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攻城兵器

 飛んでくる火の玉の間をすり抜けて、俺とオリアスさんは最前線から後方へと一時撤退を果たした。

 城壁近くとは打って変わって、後方は比較的ノンビリと市街から物資を運んでくる部隊が野営地の設備を整えていた。


「待機してる魔法兵を招集だ! 他の奴らは投石機カタパルトを組み上げろ!」


 オリアスさんが指示を出しているのを眺めながら、俺は水を飲んで一休み。俺の目の前には兵士たちが大急ぎで投石機を組み立てる光景が広がっているので、それも見物しつつ、戦うための気力を養う。


「材料はそこら辺にある建物をぶっ壊して使え! どうせ、長く使うもんじゃねぇんだ、耐久性なんか捨てて良い。組み立てだって、ちゃんとやらずに魔法で補強だけしておけば問題ねぇ!」


 張り切ってるなぁ。俺はちょっと元気が無くなってるんだけど、オリアスさんはまだまだ元気のようで、声を張り上げて、周りにいる奴らに指示を出している。

 その内に急ごしらえの投石機が出来上がる。複雑な構造ではなく、一本の棒の片方におもり、もう片方に投擲物を載せる籠を付けただけの簡単な物で、完成度は察してくださいって感じだけど、その分、相当な早さで組み上げられたようだ。

 もっとも、適当な造りを魔法を使って色々と補強して誤魔化しているようなんで、ちゃんと組み上がってるとも言い難いんだけどさ。

 多分、魔法の効果が切れたら壊れるし、それが無くても二回か三回使ったら壊れる気がするな。


「そこら辺から樽を持ってこい。古くても構いやしねぇ、ここらには工房とかが多いんだから見つかるはずだ」


 見てるだけなのも良くない感じがするんで、俺も探しに行こうかな。でも、俺がするような仕事でもない気がするぞ。でもでも、何にもしないのもなぁ……なんて思ってる内にオリアスさんの部下らしき連中が樽をいくつも運んできてオリアスさんの前に並べていく。

 こうなってしまうと今更、動くのも格好が悪いんで、俺は傍観の方向性で行くべき感じになってしまいました。


「レブナント共から採取した魔石を使う。質の良い物だけを残して全て火生石に変えろ」


 魔法兵が魔石に火の魔法を掛ける。それだけで魔石は火の魔法を放つ火生石に変わる。まぁ火の魔法って言っても単純に燃えるんじゃなく、爆発するみたいな魔法なんですけどね。それを使って俺らは銃やら大砲やらを飛ばしているんで、俺らにとっては火生石の精製はお手の物。そのため、すぐに大量の火生石が出来上がり積み上げられていく。

 火生石のままだと燃えにくいので燃えやすくにするには、もう一手間必要になるけど、オリアスさんには、そうするつもりはないみたいで、オリアスさんは出来た火生石を砕いて粉末状にするように指示を出している。


「粉にしたら樽に詰めろ。それと釘でも何でも良いから金属片も一緒に入れとけ。無いなら硬くて小さいものならなんでも良い」


 オリアスさんに言われた兵士たちは、そこら辺の建物の壁やら床を引っぺがして釘やら留め金を取ると、樽に火生石の粉末と一緒に詰め始めた、中には小さい金属片に留まらずやじりやら短剣、折れた剣の破片なんかも突っ込んでいる奴がいる。


「出来たら蓋をしろ。蓋に小さく穴を開けて起爆用の魔法を込めた魔石で線をする。起爆の設定は一定以上の衝撃が掛かった場合にしろ」


 そうして出来上がった樽が投石機に設置される。

 なんとなくオリアスさんのやりたいことが予想できました。樽の爆弾を投石機を使って飛ばして、城壁にぶつけるってわけね。

 使った火生石の量とかを考えると城壁くらいは簡単に吹っ飛ばせそうなんで、悪くないと思う。ただ、当たるのか? つーか届くんですかね?


「伝令、ヤーグにこの指示通りに動くように伝えろ」


 オリアスさんは樽の爆弾が投石機に設置されると同時に猛然と手元の紙に何事かを書き始め、その内の一枚をヤーグさんの所へと運ばせる。そして手元に残った紙を睨みつつ、周囲の兵士に命令をし始めた。


「計算上はこの角度で行けるはずなんだが……おい、もう少し持ち上げろ。いや、上げ過ぎ……よし、それでいい」


 オリアスさんの指示で兵士たちは投石機の足場に手を加え、投石機の発射角度の調整を行う。

 世の中には色々な計算があり、色んな物を導き出せるみたいです。魔法兵の中でも大砲とかの担当は特にそういった色々な物を導く計算が必修で、どうすれば大砲の弾が狙った位置に飛んでいくかみたいなことを計算で求めているとか。

 オリアスさんがやっているのもそれと似たようなことなんでしょう。俺はそういうことに関しては良く分からんので、殆ど想像なんだけどさ。


「準備は出来たぞ。命令さえ出してくれればいつでもいけるぜ」


 座って眺めていた俺に対してオリアスさんが伺いを立ててくる。

 どうやら責任者は俺のようですね。てっきり、オリアスさんが全部やってくれるもんだと思っていたけど、よくよく考えたら俺が総司令官みたいなもんなんだし、俺が命令しないとね。


