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聖神の徒

 思ったより強そうだな。


 俺が二人の聖騎士を見た感想はそんなものだった。

 片方は背が高くて剣と盾を持っている。とりあえずこちらはノッポとしておこう。

 で、もう片方は剣を右手、メイスを左手に持っている。こちらは太めの体格なのでデブってことにしておこう。

 ノッポもデブも言うほどノッポでもデブでもないけど二人を表現するのに適当な言葉がないのだから仕方ない。


 まぁ、呼び方はどうでもいいとして結構手ごわそうなのが問題なんだよね。

 見た感じ血まみれだし、ここに来るまで相当殺してきたんだろうけど、傷を負っている様子はないし全部返り血なんだろう。ということは一方的に殺しまくれる程度の強さがあるってことだよね。

 まぁ、俺も同じことができないとは思えないし、強さで俺が負けてるってことは無いと思うから大丈夫だとは思うんだけど。


「待て、誤解がある! 私たちが敵対する理由はないはずだ!」


 ヒルダさんがそんなことを言っていますが、それって俺らの視点でしか物を見てないよな。正確には俺たちの方は戦う理由が確実に無いってだけで、向こうの事情は違うかもしんないよね。あの二人がヒルダさんに恨みを抱いているかもしんないわけだしさ。ちなみに俺はノッポとデブの二人とは初対面なんで恨まれるようなことは絶対にしていません。


「理由ならばある。貴様らが邪悪な輩である可能性が僅かでもあれば、我らはそれを滅するだけだ」


 ノッポが俺に剣の切っ先を向けながら言う。


「この混沌とした状況を作り出した黒幕が貴様らでない可能性は如何ほどある? 神の目は正しく、邪なものは滅せられる。逆に善なるものは我らの裁きを受けたところで神の加護によって守られるのだ。我らは疑わしきものを神の代行者として裁きにかけるだけ。その結果は神が示してくださる」


 デブがちょっと正気か怪しい目でそんなことを言いました。

 よかった、話は出来るみたいだぞ、意思の疎通ができるかは怪しいけどな。

 まぁ、俺も意思の疎通ができてるか怪しい時あるし、お互いさまだね。


「神が間違うことは無いのか?」


 俺はちょっと気になったので聞いてみました。

 別に悪意があったわけじゃないけど、俺がそんな質問をしたら二人は凄い眼で俺を睨みつけてきました。

 なんとなく聞いてみただけなのにキレるとか、やっぱり意思疎通ができない人たちだぜ。

 まぁ、そういうのは最初から理解していたので、失望やら何やらはありません。


「間違いがないなら、それでいいさ。それだと俺がお前らを殺しても正当化されるわけだしな。俺がお前らを殺せたらお前らは邪悪ってことになるし、神の代行者と騙っていたことになるのだからな」


 死んだ奴が悪い奴っていう論法だとそうなるんじゃないかな?

 神様が間違いないなら、死んだ奴が邪悪って神様が判断したってことになるしさ。

 自分たちは死んでも悪くなくてってなるのはズルいと思うから、そういうのはやめにしようね。


「ほざくが良い、我らには神の祝福がある。邪な者が我らを傷つけることはかなわ――」


 なんか言っているけど、それを無視して俺はそこらに転がっていた死体をノッポに向けて蹴っ飛ばした。

 鎧を含めて数十キロはあるけれども、それは俺にとってはたいした重さじゃないわけで、俺が蹴っ飛ばした死体は勢いよくノッポに向かって直撃する。


「神の祝福がある割には、随分とみっともないザマだな。祝福があるというのは騙りか? 滅ぶべき邪悪はお前らなのかもしれないな」


 ノッポは飛んできた死体自体は盾で防いだものの、勢いまでは防ぐことができずに尻餅をついていた。 


「お前らが神の代行者ならば、お前らがみっともない姿を晒すのは任命者たる神の見る目のなさを露呈させることに繋がると分かっているのか? ああ、そうか、分かっていないから、そんな恥ずかしい姿を見せてなお、平気な顔をしていられるんだったな。俺がお前らの立場だったら代行者に選んでくれた神に申し訳なくて既に自分の首に剣を突き立てているだろうよ」


 俺は絶対にそんなことはしないけどね。

 でもさ、コイツラが期待を裏切っているのは事実だと思うよ。神様ってのがどんな人か知らんし実在の人かも分からないし、もしかしたら空想の中のお友達かもしんないけど、それでも期待を裏切るような真似をしてはいけないと思うので叱っておきました。

 こう見えても俺はそれなりに立場がある人間ですからね。言葉に重みがあると思うんです。だから、コイツラも俺の言葉で考えを改めてくれると――


「殺す」


 はぁ? なんだテメェ、俺がせっかくお前らのことを思って助言をしてやったていうのにお礼を言うどころか殺すだと? 俺の方がテメェらを殺してやろうか?


