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ユリアスの魔法

 

「魔法技官というのはですね。ヴェルマー王国において魔法関係の技術者のことでして、その中でも高等技官である私は屈指のエリートであって――」


 ドヤ顔で自分のことを語ろうとしていたヤーグさんですが、俺とグレアムさんとヒルダさんが全くピンとこない様子だったので、必死に自分の凄さをアピールしようとしているけれど、良く分からん。

 だって、俺達は魔法の事とか良く分かんないしね。そういうのはオリアスさんとかキリエちゃんに話してくださいって感じです。


「もういいです。凄い魔法使いだと思ってくれれば結構」


 なるほど、凄い魔法使いか。それならそうと早く言ってくれればいいじゃんね。それだけで通じるのに余計な説明をするとか、コイツは頭が悪いんかな。


「で、魔法使いがユリアスの強さについて何を教えてくれるんだい?」

「とりあえずは奴の使う魔法にでも教えていきますよ」


 ユリアスの使う魔法かぁ。まぁ、知っておいた方が良いのかな?


「まず、奴が多用する魔法として〈念動〉があります。どんな魔法かというと――」


 ヤーグさんが視線を向けると、置いてあった酒瓶が浮遊し、ヤーグさんの手元に飛んでいく。


「こんな風に物を動かす魔法です。ユリアスは主に剣などにこれを掛けて、近接戦闘の最中に操った剣を背中にブスリという戦法を良く使いますね」


 なるほど、どこからともなく剣が飛んできたり、奴の小剣が勝手に動いて鞘の中に収まるのも〈念動〉の魔法によるものなのね。


「他に〈探知〉の魔法が使えますし、風と土の系統の魔法も得意です。特に風の魔法は厄介だと思いますよ。風を操って矢を避けたり、接近してきた相手を吹っ飛ばしたりとか色々とやってきます。他にも〈障壁〉の魔法で防御をするので、貴方たちが使う〈銃〉でしたっけ? あれくらいなら簡単に防ぎますし、魔法だって、奴に傷を負わせるなら、ある程度の威力が必要です」


「遠距離戦では有効打は与えられないと?」


 グレアムさんがヤーグさんに聞くけど、話しを聞いていたんですかね? ある程度の威力がある魔法ならダメージを与えられるって言ってたじゃん。


「まぁ、そうなりますね。皆さんもご承知の通り、ある程度以上の威力の魔法は発動までに多少の準備時間が必要なので、その時間でユリアスはいくらでも防ぐ準備ができますから。もっとも、発動の遅い魔法ではユリアスに当てること自体が難しいんですけどね」


 ほらな、俺の思った通りじゃん。だって、俺も魔法になんか当たりませんしね。ある程度の威力があれば大丈夫? 馬鹿野郎、そもそも当たらねぇんだよ、よく考えろ!


「それならば接近戦をすればいいのではないか?」


 ヒルダさんの意見に俺も賛成……いや、ユリアスと殴り合うのは絶対に無理。だって、あの野郎セイリオスより強くて速くて巧いんだぜ? 普通の奴が戦ったら十秒も持たねぇよ。ちなみに俺は結構耐えたので、凄いと褒めてほしい。


「それは自殺行為ですね。接近戦になると奴が最も得意とする〈強化〉の魔法が最大限に活きてくるので」


 〈強化〉? 〈強化〉の魔法なら俺も使えるぜ。


「身体能力を向上させる〈強化〉の魔法を使うと、ただでさえ手に負えない、奴の腕力や素早さがさらに向上するので、一瞬で殺されますね」


 そうでもないと思うけどね。実際、俺は耐えたしさ。まぁ、ボコボコにされたけど、でも人間の価値は腕っぷしじゃないと思うんだ。だから、腕っぷしで負けても恥ずかしいことなんて無いと思うのね。


