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普通の町

 グレアムさんと生産性の欠片も感じられない会話をした後、村で夜を明かした俺たちは早朝に別の町や村を探して出発した。


「うわ、もったいねー」


 街道として使われていたであろう舗装された道を進んでいると、冒険者の一人が声をあげるのが聞こえてきた。何が勿体ないのかと思って声の主の視線の先を見ると、農地に使っていたような土地が目に入った。作物を育てているという感じは無いが、農地は丁寧に整備されているようだ。


「この土なら、量と質どちらもかなりの物になりますよ。この土で何も育ててないとか考えらんないくらいです」


 農業に一家言ある冒険者は土を舐めて確認した情報を俺に伝えてくる。土を食うとかミミズか何かですかって感じで、流石の俺もドン引きですが、世の中には色々な人がいるんだから、土が大好物の人がいたっておかしくないし、そういうことで引いたりしたら可哀そうだよね。


「さっきの村の感じを見るに、作物自体は枯らしてしまったみたいすけど、レブナントは耕す作業とかは問題なく出来るみたいなんで、農地自体はそれほど荒れてないようです。多少手を入れなきゃならんところはあるでしょうけど、手間はそんなにかからないはずです」


 そうですか。俺は農業とかは全く分かんないので、分かる人が上手くやってくださいって感じです。まぁ、やるにしても今じゃないけどね。だって今は忙しいし。


「魔物が少ないからかねぇ。アドラ王国よりも農業が盛んだったようだね」


 魔物がいると危ないから畑とか広げられないし仕方ないよね。西部と南部なんかは魔物が特に多かったし、大変だよね。その点、この辺りは魔物が少ないし住みやすいかも。現にヴェルマー王国領に着いてからは魔物に襲われてないし。アドラ王国だったら、何回か魔物に襲われててもおかしくない程度の距離と時間を歩いているのにね。


「気候も良く、土地も良い。自分の物にするならば、アドラ王国よりもこちらのほうが良い場所だな」


 俺の言葉に、冒険者連中とグレアムさん達の目つきがヤバくなる。ヒルダさんは特に何も考えてない感じで、俺の言葉に頷いてくれている。グレアムさん達の雰囲気を見るに何か良くないことを言ってしまったのかもしれないんで、ちょっと気前の良いような感じのこと言っておこうと思う。


「まぁ、この地を手に入れたとしても、俺一人では全てを管理できんかもしれんからな。多少は誰かに任せねばならんところもあるだろう。しかし、誰に任せるべきだろうか?」


 なんとなく冒険者連中を見る。良く分からんけど期待感が感じられますね。何を期待してるのかは分からんけど。まぁ、期待感を持って生きるのは大事だよね。


「なるほど、アロルド殿がこの地の支配者になれば、冒険者も土地持ちか地主か、もしかしたら貴族になれるんだな。立身出世の可能性があるとは素晴らしいことだな」


 ヒルダさんが大発見をしたような口調で言う。

 へぇ、凄いなぁ。冒険者から貴族とか夢がある話だなぁ。まぁ、俺には関係ありませんけど、だって生まれた時から貴族ですし、貴族になれるって言われても羨ましさとか感じません。だって、皆が憧れてなりたがる貴族に、既に! 生まれた時から! なってますしね。


「閣下、この先に町があります」


 先行して様子を見に行っていた冒険者が戻ってきて俺に報告してきたので、質問してみる。


「どんな町だ?」

「外壁で囲まれた一般的な都市です。規模はキルゲンスと比較して少し小さいくらいでしょうか」


 キルゲンスと比較されても俺ってキルゲンスの全容とか知らないんだよね。記憶にあるのは城壁に大砲を撃ったり、投石機をぶち込んだことと、燃え盛る街並みの中を冒険者連中を引き連れて、敵兵を殺しまわっていたことくらい? それ以外は屋敷でダラダラと過ごしてただけだし、殆ど記憶にない。

 つーか、あちこち歩いてるのに旅の思い出が血生臭い物しかないぞ。どこに行っても、だいたい戦ってるし、どうなってんのって聞きたい。世間一般の人はもう少し平和に生きてると思うんだけど、なんで俺はいつも戦ってるんでしょうかね。


「では、そこをるか。村を一つ落とした程度が土産というのも物足りんだろうからな」


 それなりに大きな町を落としたとか言えば、エリアナさんも喜ぶでしょう。俺は綺麗な女の子を喜ばせるのが好きなんで、そのためにはちょっとくらいは頑張りますよ。


 ——で、ほどなくして、報告にあった町に到着しました。まぁ、町と言っても城壁に囲まれてるんで、結構大きく見えますね。まぁ、そんなことより入り口はどこでしょうか? 大きな門が見えるので、そこでしょうか。


