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奔る狂剣、舞う凶剣

 

 むっちゃ微笑んでるんですけど、グレアムさん。ちょーこえーんですけど、帰ってくれません? 俺が帰っても良いですから。

 剣を鞘に収めてますけど、俺のこと斬ろうとしてますよね。なんか、そんな雰囲気がするんですけど、何でですかね。理由を聞いた方が良い感じでしょうか?理由ないとか言われると気まずいから、聞かない方が良い系でしょうか? じゃあ、聞かないでおきましょう。


「誘拐された子どもたちを助けに悪党どものアジトに潜入するとか、流石だねぇ、アロルド君」


 グレアムさんが何か言っていますが、なんのことでしょうね。誘拐された子どもとか知りませんよ。俺が知ってるのは、俺の後ろにいる不衛生なガキどもです。そんな上等なものじゃないと思うけど、こいつ等多分、ゴミ捨て場とかに転がしておいたら、そのままゴミと一緒に焼却処分されると思うぜ。

 そういえば、どういう理由で、こいつ等と一緒にいるんですかね、俺。


「他にも、捕まっている人達がいるかもしれないから、探してきてくれないかな?」


 グレアムさんが、ガキに話しかけてるけど、捕まっているってなんなんでしょうね。悪いことでもしたのかしら?まぁ、人間というのは生まれながらにして、常識という鎖に縛られている社会の囚人だから、みんな捕まっているし、仕方ないね。何を言っているのか良く分からないけど。それはそれとして、はぁ、お酒飲みたい。


 おや、ガキどもがどっか行きます。うん、臭いので離れてくれてありがとう。達者に暮らせよ。おっと、グレアムさんの気配がすごくヤバいことになってますね。でも、まだ大丈夫そうです。


「いやぁ、本当にご苦労様。こういう奴らには、俺たちも困っててねぇ」

 両手をだらりと下げたまま、グレアムさんが近づいてきます。まだ、大丈夫かな?


「まさか、子どもを奴隷売買するような奴がいるとは思わなかったよ」

 グレアムさんの指先が一ミリか二ミリくらい不自然に動いてますね。ちょっと怖いですよ。まぁ、でも、まだ大丈夫そうかな?


「魔物だけじゃなく、悪党まで退治してくれるなんて、アロルド君には、ホントに頭が下がる思いだなぁ」

 結構、近づいてきましたね、二メートルくらいの距離ですかね、ガッツリ俺の事を斬ってやろうって感じですね。いやぁ、怖い怖い。そろそろ来そうな感じですね、うん。


「これは、お礼をしないとね」

 ヤバい物が来そうなので、後ろに飛ぶ。俺の首ギリギリを何かがかすめて行くのが分かった。たぶん剣だろうけど、速すぎて良く分からんかった。

 後ろに下がって、グレアムさんと距離を取っては見たものの、グレアムさんの左手にいつ抜いたのか分からないが、細身の剣が握られてた。後ろに下がらなければ、首が飛んでいただろう、めっちゃ怖いんですけど。


「いやぁ、本当にいいなぁ。これを躱せる相手とか初めてだよ。大抵、気づかない内に首が飛ぶってのに、これを躱せるのは、野生の獣以上の勘の持ち主ってことかな」


 グレアムさん、めっちゃ楽しそうですよ。大丈夫なんですかね、この人、いきなり剣で斬りつけてくるとか正気じゃないですよね。病院行って、早く。


「まったく、動じてないの素晴らしいなぁ、本当に良い。そこらの有象無象とは違うってことだ。うん、やっぱり最高だ。準備は出来ていたってことなのかもしれないけど、まぁ、それでも良い物だ」


 準備ってなんの話ですかね? そういえば、手合わせするとか言っていたけど、アレのことかな? いやぁ、マズいですよ。全く準備してません。なんか期待している感じだし、なんの準備もしてないとか言ったら怒るかな? 一応、それとなく聞いてみよう。


「手合わせでもするか?」

「いいねぇ、手合わせか、そうだね。手合わせをしよう。人生最後、一度きりの手合わせだ」


 うわぁ、やっぱり手合わせでした。なんか準備しておいた方が良かったのかな。でも今更無理だよね。諦めて知らんぷりしよう。真面目な顔してりゃ大丈夫だろ。


「じゃあ、行こうか」


 グレアムさんが左腰の剣を抜き、右手に剣を持ちます。両手に一本ずつ剣を持ってるんですけど、それって意味あるんですか?

