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王家の思惑

 そんなに文句を言われるようなことをしたんだろうかと俺は思う。


 俺がやったことなんて、その日のメシにも困る貧乏人とか、将来に望みがない崖っぷちの奴ら、身の程しらずに一攫千金や立身出世を夢見るアホどもに、ガルデナ山脈を越えた先に希望に満ちた新天地があるって教えただけだよ。

 まぁ、ちょっと人攫いみたいなことをした奴もいるって聞いてるけど、それは俺の責任じゃないし、そのことに関しては俺に文句を言わないで欲しい。あと、領民の殆どが逃げ出して領地経営が成り立たなくなったっていう貴族がいるらしいけど、それに関しても逃げ出すような状況にしてしまっているそいつらが悪いから、俺に文句は言わないで欲しい。


「領民を返せという声が日に日に強まっているのだ」


 そんなことを言われても、山脈を越えてこの地にやって来た人間に関しては出自を問わないってことになってるから、領民を返せと言われても誰を返せばいいか分からないんだよね。

 名前を変えても良いよってことにしてるしさ。せっかく新天地に辿り着いたんだから、これまでの事は忘れて新しい人生を楽しいんで欲しいと思ってるから、なるべく昔の事情に引きずられて欲しくないかな。


「まぁ、善処しよう」


 努力はします。ただ、努力の形は人それぞれなので、全く何もしてなくても許してください。ついでに努力が結果につながるとは限らないので、成果が出なくても許してくださいね。


「ところで、何故この地がアドラ王国領になっているんだ?」


 俺はラムゼイさんに気になっていたことを聞いてみる。だって、アドラ王国とか全く関係ないじゃん。アドラ王国からは何の支援も受けずに自分の力だけで手に入れたのに、急に王国の物みたいな扱いになったらムカつくよ。


「それは当然だろう。アドラ王国の貴族が手にした土地ならば、それは貴族たちを統べる王の物だ」


 む、それは納得できないぞ。つーか、それで納得させる気がないだろ。


「そもそも、貴族が統治する領地は国王陛下がそれぞれの功績によって分配するものであり、自分の力で手に入れたからといって、全てが自分の物になるわけではない。当然、実効支配など許されるものではない」


 うーん、横暴。そんなこと言いだすなら、もっと早く言えよ。俺は少なくない額をこの土地の開発に使ってるんだぜ? 何も言わなくても自分の物にして大丈夫だろうと思ったからだよ。

 エリアナさんもヨゥドリだって問題ないって感じで進めてたんだし、おかしいことを言ってるのはそっちなんじゃないのか?


「今回の叙爵に関しても陛下の恩情によるところが大きいと理解しておるか? 本来であれば貴様のような、ならず者に領地を与えることなど考えられぬことなのだぞ」


「そうか」


「だから、そうかではない! もっと陛下のご厚意に感謝の気持ちを抱き、今後も王家に忠誠を尽くすと口にするのだ! 民から王などと呼ばれ、貴族からも王のように畏敬を抱かれ、挙句の果てに大公という名目上は王の次の地位にある者にすら王のように敬われて調子に乗っているのか」


 そうは言われてもなぁ。俺は普通にしているだけなのに、みんなが俺に頭を下げてくるんだから仕方ないじゃない。つーか、ラムゼイさんの言うように、そんな扱いを受けてれば嫌でも調子に乗ると思うんだけど。


「調子に乗って何か悪いことがあるか? その結果、俺に何か不利益があるというなら、その不利益を俺に教えてくれれば、俺も反省しよう」


 アンタらにとって都合が悪いなら反省しないけどね。調子に乗ってる俺が目障りっていう程度の理由なら、別に反省する必要ないよね。


「まぁ、侯爵という地位を貰ったのだし、一応は気を遣ってやっても良いか。陛下には感謝している伝えてくれ」


「待て、まだ話は終わっていない」


 なんだよ、俺の方に話すことは無いんだけど。


「陛下から領地を賜ったのだから、貴様とて何をすべきか分かるだろう?」


「さぁ?」


 分かんないので肩を竦めつつ、後ろに控えているヨゥドリを見る。すると、ヨゥドリも肩を竦めて困った表情をしだす。残っているのはエイジ君だが、エイジ君は自分は関係ないって顔でボーっとしていやがる。