「アロルド殿、あまり向こうの感情を逆なでしてはダメだ」


 なんだよヒルダさんまでさ。

 俺は逆ギレする奴の方が悪いと思うよ。なんで我慢できねぇのって言ってやりたいよ。

 俺なんか何を言われても我慢してるぜ。たぶん我慢してるはず。おそらく我慢していたような記憶がある。もしかしたら我慢してなかったかもしれないけど、お前らは我慢しろって言いたい。 

 つーか、逆なですんのが何で問題なの?


「向こうはこちらを殺す気で来ているんだ。そんな輩に気を遣う必要があるのか?」


 無いと思うけど、どうなんだろうね。俺は答えを持っていませんので分かりません。


「いや、だが――」


 ヒルダさんが何か言おうとしていたけど、俺はそれを無視して剣を振る。

 その理由はノッポの聖騎士が斬りかかって来たので、それを迎え撃つためだ。


 俺の左側から袈裟懸けに放たれる剣の一撃を、俺は左手に持ち替えた剣で弾き上げ、その隙に即座に空いている右拳でノッポを殴りつける。だが、俺の拳はノッポの持つ盾によって防がれノッポまでは届かなかった。


 そして俺の反撃がノッポに防がれると同時にデブが横合いからメイスで殴りかかってきた。

 タイミング的には問題なく対処できるわけだけども、俺がどうこうしなくても大丈夫です。

 だってヒルダさんがいるしさ。


 ノッポに反撃した俺を攻撃しようとしたデブという良く分からない構図に、さらにヒルダさんが加わる。

 ヒルダさんは俺に攻撃しようとするデブの動きを遮るように横合いから、細剣で突きを放つ。その軌道はデブに当てるものではなく、デブの眼前を通り過ぎるものだったが、それでもデブの動きが一瞬止まり、直後にヒルダさんへと向かう。

 その間にノッポは俺から飛び退き距離を取っていた。となると距離的にはノッポよりも途中で俺への攻撃を止めてヒルダさんの方に向かうデブの方が近いんだよな。でも、デブの方に体を向けるとノッポの方に背を向けなきゃならないわけで――


 ――でもまぁ、それもたいした問題じゃないな。

 せっかく二人いるんだし、可能な限り二対一になる状況を作った方がいいよね。一人より二人の方が強いってのは常識なわけだしさ。

 そういうわけなので、俺はデブの方に向き直り、デブに向かって距離を詰め斬りかかる。

 俺の背後にノッポが近づいてくる気配がするけど、それに関しては俺が捌けばいいだけだし。


 俺が攻撃を仕掛けてこないと思っていたのかデブの方が驚いた表情を見せる。

 デブの方は慌てて剣とメイスを交差させ俺の剣を防ごうとするが、そんな物で止められると思っているとか頭が悪いなぁと思いつつ、全力で剣を振り下ろす。俺はそれでぶった斬れると思っていた、だが――


「ぐぅうぅぅぅぅ!」


 デブは俺の剣を二本の武器で受け止めていた。

 なんとも珍しいこともあるもんだ。体も武器も無事で済むとか俺が戦ってきた奴の中じゃ滅多にないことなんだよな。こいつが凄いのか武器が凄いのか良く分からないけど、まぁ、耐えられても一瞬なわけで。

 俺はこいつを仕留めるために腕にさらなる力を込め、同時にヒルダさんもこいつに向かって細剣で突きを放つ。ヒルダさんの方も覚悟が決まっているのか突きの狙いのは首のようだった。

 ――と、そこに背後からのノッポの気配がする。ノッポの方の狙いは俺のようだったので俺は危ないからデブに構うのはやめて、即座に背後のノッポに向き直る。

 目の前で背中を見せるのも危ないような感じだけども、デブの方はヒルダさんの方を防がなきゃいけないので、背中を向けてる俺を攻撃する余裕はありません。俺はデブをヒルダさんに任せてノッポの方に向き直ると同時に、その勢いを乗せて剣で横薙ぎに振る。


