厄介ごとは先送り
金山やら銀山が見つかったという話があったわけだが、どういうわけか、その件はどうやらあまり嬉しくない事柄のようで、その報告が届いた翌日に、俺の仲間の主だった連中が集まった会議が開かれることとなった。
「――というわけで、ガルデナ山脈の奥地に金と銀の鉱脈を発見したそうです」
ヨゥドリが事のあらましを説明してくれたけど、特に言うことは無い。モーディウスさんが兵士を山脈の奥地まで行軍訓練をしたら、偶然見つけたというだけのことだった。
「埋蔵量の検討はつくの?」
「それは調査中です。なにぶん、他所に情報が漏れないようにするためには大っぴらに作業を進めることができないので」
エリアナさんが険しい顔でヨゥドリに尋ねていた。答えるヨゥドリもなんだか答えを選んでいるような感じがするんだけど、そんなに困るようなことなのかね?
言っておくけど俺は困ってない。別に金山とか銀山があって良いじゃん。それがあれば俺らも金持ちだぜ? もしかしたら、俺らが金持ちになることにムカついて嫌がらせしてくる奴もいるかもしれないけど、そういうのを気にしすぎても駄目だと思うんだ。
会議に参加してる奴らも俺と同じ考えの奴が多いと思うんだよね。えーと、オリアスさんとグレアムさんとキリエちゃんは『自分たちには関係ないことだな』って感じの顔だし、会議に参加する意思なし。
コーネリウスさんは『自分が考えることじゃないし、余計なことを言って責任を取りたくないから黙っていよう』って感じの顔で会議に参加する意思が無い。
エイジ君とジーク君も何か言いたそうだけど黙っていやがるな。ヒルダはやる気はあるけど良く分かってないから黙っているけど、無理しなくても良いよと思う。
カタリナは自分が口を出すことじゃないと黙っているけど、そういう控えめな所は素敵だと思うので会議に参加してなくても許せる。
なんか見ていると、エリアナさんとヨゥドリ以外に困った感を出している奴らがいないんだが。どう思うよ?
俺的にはこの面子の中で頭の良い二人が悩んでいるんだから、悩んでいる雰囲気を出せば頭の良い側の仲間入りができそうだから、悩んでいるふりをしようと思う。
「埋蔵量も気になる所だけど、このことを嗅ぎつけた連中はいるの?」
「何人か怪しい奴らがうろついているって報告は届いてるねぇ。今のところは泳がせているけれど、始末してほしいなら今すぐ始末するけど?」
エリアナさんの質問に答えたのはグレアムさん。なんだかんだ言って働いているんだね。
「下手に始末すると怪しまれるから、そのまま泳がせておいてちょうだい」
「どこの誰が喋ったかまでは分かりませんが、この調子だと金山の噂はそれなりに広まっていますね」
参ったなぁ、俺が金持ちになるって噂が広まっちゃうのかな? そうなると、嫉妬されちゃうかもしれないし、困ったなぁ。でもまぁ、嫉妬されない奴なんてのは取るに足らない奴なんだし、嫉妬されるのは立派な男の証明だから問題ないか。
「質問してもいいか?」
良く分かっていない感じのヒルダが遂に手を挙げて質問しました。分かんないことがあるんなら人に聞こうね。俺は恥ずかしいからやらないけどさ。
「金山や銀山が見つかると何かマズいのか?」
おっと、根本的な所から分かってなかったようです。今まで何を思って聞いていたんですかね? ちなみに俺も何がマズいかは説明できない。なんとなく分かっているけど、説明したりするのは俺の仕事じゃないし、そもそも俺が分かっていなくても分かっている奴らがいるんだから、俺が分からなくても問題ないよね。
「全面的に良くないというわけではないんですがね。ただ、今は時期が悪い」
ヨゥドリはヒルダの疑問に対して面倒くさそうな様子も見せずに説明を始める。俺だったら、面倒なので誰か他の奴に聞けって言ってしまうけど、ヨゥドリはそういうことはしないようだ。
「アドラ王国の財政状況が良くないですから、金山や銀山の富を求めて我々に対して何らかの手出しをしてくる可能性があるんですよ。例えば、ガルデナ山脈を領有権を王家に帰属させるといった、強硬な手段を取りかねないんです」
ふむふむ、金になりそうな物を持ってそうだから、ちょっと寄越せってか? ふざけやがって、ぶっ殺してやる。……と、感情的になっては良くないね。
「向こうの要求を断ったら戦争かい?」
グレアムさんが楽しそうに笑ってますね。どうやら殺る気満々のようです。
「それは無いでしょう。ウチと争うにしても王家の動かせる兵はたかが知れていますし、かといって王家の命で他の貴族が動いて戦争をしかけることもないかと思います」
なんだか、人望が無くなってきたっていう話だしね、アドラ王家も。やることなすこと全てにケチがついているようだし、ほとぼりが冷めて流れが変わるまでは大人しくしていた方が良いと俺も思うよ。
「厄介なのは戦争にならない程度の嫌がらせね。王家の要求を大義名分にして、他の貴族がちょっかいを出してくる状況は避けたいわ」
うーん、『王様が欲しいって言ってんのに何で従わねぇんだよ、テメェ。王様は何もしないけど、俺が王様の気持ちを汲み取って、王様の代わりにちょっとテメェを懲らしめてやる』ってノリで俺に嫌がらせしてくる感じなのかな?