「門番が四人ほど見えます」

「そうか、処理は任せる」


 手下が報告してきたので、そのまま問題の処理は任せる。すると、冒険者の数人が馬を下りて徒歩で門番に近づいていった。

 レブナントの門番は近づいてきた冒険者を認識すると武器を構えるが、冒険者が両手を挙げて敵意の無いことを示すと、門番は武器を下ろす。


「ふむ、生前の行動を真似るのは間違いないようだ」


 そりゃあね、門番だからって問答無用で町に入る人間を攻撃するわけはないよな。まずは話を聞くとかするか。

 レブナントの門番は冒険者たちの素性を確認するような仕草を見せると、ほどなくして町の中に入っても良いと言いたいのか、中に入るように促す動作をする。その直後に、冒険者たちは四人の門番を始末する。レブナントの門番たちは武器も構えず、完全に油断していたために何の抵抗もできずに倒れるしかなかった。


「思ったよりは賢くあるが、それと同じくらい鈍くもあるな」


 門番がいなくなったので、俺たちは悠々と門へと近づく。


「村で見た奴らよりは、頭が良いのは間違いないかと。適切な行動を取れば、戦闘は回避できますね」

「向こうは喋っているつもりなのかもしれないんすけど、発音が不明瞭なんで奴らの言葉を聞き取るのは難しいっすね。ただ、発音の明瞭さに関しても個体差があるんで、マトモな会話が出来るのも何匹かはいるかもしれないっす」


 門番を始末した冒険者たちの話を聞きながら門をくぐり、町の中に入る。すると、そこにはありふれた街並みがあった。

 まともな町だ。街中の様子はアドラ王国とそれほど変わらないで、なんというか面白みがない。一応は異国なので、なんというかこう、すっごい感じの町を期待していたんだけど、普通の町だ。

 レンガや石を積んで建てた家や店舗に、道は石畳で舗装されている所もあれば、土を固めていたりするところもある。そして街中には人の姿がちらほらと——まぁ、レブナントなんですがね。とはいえ、奴らが住人として、それっぽく過ごしているので、なんとなく普通の町に見えてしまうわけです。


「なんだか気持ちが悪いな」


 ヒルダさんが言った言葉に俺も同意。なんか、等身大の人間を使った人形遊びを見てるみたいな感じなんだよね。これが動物のぬいぐるみだったら可愛げもあるけれど、可愛げのない人間だからね。


「確かにな。とはいえ、まだ片付けるのは無理だろう」


 最初の村の時みたいに皆殺しにするにしても規模が違うからね。一気に片付けるには人がいるだろうか無理臭いよね。


「それに、片付けるのは得策じゃない可能性もあるしねぇ」


 グレアムさんが辺りを見回しながら言う。


「最初の村と違って、この町は都市の機能を維持できてるようだし、それをレブナントが担っているのなら、片付けると町を維持できなくなるかもよ?」


 維持と言われても良く分からん。俺がなんとなく分かるのは、この町が相当昔の物なのに荒れ果てていないことくらいだ。そんでもって、それは町の建物とか道をレブナントが生前の行動の繰り返しで直してるとかそういうことなんかね? 


「そうだとしても、ここを手に入れるならば、奴らは邪魔だな」


 建物を直したりとかは、別にこいつらでなくても出来ると思うので、やっぱりいらんだろって感じ。俺達がやってくるまでの間、町の整備をしてくれてありがとうございます。後は俺たちが自由に使うので、お前らは消えてください。ここに居られると空気悪くなるんで。


「しかし、片付けるにしても数が多いねぇ」

「そうだな」


 じゃあ、やめよう。別に今すぐ居なくなってもらいたいわけでもないし。片付けるのは、もっと大人数で来た時で良いんではないでしょうか。


「町の様子を見て回ったら帰るか」


 もう、やることもないし、食料も少ないんで帰っていいでしょう。つーか、帰りたい。だって飽きちゃったしさ。一応、異国の地みたいだから、なんかこうワクワクするような物があるかと思ったら割と普通だし、アドラ王国とそんなに変わらねぇんだもん。飽きたって仕方ねぇじゃん。


「あまり見るべきものもなさそうなんだが」


 ヒルダさん、そういうことを言うのは良くないと思います。どんなクソ田舎にも見所の一つくらいはあるだろうからね。そういうのって、俺達みたいな都会人からすると、大したことがない場合が多くいけれど、現地の人には凄い物だったり誇りだったりするから、そういうのを否定すると現地の人の価値観やら誇りやらを踏みにじるからやってはだめだよ。


「確かに見て回る価値はなさそうだ」


 あ、思わず本音を言ってしまいました。まぁ、しょうがないよね、だってマジで見るもんないし。市場はあるけれど、レブナントが品物が無いのに買い物の動作をしているだけだし、それ以外はしょぼい家と、しょぼい教会くらいしかないんだもん。あぁ、後はアレがあるか。


「屋敷が見えるな。あそこに行くか」


 町の奥にある高台に大きな屋敷が見えるので、とりあえずそこに向かうことにする。アドラ王国とたいして変わり映えのしない町の中を見て回るよりかは、そっちの方が面白いことがありそうな気がするしさ。





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