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宣伝行脚

 どうやら南の方へ行くようだ。まぁ、どこでもいいんだけど。

 

 エリアナさんが言うには、王都周辺だと魔物の数が足りないらしく目立った活躍はできないという。それに比べて、王国の南部や西部は魔物が多く、人々も対応に苦慮しているので、冒険者の需要もあるらしい。エリアナさんは宣伝要員らしく、村や町で冒険者の業務について、説明をするとかなんとか。自分以外に人がいないというのでエリアナさんが行くという。大変だね。

 まぁ、そういう色々があるわけですが、俺には関係ないよね。適当に旅行しつつ、人助けして、お金を貰えば良いわけだし、特に何か考えることもないね。まぁ気にならないことがないわけでもないんだけど。南部は田舎みたいだし、都会っ子の俺に馴染めるかなぁって不安ぐらいしか気になることはないなぁ。

 そういえば、一緒に行くらしい、商人の護衛さん達の殺気が俺に向かっているのはどうしてだろうね。




 というわけで、旅立ち初日。


 王都を旅立つ馬車の中でのんびり過ごす。王都の周辺は平野で、特に目につくものは無い。道がちゃんとしているのと、遠くに食糧を生産するために作られた集落がいくつか見えるくらいだ。することもないので、オリアスさんから貰った箱の中を見る。箱の中は冷たかった。『冷却箱』というものらしい、冷却魔法をかけた魔石を部品に使い、箱の中を常に冷たい状態にしておくものらしいが、まぁどうでもいいか。箱の中には良く分からない液体が入った陶器製の小ビンがいくつかあったので、とりあえず一本開けて飲む。

 何が入っているかは知らないが、毒じゃないだろうと思って飲むと、意外に美味かった。若干、薬っぽい風味もするが、甘いし爽やかな味だ、それに口の中にシュワシュワとした感覚が残るのも、嫌いじゃない。色は黒いがまぁ気にしなければ平気だろう。


「それは解毒薬ですね」


 と、ビンの中身を飲む俺を見てカタリナが説明する。良く分からんが、解毒魔法をかけた魔石を粉砕し、水に入れ、煮ていると、そのうち魔石が溶けて、解毒の効果がある薬ができるらしい、以前までのオリアスは、そこでビンに詰めていたようだが、味が悪いという理由で、カタリナと司祭のおじさんが工夫したそうだ。

 なんだか面倒くさい話だったので憶えてないが、甘木という煮出すと甘い物の材料になる汁ができる木の枝と、ハーブや木の実を一緒に煮ると、こういう味になるようだ。シュワシュワしているのは、魔石を溶かしたためらしいが、理由はイマイチ分からないとのこと、現状では解毒の魔法をかけた魔石でしかシュワシュワとしないらしい。

 まぁ、どうでも良いよね。解毒魔法が使えれば、これいらないだろうし、とりあえず解毒薬は飲み物として利用することにしようっと。

 そういうわけで、俺は冷たい飲み物を片手に馬車の旅を楽しみました。そういえば、たいしたことではないけれど、俺の食事に毒が入っていました。臭いですぐに分かったけど、俺以外の誰も気づいていなかった。まぁ、毒が入ることだってあるかもしれない、あまりミスを責めて空気悪くしても駄目だし、俺以外の人の食事には毒は入っていないようなので、ここは見逃してあげても良いと思い、放っておきました。

 それはそれとして、解毒薬が美味いので、俺は結構幸せ。

 初日は、王都の近くの宿場町に泊まった。エリアナさんとカタリナが隣の部屋で、何だか楽し気に話している中、俺はエリアナさんが連れてきた奴らに、悪魔と戦った話とかしてた。だいぶ適当に話したが、どういうわけか、みんなキラキラした目をして、俺を大将とか言ってきて気持ち悪かった。




 二日目。


 朝起きて、目覚めの一本って感じに、解毒薬をグイッと飲む。朝食には今日も毒が入っていた。食事を用意している人間は毒を入れてしまうようなドジっこのようだ。ドジっこを怒るのも野暮な気がするので、放っておく。