 なんてことを思っていたら、グレアムさんが一気に距離を詰めてきましたよ。スイーって感じです。俺はドンって感じで距離を詰めるから、俺とは全く違う動きだ。ちょっと、対応しにくい。

 躱すのは無理そうなんで、剣で防御しようとした瞬間、俺の剣にグレアムさんの左剣が絡みついて、跳ね上げた。で、それと同じタイミングで右剣が振り下ろされる。

 うん、ヤバいです、下がったら斬られます。なので、逆に前に向かって一歩踏み込んで、グレアムさんにタックル。グレアムさんを突き飛ばして無理矢理距離を取りました。


 これは、ちょっと大変やね、なんとかなりそうな気もするけれど、どうにもならなそうな気もするしで、大変やわぁ。はぁ、帰りたい。とか、思っている内にグレアムさんが近づいてきます。すっげぇ、ヤバい感がするけれど、まぁ手合わせなんで、ちゃんと戦いますよ。


 防ぐのは無理なので、俺も剣を振ってグレアムさんに叩きつける。隙を狙って一撃必殺とか無理、隙とか無いから。もう、とにかく重くて速い攻撃を何十発も叩きこんで、突破口を作って、問答無用で殺せる一撃を叩き込むスタイルしかない。

 そういうわけで、全力を込めて振っているから、人間なんかは吹っ飛ぶと思ったのだけれど、グレアムさんは問題なく防ぐ。まぁ、防ぐというより、俺の剣を自分の剣で滑らせて、なんかしているようだ。俺の剣はグレアムさんの剣に当たってはいるものの、力がどこかに飛ばされている感じだった。

 まぁ、どう防がれたとしても、俺のやることは変わらない。とにかく全力で、とにかく速く、剣を振って、相手をぶっ潰すだけだ。効かなくても、攻撃している内に、効くようになるだろう。

 そう思って、とにかく剣を叩き込んでいる内に、グレアムさんの身体が、俺の剣を受ける度に揺れるようになったので、その隙に股間をキック。子孫全滅撃、食らった奴は子孫を残せない、決まったぜ。と思った瞬間、頭突きを食らって、俺の鼻が折れた。いやいや、股間潰したよ、金玉亡くなったけど平気ですか?


「玉ぐらい腹の中にしまえるんだよなぁ」


 いや、俺が平気じゃないかも。頭突きは痛いです。クラクラって、ガッツリ首掴まれて、投げ飛ばされました。ちょっと待って、なんで自然な感じで馬乗りなってんの!? ホント止めて、剣の柄で顔面殴りまくるの、いやマジで……ホント……止めろって!


 やって良いことと悪いことの区別がつかない糞の肋骨を俺は握り潰してやった。もう、死ね。ホント死ね。グレアムさんが俺に馬乗りになった状態で、動きを止めて血を吐いたので、顔面をおもっくそ殴り飛ばしてやると、面白いぐらいの勢いで転がっていった。頭吹っ飛ぶくらいの力で殴ったのにピンピンとしてやる。

 ふざけやがって、あの野郎、ぶっ殺してやる。俺は自分に回復魔法をかけて顔を治し、ついでに〈ブースト〉の魔法で身体能力を上げる。もう手合わせとか関係なく、ぶっ潰してやる。


「いいぞ、魔法でもなんでも、どんどん使ってくれ、全力を出して俺に斬られてくれよ!」


 グレアムさんは血を吐きつつも回復薬を飲んで傷を治していた。それって俺があげた奴だよな。それはそれとして、斬るとか言ってるけど、アンタさっきガッツリ俺を殴っていたよな。おかしいだろ、ぶっ殺すぞ!


