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王城へ


 ヤーグさんから教えられた秘密の抜け道というのは地下通路であり、ロードヴェルムの都において下級貴族が住む騎士街に並ぶ邸宅の一つにその通路はあった。


「貴族同士の繋がりは色々な形があるもんで、身を隠す手伝いやら何やらで、こういう抜け道が必要なんですよ」


 俺とオリアスさん、グレアムさん、そして選抜した精鋭達を先導しつつヤーグさんが退屈しのぎのつもりなのか、ヴェルマー王国の貴族のことについて話しだす。まぁ、たいした話じゃない。貴族は強くなけりゃ駄目だったとか、そんな話だった。

 話を聞く限りだと、隣近所での小競り合いは日常茶飯事、常日頃から内乱、しょっちゅう戦争で、頻繁に侵略と遠征とか、とんでもなく野蛮だったみたい。

 そんな感じでも国が国として成り立っていたのは王様が強かったのと、王様の下にいるユリアスが、野蛮な奴らに輪をかけて、イカレていたからだとか。

 まぁ、俺にはどうでもいい話だね。昔の国の話になんか興味ありません。俺は未来志向なんで、昔のことよりこれからのことを考えます。

 でもまぁ、そんだけ戦争やっていたのに、これだけ大きな都を築くことが出来たのは素晴らしいことだと思うし、俺の物になるために残しておいてくれたっていうのは褒めて良いかもしれないね。


「そろそろ、貴族街側の出口に辿り着きます。外に出たら通りに沿って真っすぐ王城を目指してください。迂回しようなんてしたら、絶対に迷いますし、王城に辿り着く道筋がありませんから」


 隠し通路の出口付近に近づくとヤーグさんは俺達に忠告を残し、通路を引き返していった。

 ヤーグさんにはまだ仕事が残っているので、俺達に最後まで同行はしない。


「じゃあ、行こうか」


 抜けたヤーグさんの代わりにグレアムさんが先頭に立って隠し通路の出口の扉に左手をかける。右手の方には工業区画で拾ったらしい業物の片手剣を手にしている。


「あぁ、頼む」


 俺が言うと、グレアムさんが扉を開けて中に突入する。続けて俺が扉を潜ると、そこは貴族の邸宅らしき中で、グレアムさんが邸宅の中でくつろぐ姿勢でいたレブナントを切り伏せていた。


「屋敷の中を調べて俺達以外に動く奴がいたら殺せ。問答無用で遊びも無しだ」


 グレアムさんが同行してきた兵士連中に命令し、兵士たちも命令に従って、即座に散開し邸宅内の探索に動き出す。

 すぐにあちこちから物音が聞こえ出す、ほどなくしてそれらの音は消え去り、散っていったはずの兵士たちが俺の前に集まる。


「一人か二人は連絡役として残れ、後は付いてこい」


 グレアムさんが指示を全部出してくれるんで俺は面倒が無くて助かるね。まぁ、そのせいで暇でもあるんだけどさ。


「行けそうかい?」


 問題ないと頷くと、グレアムさんが先頭に立ち、俺と兵士たちを先導しながら邸宅から外に出る。そうして、外に出てみるとそこは別世界だった。


「とんでもねぇな」


 オリアスさんが驚き半分、呆れ半分といった調子で言った言葉に俺も同意したくなる。

 城壁を隔てた向こう側にある騎士街からだと壁に遮られて見えなかったが、貴族街のあちこちには城と言って差し支えないような建物が幾つも並び立っている。

 俺達が出てきた邸宅はどうやら、貴族街の隅にある地位の低い家の持ち物だったというのが、外の様子を見て分かった。


「寄り道するか?」

「無理だろ」


 オリアスさんの提案は即座に却下。だって無理だもん。

 俺達のいる場所から見える限りでも、城みたいな建物は十以上あるし、実際にはもっとあるんだろうから、それをこの人数で探索していたら一年以上かかりそうだしさ。

 今はやることがあるし、そんなことに時間をかけるわけにいかないからな。


「略奪は後で時間がある時だな」


 俺はオリアスさんにそう言って、先を進むグレアムさんの背中を兵士たちと一緒に追いかける。

 ヤーグさんが言っていたことは嘘ではないようで、確かに通りを真っすぐ進むしかないようだ。

 城のような巨大な建物ばかりなのだから、抜け道くらいはあると思ったが、それらの城は巧妙に行き止まりをつくり、侵攻を妨げる迷路になることを計画されて立てられているようで、マトモに王城へと辿り着くことが出来そうなのは大きな通りだけであった。


「なるほどなぁ、こういう考え方もありなのか」


 こういう考えもありっていうけどさ。住んでる人は不便じゃないんだろうか?