 馬車で移動中、野盗に襲われたが全員ぶち殺した。剣で斬ろうとしたのだが、切れ味が悪いせいで全く切れず、棍棒のように殴り殺してしまった。

 剣は刃が潰れていたが、まぁ棍棒だと思えばいいので、放置することにした。野盗の剣もあったが、血がベットリと付着していて、ばっちい感じがしたので、それも放置。

 そういえば、商人の護衛の人のうちの一人が、矢で俺を狙って撃ってきた。飛んできた矢は掴んだので、問題ない。誰も気づいてないようなので、気にしたらいけないことだと思って黙っていることにした。

 一応、矢を撃ってきた奴に対して微笑んで、矢を返した。自分の物にするのも悪い気がしたんで。なんか、顔が引きつっていたが、俺が盗むとか思っていたんだろうか、失礼な奴だ。

 その日は野宿になった。食事は商人の護衛の人達が作ってくれたが、毒が入っていた、当然スルーして食べる。護衛の人達の顔が青くなっていたが、お腹でも痛いのだろうか。食事には気を使った方が良いぞ、俺は悪い物は食べないようにしているんだ。などと思いつつ、解毒薬を飲む。

 解毒薬がなくなってきたので、カタリナに相談すると、解毒薬はすぐに作れるとのこと、ありがたいと思い、何本か作っておいてもらうことにした。これで、解毒薬が枯渇することはないと分かったので、今後は遠慮せずに飲むことにしようと思いつつ、その日は眠った。




 三日目。


 朝食は商人の護衛の人達が作ってくれた。毒が入っていた。これだけ頻繁に入っているとなると、もしやこれは毒という名の隠し味なのだろうか。

 それとなく『隠し味に何を使っているんだ?』と聞いてみたら、護衛の人の顔色が悪くなった。もしかしたら秘伝中の秘伝とかなのかもしれない。話すわけにはいかない代物なのだろう。詳しく追及しても困らせるだけだと思ったので、微笑んで、もう聞く気は無いと安心させた。しかし、護衛の人の顔色は青くなるばかりだった。やはりお腹を壊しているのだろうか。

 俺は食後に解毒薬を飲んだ。やはり美味い。カタリナが作ってくれるらしいので、飲み放題というのもありがたい。この美味さを、人々にも教えたいものだ。

 馬車に乗って、ノンビリ進んでいくうちに、集落についた。魔物が出て困っているらしく、エリアナさんが冒険者の宣伝がてら、魔物の討伐を買って出た。魔物討伐の依頼の報酬についての目安を教えると、払えないこともないと、集落の代表らしき人が言っていた。この額で常にやってくれるなら、値段の交渉で折り合いのつかない場合も多い魔物専門の狩人に頼むより、安上がりだとかなんとか。

 まぁ、そういう話は俺には関係ないので、エリアナさんが連れてきた奴らと一緒に森の中に入って魔物を狩ることにした。エリアナさんが連れてきた奴らは、冒険者予定の奴らだったようで、オリアスから、ちょっとした魔法の訓練を受けていた。

 まぁ、大多数は役に立つのか分からないレベルで微妙な魔法だった。〈探知〉とかいう古式魔法を習得しているのも何人かいた。周囲の状況を何となく把握できるという魔法らしいが、強いのか弱いのかは分からない。俺はそういうのを使わなくても気配でどこに魔物がどこにいるかとか、周りの地形やら何やらどういうか分かるので、困らないし、必要ないので、いらないと思った。

 そんなこんなで、役に立たないのを何人か連れていったが、魔物はいなかった。代わりに見上げるほど大きな猪がいたが、これを集落の人間は魔物と間違えたのだろうか?

 早とちりも良いところだと思った瞬間、猪が突っ込んで来たので、突進を躱しつつ、猪の身体に飛び乗り、頭を掴んで、その首をへし折った。中々に頑丈な首だったため、新式魔法の〈ブースト)で身体能力を強化する必要があったが、苦戦というほどのものでもない。まぁ、所詮は獣だしな。

 獣を殺して、そのままというわけにもいかないし、猪は食べられるので持って帰るのもアリかと思ったが、それをする前に、冒険者予定の奴らが、猪に群がって腹を掻っ捌いている。気持ち悪いのでやめて欲しい。