 結構な力を込めた一撃だったのだけれど、ノッポは左手に持った盾で防ぐ。

 普段だったら盾ごとぶった斬れるか、上半身がちぎれ飛ぶか、盾を持った腕が引きちぎれるか、折れるかするんだけども、どういうわけかノッポの聖騎士は体勢が崩れるだけで済んでいた。不思議なこともあるもんだね。

 どういう理由かは分からないし考えても仕方ないので気にしないことにして、とりあえず体勢が崩れたノッポの腹に蹴りを叩き込む。剣は振り抜いてしまってるし、戻してるうちに体勢を戻されても嫌なんで、手っ取り早く蹴りを入れてやったわけです。

 これに関しても食らうと一発で死ぬ人間が多いのだけれども、ノッポは死なずに数メートルほど吹っ飛んで床の上を転がるだけのようだ。


 まぁ、頑丈な人間もいるんだなと思い、俺はヒルダさんに任せていたデブの方に目を向ける。

 見ると、デブはヒルダさんの細剣をメイスと剣で上手く防いでるようだった。腕力と武器の関係上、守りが薄い所さえ防げばヒルダさんの細剣は痛くないし、全身鎧を着ているデブとは相性が良くないね。とりあえず頭を防いでいれば即死は防げるし、激しく動き回っていたらヒルダさんは関節とかの守りが薄い所を抜けないわけだしさ。


 とりあえず、このまま戦っていても決着がつきそうにないので俺は助太刀しようと思い動き出すことにした。ヒルダさんの攻撃もデブの攻撃をお互いにちゃんと当たってないわけだし、俺が行って手伝った方が良いでしょ。


 俺が動き出すのが見えたのかデブの表情に焦りが浮かぶ。お仲間のノッポはちょっと動けなさそうなんで完全に二対一のわけだから、諦めてくれると面倒が無くて助かるんだけどな。二対一に勝つのは厳しいと思うしさ。

 だけど、そんな俺の思いとは裏腹にデブは何かを決心した表情になり、諦めの言葉とは別の言葉を吐いた。


「聖神ヲルトナガルよ、我に加護を」


 どこかで聞いたことのある名前をデブが口走ると、その直後デブの武器が眩い輝きに包まれた。

 そしてデブが輝きに包まれた武器を振るうと、それに合わせて武器から光の刃が走る。


「くっ」


 予想外のことにヒルダさんが慌てて後退した。

 俺の方はというと、後退したヒルダさんを追いかける形になっているデブの背後を突くために走り出していた。

 俺は一気に距離を詰めると全力で剣を振り下ろす。武器は凄くなっているようだけども、使っている人間はたいして変わっていないようなので問題はないと思って攻撃したわけだが――


「我らには神の加護がある」


 咄嗟にデブは俺の方を振り向き、振り向きざまに自分の身を籠手で庇った。

 そんなことをすれば籠手ごと腕を斬って終わりのはずだが、それができなかった。

 俺の剣撃はデブの腕一本で防がれていたからだ。


「無駄だ!」


 うーん、防具も凄くなってるってことかな。でも、無駄ってことは無いと思うんだよな。

 俺は即座に剣を戻すと、反撃として振るわれたデブのメイスを掻い潜りデブの横腹めがけて剣を横薙ぎに払う。


 ――手ごたえはなかった。なかったけれども、だからどうしたという感じに鎧に叩きつけた剣を振り抜く。

 俺の腕力だと人間くらいは簡単に吹っ飛ばせるので当然デブも飛んでいき、その飛んで行った先にあった壁に激突した。


「聖神ヲルトナガルの加護を!」


 声がした方を見るとノッポが立ち上がっていた。

 ノッポの剣はデブの武器と同じく眩い輝きに包まれている。まぁ、だからなんだって気もするんだよな。

 武器が光って、武器を振ると光の刃が出る。んでもって鎧が頑丈になるってくらいか? 俺からすると、うん凄いねってくらいの感想しかないかな。別に不死身になるわけでもなしビビる要素の方が少ないよ。

 壁への激突からようやく復帰したデブが頭から血を流しているところを見ると、首から上が潰せば終わりそうだしさ。


「見るが良い。聖神がその真名を明かした聖騎士の力を。我らこそが地上における神の代行者である!」


 名を明かしたって何だろうね? ヲルトナガルっていうのが聖神の名前なの?

