表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/273

ヴィンラント子爵領での諸活動

 ヴィンラント子爵領での冒険者の認知度向上は順調だった。


 田舎者の割に話が分かる者も多く、冒険者の活動を歓迎する人々も多く、魔物の討伐やら護衛などを申し出ると、報酬を払ってもお願いしたいと言われ、仕事には事欠かなかった。

 どうやら、脳筋なのはグレアムさんだけだ。そのグレアムさんはというと、何かと理由をつけて、俺につきまとっている。ついでに俺のことを斬りたいという気配が日に日に増していっている。なんで誰も気づかないのか、この人相当にヤバい人なんですけど。

 数日ほど見ていて分かったが、このグレアムって人は相当に駄目な人だ。難しい話をすると弟に聞いてくれとしか言わないし、やってることは自由騎士とかいう、ショボい装備の奴らに武器の使い方を教えているくらいだ。それ以外は、俺につきまとって冒険者の仕事を手伝っている。もっと、真面目に仕事するべきだと思う。


 そういえば自由騎士団がなんなのか分かった。あいつらって、家を継げない奴らとか貧乏人の集まりで、取り柄は若くて体力があることだけらしい、それを領主が安い金で雇って、適当に騎士と名付けたとかなんとか。仕事は魔物の討伐とからしいが、上手く機能してないとのこと。

 そりゃあ、平凡な脳筋だけ集まっても出来ることはたかが知れてるよね。中には武功を上げて、どこかの家に取り立ててもらう夢を持っている奴もいるとか。夢は叶わないから夢なんだよ、現実見ようよって言いたかったけど黙っていた。

 可哀想でもあるので、自由騎士団の奴らには、その気になったら、冒険者にでもなるといいとか言って勧誘しておいた。定収入の雇われ者より、冒険者になって働き次第でいくらでも稼げる方が良いよね。と言う感じのことを言ったら、冒険者になりたそうな眼をしているのが、半分くらい居た。その後、エリアナさんに褒められた。何でですかね?


 エリアナさんは絶好調だった。ヴィンラント子爵領のそれなりに大きく交通の便が良い町に拠点を構えると、依頼の受注を始めたのだ。一日にいくつも来る依頼を捌いて適切な人材を送り込んでいるとか。適切な人材かどうかの判断は俺にはできないので、なんとなくそうなんだろうと思っただけで、実際に適切かどうかは分かりません。詳しい話はエリアナさんに聞いてください。

 ここまでの旅で冒険者の名前は結構売れていたため、依頼はひっきりなしにきた。数が多すぎるので、冒険者予定の奴らを数人の部隊に分けて送り出した。グレアムさんが、そういう部隊分けは古来よりパーティーと呼ばれているとか。なんとかつまらない薀蓄を語っていたが無視した。

 パーティー分けの基本案はグレアムさんが用意したので、それに任せた。斥候、前衛、後衛、回復役で組むのが理想だと言っていたが、前衛と回復役は全く足りていなかった。回復は薬でなんとかなるが、前衛ができるような体力があるのは、俺が連れてきた奴らには少なかったが、グレアムさんが自由騎士団の人員を貸してくれたので何とかなった。脳筋も多少は役に立つようだ。


 しかし、どういうわけかは知らないが、〈探知)の魔法が使える奴の評判が良かった。俺も勘で周りを探知できるので、褒めて欲しいのだが、褒めて欲しいというのを口に出すのも、ちょっと恥ずかしいので止めておいた。まぁ、カタリナがことあるごとに俺を褒めたたえるので、我慢は出来る。でも、やっぱり大勢の人に褒めたたえられたいものだ。


 俺が受ける依頼は基本的に大物の討伐だった。地域のボス的な魔物と言えば良いのか、それを潰して回っていた。パーティーメンバーは、連れてきた奴らの中で一番〈探知〉の魔法が得意な男、名前は知らないので探知一号と俺は心の中で呼んでいる。そいつと、後はカタリナに、なんだか知らないが、ついてきたグレアムさんで行動していた。

 探知一号はいると便利だった。だいたいどこに魔物がいるのか教えてくれるので、適当に先頭を歩かせると、結構な確率で魔物の不意を突ける。まぁ、そんなことをする必要もなかったけれど。

 俺とグレアムさんがいれば、だいたいどんな状態でも数分で魔物は殺せるので、不意を突く必要はなかった。グレアムさんは、相当に手を抜いていたようだが、それでも問題はなさそうだった。グレアムさんがスッと自然な感じで魔物に近づくと、魔物は血を噴き出して倒れ伏すばかりで苦戦する様子はなさそうだし、俺の方は、相変わらず棍棒同然になった剣で、魔物を殴り殺していた。