 最終的に猪は見るも無残な有様になってしまったが、肉は少し残っていたので、ちょっと食べてみたところ、悪くは無かったので、冒険者予定の奴らにも食べさせてみる。

 食わず嫌いなのか、相当に嫌がっていたが、無理やり食べさせてみると、何人かはアリかもしれないというようなことを言っていたので、猪の肉を持って帰ることにした。

 どうしても食えないという奴らは『人を食らって生きる不浄なものの肉を口にするのはちょっと……』とか、俺には良く分からないことを言っていた。別に何食っている生き物だろうが、関係ないと思うんだけど、どうなんだろうな。

 そういえば、集落に戻る途中、毒針がどこからか飛んできたが、掴んで放り捨てた。どうでもいいことだけど。

 集落の人達は猪を狩って来たことに喜んでいた。魔物の話はどうしたんだろうかと思いつつ、夜には宴会みたいなことがあった。

 宴会中、商人の護衛の人達が隠れて俺の食事に毒をこれでもかと振りかけているのを見たが、あれだけ熱心に毒をかけるなど、どう考えても毒の使い方としてはおかしいと思うので、やはり毒という名の隠し味だろう。よくよく考えれば、俺には毒の症状とか何も無いしな。

 まぁ、それはどうでも良いとして、酒を解毒薬で割ると美味いということが分かった。食事中は、酒の解毒薬割りの配合を調整しつつ、何杯も飲んだ。冒険者予定の奴らや、集落の人にも飲ませた所、結構評判が良かった。あと、猪の肉は結構評判が良かった。冒険者が増えた時には、冒険者に肉の調達の仕事でも頼めばいいと言っておいた。雑用でも何でも報酬さえ貰えばやるだろうし。

 そんなこんなんで、夜も更けていき、酒の飲み過ぎで、酔っ払った俺は前後不覚の状態で眠りについた。


 四日目。


 特に何も無し。

 強いて言うなら、かなり飲んだにも関わらず、二日酔いにならなかった。どうやら解毒薬割りは、二日酔いにならないようだ。たぶん酒の毒を解毒薬が無くしてくれるのだろう。飲み物としてしか役に立たなそうだったのが、二日酔いの薬として役に立つことになるとは思わなかった。

 まぁ、そんな発見ぐらいしか無かった。当然、食事には毒という名の隠し味が入っていた。何を思ったか、ヤケクソになって、商人の護衛の人達が毒を俺の食事に入れていたが、気にすることでも無さそうだ。

 ああ、あと、回復薬はあんまり美味しくなかった。積極的に飲むことは無さそうだが、酒の割材としてはいいかもしれない。あとカタリナに教わったのだが、解毒薬はシュワシュワが抜けてから飲むのが、正しい飲み方らしい。俺がいつも飲んでいるのは、シュワシュワが抜けきっていないものだったようだ。言われた通りに飲んでみたら、甘いだけで美味しくもなんともなかった。俺はシュワシュワとしている奴を飲み続けることを心に決めた。


 五日目。


 特に何も無し。食事に毒という名の隠し味が入っていなかった。まぁ、それぐらいで騒ぐような男ではないので、黙っていることにした。

 何もすることがないので、風景を眺めた。森や林が見える。森や林を全部切り拓かないのは、それらが食糧やら何やらを得るための場所となっているからだとかなんとか、そういう事情もあるので、王都周辺の森林も全て伐採するわけにはいかないのだそうだ。地方も似たようなものらしく、森には魔物が出るが、森を切り拓いて、民の糧を失わせるわけにもいかないので、森に関しては放置せざるをえないとか。

 そんな話を聞いたけど、聞いただけで中身は理解していません。

 時折、野盗が襲ってきたけど、適当に拾った石を投げると、すぐに逃げていきます。根性ねぇなぁ。



 六日目。


 村に到着。

 ここも魔物に困っているという。魔物の討伐は年に何回か領主配下の騎士団がやってくれるらしいが、全く回数が足りてないらしく、魔物は増え放題だそうだ。死人や怪我人はそんなに出ないと言うが、それは行動を制限して魔物を刺激しないようにしているからだとか。そういう生活を長く続けるわけにもいかないので、助けて欲しいということらしいので、助けることになった。もちろん報酬はもらうけれど。

 そういうわけで、魔物を討伐し村の近くの岩場に来たけれども、やっぱり魔物じゃなく、デカいだけの只の蛇だった。たぶん家よりデカいんじゃないかな。良い物食べてるんだろうね、これだけ大きくなるんだから。