 つーか、今まで自分の名前も明かさずにいた神様とか良く信用できるねっていうか、頼ろうっていう気持ちになるよね。まぁ、世の中にはそういう人もいるってことだからむやみに否定はしないよ。


「なんだ、その力は! それにヲルトナガルとは何だ!」


 ヒルダさんが何か言っていますけど、良く分かりませんね。

 聖神教会は有名なんだし、その神様がヲルトナガルって話なんじゃないの?

 俺は知らんけど、そんなことを知らないとかヒルダさん常識が無いんじゃない?


「ヲルトナガルとは聖神の真名。我らの信仰が遂に届き、神は我ら聖騎士のその真名をお教え下さり、そして輝く剣の秘儀を授けてくれたのだ」


 はぁ、そうなんですか。

 なんか現実感がない話をされるとついていけなくなるよね。

 妄想なんじゃない?って言ってやりたいけど、実際に剣が光ってるしなぁ。

 でも、光る剣を出してからのノッポの目は正気じゃないように見えるし、真面目に受け取るのもちょっとなぁ。


「覚悟するが良い邪悪なもの達よ、神の剣が貴様らを討つ!」


 ノッポが叫びながら、俺に向かってくる。

 やっぱり動き自体は変わってないんだよな。だから、まぁそんなに対処するのは大変じゃないだろうけど。

 そんなことを思いながら俺はノッポの剣を自分の剣で受け止める。問題なく受け止められるだろうと思い、俺はそんな行動を取ったのだが――


 俺の剣がノッポの剣に弾かれた。


 技術によって弾かれたのではなく、単純に力で負けて弾かれたような感覚だった。

 力負けするのは滅多にないことなので、ちょっと驚いているとノッポが続けざまに剣を振るってくる。

 当然、俺はそれを防がないと斬られてしまうわけだから、持っている剣で叩き落とそうとするのだけど、俺の剣がノッポの剣とぶつかり合う度に俺の剣が力負けする。


「どうした!」


 なんかノッポが調子乗った感じになったので黙らせようと思い、剣を振った時の隙を狙って顔面を思いっきり殴ってやった。

 これで死なない人間は珍しいのだけれどもノッポはよろめきだけで済んでいた。そして体勢を立て直すと再び俺に向かって剣を振る。

 だが、そこに横合いからヒルダさんが細剣で突きを放ちノッポの動きを邪魔してくれたので助かった。

 そして俺は攻撃のタイミング崩れたノッポの隙を狙い全力で剣を振り下ろす。


「無駄だ!」


 俺の振り下ろした剣はノッポの持つ盾に防がれる。それならそれで思い切り振り抜いて体勢を崩させればと腕に力を入れようとするが――


 盾に触れた瞬間、俺の中の力が一気に抜ける。


 本来の半分も力を出せないと感じたので、俺は即座に剣を引き守りの構えを取るとノッポが剣を突き出してきた。

 盾から剣が離れると俺の身体には力が戻り、問題なく動けるようになったのだが、その剣は躱すことができず。剣で受け止める他なかった。

 俺の剣とノッポの剣が交錯し鍔競り合いの状態になる。すると、先ほど盾に剣が触れた時と同じように俺の身体から一気に力が抜ける。

 正確には力が抜ける感覚というより、俺の身体を覆っている何かが削れているような感覚というか。前にもどこかで味わった記憶があるような無いような。オワリに銃で撃たれた時、鎧に弾が当たった時に似ているような気も――


 そんなことを考えていたら、ノッポが持っていた盾で思いっきり殴られた。

 普段なら余裕のはずだが、どういうわけか妙に効くせいで意識が持っていかれそうになる。

 それによって剣を握る手に力が入らず、ノッポの剣に押されて弾き飛ばされた。


 ノッポから離れると身体の状態は元に戻り、飛びそうだった意識もスッキリするが、その時にはノッポが俺の眼前に迫っていた。完全に隙を晒した形だが、まぁ大丈夫。

 俺に迫るノッポを邪魔するようにヒルダさんが立ちはだかってくれたしさ。


「やらせない!」


「邪魔だ!」


 ノッポがヒルダさんを薙ぎ払うように剣を振るうが、ヒルダさんはその剣に対し躱そうとするのではなく前方へ転がり、横薙ぎの剣の下を掻い潜った。そして前方に転がった勢いでノッポの脇をすり抜け、そのすれ違いざまに鎧のすき間を狙ってノッポの膝に細剣を突き刺していた。