 カタリナは回復役兼支援要員として連れてきたのだが、役に立っているような印象は無かった。探知一号が頻繁に傷を負うので、奴の専属回復係になっていた。俺とグレアムさんはかすり傷一つ負わないので、回復役の存在は必要なかった。

 それは、どんな魔物を相手にしても同じで、俺とグレアムさんがいればだいたいは事足りた。俺とグレアムさんでカバーしあえば、百匹ぐらいまでなら楽勝だと思う。


 そんな感じで、ヴィンラント子爵領に滞在し魔物を狩り続けて十数日が経った――


 緊急を要する依頼は減りつつあり、雑用が多くなっていた。雑用となると俺が出る必要もないらしく、冒険者ギルドのヴィンラント子爵領支部と名付けられた建物の中で、暇を持て余していた。なぜ、本部がないのに、支部があるのか、俺には疑問だがエリアナさん曰く、支部と言った方が箔がつくとかなんとか。まぁ、どうでも良いんだけど。

 エリアナさんは、町の有力者との話し合いやギルドの受付業務をしていて、微妙に忙しそう。カタリナは俺に茶を出したり、俺のために解毒薬を作ったりで忙しそう。探知一号は、たまにエリアナさんに呼ばれて、どっかに出かけて、戻ってくると、つまらない噂話を聞かせてくる。こいつは暇そうだ。暇そうと言えば、グレアムさんもそうなんだけど、あの人、俺の事を斬りたい気配が極限まで高まっていると、顔を見せなくなるんだよね。

 で、ひょっこりと顔を見せると、その時には俺の事を斬りたいって気配は弱まっている。んで、街ん中でゴロツキが斬り殺されたって話が聞こえてくる。ってこれは、関係ないね。まぁ、死んだ奴らだって生きてても仕方ない奴らだろうし、どうでもいいか。


 それはさておき、退屈である。どうにもやることがない。座っていてもお金を貰える環境になったのはいいが、だからといって何もせずに座っていて満足かと聞かれれば、そういうわけでもない。

 やることが無いと人って駄目な方に走るよね。仕方ない。まぁ俺も駄目な方に走ってしまったわけで、こうね……ちょっと、お酒を飲みに出歩いてしまっているわけです。

それで、今現在。誰にも何も言わずに出てきてしまったわけよ。だって、皆忙しそうだったし。忙しくなさそうな奴とは飲みに行きたくないしで、そうなると一人で飲むしかないよね。

 そういうわけで、酒場で俺はくだをまいています。いやぁ、酒がマズい。田舎だからしょうがないね。悲しくなるぜ、酒くらいしか楽しみがなさそうな田舎なのに、肝心の酒がマズいとか勘弁ね。

 ああ、女の人は近寄らないで、お香臭い奴は嫌いなんだよ。お酌とかしないでいいから、マジで。黙っているからって調子乗んなよ、ぶっ殺すぞ。

 ああ、酔っ払ってしまいました……目がトロンとしてきてるのも自覚できる感じです。なんですかね、周りの人が俺から逃げていきますよ。目が据わってる? 眠いだけです。


「へへっ、ニイさん、堅気じゃねぇな?」


 なんかチビが話しかけてきましたよ。カタギってどういう意味というかどこの言葉だよ。なんで、この手の奴って自分が知っている言葉を相手が知っていると思ってんだろう馬鹿じゃねぇの? 面倒だし無視して、お酒グイー。


「つれないねぇ、アンタみたいな人が暇をつぶすには、この店はちょっと明るすぎると思うぜ。もっと、アンタ向けの場所があるんだけど、どうだい、ちょっと来ないかい?」


 なんですかね、良いところですか。良いところなら行くしかないですねぇ!その前に、お酒グイー。マズいお酒でも、酔っぱらうと結構幸せになるから良いもんだ。


「行ってやろう」

「へへ、どうも」


 どこだか聞いてないけど、別に良いよな。初対面の人間を騙すような奴はいないだろ。俺は初対面の人間とか騙さないし。とりあえず、お勘定で銀貨を二三枚置いておきます。何杯飲んだか分からないけど、文句は言われなかったので、堂々と酒場から退店。


 チビについて行く俺は、なんだか薄暗い通りに連れていかれました。まぁ、夜なんで暗いのは当たり前ですけど!


