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夜魔の爪

 

 うぃー、ひっく、うわぁ、僕酔っぱらってしまいましたぁ。というわけで帰ってもいいかなって。でもなんか駄目そうな雰囲気がするのは何でですかぁー!なんか、部屋の外で頑張って物音消して動いている人達がいっぱいいるのは、なんなんですかね。

 つーか良いところって言われてやって来たものの、待っていたのはお酒とみすぼらしいガキとか、舐めてんのか? ツマミがねーんだよ! 馬鹿か! なんか食わせろ。

 ああ、でもあれか? ここで怒って気分を害すると何も出してもらえないとか? じゃあ、大人しくしてた方が良いのかな、というか、ガキどもなんで俺を睨んでんだ。怖いんだけど。泣いちゃうぜ、俺。そんなことより、帰っていいかな? はぁ、酔ってきたなぁ……。で、こいつら何なの?


「こいつらは?」

「不幸にも親と引き離された哀れな子どもたちです。なにぶん、この土地は魔物が多いですからね。魔物の襲撃で村が壊滅し、その時に親と生き別れになる子どもたちも多いのです。それを私たちが保護しておりまして――」


 俺をここまで案内してくれた人が説明してくれてます。

 そうですか、可哀想にね。俺も両親と別れたぜ。父上と母上は元気かなぁ。まぁ、長い人生だし、親と離れ離れになることもあるよね。


「私どもは彼らの里親に相応しい方を探しているのです。大切な子どもたちですから、人格面でも金銭面でも信頼できる方を探しているのですが、中々に条件に合う方がいらっしゃらず」

「そうか、奴隷みたいに見えるのは気のせいか」


 なんかばっちいし、くせーし、きたねーし、病気もってそうだし、奴隷かと思ったけど違うのか。こいつは失礼しました。

 手枷足枷はファッション的なアレか、トレーニング的なアレかな。俺もソレ的なアレを使って身体鍛えたし、手首縛って湖ん中に飛び込んだりしてたしから、小さい頃からそういう努力をしておいた方がいいよね。まぁ、奴隷とか奴隷じゃないとか関係ないし、どうでもいいんですけねー。


「これはまた異なことを、アドラ王国では子どもの奴隷は禁止だとご存知でしょうに。今時、アドラ王国で奴隷を売買するものなどおりませんよ。儲けが出ませんし、風聞が悪いので。あまり知られてはいませんが既にアドラ王国では奴隷商などは存在しませんよ」

「それでは、こいつらは奴隷ではないと」

「ええ、そうでございます。彼らは只の孤児で、私どもは孤児を養い、相応しい里親を探しているだけです」


 俺をここまで案内してくれた人は物知りのようですね。

 そうなんですか。俺みたいに優雅に生きてきた人間は下々の人間の事情など知らないんです。すいやせん、許してつかぁさい。堪忍でございます、堪忍でございます。はぁ、喉乾いた、お酒グビっと。

 なんか、ガキども不自然に静かなんだが、なんなんでしょうかね。怖いんですけど。なんで黙ってんの?


「こいつらは喋れないのか?」


 思ったことを聞いてみただけなんだけど、なんでか驚いた表情をされた。変なこと聞いたかな?


「声を聞く必要がありますか?」


 あれ、聞いちゃダメ系? だったら聞かないけど。


「いや、別にいい」

「ええ、その方がよろしいかと。一度喋らせると五月蠅いもので、やはり子どもということでしょうかね、なかなか静かに出来ないので、困ったものです。なかなか言うことを聞きませんしね」


 俺は、ガキどもの方が困ってるように見えるんだけど。

 それはそうと、部屋の外には三十人くらい集まってんなぁ。なんかあんのかな? これも指摘しちゃダメ系かな? 頑張って静かにしてるみたいだし、俺が何か言ったら、俺って空気読めない男ってなるのかな。じゃあ、黙ってようっと。


 おや、ばっちぃガキの一人が口を動かしています。なんですかね、全く分かりません。ごめんね、今度から、ちゃんと声に出してね。って、なにしようとしてんですかね、案内の人。俺をここまで案内してくれた人が何かガキをイジメようとしていますよ。どうやってイジメようとしているのか分からないけど、なんか痛いことをしそうな雰囲気だ。