「だけど、アロルド君は耐えたようだよ?」


 そうです、そのとおりです。頑張って耐えた俺を褒めてほしいもんですね。


「それはアロルド殿も〈強化〉が得意で、なおかつ肉体的な強さもユリアスに匹敵するからでしょう」


「その割には力負けする場面が多かったし、逆に勝つ場面もあったが」


 匹敵するっていうなら、いつも引き分けになっても良いんじゃない? そう思って聞いてみたんだけど、よくよく考えたら、匹敵するって等しいって意味じゃないよね。ユリアスが十の強さだとしたら、俺が九の強さでも匹敵すると言うよな。


「それは〈強化〉の仕方の問題の部分が大きいんじゃないですかね」


 そう言いながらヤーグは俺に近づいて手を差し出す。


「ちょっと、腕相撲をしてみましょうか?」


 怪我人を相手に何を言っているんだろうか、コイツは? そう思っている俺の傍でヒルダさんが小さな机を用意する。これは腕相撲をしないといけない流れなの。


「〈強化〉は自由に使ってください。私も使うので」


 まぁ、やる流れになっているのだから仕方がない。負ける気がしないし、やっても問題はないだろう。ヤーグさんの手を握るのは嫌だけど、それも我慢。そういうわけで、俺はヤーグさんと腕相撲を始める。


「じゃあ、どうぞ――」


 言われたので〈強化〉を使って、全力でヤーグさんの腕を倒そうとした。


「ちょ、ちょっと手加減を!?」


 〈強化〉で腕力を上げているのか、ヤーグさんの腕を一気に倒すことは出来ない。だが、あと少しで負かせる程度には俺の方が勝っている。だが――


「――で、ここからです」


 そう言った直後にヤーグさんの力が一気に増し、俺の腕を押し返す。俺も全力を込めているんだが、それでもヤーグさんの力は俺の力の上を行き、互いの腕が腕相撲を始めた位置に戻る。


「……あ、無理」


 最初の位置に戻った直後にヤーグさんの腕の力は急に落ち、俺はそれに合わせて一気に力を込め、ヤーグさんの腕を机に倒す。


「――とまぁ、こんな感じにユリアスの〈強化〉は一瞬の爆発力を重視しているんです。その方向性で行けば、非力な私ですらアロルド殿と一瞬だけ対等くらいの力を出せます。これがユリアスのように鍛え上げたものであるならば、更に強力な力を出すことができるので、アロルド殿が負けることもあるでしょう」


 ヤーグさんの腕の骨は折れているのかプラプラしている。そっちの方が気になって、何を話していたかはちゃんと聞いていられなかった。でも、これは俺が悪いわけじゃなく、俺の集中を乱しているヤーグさんが悪いと思う。


「では、俺が勝っていた時もあったのは何故だ?」


「それはアロルド殿の〈強化〉は長期戦型だからでしょう。

 例えばユリアスの強化は瞬間的に力を100上昇させるものの、そうでない時は30程度の上昇量だとします。

 それに対し、アロルド殿は常に60の上昇量なので、ユリアスが瞬間的に力を高めた状態でなければ、30対60なのでアロルド殿が勝利します。しかし、ユリアスが全力で動いた際には100対60なのでユリアスが勝ちますね」


 俺は長い時間、重い物を持っていられるけど、ユリアスは無理。だけど、一瞬持ち上げる程度ならユリアスは俺よりも重い物を持ち上げられるとか、そんな感じかな? それとも瞬発力重視と持久力重視って言えば良いのか? まぁ、なんでもいいか。


「まぁ、数値は適当なんですが、概ねこんな感じで〈強化〉の差があります。別にどちらか優れているかというわけでもないんですが、瞬発力重視の方が要所要所で相手を上回れるので、戦闘の際は有利ですね」


「では、俺は不利ということか?」


「はっきり言うとそうですね」


 そうですか、不利ですか。なんだか、元気がなくなってきましたね。だって、ヤーグさんは俺にとって嬉しくなるようなことを一つも言ってくれないんだもん。元気だってなくなるっての。


「何か弱点みたいなものはないのかい?」


 流石のグレアムさんもちょっと不安になってきたようです。


「強いて言うなら、魔力量が少なめなのと、魔法の適正の問題で強力な攻撃魔法が使えないことくらいですかね。なので、奴の攻撃を食らって一撃で全滅といった事態にはならないかと思います」