 走っている最中に膝を貫かれたことで、ノッポは激しく転ぶ。対してヒルダさんは起き上がり、ノッポにとどめを刺すために近寄ろうとするのだが――


「邪悪なるものどもめが!」


 遠距離にいたデブが手に持った剣から背中見せていたヒルダさんに光の刃を放つ。

 そのままだったらそれを食らって死んでいそうだったので、自由に動けそうだった俺がその間に割って入り光の刃を掻き消すため剣を振る。


 光の刃に剣を当てた感触は剣を防ぐ時と同じ感じだった。

 俺は特に問題も感じず光の刃を掻き消した。別にたいしたことをしたつもりはないのだが――


「アロルド殿!」


 ヒルダさんが心配してくれたのか、俺の方を見てしまいました。

 それは良くないと思うんだ俺は。だってノッポが起き上がってるしさ。

 そこでヒルダさんもようやく気付いたのか、ノッポの方に視線を戻すが時すでに遅しという感じでノッポの攻撃を許してしまいました。

 ノッポの振るった剣をかろうじて自分の細剣で防いだものの、力負けしてしまったヒルダさんはノッポによって吹っ飛ばされる。ついでにノッポの剣を防いだせいで脆い細剣はぽっきりと折れてしまったようです。

 まぁ、ヒルダさんの方は床にたたきつけられたくらいで大怪我とかしてなさそうだから良しとしましょう。


 とりあえずヒルダさんは戦力として数えられなくなってしまいました。さて、どうしましょうかね。

 まぁ、やることは決まってんだけどさ。とりあえず、ノッポかデブの片方をぶった斬るなり殴るなりしようかな。


「残るは貴様だけだ。覚悟するが良い」


「俺が一人だけ・・じゃなく、俺が一人いるのに、何を覚悟すれば良いのか理解できないな」


 だけって表現だと俺一人じゃたいしたことないみたいじゃない?

 俺が一人いるほうが大変だと思うんだけど、見解の相違があるんでしょうかね。

 つーか、俺がお前らみたいなカスに負けるかよ。常識で考えろよ。


「抜かせ!」


 ノッポの方が来るかと思ったけど先にデブの方が俺に向かってきます。

 ノッポの方はわずかに呼吸が乱れているようで大変そうです。俺としてはもう少し鍛えた方が良いと思うぜ。

 まぁ、俺としてもデブの方が先に来てくれる方がありがたいしさ。だってノッポの方は盾持ってるから攻撃しても簡単に防がれちまうし防がれると力が抜けちゃうで、ちょっと戦いにくい。その点デブは両手に武器だし、そうそう簡単に攻撃を防がれることは無いと思うからさ


 デブは走りながら俺に向かって光の刃を放ってくるが狙いが甘いので避けるのは容易い。すると、少し体力が回復したのかノッポの方も俺に向かってくる。

 二人を同時に相手にするのは嫌なので、俺の方がノッポから遠ざかりデブの方に近づいていく。できれば素早く済ませたいところだね。実は結構、身体能力を強化する魔法を連発していたから魔力切れが近いんだよね。それなりに使えるようになってきた〈弱化〉も奴らには通りが悪いし、なんか変な力で守られてるんじゃねぇかってくらいに全体的に硬いし困ったもんだぜ。

 まぁ、それでもやりようはあると思うけどさ。ちょっと考えたことあるし試してみようと思う。


 デブと俺の距離がつまりデブが剣で俺に斬りかかってくる。当然、剣は光っていて触ると俺の力が抜けてしまうという仕様。とはいえ、それでも防がないというわけにはいかないので、俺は振るわれた剣を自分の剣で防ぐ。すると、連続してメイスが振るわれるので俺はそれを躱す。流石にメイスを受けると完全に体勢が崩れちゃいそうなんでメイスは避けます。まぁ、剣でも体勢が崩れるけど。


