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救出作戦

 ニブル市がレブナントの大群に攻められているという報告は俺に届く前にグレアムさんの所にも届いていたようで、俺が準備を終える頃にはグレアムさんが俺の兵を整列させ、出陣の準備を整えていた。

 場所はトゥーラ市の中心部に建設した魔動車の駅の構内。並んでいる兵士たちの前には発車の準備を整えた魔動車ある。


「せっかく鉄道があるんだから、それを使うべきかな」


 グレアムさんがそんな提案をしてきたので、俺はそれを承認した結果である。

 普通に移動していたら、間に合わないってことは無いだろうけど相当に遅れるのは間違いなく、その分だけニブル市に損害も出るだろうから、少しでも早く到着するために鉄道を使うのは悪くないと思う。

 なにせ、馬より速い上に大人数を一気に運べるわけだし、兵士の疲労も最低限に抑えることだって出来る。


「ツヴェル市までは片道3時間。その速度を維持できる限界の重量から考えると一度に運べるのは完全装備の兵士が400人くらい。今回は市街戦になりそうなのと優先順位の関係から馬の輸送は後回しで、騎兵も歩兵と同じ装備で戦闘に参加してもらうことになる」


 まぁ、騎兵に関してはしょうがないよね。馬を車両に積み込むより、人間を積み込んだ方が戦力になるわけだし。


「ニブル市の今の状況が分からないんで、第一陣は戦力的に優れた面子を送り込んで、駅とその周囲の安全を確保。それが出来次第、魔動車をトゥーラ市まで送り返して第二陣を輸送する」


 グレアムさんが大まかに作戦の流れを説明してくれました。となると、俺が第一陣で乗り込んだ方が良いかな。だって、俺が一番強いしね。


「では、最初にニブル市に向かうのは俺と近衛の連中だな」


「大将が前線に出るのは良くないんだけどねぇ」


 そんなことを言いながらも、グレアムさんも腰に剣を帯びていつでも戦える準備を整えている。


「俺と侯爵様の率いる兵が第一陣でニブル市に乗り込むのが最善だから仕方ないねぇ。まぁ、領主様が危なくないように配慮しますよ」


「うむ、そうしてくれ」


 そりゃね、俺は領主で偉い人なんですから、危なくないようにするのは当然だよね。分かってるじゃないか、グレアムさんも。でもまぁ、配慮の必要とか無いような気がしますけどね。


「出発前に演説でもするかい?」


 グレアムさんが俺に尋ねてきた。そんなん面倒くさいからする必要も無いだろ。つーか、誰もそんなことをしてほしいとも思ってないだろうし、さっさと列車に乗り込もうぜ?

 なんてことを思っていると、千人近い兵士たちの視線が俺に突き刺さるのを感じた。どうやら、俺に何か格好いいことを言って欲しいようだ。しかし、急にそんなセリフが思いつくわけないだろ。


「……特に言うことは無いな。貴様らは、いちいち士気を高めなければ戦えないような連中か? 違うな。お前たちは精鋭だ。気持ちを奮い立たせなければ戦えないような雑兵どもとは違う。俺が戦えと命じれば、それだけで、何があろうとも恐れを抱かず勇猛果敢に戦う者たちだろう?」


 いちいち気合いを入れるのなんてアホくせぇって話さ。ゴチャゴチャ言葉を並べなきゃ戦えないアホどもとは違うんですよ、俺の兵は。だから、一言だけで言っておけばいいのさ。


「戦え」


 ほら、それだけでる気になってくれたぜ? 他所はどうだか知らねぇけど、俺の兵士はこんな連中さ。る気満々で列車に乗り込んでいきやがるよ。


「じゃあ、俺達も行こうかねぇ」


 兵士たちが乗り込むのを見届け、俺とグレアムさんも列車に乗り込む。あんまり遊んでいる時間も無いのか、俺が乗り込むなり、すぐに魔動車は発進した。まぁ、今もニブル市は攻撃を受けているわけだし、急ぐのはしょうがないよね。でもまぁ、列車の中にいる俺達は急いだ所で仕方ないから、到着までノンビリしているしかないんだけどさ。