 だから、お酒の瓶をポイっと投げつけてやります。見事に命中したと思ったら、俺の隣にいた女の人が、刃物を抜こうとしていたので、顔面パンチで昏倒させました。


 ガキをイジメようとすんなよ、可哀想だろ。あと、女の人は俺に攻撃しようとすんな。正当防衛だぞ、顔面殴ったのは、謝れって言われたら謝るけど、二度と俺の声は聞こえなさそうだね。


 おや、なんだか、部屋の中の空気がおかしいですね。まぁまぁ、お酒でも飲みましょうよって、お酒のビンを投げてしまったんだよなぁ。はぁ、困った、もう少し酔いたいんだけどな。

 おお、なんですかガキども。俺を見る眼が輝いてますよ。どうしたんでしょうかね? やっぱり口が動いてますが、声が聞こえませんね。でも、口の動き的には『た』『す』『け』『て』って感じかな。


 うん、じゃあ、助けてやりましょう。何から助ければいいのか分からないけど、助けてと言われれば助けるのが人の道ってやつだからな。なにがなんだか分からないが、任せておけ。ガキ相手なら二割増しの勢いで助けるぜ。元がなんなのか分からないから、二割増しって言っても、俺自身、良く分からないけど。


「時間を稼ぐつもりだったのも読まれていたか、だが既に集ま――」


 顔面パンチ。

 ごめん、聞いてられなかった。長い話は今度聞くね。なんか二度と喋れなさそうな感じの顔だけど、まぁ頑張って。

 おや、団体さんが入ってきましたよ。はは、みんな武器を持って、俺をどうにかしたいようです。お前らみたいなカスが俺をどうにかできるわけねーだろ。バカか?

 俺を案内してくれた人、悪いけど投げるよ。

 おっと、そこ皆さん、この世界の人間の命の重さを知ってるか? 知らないなら教えとくけどな。羽と同じぐらいの重さだバーカ!


 よっし、投げた人間が集団に直撃ストライクで、いっぱい吹っ飛んだ。人間の命の重さと、人間の重さが違うってことは分かったか? 命は軽いけど人間は重い、命は飛ばしても役に立たないけど、人間は飛ばしても役に立つってことだ。俺は自分が何を言ってるか分からないけど、お前らは分かるだろ?


「ぶっ殺してやる!」

 なんだこの野郎、テメェをぶっ殺すぞ! 死ね!


 短剣で斬りかかってきた奴の頭を、俺も吹っ飛ばしてやりました。どうやってやったかというと、剣を抜いて、それを叩きつけただけです。

 おっと、ガキどもが危ないので、移動させます。なんだか邪魔する奴がいるのが鬱陶しいので、殴り倒します。向こうが殺す気なんだから、俺も殺す気で殴りますよ。殴りながら、俺に向かってくるバカを剣で叩き殺します。

 つーか、ガキ狙いの神経が分からんわ。関係ないやん。というわけで、ガキの方に走っていく奴の前に俺も移動して、その頭を掴んで握り潰してやりました。

 いやぁ、手がドロドロで気持ち悪い。ばっちいので、この頭が一回り小さくなって死んだ奴を、まだ生きて頑張っている奴らの真ん中に全力で投げ投げ捨ててやったら、何人かが綺麗に吹っ飛んでいって爽快だぜぇ!


 おや、なんだ、このカスども、ビビッていやがるぞ。やる気満々だったやん、さっきまで。それが急にこれか。なんだか情けなくなるぜ。三十人ぐらいいたのが、今は数人ですか? 途中で何人か逃げたみたいだけど、途中で死んでる感じがするね。たぶん、誰かに殺されたかな。誰に殺されかは分からんけど。


 さて、残りは数人だけど。これってどうしようかね。向こうは殺す気マンマンなんだけど、ビビってるんだよね。イジメは良くないと思うけど、どうしようかって、思ってたら突っ込んできました。おバカさん方。


「奴だって疲れてるはずだ。囲んじまえば――」


 ごめん、疲れてません。

 一番先に突っ込んで来た奴の頭を俺は剣で吹っ飛ばし、横合いから斬りかかってきた奴の頭を殴って、首を変な方向に曲げて、また別の方向からきた奴の腹を蹴っ飛ばし、内臓を粗方潰しつつ、ブッ飛ばしてやりました。