 一緒についてきた冒険者予定の奴らが、〈火球〉という古式魔法を連発していたが、あまり効果は無かった。途中、〈火球〉の形を槍に変えて、蛇の身体を貫いたり、色々と〈火球〉の形を変えて攻撃し始めて、多少傷を負わせられるようになってはいたが。しかし、魔法の形状を変えるとかどうやるんだろうね。俺は知らないんだけど。新式魔法だと〈ファイア・ボール〉とかは発動させると勝手に出来て、勝手に飛んでいくから、形を変えたりとか意味不明。

 そんなことを考えていたら、一人が食われそうになったので、蛇の頭を蹴り飛ばして、助けた。流石にそれだけでは、蛇は死にそうになかったが、剣を抜いて、即座に頭を叩き潰して殺した。まぁ、獣だし弱いのは仕方ないね。

 流石に蛇の肉は食いたくないので、俺は放置しようと思ったが、冒険者予定の奴らの一人が、蛇の皮やら牙が欲しいとか言うので好きにさせた。鍛冶屋の息子だったが、次男で家を継げなかったので、今のような生活になった奴らしいが、どうでも良い話だ。

 特に問題もなく、村に帰るとやっぱり歓迎された。楽勝だったのに、ここまで歓待されると俺も申し訳なくなってくる。村に泊めてくれるというので、村人の行為に甘えた。

 あと、ここでも酒の解毒薬割を進めた所、結構ウケが良かった。商人が、販売する時は一枚噛ませてくださいとか言っていたが、これは噛むものではなく、飲むものなので、『無理だ』と一言だけ言って断っておいた。



 七日目。


 近くの村からも俺たちに頼みがあると村人がやってきた。オークが近くの洞窟に住んでいるので、それを退治して欲しいとかなんとか。

 早速、近くの村に行って、洞窟へ向かう。別の村からも、助けを求める声があったので、冒険者予定の奴らは別の村に行っていて、俺一人だったが問題はなかった。今回はちゃんとした魔物らしく、ワクワクして洞窟に入ると、奥の方にオークが合計で十匹ほどいたが、全て剣で殴り殺した。俺の剣は刃が完全に駄目になっているので、鈍器として使ったのだが、これはこれでアリだと思った。

 帰る時、洞窟の入り口が崩れて埋まっていたが、これくらいで俺が生き埋めになるわけはない。体力に任せて、入り口を塞いでいる岩をひたすら殴り砕いて、入り口を開き、外に出る。

 外に出るといきなり矢の雨が降ってきたが、剣を振って矢を払う。矢を撃ってきたのは、商人の護衛の人達だった。オークが出てきたと思って、慌てて撃ってしまったのだろう。あまり責めては可哀想だと思い、何も言わず、安心させるために微笑んでやった。

 その結果、護衛の人達が斬りかかってきた。どうやら錯乱しているようで、状況が正しく判断できていないようだ。流石に一緒に旅をした仲間を殴ったりはできないので、とりあえず相手がへばるまで躱すことに専念して、俺は手を出さないように気をつけた。

 体力が無いのか、護衛の人達はすぐにへたり込んでしまった。まぁ、少しすれば回復するだろうと思い。放置して帰ることにした。

 村の人からオークを退治したことを感謝された、やはりここでも歓待を受けた。俺はいつものごとく解毒薬割りを布教しようと思ったのだが、回復薬割りもいけそうな気がして、布教よりも研究に熱意を向けた。幸い、俺以外の奴が広めてくれていたので、解毒薬割りの美味しさを知らない人間が出るということは無さそうだ。色々と研究した結果、回復薬と酒を素早く混ぜた物に解毒薬を静かに注ぐと、かなり良い味の物が出来ると分かった。今後はこれも布教していくことにしよう。




 八日目。


 商人の護衛の人達が消えたらしい。前金を貰っておいて、消えるとかとんでもない奴らだったようだ。何か心辺りは無いかと、商人に聞かれたが、心当たりは全く無いので、首を横に振る。

 こうなってしまうと、商人も可哀想なので、俺と冒険者予定の奴らで護衛することになった。エリアナさんは将来的には、こういう傭兵のような仕事をすることもあるから、別に構わないらしい。

 まぁ、そんなわけで、気を取り直して、俺たちは再び、旅路についた。





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