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ユリアス・アークス

 なんか、急に現れた男がドヤ顔してるのってムカつきません? 俺はムカつきます。ついでに、そいつの顔がさぁ。


「アロルド殿に似ている?」


 とか、そんな感じだと余計にイラっと来るよね。顔が似ていると親近感を持つみたいな話もあるけれど、俺の場合は同族嫌悪的な感じで同じような顔の奴は嫌いかも。


「似ている? 俺が? そこの坊ちゃんと? 笑わせんなよ、俺の方が遥かに美形だろ」


 あ、やっぱり似てませんね。自分の顔面を美形とか過大評価するアホとは全く似てません。あんな奴より、俺の方が身長もあるし、筋肉もついているのでカッコイイと思うんですが、いかがでしょうか?

 まぁ、見た目では俺の方が上って決着ついたから良いとして、この野郎はどこのどいつで何をしにきやがったんだろうか? 分からないので質問をしてみましょう。


「お前は何者だ? 何をしに来た?」


 質問はどんな低能でも答えられるようにシンプルにね。ただまぁ、俺の目の前にいる奴は、予想していた以上に低能なようだ。


「何者で、何をしに来たか?」


 オウム返しとは恐れ入るぜ。質問を繰り返すんじゃなくて、答えろってことなのが理解できないんでしょうかね。


「俺はユリアス・アークスという名のヴェルマー王国の騎士で、ガルデナ山脈の向こう側から、得体のしれない奴らがやって来たから、様子を見に来たと言えば、納得してくれるかい」


 へぇ、そうなんですか。じゃあ、悪い人ではないのかな?


「嘘だ! 殺し屋ユリアスがそんな理由でやってくるわけがない!」


 ユリアスさんの答えに否定の声をあげたのは、床に倒れるヤーグさんだった。ヤーグさんは顔面に短剣が刺さっているものの、それはレブナントにとっては致命傷ではないようで、元気に叫んでいた。


「嘘ってなんだよ。俺は本当に様子を見に来ただけなんだぜ。どこの誰がやって来たのかってを知りたくてさ。まぁ、それが俺の一族の末裔だとは思わなかったけどな。多分あれだろ、俺の弟が無事に逃げたとか、そんな感じか?」


 なるほど、俺とこのユリアスとかいうのはそういう血のつながりなんですか。じゃあ、遠い親戚って奴ですね。いやぁ、こんな遠いところまできて親戚が増えるとは思わなかった。


「様子を見に来ただけなら、私を攻撃する必要は無いだろうが!」

「無くはないなぁ。だって、お前、俺のことをクソ野郎と言ったろ。俺に対して悪口を言うとか絶対に許せないんだが」


 うんうん、悪口をいう奴は許せないよね。それは分かる。ムカつくことを言われたら、ぶっ殺したくなるのはしょうがない。けれど、心の中に留めておこうね。


「そこのお二人さん。二人で盛り上がるのは結構だけれど、この状況が見えているかな?」


 俺は傍観しているだけだけど、グレアムさんはユリアスとヤーグさんの間に入り込んだ。グレアムさんの言葉を聞いて俺も周りを見てみると、数名の冒険者が武器を抜いて、いつでも襲い掛かれるように準備をしている。


「ヤーグ殿への攻撃は、ヤーグ殿の自分への暴言を盗み聞きしたからということは分かったよ。それなら、今度は、我々に危害を加える気はあるのかというのみ聞いておきたいねぇ」


 グレアムさんが尋ねるとユリアスは俺たちに微笑みを向け、答える。


「まぁ、俺としては、別にどこの誰がやってきても構わないし、そいつらが侵略者かもしれないとかもどうでも良いし、ついでに何処かの誰かが裏切って侵略者と結託しようとも、それを俺がどうこうする義理やら必要性も無いんだよね」


 ということは、どういうことなんですかね。


「だけどまぁ、アレだ――」

「気をつけろ!」


 ヤーグさんが叫ぶと同時にユリアスの手が動き、それに合わせて冒険者とグレアムさんも反応し。行動を開始しようとする。だが、その次の瞬間には俺の首に先端を輪っか状にしたロープがひっかかっていた。


「ここで戦っておかないと、俺がヘタレと思われるし、それは嫌なんだよな」


 ユリアスの行動に遅れつつも、グレアムさんは自分が出来る最速の動きでもってユリアスに剣撃を放つ。しかし、ユリアスはそれを容易くかわし、俺に向けて言う。


「首は頑丈か?」

「それなりに」


 俺の回答を待たずにユリアスは先端が俺の首にかかったままのロープを手に、屋敷の窓から飛び降りた。部屋の位置が二回であるため、飛び降りたユリアスの重さがロープを伝わって俺の首にかかる。


「待ってろ!」


 冒険者の一人が、俺の首を締め上げるロープを斬ろうと剣を振り下ろすが、その刃はロープに弾かれる。どうやら、かなり特殊な素材のようで、切断するのは不可能に近いようだ。