 ――それから三時間後、魔動車はニブル市に向かう線路の上を全速力で走っている。列車の窓からニブル市の城壁が見えてきたが、城壁の周りに敵兵の姿は見えない。


「どうやら、敵は市内に入っているようだねぇ」


 そいつは大変だな。コーネリウスさんは生きているだろうか? まぁ、あの人がそう簡単に死ぬとは思えないけどね。なんだかんだで生き残ってくれていると思う。


「駅が無事だと良いけど……」


 そこら辺はどうなんだろうね。レブナント共に駅の重要性が分かるとは思えないけれど――

 そんなことを考えていると、急に列車が大きく揺れ、思考が現実に引き戻される。何があったんだろうね? 列車の状態がどうなっているのか気になっていると、車掌が慌てた様子で俺のもとにやって来た。


「申し訳ありません。線路上にいたレブナントを轢き殺したところ、車両が揺れてしまいました」


 それなら仕方ないね。ヴェルマー侯爵領じゃ良くあることだしさ。

 人身事故なんか、毎日というか毎時間ごとに、各駅であるし、人が轢かれずに済む日なんか無いくらい轢かれてるからな。鉄道を移動手段じゃなく、人殺しの手段として使ってる奴がいるくらいだし、乗り者にもなる処刑道具の感覚で人間を線路上に人を置いているからな。

 そんな状況だもん、人を轢いたところで運行に支障が出るような作りにはなってないぜ、ウチの魔動車はな。


「線路上にレブナントはいるようだけど、駅の方はどうだい?」


「そちらは問題ないようで、間もなく到着いたします」


 グレアムさんの質問に車掌は自信をもって答える。

 まぁ、レブナント共に駅を制圧するなんて考えは無いだろうね。俺らだったら、その重要性は分かるから、線路とか駅は封鎖するだろうけど、駅とか鉄道の重要性なんてブナントは分からないだろうしさ。


 車掌さんの言う通り、俺達の乗った列車は無事にニブル市の駅に到着した。駅のホームには誰もいないが、列車から降りてホームに立つと、駅の外から銃声や剣戟の音が聞こえてくるので、駅も完全に無事とは言えないようだが、まぁ大丈夫だろう。

 駅は重要拠点だから、そこに勤めている駅員も拠点の防衛要員として高度な戦闘訓練を受けているし、俺らっていう援軍もいるんだからな。


「戦闘班は周辺の安全確保を最優先。手が空いている奴らは物資を運び出せ」


 グレアムさんの指示で兵士たちが動く。五人から六人で編成された戦闘班が銃を構えて走り出していき、それ以外の兵士は列車の中から大量の物資を運び出し、駅のホームに積み上げていく。

 こうなると、何もしないで立っていると変な感じだし、俺も戦闘に参加するしかないかな?


「俺も行く。近衛はついてこい」


 そう告げると、兵士の一人が俺に近づいてきて、剣を差し出してきた。そういえば俺は丸腰でした。うっかりしていたけど、そこら辺のレブナント相手に武器なんか必要ない気もするんだよね。まぁ、くれるっていうなら貰っておきましょう。


 俺が近衛を率いて駅の外へ出ると、ニブル市の市街地は思っていた通り戦場になっていました。そんなことを思っていたかは、よくよく考えてみると定かではないけど、別にどうでもいいことだよね。


 俺は余計なことを考えるのはやめ、駅を出てすぐの駅前の広場を眺める。

 駅前の広場にはバリケードが設置され、駅に向かってくるレブナントをそれで防いでいるようだった。

 バリケードの上には銃や弓を手にした駅員がいて、押し寄せてくるレブナントの群れに弾や矢を撃ち掛けている。流石に鍛えているだけあって、駅員も戦い方を心得ているようだ。


「大将、ここの駅長が報告したいことがあるとか」


 俺の近衛をやっている奴らの話し方はどうにかならないんだろうか。俺のことを侯爵様とか呼ばずに御頭おかしらとか大将とか親分とか言う奴らが結構いるんだけど、なんか山賊みたいじゃない? まぁ、呼び方なんてどうでも良いと言えばどうでもいいんだけどさ。


