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最後の壁

 

 火力に頼って暴力的な方法で第二城壁を突破した俺達は、ヤーグさんが騎士街と呼んでいた区画に辿り着いた。

 街並みを見渡すと、レブナント共が掃除していたせいなのか清潔さが保たれ、景観も損なわれていないように見える。もっとも、その一部に関しては俺達が爆弾をぶち込んだせいで壊滅的な状態になっているし、更には何か燃えるものがあったのか都市の一部が炎上しているようにも見える。


「消火しろ。焼け跡の都など欲しくもない」


 多少はぶっ壊しても良いけど、焼き尽くすのは勿体ないよ。まだ、金目の物を取り尽くしてもいないんだし、お宝が灰になっても困る。なので、俺は兵士たちに消火を命令しておきました。


「消火は構わないけど、これからどうするんだい?」


 適当な屋敷に上がり込み、グレアムさんやオリアスさんと相談を始める。

 オリアスさんはそうでもないけど、グレアムさんはずっと最前線で戦っていて、疲れているはずなんだけど、目が爛々と輝き、疲れを微塵も感じさせない様子でちょっと引く。どうやら、だいぶ頭がイってしまっているようです。


「このまま最後の壁を越えるのかい?」


 グレアムさんはる気満々の御様子。この勢いのまま突撃決めてやんよって雰囲気が漂ってるんだけど、そういう乱暴なのは良くないと思うのよね。つーか、それは無理みたいな話していたようなしていなかったような。


「このままは越えらんねぇだろ。思ったより兵の損害は多くねぇが、無駄遣いできるほど人がいるわけでもねぇんだ。力押しは無しで、予定通り行くべきだ」


 予定ねぇ、どんな予定だったか。あんまり興味ないから聞いてなかった。

 まぁ、聞いていたとしても、ここに来るまで色々と大変だったから、きっと頭から抜け落ちていただろうけどね。


「俺も予定通り行くべきだと思う」


 何がなんだか分からんけど、オリアスさんに同意します。だって、グレアムさんは目がイってるんだもん。そんな正気かどうか疑わしい人の考えには同意しがたいよね。


「了解。では、そろそろコーネリウス将軍にも働いてもらおうかねぇ」


 グレアムさんは特に反論も無く。俺達の決定を承諾する。どうやら本格的に頭がおかしくなっているわけではないようだ。きっと、働き過ぎて疲れているから、ちょっとヤバい顔になってるんだと思う。

 ところで、コーネリウスさんに働いてもらうっていうのはどういうことなんだろうね。しかも、予定通りって? 俺はその予定を聞いていないような気がするなぁ。

 まぁ、俺に聞かせる必要もないし、俺も聞く必要を感じないから別に良いんだけどね。俺は作戦を立てたり、作戦の指示をするのは出来ないんで、そっち関係のことはお任せしてますし。

 俺が胸を張って得意って言えるのは敵を、ぶち殺すくらいだし、それを頑張っていれば問題ないだろ。


「ここからの城攻めは予定していた通り、コーネリウス将軍にお願いします」


 ほどなくして俺達の前に呼び出されたコネーリウスさんが、品の良い整った顔立ちに脂汗を浮かべてグレアムさんの言葉を聞く。

 どうやら、城攻めはコーネリウスさんに任せるってことね。その間、俺達は休憩でもしてりゃいいんですかね?


「今更こんなことを言うのもなんだが、やはり、そのような大役は私には務まらないと思うのだが……」


 おっと、長いこと座ってたせいで体がってしまったんで、足を伸ばしたら机に当たってしまいました。古いせいなのか不良品なのか分からんけど、足をぶつけただけで机が壊れてしまいましたね。

 話し合いに水を差してしまって申し訳ないって感じで、コネーリウスさんの顔を見ると、うっかり目が合ってしまいました。


「これはもう要らん。片付けておけ」


 壊れた机があると嫌だろうと思って、近くにいる兵士に声を掛けたつもりなんだけど、どういうわけかグレアムさんが立ち上がって、片付けをするみたいな感じになっている。

 机の片付けには必要ないと思うんだけど、どうしてグレアムさんは剣を手に取っているんですかね? そして、コーネリウスさんの顔色が非常に悪くなったのは何故だろうか?