「動きを抑えろ!」


 ノッポがそんなことを言っていますが、それはこいつには無理だと思うよ。

 やっぱりこいつも疲れてきてるようで、攻撃に精細がなくなっているようだしさ。

 俺くらい体力をつけた方が良いね。未だに息一つ切れてませんよ、俺は。


「裁きを受けよ!」


 デブが焦れてきたのか攻撃が大振りになってくる。

 デブは剣とメイスの二本を同時に俺に向かって振り下ろしてくる。大振りで躱すことも簡単そうだったけどそれを俺は敢えて受け止めた。当然、光る剣とか効果で俺の身体から力が抜けるが、まぁ、それでも大丈夫だろう。

 俺はデブが振るった二本の武器を剣で受け止め、俺とデブは鍔競り合いの状態になる。

 そうなると同時にデブの顔に勝利の確信が浮かんでくる。さっき、俺が明らかに力負けをしたのを見ていたからだろう。まぁ、そうだろうね、武器に触ったら力が抜けちゃうみたいだしさ。でもさ――


 それなら武器に触らなければ良いじゃん。


 俺は鍔競り合いの状態から剣を握る手の力を緩め、わざと剣を滑り落としながら、体の重心を移動させる。すると、急に俺という力を拮抗させる存在がいなくなったことで、デブは二本の武器で空を切り、前のめりに体勢を崩す。それと同時に光る武器から離れたことで俺の力が戻る。


 デブは慌てて俺の動きを追おうとするが今からでは遅い。

 俺からするとようやくといったくらいの速度で向けてきたその顔に俺は拳を叩き込んだ。

 やはり何かが邪魔して拳の威力がちゃんと伝わらないようだ。これが加護なのかどうかはわからんけども、殴りにしか効かないとか不便極まりないよな。

 俺は大きなダメージはないが顔面を殴られたことで体勢を崩したデブに組み付く。鎧に剣を叩き込んだ時は力が抜けなかったため、鎧に触っても問題はないということ分かってる。

 俺は組み付いた姿勢からデブを思いきり投げ飛ばし床に叩きつける。そのとき、デブの倒れる姿勢がうつぶせになるようにする。


「きさ――」


 デブが何か言おうとした瞬間に俺はうつぶせに倒れたデブの背中に馬乗りになるとすぐさま、その首に両腕を巻き付け一気に締め上げる。いくら加護があっても筋力では俺には全く及ばないわけだから、この状態になっては逃げる術がない。


「貴様!」


 この声はノッポのものだ。

 脚を負傷しているせいで、動きが遅くようやくといった感じで俺たちの側まで来ていた。

 当然、俺の邪魔をするために攻撃しようと剣を振り下ろすが、俺だって甘んじて受けるつもりはないわけで――


 俺は首を締め上げているデブの身体を起こし、ノッポの剣に対する盾とする。

 で、そうしてうえでわざと斬りやすいように、頭だけを晒してデブの首を締め上げた状態で座る。

 完全に隠していると躊躇なくデブごと俺を斬る選択を取るだろうが、俺だけを斬る方法があるのではという状況なら一瞬の躊躇が芽生えるだろうと思ったわけで――


 実際その思惑は当たり、ノッポは俺の顔を見てほんの一瞬だけ戸惑った。そして、その一瞬の戸惑いの後、デブもろとも俺を斬るために剣を振り下ろす。だが、俺には一瞬で充分。

 俺は〈ブースト〉の魔法で身体能力を上げるとデブの首を締め上げる腕に力を入れて一気にへし折ると、続けざまに首をへし折ったデブの死体を突き飛ばし、剣を振り下ろそうとしていたノッポにぶつける。

 それなりの重量のものがカウンター気味にぶつかったノッポは勢いに負け、体勢を崩して尻餅をついた。


「重心が高いと転びやすいな」


 ノッポは自分に覆いかぶさるデブの死体をどかそうとするが、その動きは致命的に遅かった。

 俺は捨てた剣を拾い上げ、尻餅をついた状態でもがくノッポの首めがけて、その剣を振るう。


 俺の剣がノッポの首に食い込むと、それは僅かの抵抗もなく、その首を斬り落とした。

 これにて聖騎士二人の裁き完了って感じかな。俺がこんな奴らに負けるわけねぇし、当然だな。


「神は邪悪なものを罰するそうだが、どうやら俺は邪悪じゃなかったようだ。お前らはどうだったんだろうな?」


 死んだ奴に聞いても意味ないだろうけど、どんな反論が出てくるのかは気になる所だな。

 俺が正しいと認めてくれるといいんだけど、どうだろうね。期待しても良いんじゃないでしょうか?








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