 俺はグレアムさんに剣を叩きつけるために、踏み込んだが、すっ転んだ。理由? 足にナイフが突き刺さったからだよ。


「っらあ!」


 転んだ俺の顔面をグレアムさんが思いっきり蹴っ飛ばす。これ、俺じゃなかったら死んでるぞ。グレアムさんが何度も俺を蹴るので、俺は頑張ってグレアムさんの脚を掴んで、引き倒し、さっきグレアムさんがやったように剣の柄でグレアムさんの顔を殴る。馬乗りになった状態で刺そうとすると隙が出来そうなので

 一番、隙が少ないように柄頭で殴った。もう、ぶっ殺してもいいやぐらいの気持ちで殴っていると、グレアムさんが隠し持っていたナイフで俺の腹を刺す。

 コイツ、ほんとに加減を知らねぇ、頭おかしいんじゃねぇの? 構わないのでそのまま殴っていると、グレアムさんが、血を吐いて目つぶしをしてきた。色んな意味で汚い。

 だが、グレアムさんは汚い真似は留まることをしらない。グレアムさんはナイフで俺の目を突き刺したのだ。これはちょっと無い、我慢は出来るけど、完全に大丈夫ってわけじゃない俺は、動きが止まってしまう。

 そこで、グレアムさんは馬乗りになってる俺から逃れ、立ちあがって、ついでに俺の腹を蹴る。そして、自分の剣を拾って、転がっている俺を斬ろうと、剣を振り下ろしたので、俺も剣を振って、それを弾く。ついでに俺は〈ファイア・ボール〉を放って、焼き殺そうとしたのだが、躱され、しくじった。

 グレアムさんは、〈ファイア・ボール〉を躱して、俺から距離を取り、回復薬を飲んだ。俺の方も目に刺さったナイフを引っこ抜き、回復魔法で目を治し、ナイフが刺さった腹も治す。すげぇ痛いし、帰りたいけど、グレアムさんスゲー楽しそうだし、ウザいわ、ぜってー酷い目に合わせる。


 俺は全力で踏み込み、一気に距離を詰めて剣を叩きつけると、俺の剣が折れた。グレアムさんが防御していたせいだ。まぁナマクラだから折れても仕方ない。どうせ、棍棒として扱っていたようなものだし、特に変わりはないので、そのまま俺は剣を振る。けどまぁ、上手くいかないもので、グレアムさんは俺の剣を右剣で防ぎながら、左剣で俺を斬り刻んでいく。

 戦い方がセコイというか、なんというか。剣の先っぽ、まぁ切っ先というらしい、そういう部分を俺の身体にひっかけて、俺を斬っている。結構、笑えないくらい血が出てる。まぁそんなに深く斬らなくても、すっごい痛いし、身体の中の重要な部分は傷つけられるよね。俺は我慢できるけどね!これって、鈍い人だと、何も出来ずに、血を噴き出して死ぬくらい剣が速いし、手足の先だけを狙って斬るから、防御しづらいんだよね。


 でもまぁ、俺は余裕だけど!

 俺は手甲と脚甲を叩きつけるようにして、グレアムさんの左剣を防御する。受ける時に滑らせるように防御すれば、平気な感じなんだろう?幸い、剣が短くなったから、片手で振り回した方が都合いいんだ。それで腕が片方空くから、空いた腕の方で、攻撃してくる剣を防御すればいいだろう。


 足を斬ろうとする剣を脚甲で防いで、上半身を狙ってくるのは剣と手甲で防げば良いわけだ。楽勝! おいおい、何を楽しそうにしてんですかね、グレアムさん。

 両手の剣を攻撃に回されると、俺もキツイが、やれないことは無い。防ぎきれなくて、肉が手足の肉が斬り刻まれてる感がするけど、まぁ我慢できる範囲。でも、グレアムさんはどうですかね、腕がミシミシと言ってますよ。俺も死にそうなんで、早く参ったと言ってくれませんか?