「税収の事だ! この地でどれくらいの税が徴収できるのか、そして、それを陛下にどの程度献上できるのかを我々は知りたいのだ」


 なんだよ、タカりかよ。俺が手下どもに貢ぎ物を要求してるみたいに、お前らは俺に貢ぎ物を要求してんのかい? それとも物乞いか? だとしたら陰気な雰囲気も当然だわな。


「結局の所、俺にタカりに来たということか? 払ってやっても良いが、それで俺に何の得があるかは気になるな。まぁ、物乞いに見返りを要求するのも酷かもしれんので、ただで金を恵んでやってもいいがな」


 後ろをチラッと見るとエイジ君が指で×印を作っていた。そういえば、お金が無かったんでしたね。作物も収穫の時期にはまだ遠いし、俺が王家に払えるものは無いんだよな。でも、何も無いというのはカッコ悪いので強気で行きましょう。


「なんたる言い草だ。貴様には王国の貴族として、王家を敬い、国家の運営に貢献しようという気持ちは無いのか」


「俺がそんな気持ちを抱いたところで俺に何をしてくれるわけでもないだろう? 開発の手助けをするわけでもなく、ようやくやって来てしたことといえば、クソの役にも立たん爵位を与え、金や物だけ奪っていこうとするような奴らを敬えというのか?」


 別に敬っても良いけどさ。だって王様だし、偉いんだし、そういうところは敬っていこうぜ? ただまぁ、言うことを聞いてやる義理も筋合いも無いと思うけどさ。


「そもそも、税を払い、王に侯爵として認められたところで俺に何の得がある? 王の庇護を受けず、王に認められずとも俺はこの地の支配者であり、王の後ろ盾など必要が無い。故に王に媚びを売る必要もなければ、王の歓心を買う必要もない」


 俺が手下どもに土地の所有を認めてやってるようなことをしてくれないだろ? 俺は手下どもの土地や物が奪われそうになったり、不利益を被ったりした時は助けてやるけど、その代わりに金や物を寄越せって言っている。

 それに対して、アドラの王様は俺に何かあっても助けてくれなそうだし、そんな奴の下には付きたくないね。まぁ、山を越えた先を助けるってこと自体、大変そうだから仕方ないことなんだろうけどさ。


「その物言いは王に叛意を抱いていると捉えられるぞ」


 ラムゼイさんが俺を睨みつけてくるけど、全く怖くないね。俺をビビらせたかったらユリアスくらい強くなってくれよ。アイツがキレてたら俺は速攻で頭を下げ、その後で隙を伺ってぶち殺すけど、アンタなんかは隙なんか狙わなくてもぶっ殺せるぜ?


「どうぞ御自由に、爵位を貰ったからって従う筋合うはないんでね。俺に従って欲しかったら、見返りを用意するんだな。そうすれば、俺も配慮してやろうじゃないか」


 おっと、爵位は貰ったままにしてもらいますね。名乗る時にヴェルマー侯爵っていう身分があった方が良いしさ。だって今まで、ただのアロルド・アークスって名乗ってて格好がつかなったしさ。


「まぁ、俺も喧嘩をしたいわけじゃないということだけは理解してくれ。こちらにも多少事情があるんでな。面倒をかけてこないのであれば、こちらも面倒をかけるような真似はしない」


 単純にお金がないんですよ。ついでに収穫期を迎えて食糧の自給体制を整えないといけないし、そんな状況で面倒をかけられたくないんだよ。


「……わかった。しかし、貴公の発言は全て陛下に伝えさせてもらう。場合によっては爵位の剥奪もあることを忘れるな」


「好きにすればいい。なんなら、貴公の権限でもって、この場で俺の爵位を剥奪でもするのはどうだ? そちらの方が面倒が無いだろう」


 提案したもののラムゼイさんは何も言わずに俺を睨むだけです。もしかして、そういうことも出来ないような立場なのかな? 偉そうなことを言ってるけど、王様の命令通りのことしかできないのかな?


「所詮は使いっ走りか。もう、帰っていいぞ」


 俺がそう言うとラムゼイさん達は頭を下げることもなく玉座の間から出て行った。最後に『成り上がり者が』という吐き捨てるような声が聞こえた気がするけど、まぁ怒ることでもないから放っておこう。


「軍務卿は当てが外れたようですね」

「割とマジで信じらんないんですけど」


 ラムゼイさん達が出ていくと、ヨゥドリとエイジ君が二人揃って俺に話しかけてきた。


「御息女がアロルド殿の側室候補だから、多少なりとも自分に気を遣ってくれると思っていたでしょうね」

「あの人、ヒルダさんのお父さんですよね? 今後の親戚付き合いどうするんですか?」


 あぁ、そうか。聞き覚えがあると思ったら、ヒルダのお父さんか。そういえばソフィエルで名字が同じだもんな……って、ちょっとやべぇじゃん。俺、お義父さんに結構、偉そうな口を聞いてしまいましたよ。