「別に必要ない」


 首が締まってるのは多少つらいし、人間一人分の重さが首にかかっているのも多少つらいけど、まぁ我慢できる。ただ、普通の人間にやったらほぼ確実に死ぬようなことを平然とやる時点で俺に殺意があると分かる。となれば、こっちも優しく対応する必要はないように思うわけで。


「あちらがる気ならば、こちらもる気になって応じようじゃないか」


 首が締まってるので、ちゃんと言えたかは分からないけれども、とにかくやってしまいましょうと思います。なので、俺もユリアスも追って窓から飛び降りることにした。

 屋敷の二階なんて大した高さではないので、無傷で着地に成功し。首にかかっていたユリアスの体重も消える。


「おいおい、随分と頑丈な首だな。他の奴に同じことをやったら、首が千切れたのによ」


 随分と酷いことをしていらっしゃると思いながら、俺は首にかかったロープを外して放り投げる。


「この程度で殺せる相手としか戦ったことがないなら、たかがしれるな」


 俺は耐えられましたし、耐えられない人は根性が足りないんじゃないかな。見た感じだとユリアスは80kgくらいだし、首だけで80kgの物を持ち上げることが出来れば大丈夫なんだし、結構いけそうな感じがしません? ああ、でもユリアスは飛び降りたから最初にかかる負荷はもう少し大きいのかな?


「そうなんだよぉ。俺って騎士って言っても、あまり実戦経験がなくてさぁ。今もすげぇビビってるんだ。だから、しくじったかなぁって思ってたりしてさぁ。だから、今日の所は、謝るんで見逃してくれない?」


 むむむ、ちょっと調子に乗ってしまった感じの人でしたか。それなら責めるのはよくないかもしれない。じゃあ、謝ってくれるなら許してあげても――


「騙されるな! そいつはヴェルマー王国最強の騎士ユリアス・アークスだぞ!」


 ヤーグさんが窓から身を乗り出して叫んでいる。顔を短剣が刺さっていたのに元気なことこの上ない。まぁ、それは置いといて、最強の騎士だっけ? ユリアス・アークスが?


「いやいや、そんなことないって。アイツは俺が最強だって言ってるけど、実際の所……」


 言葉の途中でユリアスの姿が視界から消える。俺は咄嗟に剣を抜き放ち、防御の体勢を取る。


「――やっぱり俺が最強なんだよね」


 言葉の続きが聞こえると同時にユリアスが俺に攻撃を加える。咄嗟に抜き放った長剣が、ユリアスの一撃を偶然に受け止めた。正直、防御できるとは思えなかったので、かなり運がいい。


「最強の癖に騙し打ちか?」


 俺が最強だったら、そういうせこいことはしませんよ。真っ向勝負でぶち殺しますので、できればユリアスにもそうしてもらいたい。


「別にしてもしなくても俺が最強なのは事実だし、騙し打ちで相手を仕留めたからってこれまでの実績から俺が最強である事実は揺らがないんで、それなら騙し打ちでも何でも使って楽に仕留めたいじゃん」


 そうは言っても、俺は貴方の経歴を知りませんので、俺の中では貴方の株はダダ下がりなんですがね。


「ただまぁ、マジメにやっても変わんないんだけどね」


 ユリアスは剣を引き、俺から距離を取る。

 ユリアスが手に持つのは刃渡りほどの小剣、俺から距離を取ったユリアスは攻撃に使った右手のそれに加えて、同じ物を鞘から抜き、左手に持った。


「だって、俺はどうやったって最強だからな」


 最強最強うるせぇな。いい加減分かったんでもいいです。もしも、最強って言い続けてしまう病気なら、俺がぶちのめして治療してやるよ。俺にやられりゃ最強とは名乗れねぇだろ?

  割とやる気になってきたので俺は気合いを入れて剣を構える。すると、ユリアスは俺を小馬鹿にするような表情を浮かべ――


「おいおいやる気かよ。俺は最強だから逃げないけど、お前は弱いんだから逃げてもいいんだぜ?」

「そちらこそ、最強の名を惜しむなら逃げるべきではないかな。逃げたとしても、言いふらさないでおいてやるよ」


 流石にねぇ、弱いとまで言われたら我慢できませんよ。面と向かって馬鹿にしてくる奴なんて今までいなかった記憶があるけど、この野郎はそれをやりました。なので、絶対にぶちのめして、謝らせてやるよ。とはいえ、逃げるなら許してやる程度には俺にも慈悲っていうものがあるわけで、そういうことを伝えたかったんだけど、伝わったかしら?


「上等だ。俺に舐めた口をきいて、痛い目に合わなかった奴は少ないぜ」

「そいつはお優しいことだな。全員を痛めつけられない時点で、腕の程度が知れるな」


 ユリアスの殺気が高まるのが分かる。けどまぁ、こっちだって負けてません。さぁ、やってやるとしますかね。




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