「いいぞ、俺はこれを望んでいたんだ!」


 俺は望んでないんですけどね。グレアムさんの剣がドンドンと速くなっていきます。まぁ、俺もソレに合わせて頑張って速くするから、たいして変わりは無いけど。小石が巻き上がってるけど、俺とグレアムさんの間合いに入った瞬間に塵になるのはなんなんだろうね。限界まで俺とグレアムさんの攻撃は激しくなっていたのに関係あるんだろうか。


「ははははははっ!」


 アホみたいに笑っているグレアムさん。俺も訳が分からなくなってきた。考えるよりも先に身体の方が先に動くっていう、脳筋状態になっているし、困った。もう限界だ。だから、終わらせるしかないわけで。


「最高の時間だ!」


 そんな時間も終わりですよっと。防ぎながらだと埒が明かないので、俺は防ぐのを止めた。一瞬で何十も飛んでくる剣閃の中から、一番傷が浅そうなものを予測し、わざと受ける。

 散々打ち合ってるんだ。グレアムさんの剣もナマクラになってるだろうし、スパッと肉を斬るには至らない。だから、自分の体で受け止める。

 俺の左肩にグレアムさんの剣が食い込み、肩の骨を砕いたが、腕を落とすまでにはなっていないし、心臓までも届いていない。

 そういう結果になった以上、この後は決まっている。俺の勝ち以外にありえない。まぁ、結局の所、俺がグレアムさんに勝ってるのは、腕力とか体力みたいな身体能力しかないわけです。なので、小手先で頑張るのをやめただけなんですけどね。


 俺は左肩の筋肉に全力を込め、筋肉を固めてグレアムさんの剣を抜けないようにする。力を入れればすぐに抜けただろうが、グレアムさんの反応が遅れたので、俺はグレアムさんに向かって倒れこみつつ、折れた剣を、その腹に突き刺す。

 身をよじり逃れようとするグレアムさんを俺は押し倒して、刺さった状態の折れた剣でグレアムさんの腹の中をかき回す。

 腕力とか体力が違うから、こうやってとっ組合いになると、グレアムさんが俺を引きはがすような術は無い。だけど、グレアムさんは俺を押しのけようとしながら、どこから出したのか分からないナイフで俺の背を刺して、俺を退けようとした。死ぬほどいたい。つーか、死ぬ。

 ガチで俺を殺す気のグレアムさんが、どんな顔してるのか見てみると、恍惚とした表情をしていた。本気で気持ち悪い、このまま死んでくれ。そういや手合わせだったはずだけど、なんで、こんなことになってんだ。まぁ、どうでもいいコイツぶっ殺す。

 俺は更に折れた剣をグレアムさんの腹の中で動かした。グレアムさんの身体が痙攣を始めた。だが、その直後、俺は力任せに引き剥がされた。誰がやったか?グレアムさんだ。グレアムさんは俺に圧し掛かられた状態で俺よりも遥かに腕力が劣っているのに、俺を力任せに引き剥がして、放り投げた。


 だが、それで限界だ。俺は背中にグレアムさんのナイフが刺さった状態のまま、立ちあがる。グレアムさんも立ちあがるが、その腹には俺の剣が突き刺さったままで、更に千切れた腸がこぼれ落ちている。致命傷だ。もう死ぬ。それなのに、グレアムさんは自分の剣を探して、辺りを見回していた。でも見つけることは出来ない。なにせ、俺が拾っているしな。

 まぁ拾っていたとして、どうしようもないんだけど。俺も結構、傷が酷いから動けないしね。綺麗に勝てないんだから仕方ない。泥臭くぶちのめす以外にどうしようもなかったわけだしね。


 グレアムさんは、腹から腸がこぼれ落ちているのなんか幸せそうだった。気持ち悪いね。まぁ、その気持ち悪いのもすぐに見ることは無くなったけど。すぐにグレアムさんはぶっ倒れたし。これで、俺の勝ち、やったね。


 ――まぁ、そんな風に喜んでる余裕は、俺もないんだけどね。血を流しすぎました、全身が地味にボロボロです。そりゃね、一太刀一太刀が殺す気マンマンの剣を受けていたわけだし、かすり傷に見えても結構、血管とかに刃が食い込んでるのよ。

 これが致命傷はってものは無いんだけどね。全身万遍なくやられてるせいで、無理です。俺も倒れます。


 全く力が入らなくなったので、倒れてしまった俺。うん、なんだか眠くなってきました。これは寝てしまったほうが良いかな。眠い時には寝るのが人として自然だよね。だから、まぁ、


 おやすみ――





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