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エリアナという少女1

「エリアナ、君との婚約を破棄させてもらう」


 恋人の肩を抱き、取り巻き達と共に私の前に立つウーゼル王子は、婚約の破棄を伝えた上で、私を自分の取り巻き達と一緒になって糾弾する。周囲には他の学生も大勢いるが、状況の異常さに口を挟めない。

 糾弾の内容は、私がとある女生徒に対し、陰湿な嫌がらせをしていたというものだった。その女生徒というのは、ウーゼル王子に肩を抱かれているイーリスだ。イーリスは俯き肩を震わせている。女の私から見ても、その姿は、一見すると、儚げで守ってあげたいと思わせるものであった。女の私でさえ、そんな風に思うのだから、ウーゼル王子を含め、その取り巻きなどは、もっと強くそう思っていることだろう。

 そんな光景を見て、私が思ったことは――――





 おまえら、ふざけんなよ





 ないわ。ほんとにありえないわ。こういうのをなんて言うのかしらね、飼い犬に手を噛まれたといえば、いいのかしら?

 イーリスさん、私言ったわよね。別に殿下と恋人関係になるのは良いって、私と王子は政略結婚なわけだし、愛情が通うのは諦めてるから、その代わりに、恋人ぐらいは自由にさせてもいいと思って、貴方と王子が、親密な関係になるのを許していたはずよね?

 私が王妃になるのを邪魔しなければ良いって。将来的には、側室になるのだって許すつもりだとも言ったわよね? 子どもだって好きに産めば良いとも言ったわね。そこまで譲歩したのに私に対する仕打ちがこれ? どういうことかしら、説明を求めるわ。

 もしかして、私が厳しくしたのを根に持ってる? それは仕方ないわよ。

 私が王妃になった際には後宮で、私の派閥に属してもらうのだから、田舎の男爵令嬢のままじゃ困るのよ、貴方って私に比べると能力低めだし、容姿だって可愛らしいけど、私のような絶世の美女ってわけじゃないでしょ? そうなると少しは賢くなってもらわないと、後宮じゃやっていけないのよ。


「エリアナ、私は非道な行いをするものは妻にはできない。人の心を傷つけるような者を、私は愛することはできないよ」


 大丈夫です、王子。私も愛していません。

 王妃の地位が欲しかっただけなので。もっと正直に話すと権力が欲しかっただけですから。王妃の座と、私の地位を盤石にするために世継ぎが出来れば良いだけですので、子どもが出来れば、後はイーリスさんとイチャイチャしていて良いですよ。

 私としては、人から敬われ、畏れられ、優越感を得られるような、権力者の地位が得られれば満足なので、それさえくれれば、後はどうでも良かったんで、夜伽だって、愛の無い交わりでも構わなかったのだけれど、それを取り上げてくるとは、グヌヌ。

 いいんですか、殿下? そっちのイーリスさんより、私の方が素晴らしいですよ。『お』っぱいが大きい、『か』おが良い、『し』りの形が良いと、私が自分の中で定めている美女の条件の『お』『か』『し』を完璧に満たしていますよ。というか、私って国で一番の美女ですからね。これは自慢ではなくて、事実ですから、オーホッホッホッ。って、現実逃避してる場合じゃないわ、このままだと極めてヤバい状況になるわ。

 場の雰囲気的に、私が悪者になりそうだわ。


 こういう時に、優しくしていた私の取り巻きズは、何をしているのかしらって、隅っこの方で怯えてるじゃない! 頼りにならないわね。やっぱり、ちょっと頭が足りなくて使いやすそうなのを手下にしていたのは間違いだったかしら。まぁいいわ、駄目なら駄目なりに平和に生きなさい、厄介ごとに巻き込まれても貴方たちの能力じゃ、どうにもならないから、普通に幸せに生きなさいな。私は普通に生きれなさそうだけど。


「君が、これまでに行ってきた非道は既に学園の理事たちにも伝えた。ほどなく君は、この学園を去ることになる。君がいると、他の生徒にどんな悪影響が出るかは分からないからだ」


 ちょっと待て、クソ王子。それじゃ私が適当などっかの領主貴族の嫡子をたらしこめないじゃない。どうすんのよ、予備のプランとして、どこかの領主の奥方様になって、思うままに権勢を振るうという計画はどうなるのよ!

 マズいわ、すっごくマズイ。なんとか挽回しないと、そう言えば、イーリスさんって婚約者がいたわね。アロルドくんだったかしら、アロルドくんとイーリスさんとか、全く釣り合わないわね。アロルドくんなら、もっと良い娘が見つかりそうだけど。

 まぁ、それは置いといて、今は、この状況をなんとかしないと。すでに色々と決定しているなら、今はどうにもならないわね、悔しいけど。

 ここで、みっともなく泣きわめいたりすると印象が悪くなるわ。それ以前に、私自身が、そんな恥ずかしい真似したくないだけなんだけどね。

 ここはカッコよく、悲しいけれど毅然とした態度で決定を受け入れる悲劇の令嬢スタイルで行きましょう。苦しそうな顔をしつつ、微妙に涙を出しながらって具合に。涙なんて、自由に出せるわ。女の武器だし、泣いている女に手を出せない甘い男とかいっぱいいるので、かなり強力な武器よ。