 残った奴はビビッて動けなかったけど、それは別に関係ないので、剣で殴り殺してやりました。三十人とか楽勝だね。倍は持ってこないと駄目だわ。

 これで全部かな――っと気づいたら、結構移動してますね。ここはどこかしら、ガキどもは、俺の傍にいるけど、なんか気持ち悪いところに出てしまいましたよ。所々に灯りがある広間って感じですかね、中央に趣味の悪い像がありますが、ぶっ壊して良いですかね。


「あの、俺の母さんが、まだここにいるんだ。助けてくれよ、にいちゃん!」


 おや、しゃべれんのか、このガキ。喋れんのに黙ってたのか? この野郎舐めやがって。まぁ、それはそれとして、助けてって言うなら助けるけど、困っているなら助けるのが普通だしね。


 でも、それは少し待って欲しいかも。


「隠れているだけとは、趣味が良くないな」


 なんか居ますよ。ついでに隠れているので、声をかけました。覗き野郎はぶち殺す。堂々と見てるんなら、許す!


「これは失礼。中々に興味深かったもので」


 姿を現したのは子どもだ。つっても実年齢は違いそうだけど。なんか気持ち悪い気配がするし、人間かどうか怪しい感じだ。


「とても人間とは思えない強さ。まさか、私が苦労して作り上げた組織が、こうも簡単に崩されるとは思いませんでした」

「言うほど、たいしたことは無かったと思うが」


 いや、マジで雑魚ばっかりだったけど、あれを苦労して作ったんなら、才能無いから辞めたほうが良いと思うよ。大人しく田舎で畑でも耕してなよ。っていうか、ここが田舎か。ごめんごめん。畑も耕せないくらい無能だから、こんな意味ないことやってんだね。ごめんね、見た目子どもだけど中身は大人だから、それなりの能力はあると思ったけど、見た目子どもで頭の出来とか能力も子どもですか。処置無しだな。物乞いでもすれば? 社会を生きるのに向いてないよ、キミ。誰の邪魔もせずに生きてろ、カス。


「ふふ、あなたからすれば、そうなのかもしれませんね。ですが、これでも苦労したのです。この『夜魔の爪』という組織を作るのにはね。それが、たった一晩で台無しですか。……ふふ、触れてはいけない『ロード・アンタッチャブル』いやはや、噂通り。本当に関わってはいけない人だったようだ……」


 なんですかね? 訳の分からないことを言ってますよ、この人。というか、似たような展開、前もあったような気がするけど、気のせいですね。


「ですが、ここであなたを始末すれば、充分に挽回できます。申し訳ありませんが、私が今後も甘い汁を吸い続けるための生贄になってもらいましょうか」


 なんか、やる気になって短剣を構えてますよ。ガキのなりをした、おっさんが。


「我が名はゴルドヴァ。夜魔の爪の首領にして、影の王な――」


 ごめん。我慢できませんでした。

 俺はなんか喋ってるゴルドヴァさんに剣を叩き込み、吹っ飛ばしました。まぁ、手ごたえは無かったんですがね。


「ずいぶんとせっかちな人のようだ」

 俺の影から、ゴルドヴァとか言う名前の人の声が聞こえて、次の瞬間に短剣が俺を襲った。まぁ防いで、すぐに反撃したが。


「ずいぶんと、おかしな身体だな」

 ゴルドヴァの身体は、俺の影から生えていて、なんか足元が影に埋まっていた。


「これは生まれつきです」

 ゴルドヴァが影の中に潜り込んで姿を消す。


「普通の人間ではなさそうだな」

 うーん、気持ち悪い奴だ。あんな奴と同じ人間というのは嫌だね。おっと、ゴルドヴァくんが、影から飛び出たかと思うと、自分の影を伸ばして攻撃してきました。

 なんか、影が刃物みたいな感じで俺に襲い掛かってくる。ちょっと危ないと思って躱しつつ、距離を取ってみたんだけど。まぁ、そうした結果、俺はなんとなく分かった。うん、これはあれだ――