「どうか、どうか! お許しを! 城攻めの大役、謹んでお受けします故!」


 最初からそういう話だったと思うし、許すも許さないも無いような気がするけどね。もしも嫌だったらアレだよ。


「気にするな。代わりはいくらでもいる。もしも働きたくないというなら、ゆっくりと休むと良い」


 コーネリウスさんの方が良いけど、コーネリウスさん以外に人がいないわけでもないんだしさ。無理して働かせるのもどうかと思うし、休んでいても良いと思うんだ。


「いえ、いいえ! そのようなこと御座いません! 閣下のためなら、手足が千切れたとしても身を粉にして働かせていただく所存であります!」


「そうか、ならばそうしてくれ」


 やる気があるんなら良いんですけどね。やる気が無いなら、やる気が出るまで休んでいればいいだけなんで、そんなに気合いを入れてもらわなくても良いと思うんだけど。


「話がまとまったようなんで、城攻めは予定通りコーネリウス将軍に任せるということで」


 グレアムさんが確認を取ると、部屋の中にいた俺とオリアスさんとコーネリウスさんが頷き、了承する。


「しかし、城攻めと言われてもどうすれば良いのか……」


 コーネリウスさんが不安げな顔をしているけど、何がそんなに不安なんでしょうかね。城攻めなんて簡単だよ。自慢じゃないけど、俺は結構やってるんで、ちょっと自信があります。

 とりあえず攻城兵器をバンバン叩き込んでいれば何とかなるよ。占領をするんなら住民感情とか色々とあるから控えなきゃいけない場面もあるけど、この街は住民がレブナントだし何をやっても問題ないか控える必要も無いよね。


「別に何もしなくても良いですよ。第三城壁の南門付近にコーネリウス将軍が率いる兵を展開して、注意を引きつけて貰っていれば問題はないです」


 ありゃ、城攻めなのにそんな手緩くて良いんですかね、グレアムさん?


「手筈通り、将軍が敵の注意を引きつけている間、我々が第三城壁の内側に潜入、貴族街を抜けて王城へ突入します」


 マジか? いつの間に、そんな話になっていた?

 ……まぁ、考えてみればこっちはユリアスとかを仕留めて、レブナント共に命令を出す奴がいなくなれば良いんだし、真面目に城攻めをする必要も無かったよね。


「ううむ、果たして本当にそんなことが可能なのか?」


「ヤーグが言うには、貴族街にある貴族の邸宅には有事の際の脱出経路として騎士街に繋がる秘密の抜け道が設けられていることが多く、その内の幾つかを奴も把握しているとか」


 コーネリウスさんの疑問にオリアスさんが答える。

 そりゃあ色々とあった時のための抜け道くらいはあるよね。

 その抜け道に辿り着くために、俺達はここまでやって来たってわけね。もしかしたら、良く調べれば、工業区画とかから騎士街に潜入できる抜け道とか、王都の外から王城の中に入れるような秘密の通路だってあったのかもしれないよな。

 でもまぁ、あるか分からない、そういうのを探すよりは既に知っている道を使う方が良いだろうっていうことで、第二城壁まで頑張って越えるべきって判断をした奴いたんだろう。その結果、今の状況ってわけか。


「――というわけなんで、コーネリウス将軍には俺達が事を成し遂げるまでの囮になってもらうということで、よろしく頼みます。下手に城壁を攻略して、敵兵を貴族街ひいては王城まで後退させるようなことなど、決して無いように。王城まで後退させると潜入している我々が敵に包囲されてしまうんでね」


 グレアムさんが腰に帯びた剣の鞘を撫でながらコーネリウスさんに言う。


「ほどほどに戦ってれば良いだけです。余計なことはせず、無難にやるのは得意でしょう?」


「それはまぁ、そうだが……」


 別に困るようなことは何も無いと思うんだけどな。

 まぁ、困っているのも可哀想なんで、俺もアドバイスしておきますかね。


「とにかく、俺を怒らせないように戦うことだ」


 俺に怒られないようにするのは得意だろうし、俺もそれ以上は望まないんで、よろしくってことです。

 俺のアドバイスに対して、コーネリウスさんが微妙な表情を浮かべているけど、どういう感情なのか分からないんで、放っておきましょう。


「では、行って戦いの準備をすると良い」


 最後まで微妙な感じの顔をしていたコーネリウスさんを俺は快く送り出してあげました。

 そして、部屋に残ったグレアムさんとオリアスさん。この二人が王城まで潜入してユリアスをぶっ殺してきてくれるんでしょう。

 いやぁ、よかったよかった。これなら俺はユリアスと顔を合わせずに済むぜ。この二人が、どうやってユリアスを仕留めるのか想像もつかないけど、何か勝算があるんでしょう。


「じゃあ、俺達も準備をしようか?」


 グレアムさんが俺を見ながら言う。見るのは俺じゃなくて、オリアスさんだと思うんですがね。もしかして、俺も一緒に行かないといけない流れなのかな? 

 ……まぁ、仕方ないし、当然だよな。ユリアスとまともに戦える奴とか殆どいないわけだし、俺が行かなきゃ始まらないもんな。


「ああ、そうだな。俺達も行くとするか」


 本音を言うと行きたくないんだけどな。でもまぁ、いい加減あの野郎とも決着をつけなきゃならねぇしな。

 兎にも角にも旧ヴェルマー王国領での最終決戦って感じだし、気合を入れてくとするか。







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