 大通りと、そこからちょっと横道にさえ入れば、どこの家にも辿り着けるようにはなってるみたいだけど、それ以外の道を通って他の家に行くのは難しいから、人の出入りとか外から丸わかりなんだけど、それって良いのかな?

 あと、気づいたんだけど、上の方から――具体的には王城の辺りからだと、貴族街の様子が丸わかりなんだけど。その気になったら、王城から、どこの家に誰がいつ入ったのかとか把握できそうなんだけど、それって良いんでしょうかね?

 秘密の集まりとか出来なさそうで、ストレスが溜まりそうだね。


 そんなことを考えながら、俺は人の流れに合わせて動く。

 貴族街を囲う城壁から戦いの音が聞こえてくる。どうやら、コーネリウスさんは言われた通り、頑張ってくれてるようだ。

 コーネリウスさんの下には、俺にちょっと反抗的なアドラ王国の貴族連中がついているけど、奴らはコーネリウスさんの言うことには従うんで問題ないでしょう。

 こんな所まで、のこのことやってくるような食い詰め貴族どもの相手をいちいちするのは面倒くさくなっていたので、コーネリウスさんがいてくれて良かったね。

 アドラ王国でにっちもさっちも行かなくて、こんな辺境にやってくるしかなかったくせに、貴族の権威みたいな奴にはこだわりがある連中だけど、弟に家督を奪われたらしくて今の身分がどうなのか定かでないにも関わらず、大公家の人間というだけでコーネリウスさんに媚びを売っているようで、コーネリウスさんの言うことには従うことだけは分かっているので、扱いが楽なのは助かるところだね。


「そろそろ王城への入り口が見えてくるころじゃねぇかな?」


 集団の先頭に立つグレアムさんに対して、オリアスさんは俺の隣に立っている。

 俺の護衛をしてくれているのか、俺が護衛をしているかは分からんけども、まぁ話し相手としては充分だ。

 オリアスさんが言ったように、ヴェルマー王国の王都ロードヴェルムの中心地、ヴェルマー王国の王が住む王城への入り口が見えてきた。


「近くで見ると、作った奴も作らせた奴もアホとしか思えねぇな」


 オリアスさんと同時に城を見上げた俺も同じ感想を抱いた。

 ぶっちゃけ意味が分からんデカさ。一番高い所は間違いなく地上から100m以上はあるし、城の屋根の部分も平均して高さが70mはある。物見のための尖塔くらいだったら、その高さを持っている建物はあるけれども、全体的な高さがそこまでの高さは、そうは無い。

 高さがそれだけあると横幅やら、奥行も相応の物で面積を考えるだけで、城を建てた奴らはアホなんじゃないかって気分になる。


「絶対に暮らしづらいな」

「同感だ」


 広すぎて生活しづらいと、俺達の意見は一致しました。

 大量の使用人を雇わんとやっていけなそうな感じがして、この城を手に入れた後のことを考えると人件費やら何やらで憂鬱な気分になってきます。でもまぁ、それを考えるのは手に入れた後でも良いわけで、そんなことより、もっと先に考えることがあるよね。


「門番がいるぞ。全員、戦闘準備を取れ」


 城の入り口は当然、城門なわけで、門がある以上は門番もいて当然。

 貴族街を通ってくるまでは何の邪魔も無かったけど、それ貴族街に戦える奴らがいなかったからで、流石に王様がいる城となれば、衛兵とか戦える奴らも出てくるよな。


「さて、大詰めなようだが、準備は出来てるかい大将?」


 誰に向かって言ってやがるんでしょうかね?

 やる気はまぁまぁ、準備はそれなり、つまりは何とかやれそうって所で、要するには問題ないってことだ。

 俺は武器を構える兵士たちの列をかき分け、大剣を肩に担いで先頭に立つ。


「敵の頭はあの中だ。俺に続け」


 大剣の切っ先で城門を指し示し、俺はここまでついてきた兵士たちに告げる。

 精鋭の中の精鋭は余計なことを言わなくても、やるべきことを理解すれば気合いが入り、戦意も高ぶる。

 俺は後ろに並ぶ兵士たちの戦意の高まりを感じ、それに後押しされるようにして、城門へと駆け出す。

 ようやく決戦が始まる時だ。






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