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工業区画

 

 日が落ちつつある中、俺は手下どもと一緒に街の中を歩いている。脱ぎ捨てた鎧やら何やらは無事に回収されていたので、今はそれを身に着けているので、完全武装状態。だからまぁ、多少の攻撃は問題ない。


「屋根の上に敵がいるぞ!」


 そういうことは矢を撃たれる前に言おうね。

 俺は飛んできた矢を掴み取って防ぐ。流石に敵の本拠地だから、それなりに抵抗はある感じ。

 まぁ、抵抗があるって言っても、それなり止まりなんだけどね。本気というか必死の抵抗って感じじゃないのが良く分からんよ。でもまぁ、そこら辺にいるレブナントは意思みたいなのは無いから必死さを感じなくても仕方ないのかもね。


「始末しておけ」


 俺は掴み取った矢を放り捨て、手下の兵士達に命令する。いちいち俺が殺しに行くような相手でもないと思うんで、後はお任せって感じです。

 俺が命令すると兵士たちの何人かが屋根の上に登り、直後に銃声が鳴り響く。既に工業区画のあちこちで銃声やら爆発音やらが轟いている感じなので、気にするようなことでもない。


 本来の仕事は周辺の安全確保と拠点の設営だった筈なんだけど、俺らにそんな繊細な仕事が出来るわけも無く、普通に市街戦が始まってしまっているようです。


「少し先に倉庫らしき建物を発見しました」


 そうですか。で? 

 その倉庫が一体何なんですかね? 


「外から見た限りでは拠点にするの適した場所であるように思います」


 あぁ、そういうことね。ただ、倉庫があるって言われても分かるわけがねぇだろうがっ!

 俺は足元に落ちていた人の頭くらいの大きさの石を放り投げる。俺が放り投げた石は、こちらを弓で狙っていたレブナントの兵士の頭に直撃した。


「もういい、面倒だ。そこまで案内しろ」


 一匹、仕留めたと思ったら、通りの奥からぞろぞろとレブナントの群れが姿を現す。速攻で殲滅できる自信はあるけど、いちいち相手をしていてもキリがないので、本来の仕事の方をまじめにやろうと思う。


 案内された先は倉庫街と言った感じの場所で比較的、大きな建物が幾つも並んでいた。

 とりあえず俺達はその中で一番大きな倉庫に突入し、制圧を開始することにした。


「レブナントがいます!」


 倉庫に入るなり、倉庫の元作業員らしきレブナントの姿を発見した兵士が大声を出して俺に報告する。

 真っ先に突入する係だったそいつは報告をすると即座にレブナントの頭を銃で吹っ飛ばし、先陣を切って倉庫の奥へと突っ込んでいった。


「後れをとるな。お前らも逝ってこい」


 俺は最後尾に立って、突入する兵士たちを応援する係です。

 俺の応援でやる気が出たのか兵士たちは目を血走らせて倉庫の奥へと走っていき、ほどなくして俺の元に銃声と剣戟の音が届いてくる。


「やる気があるのは素晴らしいことだな」


 この倉庫にいるレブナントは元が非戦闘員みたいだから、碌な武器も無いだろうし、すぐに終わるだろう。

 そう思って倉庫の入り口付近でぼんやりと待っていると、倉庫の奥から一匹のレブナントがこちらに向かって走ってきた。

 女のレブナントで顔はまぁ、それなりに可愛いと思う。でも、俺は魔物の仲間に欲情するような性質でもないんで、ぶった切ろうと思って剣を構える。

 だが、俺が剣を振ろうとするよりも早く、女のレブナントを追いかけてきた兵士たちが華麗にタックルを決めてレブナントを押し倒す。


「テメェ、ジタバタするんじゃねぇ!」

「構わねぇ、足の一本くらい切り落としちまえ!」

「おい、馬鹿! 閣下が見てるっ! すぐに手を放せ!」


 兵士達は俺の存在に気付いたのか慌てて女のレブナントから離れる。

 何をするつもりだったのかと気になって兵士たちを見ていると兵士たちの顔が青くなっていく。

 なんか悪いことでもするつもりだったんだろうか?


「何をしようとしていた?」


 気になったので質問をしてみる。

 悪いことをするつもりだったなら、ぶっ殺すしかないんだけど、そこんところはどうなんですかね?