「では、撃て」


 別に絶好のタイミングを待たなければいけないわけでもないんで、撃てるならさっさと撃ってしまってください。

 グレアムさんには一時間耐えろと言ったような気がするけど、それを伝えるはずの伝令は死んでしまったし、約束をしているわけでもないから、どれくらい時間が経っていても、許されるだろ。一時間前は一時間前に過ぎたってのを一時間前にやったけど、それでも問題ないはず。


「了解……全投石機カタパルト、放て!」


 オリアスさんの号令に応じて、大量の爆発物を詰め込んだ樽が投石機から放物線を描いて放たれる。

 宙を舞う樽は空中に弧を描きながら、オリアスさんの計算通り城壁へと向かっていき、城壁へと直撃。その瞬間、凄まじい爆発音が轟き、城壁が爆炎に包まれた。

 最初の着弾を皮切りに一斉に放たれた|投擲物(樽)が続々と城壁にぶつかり、爆発を繰り返していく。


「最初から、こうしておけば良かったな」


 欲をかいて、なるべく綺麗なまま手に入れようとしたのが良くなかったってことだな。

 ちょっとくらい壊れても、俺がこの都市を手に入れた時に直せばいいだけだもん。躊躇する必要もな無かったって、ちょっと反省。

 でもまぁ、最終的には上手くいったんだから良しとしましょう。


「いや、そう上手くはいかねぇな」


 オリアスさんが終わり良ければ総て良しって感じでまとめようとした俺の気持ちに水を差してきました。何事かと思い、俺は煙が立ち込める城壁を見る。見た所で消し飛んでんじゃねぇの? 

 そう思いつつ、城壁があった場所を眺めると城壁は、先ほど変わらず健在。まぁ、向こうが何かやったんだろうし、驚くようなことじゃねぇな。

 こっちは攻め落とそうとしていて、向こうは守ろうとしているんで、そのために色々とやるのは当然だし、城壁を無事に守り抜く作戦みたいなのもあるだろうから、いちいち驚くのもね。向こうが頑張って守り切ったっていうだけの話だよな。


「〈障壁〉とか防御系の魔法で防いだんだろうよ。まぁ、予想通りだけどな」


 オリアスさんも特に驚いていない様子ですし、なんか考えがあるんでしょう。

 そう思って、城壁の方を見ていると、突然、城壁の向こう側に爆炎が生じたのが見えた。それは先程、城壁に目掛けて放ち、魔法で防がれた爆発と同じ物のようで――


「ちょっとくらい街を壊しても良いって言ったよな?」


 言ったなぁ……将来的には俺の物になるだろうけど、今は俺の物じゃないし、住んでいる人間がいるわけでもないから、ぶっ壊してもそこまで心が痛まないんで、やっちまっても良いとは思うし、街中に爆弾を放り込むのも有りだろ。


「前と後ろの両面から攻撃は防げねぇだろ。仮に防げたとしても、防げるのは爆発の衝撃と熱くらいだけだ。爆発飛び散る釘やら何やらまでは完璧には防げねぇよ。釘みたいな小さいもんでも高速で当たれば肉を抉るし、何発も食らってりゃレブナントも死ぬ」


 投石機から絶え間なく爆発物が詰め込まれた樽が放たれる。気づいたけど、その内の幾つかはあり得ないほど高い軌道で放たれ、どう考えても放物線を描いても城壁まで届かないようだったが、どういうわけか、それが最も長い飛距離で風に流されるようにして、城壁の内側ギリギリに落ちていく。


「何かしているのか?」


 俺が尋ねるとオリアスさんは自慢げな顔で俺に説明をしだした。


「ヤーグに頼んで、新式魔法を使う部隊に上空で風を起こして貰ってる。ある程度の高さまで投げ入れたら後は風に流され指定の位置までいって落下するって感じだな。古式魔法だと、こういうスケールの大きいことは出来ねぇんでな」


 そういうことですか。良く分からんけど、まぁ分からなくても良いだろ。

 重要なのは、こっちの爆弾を防ぐのに必死なせいで、向こうの迎撃の手が緩み、こっちが攻める機会が訪れたってこと。そして、グレアムさん達、最前線にいる連中が雄たけびを上げて、城壁に突撃を決め込んだことだよな。

 城壁の辺りが大爆発を起こしているのに、躊躇なく突っ込むアイツ等は相当にイカレてると思う。まぁ、そうして貰った方が助かる気もするんで、俺が何か言うことは無いんだけどさ。


「どうすんだ?」


 オリアスさんが俺に尋ねる。

 このままでも、それほど問題なさそうだから、俺は何もしなくても良いような気がするんだけどね。でもまぁ、怠けていたし働いた方が良いかな。


「俺も前に出る」


 そう決めて俺は爆炎を上げ続ける城壁に向けて走り出す。

 心なしか防衛側の勢いが無くなっている気がするんで、もうすぐ終わるだろう。だからこそ、何もしないってのも良くないし、ちょっとは働いていたって所を見せておかないとな。


「まぁ、ほどほどに働いとけ。どうせ、すぐに終わるんだ。無理して活躍することも無ぇだろ」


 温かい応援ありがとうございます。お陰様でやる気が無くなりました。せっかく俺がやる気を出したってのに、この野郎は素直に頑張れとか言えないもんかね。

 そうして俺はオリアスさんの態度にうんざりしつつ、ちょっとの武功を稼ぎに陥落寸前の城壁へと向かおうとする。

 だが、その直後、爆弾の直撃によって城壁が崩れていく様が目に入り、俺は第二城壁の攻略が完了したことを理解したのだった。










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