 ――雑魚だって。



 いや、だってねぇ……すごく弱いよ、こいつ。いや、弱くないのかもしれないけど、全く相手にならないっていうか、なんというか。

 今、影に潜り込んだけどさ。これって出てきた瞬間に攻撃すればいいだけだし、ゴルドヴァが影から出ようとする瞬間は気配で分かるんだよね。

 こう、今も俺の背後に出ようとしてるんだけど、こいつが影から飛び出て、俺の背を取って攻撃するより、俺が気づいて迎撃するほうが速いんだよ。だから、ゴルドヴァが影から顔出した瞬間に顔面にキック。


 で、見事に吹っ飛んでいきます。全力で蹴ったつもりなんだけど死んでないみたいで、ちょっと驚くね。なんか人間じゃないかもしれない。まぁ関係ないけど。


「きっさまっ……!」


 で、距離が離れた時に、影を操って攻撃してくるけど、これも普通に剣で叩き落とせる程度の重さしかないし、そもそも、叩き落とすまでもなく、躱せるんだよね。


 で、躱しながら、近寄って剣でドーン! とは行かなくて、影に潜って逃げられるけど。別に困らないんだよね。出てきたところをぶん殴ればいいだけだし。で、ちょっと遠いところに現れそうになったけど、俺って足速いし、距離とか殆ど関係ないので、一気に近づいてドーン!です。


 なんか短剣で防がれたせいで、剣を直接当てることは出来なかったけど、綺麗に吹っ飛んで床を転がっていってますよ。いやぁ、雑魚い雑魚い。


「ふざけるな! こんなバカなことがあってたまるか! 私がこんな奴に!」


 顔はガキだけど、とっても怖いネー。内面が滲み出てるネー。良くないネー。俺を見習っテー、内面を顔に出さないようにしようネー。

 なんか動けないみたいですよ、ゴルドヴァさん。身体ガックガクみたいで膝をついてます。吹っ飛んだと言っても、石畳をぶっ壊しながら、数メートル転がったくらいですよ。その程度で、このザマとは情けないぜ。俺だったら、余裕ですよ。


 というわけで、ゴルドヴァをぶっ殺そうと俺は、近寄っていこうとしたんですが。ちょっと理由があって、止めました。理由? たいしたものじゃないんだけどね。なんていうか、こうね、気配を感じたわけです。


 まぁ、他に表現のしようがないから、そのまま言うと、グレアムさんがゆっくりと歩いて姿を現したわけですね。なんでグレアムさんがここにいるのかって、おれですら疑問に思うよ。


 まぁそれはそれとして、いやぁ、気配がヤバいね。絶対、これ人を斬らなきゃ収まらない感じだよ。

 おや、ゴルドヴァさん、なんで安心した顔してるんですかね? グレアムさんが来るのを知っていた感じですか? ヤバいですね。


「援軍だな。話は聞いている、手を貸せ、奴を仕留めるぞ」


 いやぁ、それはマズいと思いますよ。グレアムさんはマズいって、二人がかりだと、どうしようもなくなると思うよ。


 アンタが――


 グレアムさんの殺気が、がっつり向かってるんだけど、気づいてないのかね? どう考えても、斬られると思うんだけど、背を向けてて良いのかな?


「私はすぐには動けない、時間稼ぎをた――」


 何か言おうとしてたみたいだけど、言い終える前にね。うん、ゴルドヴァさんの首は綺麗にすっ飛んでいきました。グレアムさんが、いつ剣を抜いたのか全く分からなかったんだけど、いつの間に斬ったんでしょうか?

 よく見ると左右の腰に帯剣してますが、どういう心境の変化ですかね。数が多いと、なんか良いことでもあるんでしょうかね。だったら、俺も同じ格好をするけど。

 まぁ、それはどうでもいいとして、なんでゴルドヴァさんは、自分が殺されそうって気づかなかったのか不思議だね、アレかな、おバカさんだったのかね? 

 で、今度は俺の方に殺気がガンガン飛んできていますね。グレアムさんは微笑んでいますが、なんというか、殺意マンマン、斬り殺しますって感じです。ここに来るまでに結構、斬ってるんですかね? 血の匂いがしますよ。グレアムさん。


 いやぁ、こわいこわい。で、これってどうなるんでしょうかね? 俺は帰っていいのかな?







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