そんでもって、俺が屈したら『なんで、王様の言うことなんか聞かなきゃなんないの? そもそも王様は何も言ってないし、この件には関係ないじゃん』って王家の要求は無視して私腹を肥やすんだろうなぁ。
「対策とかあるんだろ?」
オリアスさんがエリアナさんとヨゥドリに尋ねる。どうやら、オリアスさんは飽きてきたようで、スゲェ帰りたそうな顔になってる。ちなみに俺も顔には出さないけど、凄く帰りたい気分だったりする。
「無くは無いですよ。実を言うと、ケイネンハイム大公家も隠し金山を持ってますし、それは公然の秘密で王国内でもそれなりの地位にある貴族はその存在を認識していますが、誰にも文句は言われません」
えっ? って顔でコーネリウスさんがヨゥドリを見る。どうやら、コーネリウスさんは知らない側の人間だったようですね。
「北部の大公家だって、公然の秘密となっている金山や銀山はありますが、誰にも何もいわれません。というか、それなりの地位と領地を持っている貴族なら普通に隠し鉱山は持っていますが、それは問題になりません」
さらに、え? って顔でコーネリウスさんが驚いている。どうやら、コーネリウスさんは持っていない側のようだ。
「まぁ、西部と南部の方々は高い地位を持ちながらも不正を嫌う性格が多く、隠し鉱山などを持つ者はいないとは聞いています」
単に間抜けなだけなんじゃないの? 例えば九割の人が不正をしていたとして、じゃあ残り一割の不正をしてない人間が真っ当な人間かって言ったらそうじゃないと俺は思うのね。むしろ、不正をしていないほうが頭の構造とかおかしいんじゃないかとも思ったりするんだけど。
「なんでそいつらは無事なんだ?」
「それは手を出す方が面倒だからですよ。大公家は色々と言われますが、なんだかんだ言っても力はありますし影響力もあるので、余計なことをして不興を買いたくない。それ以外の有力貴族も色々な繋がりを使って自分に手を出すと厄介なことになるとアピールしています」
む、その感じだと俺らは力も無いし、影響力も無い。その上、他の貴族との繋がりも無いから、ちょっかい出しても大丈夫だとか甘く見られてるってことか? そいつは許せねぇな。
「ウチは新興の貴族ですし力も何も無いと思っている輩もいるんでしょう。アロルド殿に関しても戦は強いが、それ以外は大したことが無いだろうと甘く見ている者たちも多いですし、ヴェルマー侯爵家はどことも公の繋がりがあるわけではないですからね。何をやった所で表立って文句をつけてくる有力貴族もいないとなれば、調子にも乗るはずです」
めんどくせぇなぁ。公の繋がりって何だよ。南部と西部の貴族の大半が手下ってだけじゃ駄目なんか? ケイネンハイムさんとかと友達ってのも駄目?
「何とかする方法は?」
「これといった方法は無いですね。我々に手を出すと厄介なことになるというのが理解できてない連中ですから、我々の怖さを教えることが出来れば良いんですが、そういう機会も無いですし、余裕もないですからね」
お金が無いし、戦も無いからね。それにと王国内って言ったって、遠いところにいる奴らじゃ、俺のことなんかは噂話でしかしらないだろうし、そういうのでしか知る機会がないんだから、恐怖心だって薄れるよね。
「それなら仕方ない。面倒ごとになるなら、今は金山など無くても良いだろう」
手っ取り早くお金になりそうだけど、それで面倒が増えてちゃなぁ。こういう時は問題を先送りするのが一番だ。
「まぁ、今のところはそうしておくしかないわね。そもそも鉱山を開くにしたって人手が足りないわけだし」
エリアナさんがちょっと残念そうだけど、面倒ごとが増えるのは嫌なんで諦めてください。実際、労働者の数が足りないんだよね。鉱山よりも先に何とかしないといけない所が多すぎるしさ。
「とりあえず、鉱山を開くほどの鉱脈ではなかったと噂を流し、採掘作業も行わない方向性で行きましょう。いずれは何とかしないといけない問題ですが。この問題を取り扱うにはヴェルマー侯爵領はまだまだ弱いので、いずれ強くなってからにするべきです」
戦争とかをやったら負けないんだけどね。そういうので勝ち負けがつけられそうな問題じゃないのが嫌だね。領主になるとこんなことばっかりっていうなら、領主とか辞めてしまっても良いんじゃないかなって思うよ。