「王国の上層部もヒルダ嬢とアロルド殿の関係を考慮して、ラムゼイ殿を寄越したんでしょうが。あまり良い人選ではありませんでしたね」

「今後、顔合わせる時気まずくなりません? 俺が同じ立場だったら、今すぐ謝りにいくんですけど。行かないんですか?」


 同時に喋るんじゃねぇよ。ヨゥドリの言っていることは俺にとっては重要じゃないのでスルー、エイジ君の方も、謝りに行ったら俺が悪いって全面的に認めることになるから、謝りにはいかないぞ。


「あの人も悪い人ではないんですが、王家と王国に対する忠誠心が強すぎて厄介なんですよね。国のために尽くさない人間は許せないって人ですから」


 ふーん、そうなんだ。別に俺はアドラ王国に対して何か企んでるってわけじゃないから、あんなに喧嘩腰にならなくても良いと思うんだけどね。まぁ、それよりも分からないことがあるんだけど。


「結局の所、奴らは何をしにきたんだ?」


 ごちゃごちゃと言っていたけど、良く分かんなかったね。


「アロルド殿と仲良くなりに来たんでしょうね」

「その割には態度が悪かったすけどね」


 それならそうと言ってくれれば良いよね。仲良くしたいって言うなら、俺は嫌とは言わないし、別に何か用意してくる必要も無いんだけど。


「なんとか優位に立ちたかったんでしょう。自分たちが上の立場だと思わせたくて、こちらに威圧的な態度を取っていたんだと思います。交渉を優位に進めるためにね」


 交渉? 俺を侯爵にしてやるから、その代わりに金を寄越せって話か?


「アドラ王国は話に聞いていた以上に限界かもしれませんよ? 追放したはずのアロルド殿に対して爵位を与え、領地の保有を認めてでも、味方に引き込もうと交渉してくるくらいですからね」


「その割には税がなんたらとかうるさかったがな」


「旧ヴェルマー王国領という広大な土地と、そこから生じる税収は魅力的ですからね。アドラ王国の経済を立て直すことが出来るのでは夢を見てしまうのも仕方ないでしょう」


 結局、金かよ。嫌だねぇ。まずは自分たちの力で状況を改善してから、人を頼ってくれませんかね? 夢を見るのは勝手だけど、夢は所詮夢なんだから、それに縋るのは良くないと俺は思うよ。


「爵位の剥奪とか言ってましたけど、どうなるんですかね?」


「それは絶対にないと思います。与えると言った物を、簡単に取り上げるということをすれば、王としての資質が疑われるので。

 それに、今のアドラ王家はアロルド殿と友好的な関係であると周囲に知らしめておく必要がありますからね。民から人気のあるアロルド殿と仲が良いとしておけば、王家も民から好意的に見られる機会は増えますし、アドラ王国国内の貴族への牽制もなるので、爵位の剥奪などをしてアロルド殿の機嫌を損ねたくはないはずです」


「王家に逆らうと、王家と仲の良い俺が出張ることになるぞってか?」


「まぁ、その通りです。王家がアロルド殿の後ろ盾になるのではなく、アロルド殿が王家の後ろ盾になっていると言っても過言ではないかと」


「一人の貴族に縋るしかない王家とか終わってません?」


 エイジ君がとうとう酷いことを言ってしまいました。まぁ、確かに終わっている雰囲気はあるよな。でも、こんなに簡単に国が駄目になるか? 誰かが意図的に悪い方向に導いてたりしないと、そんなに急に悪くはなったりしないと思うんだけど。


「まぁ、そんな状況なので、アロルド殿がヴェルマー侯のままなのは確定でしょう。それに、先ほどの会話がアドラ王に伝えられれば、アドラ王も我々に過度の干渉はしなくなると思います」


 そいつは良かった。俺らも今の所は準備期間だし、余計なことはしたくないんだよね。


「とはいえ、アドラ王の支配も弱まっていますからね。何が起きるか分からないので、色々と準備は必要ですし、本音はどうであれ、歩み寄りの姿勢を見せておくことは重要でしょう」


 そういうことは任せるよ。俺は人間をぶっ殺すのは得意だけど、そういう仕事は苦手だから得意な人に任せてるんで頑張ってください。

 俺はコーネリウスさん達と話す約束があるから、そっちの方を頑張りますよ。







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