「そうですか……では、失礼いたしますわ、殿下……」


 抗えない力に屈して、肩を落として立ち去って行く感じは完璧ね。

 もう流石、私って褒めたいわね。完璧過ぎよ、オーホッホッホッ! うん、なんか場の空気も私に微妙に同情的な感じになってるわね。そりゃ、そうね。なんか勢いで私が悪者みたいな感じだったけど、王子たちも相当におかしいからね。

 なにせ、今現在、肩を抱き身を寄せ合っている二人って、どっちも婚約者がいる身だからね。よくよく考えると印象悪くない? どっちも寝取ったみたいで。私のこの状況なんか、イーリスさんが私から、王子を寝取ったとか、思われてもおかしくないし、王子の方だって、アロルド君から婚約者を寝取ったみたいだし。なんか物凄く不義理よね。ついでにイーリスさんと王子を援護するために集まった取り巻きさん達が、男ばかりというの、イーリスさんの不貞を疑われそうね。

 なんだかんだ言っても、清い感じに見える女性の方が好かれるし、男性の影は極力抑えるのが人気を維持するために重要なことなのよ。

 ちなみに言っておくと、私は寝取るほうよ。処女ですけどテクニックは完璧。もしもの時のために、色々と勉強しているので。流石は私、完璧ね、オーホッホッホッ。ああ、あと、処女は一回限りしか使えない、強力な武器なので温存するわよ。使うタイミングが重要だからね。


 と、こんな形で私の婚約が破棄された場面は終わりになるわね。まぁ、大した問題じゃないわ。まだ挽回できると思っていたの、この時は。

 ああ、言っておくけど。王子とイーリスさんは許さないわ。私を公衆の面前で虚仮にしたんだから、後で思い知らせるわ、私の前で跪かせて許しを請わせてやるわよ、必ずね、オーホッホッホッ!



 そうして失意の令嬢というフリをして家に帰った、私。公爵家の力があれば、なんとかなるだろうとか思っていたけど、甘かったわ。着の身着のまま、家から放り出されたの。

 理由? イーリスさんに酷いことをしたって、私の兄が告げ口したのよ。あのボケ、イーリスに同情してるみたいで、父に包み隠さず話しやがった。というか、微妙に大袈裟になってるし。父は兄の報告を聞いて、私を公爵家の恥だと言ったわ、それに公衆の面前で婚約を破棄されるような娘は外聞が悪いということで、縁を切るとも。これって、絶対に王子が何か圧力かけたわよね。身内を切り捨てるって、一長一短なのよね。父も割と駄目な方だから、そういう機微には疎いし。

 短期的には身内びいきをしない公正な人間とは思われて、評価を高めるかもしれないけど。長期的には情がない人間と認識され、頼りにするには不安が残る人物だと思われて、人の集まりが悪くなるわ。

 私だったら、身内に甘くするわね。そうしたら身内に甘い人物は無能だと勘違いした俗物が寄ってきやすいもの。

 私、俗物大好き! 無能が多い癖に、お金持っている人多いし、富を吸えるだけ吸ったら、後はポイね。なんか色々言ってきても、口封じすれば良いわけだし。向こうだって、それを理解したら、忠誠を尽くすようになるし、素晴らしいわね。

 まぁ、それはいいわ、私を捨てるってことが、どういうことなのか思い知らせてやるわ。絶対に復讐してやるわよ、お父様、お兄様。あとで泣きついてきても知らないわよ?


 そういうわけで、家を追い出された私。

 いくら私でも、着の身着のまま、一文無しで家を追い出されたら、どうにもならないわけで。何か家から金目の物でも貰って来たら良かったわね。まぁ、これって遠まわしに野垂れ死ねってことでしょうし。

 今後の生活を考えた上で、私はとりあえず、娼婦にでもなろうかしらと思ったわ。なんで、娼婦?と思うかもしれないけど、私の美貌があれば、王国一の娼婦になるとか余裕ですから。それに処女ですよ、処女。それに元貴族とか、そういうのが好きな人にはたまらない付加価値です。私を買う値段の上昇は留まることをしらないって感じになるわよ、間違いなく。

 最終的には、裕福な商人の妾にでもなって、商人が死んだら、私が、その家を乗っ取り、権力を握るわ。私は手段を選ばない女だから仕方ないわね。


 まぁ、そういう感じで計画を練っていたら、思いもかけない人に出会ったの。それはアロルド・アークスくん。


 速攻で猫を被って、『アロルド様』とか儚げな感じで言ってやったわ。物心ついた頃から猫被って生きてきた私には余裕よ。

 アロルドくんのことは結構気になっていたから、それなりに知っていたわ。なにせ私の婚約者のウーゼル王子がどういうわけか、嫌っていたし。子どもの頃に溺れていたのを助けてもらったっていうのに不義理な話よね。もしかしたら嫌っていたからアロルドくんの婚約者を寝取ったのかしら、そう考えると凄くカッコ悪いわね。

 私は事情を聞いてくるアロルドくんに婚約を破棄された話をしたの。そうしたら、アロルドくんは特に何も悩まずに、私について来いと言ったわ。

 私が知る限りではアロルドくんは情に厚い方という話だし、行くあてもない女の子、それも私のような美少女を見捨てるようなことは無いと思ったので、素直について行ったのよ。


 そこから、私とアロルドくんの日々が始まるわけだけれど、最初はアロルドくんに関して、そこまで期待していなかったの。まぁ搾り取れるだけ搾り取って、後はポイしようと思ったわ。でも、すぐに私は考えを改めることになったわ。

 アロルドくん最高!って方向にね。










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