 それって弱点なのかな? 苦手分野を挙げてるだけじゃない? ちなみに俺も攻撃魔法は苦手です。つーか、全く使えない。出来るのは非常にヘボい威力の〈ファイア・ボール〉くらいです。


「魔法の適正というのは?」


「貴方たちが言う、古式魔法は個人の適正によって使える魔法が全く違うんです。ユリアスが適正のあった魔法は〈強化〉〈念動〉〈探知〉それと風と土の属性系統を幾つかで、ユリアスはそれ以外は全く使えません。

 一応、新式魔法も理論的には理解していると思うんですが、奴は魔力量が少ないので発動は不可能です」


 ふーん、そうなんですか。前にオリアスさんが言っていたような気もするけれど忘れてました。まぁ、そんなに重要なことではないと思うので、覚えておく必要もないでしょう。


「ちなみに、貴方たちの言う新式魔法を考案したのは私です。適正に左右される古式魔法の不便さを補うために充分な魔力量と適切な発動手順を踏みさえすれば、誰にでも使えるという魔法を目指したのが新式魔法なのです。まぁ、攻撃魔法や回復魔法などの汎用性に欠ける魔法しか使えないというのが難点ですがね」


 ふーん、そうなんですか。俺はあんまり興味ないなぁ。オリアスさんとかは興味があると思うんで、話すならオリアスさんとかに話してくださいね。


「いや、もう少し興味を持ってくれてもいいんじゃないですかね? 実は私って結構すごい人なんですよ?」

「そういう話をしたいならオリアスとしてくれ」


 俺らに話されても全くピンとこないんだよね。そういう魔法関係の話はさ。それよりも、思い出したんだけど――


「聞いておきたいんだが、俺がいくら殴ってもユリアスに効いていなかったんが、それは何故だ」

「単純に〈強化〉の質の差じゃないですかね」


 えー、そうかなぁ。だって、いくら殴っても痛い顔とかしなかったんだぜ? 魔法の差で片付けられる問題か?


「まぁ、レブナントは痛覚はないですし、疲れも感じないですから。本当は効いていた可能性はあると思いますよ。

 とはいっても、レブナントは頭を潰すか、胴体の魔石を砕かなければ死なず、その上どれだけダメージを受けても、動きが落ちることは無いですから、効いていたとしても意味は無かったと思いますよ」


 マジかよ。じゃあ、あの野郎、全然効かねぇとか言ってたけど、それって強がりだったってことか? でもまぁ、どんだけ殴っても痛かったりしないし、致命傷を食らわない限り、何ともないなら効いてないって言っていいのかな?


「とりあえず、こんなところですかね。他にも剣の腕が立つのと、投げ縄が得意だとか色々とありますが、私は武術関係はそこまで詳しくないので話せることは無いです」


 ……え? それだけ、魔法関係のちょっとしたことくらいしか分からねぇんだけど、そもそも勿体付けて話す内容だったか? なんか覚える必要がなさそうだったから、全く頭に入ってないんだけど。


「それで結局の所、ユリアスに対抗するための策や手段はあるのかい?」


 あ、それは俺も聞きたかったところです。ユリアスはこんなことが出来るんだよってことだけ聞かされても仕方ないじゃん。どうやって対策すればいいかを教えてくれよって話だよ。


「いやぁ、それは分からないですね。だって、私は基本的に研究者で文官ですから、戦いに関しては分からないんですよねぇ」


 そう言って、ヤーグさんは笑ってごまかす。うーん、この野郎、クソの役にも立たねぇんだけど。

 必勝法の一つくらい教えてもらえるもんだと思ってたのに完全に期待外れだし、ユリアスについては一体、どうすりゃいいんだろうね。

 まぁ、俺が考えなくても誰かが考えてくれるでしょう。誰かが冴えたアイディアを出してくれるのを待つのが得策だと思うんで、それまでユリアスの事は忘れて暮らそうかな?







別になくても良いし、短くしても良い話だった。こういうのを書いてるから話の展開が遅れるんだよな。

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