「何の報告だ?」


 俺の呼び方を気にするよりも、こっちを気にした方が良いよね。なんだか駅長さんも疲れ切った様子だしさ。


「敵の軍勢について、ご報告したいことが」


 そいつは助かるね。なにせ、俺らは来たばかりで状況が分からんし。


「敵レブナントの群れは現在、ニブル市の兵士詰め所と市庁舎の周囲を取り囲み攻撃中です。敵レブナントの中には知生体の存在を確認しており、知生体が指揮を執っているものと思われます」


 知生体ってのはヤーグさんとかユリアスみたいな〈能有り〉のレブナントのことかな? とりあえず、そいつを始末すればニブル市に攻めてきたレブナント共の動きを止めることができるんじゃなかろうか。


「その知生体がどこにいるか分かるか?」


「申し訳ありません。流石にそこまでの把握は難しく……」


 使えねぇなぁ。まぁ、そこまで期待もしてないけどさ。あとは俺らがやるんで駅長さんは駅員と一緒に駅を防衛していてください。これから何回か鉄道で援軍を運んできてもらわんといけないしさ。

 とはいえ、それをやるにも今の状況はどうなんだろうか? グレアムさんも周辺の安全確保が第一みたいなことを言っていたしな。でも、あんまり時間をかけるとコーネリウスさんも危ないか?


「グレアムに伝えろ。俺は市庁舎に向かうとな」


 ここに居ても仕方ないと思うんだよね。とりあえず、周辺の安全を確保しつつ、コーネリウスさんを助けに行こうと思う。でも、そうなると、レブナント共が押し寄せてこないように設置してあるバリケードが邪魔なんだよね。


「道を開けろ。俺が出るぞ」


 そう告げると、近衛兵が素早く動き出し、バリケードに何かを設置し始める。一体、何をしているんだろうか?

 俺が疑問を抱いている内に近衛の連中は何かの設置を終えたようで、バリケードから離れると、俺に対して親指を立てて見せる。一体全体、何の合図か検討がつかんけど、俺の指示待ちなんではなかろうか? となれば、俺の言うべきことは一つだね。


「――やれ」


 この言葉はすごく便利です。これを言うだけで、俺の手下連中は俺の意図を必死で察して行動してくれるからさ。

 なので、今回も色々と察して行動してくれるだろう。そう思っていると、俺が合図を出した直後に、バリケードが爆発を起こして吹き飛んだ。なるほど、確かに道は開けてくれたね。

 そういえば、爆弾だっけ? オリアスさんとヤーグさんが怪しい研究を繰り返して、安価で大量生産が可能な爆弾を開発してくれてたんだよな。それを使ってバリケードをどかしてくれたんだろう。

 俺の意図を良く読み取ってくれたと言いたいところだけど、バリケードを吹っ飛ばすってことは、それによって侵攻を妨げられていたレブナント共も自由になるってことなんだよな。


「一体、何を――」


 駅長さんが驚いているけど、仕方ないじゃんね。だって、邪魔だったんだしさ。バリケードとか設置するなら、守るだけじゃなく打って出ることもできるように工夫をしてくれよ。そういうことをしないから、こんなことになるんだぜ?


「お頭、レブナント共が来やすぜ!」


 お頭は止めろクズども。その呼び方だと山賊みたいじゃねぇかよ。俺は侯爵っていう、貴族の身分だぜ? 山賊みたいに呼ばれると名誉が傷つけられる気がするんだよ。

 まぁ、その程度のことで、わざわざ注意はしませんけどね。そんなことをしている暇は無いしさ。だってレブナントの大軍が目の前に迫ってきているしね。


「ぶち殺せ」


 俺は近衛兵に命令を下す。ゴチャゴチャと余計なことを考えるのは終わりで、ここからは戦うだけだ。


「目指すは市庁舎。道を塞ぐ輩を踏み潰し、皆殺しにして突き進め」


 よし、段々とやる気が出てきたぞ。今なら、俺一人でもレブナント共を皆殺しに出来そうだぜ。




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