「いえ、それはその……」

「まぁ、ちょっと、その……催してしまいまして」


 兵士達の視線が床に倒れる女のレブナントに向かう。

 ゾンビみたいな魔物の仲間であるレブナントはアンデッドみたいな感じではあるが見た目は普通の人間と殆ど変わらない。そんな女のレブナントは、どういうわけか服の一部が破れて肌が露出し、艶めかしい曲線が露わになっていた。


「あぁ、うん。そういうことか」


 そういう気分になるってこともあるよな。

 なんとなく分かるよ。だから、そんなに怯えた眼で俺を見ないでも良いよ。


「人間相手に同じことをすれば許さんが、所詮は魔物だからな。好きにすればいい」


 レブナントは魔物だし、既に死んでいる相手だから別に良いよって感じです。

 人間だと、色々と面倒なこともあるから我慢させるけど、魔物相手なら問題にならないだろうし別に良いんじゃないかな? そういうことをするのが流行ってるっていう話も聞くしね。

 でも、〈能無し〉のレブナントなんか見た目は人間そのまんまだけど、反応が無いから人形と変わらないと思うんだけど、それでも良いんだろうか? 俺には良く分からんね。


「ただ、まだ戦闘中だ。一息ついた後なら良いが今は良くないな」


 時と場合を選んだ方が良いってことです。

 俺がそのことを伝えると兵士たちはガックリと肩を落とし、さほど未練を感じる様子も無く、床に転がっている女のレブナントの頭を銃で撃ち抜いた。わざわざ取り置いておくのも面倒だって思ったんだろうね。

 兵士達は俺に敬礼をすると再び戦いへと向かっていた。


 うーん、なんだか凄くヤバいことをしているような気がするんだけど、大丈夫だろうか? でもまぁ、俺達は正義の味方ってわけでもないし別に良いか。

 大義があるわけじゃなくて、自分の都合とか欲に従って戦ってるわけだし、上品で居続けるのは難しいよね。


 しばらくすると、グレアムさんとグレアムさんが率いていた兵士たちが倉庫街に集まってきた。

 兵士達の手には王都に侵入する際には持っていなかったはずの質の良い武器が握られ、中には鎧まで新調している輩すらいた。


「悪いねぇ、ちょっと遅れちゃったよ」


 穏やかな感じで話しかけてきたグレアムさんの腰には見たことも無い剣があった。

 ちょっと見ただけで剣に魔力が宿っていると感じられる相当な業物だけど、これを一体どこで手に入れてきたんでしょうかね?


「この剣が気になるかい? いやぁ、ちょっと道を間違えたら良い鍛冶師の工房があってねぇ。そこで大事に保管されてたんだけど、ちょっと借りてきてしまったんだ」


 返すのはいつになるんでしょうかね?

 他にも金銀財宝を荷車に積み込んでいるように見えるけど、結構いい具合に火事場泥棒をしてきてくれたようですね。最終的に俺の金になるんなら、特に問題のない行為です。


「ただねぇ、予想通りといえば予想通りなんだけど、食糧が全く無いのは辛い所だねぇ」


 そりゃあレブナントはメシを食わないから、食糧の貯えとかは無いよね。

 食糧の貯えがあったなら、それを奪うっていう考えもあったけど、それが無理ってことは持ってきた分の食糧をやりくりして、メシが残っている内に王都を落とさないと駄目ってことだよな。


「予想していた通りなんだから何とかなるだろう。不安なら、さっさと城を落とすしかないな」


 そのためには次の城壁もさっさと突破しないといけないんだけど、どうしたもんか。


「とりあえず、倉庫を拠点に態勢を整えるべきかねぇ。周辺の安全確保と城壁に近づく安全なルートの発見と作成。最終的には夜陰に乗じて、城壁に奇襲をかけ、城門を開けて次の市街地に突入って手順で行くべきかと思うんだけど、どうだい?」


 それで良いんじゃないかな?

 俺が考えても上手くいかなそうなんで全部グレアムさんの言う通りで良いです。


「今日の所はここに陣を敷いて、見張りを交代しつつ兵士に休息を取らせようか。本格的に第二城壁を攻略するのは明日からだ」


 俺はグレアムさんの提案を了承し、それを兵士に命令することの許可を出す。

 俺の許可を受けたグレアムさんが兵士に命令すると、休息を取るための用意が速やかに行われる。

 火がおこされ、鍋で粥が煮られて食事の準備が整えられている間に、倉庫内の一画に俺の部屋が用意され、俺はその部屋に案内される。


「一人寝が寂しいようでしたら……」


 俺を部屋に案内した兵士が去り際にそんなこと言ってきた。

 顔を確認すると女のレブナントに催していた兵士の一人だった。


「そういう趣味は無いんでな」


 別に一人寝は寂しくないです。だって、今までずっと一人寝だったわけだしね。

 仮に一人で寝るのが嫌でもレブナントは無いわ。だって殆どゾンビじゃん、あいつら。ゾンビと同じベッドはちょっと……いや、凄く嫌です。


 というわけで、俺は一人で穏やかに眠り、次の城壁の攻略に向けて体を休める。

 外から時々、銃声が聞こえたり爆発音が聞こえたりもするけど、まぁ大丈夫だろう。色々と気にしてると疲れるんで、俺は気にしないことにしてさっさと眠りに落ちることにした。



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