「ナリを見りゃあ、相当な修羅場を潜って来たってわかるぜ、ニイさん。わけぇのにたいしたもんだ」

「へへ、一体今まで、何をやって来たんだい? ちょっと俺っちにも教えてくれよ」

「羽振りも良いみたいだし、きっと満足できるぜ」


 このチビうるせえなぁ。いつになったら良いとこに連れていってもらえるんだろう。とか、そんな事を思ってたら怪しい建物の前に到着しました。どうでも良いですね。もう一杯お酒が欲しいんですが、まだ飲めるところには到着しないんですかね。


「大きな声じゃ言えねぇが、ここは『夜魔の爪』っていう悪党どもが仕切っている場所でな。まぁアンタみたいな人と御同類の奴が集まっているんだ。きっとここなら、アンタも満足できると思うぜ」


 なんの話やら、良く分からないけど、俺と同じってことは酔っ払いがいるってことですかね。じゃあ、酒場かな。おや、チビさん、その手はなんですかね。


「話はつけておくんで、紹介料を頂きたいんですがねぇ」


 ああ、はいはい、じゃあ銀貨一枚あげます。おや、何を驚いているんですか、はした金ですよ。はした金、ハハハハハ。


「へへ、まいど。では、どうぞ、ごゆっくり」


 なんか、そんな感じで暗い店の中に俺は案内されました。案内している人は丸腰に見せかけて短剣を隠し持っています。物騒ですね。毒の臭いとかもしてるんですけど。どういう人なんざんしょ?

 あと、なんか全体的に室内が臭いんですけど、帰っても良いですか? でも、お酒飲めるらしいしなぁ、もう少し酔いたいから、帰るのもなぁ。


 色々と迷っている内に案内された先は地下でした。結構、良い部屋です。ソファーとかいい感じ。まぁ俺の実家のものと比べると格は落ちるがね。フハハハハ。


「少々、お待ちください。何か口にできるものを用意してまいります」


 案内している人はそう言って、部屋から出ていきました。準備わりぃなぁ。客を待たせるとか、どういう感覚してんだろ? はぁ、喉乾いたし、解毒薬でも飲もう。最近は懐の中に一本くらい忍ばせておいて、喉が渇いたら飲むようにしてるんだけど、やっぱり徹底的に冷やしているのを飲んだ方が美味いよね。ぬるいのも飲めなくないけど。


 飲み終えたら、案内の人が女の人を何人も連れてやってきました。女の人は薄着です。香水臭いので帰ってくれませんかね。俺は自然な体臭を愛する派なんで、香水とかは仄かな感じじゃないと嫌なんです。

 個人的に一番いいのは、女の子が自分ってちょっと臭いんじゃないかって不安になって、香水に手を出すんだけど、使い方分からなかったり、使うのを恥ずかしがって少量しか使えなかったりで、殆ど効果がありませんでしたって感じで、大人びようと頑張りつつも駄目な感じ。

 だから、お前ら帰れって、言いたいんですけどね。そう言うのも可哀想ですし、受け入れます。でも身体的な接触は勘弁で、なんか病気になりそうだし。

 それよりも酒はまだなんでしょうかねって、思っていたら酒が届きましたよ。葡萄酒です。良いですね、毒が入ってそうな感じがしますけど、お客さんにそんなものは出さないでしょうから、多分大丈夫なので、グイッと行きます。

 いやぁ、マズい。なんか酸っぱいよ、これ。悪くなってんじゃない? まぁ、飲むけど。おや、どうしました。案内の人に女性の方々、何がそんなに楽しいんでしょうかね。楽しそうにしているところ悪いけど、ツマミは無いのかい。無いなら良いけど。

 ところで、皆さん飲まないの? 飲まないなら俺が全部飲むけど、おや、さっきまで顔色良かったのに、今は顔色悪いですね。どうしたんですかね?

 ええと、ここって酒を飲ませるだけなんだろうか。それだったら、拍子抜けなんだけど、良いところって話だし、なんか面白いものとか無いのかい? これって聞いた方が良いのかな。


「酒だけしかないのか?」


 無いなら良いんだけど。帰るから。でも、案内の人が慌ててどっか行ってしまいました。どうすんだ、これ。っていうか、女性陣、隠し持っている刃物を確認しているのは、どういうことなんでしょうか、これも聞いた方が良いのか? 言わないってことは言いたくないことなのかもしれないし、俺は気づかないでいてあげた方がいいかな。とりあえず、お酒グビってやって待ってますか。


 お酒飲んで時間潰していると、部屋に小さい子たちが入ってきました。手枷足枷が付いていますよ。これは、アレですね。

 ……一体なんなんでしょうか? 考えるのが面倒になってきたな。まぁ、みすぼらしい子どもらです。こんなの連れてきて、どういうつもりなんなんだろうね。ばっちぃ子どもを見ても楽しくないんだけど。

 いい加減、なんか面白いことでもやって欲しいんだがなぁ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