い結果になりました。
そのため、五万になってからは速やかに王都の近くへ辿り着くことができた。そのまま、王都に攻め入っても良いのではと、一瞬思ったけど、流石に何の準備も無しにいきなり攻城戦は良くないってことに気づいたので、俺達は王都の近くの都市を拠点に、そこに陣を敷き、王都攻略の作戦を練ることにしました。
都市の名前はマイスティア。王都アドラスティアの近郊にある都市の中では最大規模の城壁都市だとか。ここからマイス平原とかいう真っ平な草原地帯を進めば、アドラスティアに着くんで、向こうが籠城をしないなら、そこで戦う感じです。
マイスティアに着いた俺達を待ってたのは市民の大歓迎。
市長らしい、お爺さんが俺を歓迎してくれました。その時は俺と王様それと殿下が並んでいたんだけど、真っ先に俺に向かって挨拶をしに来てくれました。
後で話を聞くと、俺の放つ王者の風格に圧倒されたのであって、別に王族を蔑ろにするつもりは無かったんだって。王者の風格って言われても良く分かんないけどね。
マイスティア市で少し休憩して、じゃあ王都を攻めるかって話し合いが始まろうとした頃、思いもがけないお客さんがやって来ました。
「傭兵隊長のノール・イグニスです」
イグニス帝国のノール皇子のそっくりさんが俺の所に挨拶に来て、参陣したいとか申し出てきました。どうみてもノール・イグニス本人だけど、あっちは皇子で、こっちは傭兵だから別人でしょう。
――で、このノールっていう傭兵は東部でケイネンハイムさんに頼まれて帝国の連中を撃退した後、俺が王都に向かってると聞いて、手助けに来たんだってさ。ケイネンハイムさんの命令もあって、東部の戦力を引き連れてきたみたいなんだけど――
「リギエル将軍にやられました」
ノールは連れてきた兵の二割を失ったんだってさ。まだまだ甘いな。俺なんかリギエルのせいで兵の数が半分になってしまったからな。俺の方がヤベェぞ。
東部からの助けっていうけど、そんなに頼りにならないかもしれないね。助けっていうくらいなんだから、リギエルをぶっ殺してきてくれると嬉しかったんだけどな。
まぁ、せっかく来たんで、お茶でもどうぞって感じで俺はノールを歓迎しました。
ノールとはお友達だし、友達のそっくりさんも友達と同じようなもんだろう。そういえば、ノールに手紙を送ったんだけど、届いたかな?
「そういえば城を手に入れたとか」
「ああ、それなりに大きくて古い城だ。戦が終わったら見に来ると良い。歓迎はするぞ」
なんとなく近況を話したりした後、ノールは真面目な顔で本題らしき、話題を切り出してきた。
「リギエル将軍をなんとかしないと、どうにもならない」
「そうだな」
ガチで苦手だからね、ソイツ。
ユリアスほど絶望感は感じないけど、ちょっと勝てないんじゃないかなって思う程度には苦手な相手です。俺らの得意な力押しが通じないから困るんだ。
「何か策はあるか?」
戦場でどうにかしようとしても無理でした。つーか顔を見ることすら出来てないんだよね。顔が見えるんなら、ヨゥドリの率いる精鋭の銃兵部隊が狙撃してぶっ殺せるんだけど、全然姿を見せねぇんだもん。
「ある」
かっこいいねぇノール君。断言しやがりましたよ、コイツ。
一体全体、どうするんでしょうかね?
「私に任せてくれれば、奴は何とかしよう」
では任せましょうかね。いやぁ、悩みの一つが消えて良かった良かった。
リギエルはノールが何とかしてくれるみたいですよ、皆さん。どうやってくれるのかは分かりませんけど。
「代わりに頼みがある」
「言ってみろ」
リギエルをぶっ殺してくれるって言うなら頼みくらい、いくらでも聞きますよ。
そもそも俺は頼みごとを断らない男ですからね。人の頼みは素直に聞くのが人として正しい行いですし。
「皇女ライレーリアを捕らえた折には彼女の身柄は私に預けてくれないか?」
「構わん。好きにしろ」
別に興味ないしなぁ。誰だか知らない人だし、そんな人の身柄について処遇を求められても好きにしろとしか思わんよ。
俺が良く知らん人の身柄一つでリギエルが抑えられるって言うなら安いもんじゃん。どうぞどうぞ持って行ってちょうだい。
「感謝する。敵の総大将の身を容易く引き渡す貴公の器の大きさに感謝を」
ノールが俺に頭を下げてくるけど、聞き捨てならないことがあったので、ちょっとそれどころじゃない。
敵の総大将がライレーリアって人? それ俺は聞いたことあったっけ? あったような気もするけど無かったような気もするぞ?
ライレーリアって人は皇女だろ? 皇女だからどうだってことも無いけど、皇女ってことはつまりは女の子だろ? そっちの方が大事!
もしかして、俺ってこれから女の子を大軍で袋叩きにして、ぶっ殺しに行く感じなの?
女の子をボコボコにするって人としてどうなの? 俺は人として大丈夫かしら? 世間的に大丈夫?
さっきまで殺る気満々だったのに、敵の頭が女の子だって聞いて、急にやる気が無くなってきたんだけど、どうしたもんかなぁ――




