捨てられた世界で、責任をとろう
なんか、未だに説教中ですよ。流石に俺も本気で怒られているのが分かってきました。半分寝てましたが、まぁ悪いなって気がしてきました。
あと、常識というものを教わっているんですけど。あまりにも普通のことなんで、聞く意味があるのか疑問なんですが。
「分からないことがあったら、ちゃんと分からないと言おう。めんどくさかったり、質問するのが恥ずかしくても、分からないことをそのままにしないように。分かったふりが一番駄目だからな」
そうだな。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とか、そんな言葉を思いついたぞ。まぁ、分からないことがあったら、聞くとしよう。
「人の話しをよく聞いて、話しをしよう。真面目な顔して頷いているだけでは駄目だ。話しの内容を理解せず、適当に相槌を打っているなど、もっての外だからな」
そうだな。ちゃんと相手の言っていることを理解するのは大事だな。当然のことだ。
「周囲の人の顔色を気にしよう。お前を見て顔色悪くしてたり、引きつった表情になっていたりする人は、お前の行動がおかしいと思っているからだからな? 今更、一つ一つやってはいけないことを細かく説明するのも無理だから、とにかく周りの雰囲気を見て自分の行動が少しずつおかしいことを自覚しよう」
そうだな。変なことをしたら、周りが気づくものだしな。そうやって自分が変な目で見られていることを自覚することで、常識を学べるというものだ。
「目立つことは避けよう。なるべく、おとなしく生活すること。今の所、お前の何をしでかすか分からない男という評判によって、お前の国―――アドラ王国の貴族連中の多くは手を出すのを控えているけど、今後、何が起こるかは分からない。追放された伯爵家の令息と公爵家の令嬢が、示し合わせたように一緒にいるんだ。警戒されない方がおかしいんだ。今後、どうなるか分からない以上、貴族連中を刺激しないように、目立たずにいろ」
そうだな。俺も目立つのは好きじゃないような気がする。できれば、こう、一番奥の席に座って、おとなしく酒か茶でも飲んでるほうが良いからな。
「ほかにも色々あるが、とりあえず今の所は、これぐらいだ。最後に言っておくことは、知り合いとは仲良くしよう。色んな奴と仲良くなることで学べることもあるからな」
それは、知り合いが俺の事を好きかどうかにもよるな。俺の事を好きな奴は俺も好きだぞ。俺の事を嫌いな奴は俺も嫌いだけど。
「じゃあ、エリアナとかカタリナと仲良くしてやれ。あの子ら、理由は色々とぶっ飛んでるが、お前のこと好きだから」
マジかぁ、じゃあ仲良くしよっと。
「軽いぞ。ていうか、いつからカタリナ呼びだよ」
おっぱいと尻を触って、これはアリだなって思った瞬間からだよ。
「理由が下衆なんだよなぁ。まぁいい、とりあえず、俺が言ったことを実践すること。お前がすぐに出来るようになるとは思えないんで、毎日とはいかんが、時々お前をここに呼び出して説教なり指導なりするから、そのつもりで」
いいぞ。なんか生まれて初めて、ちゃんと話せる相手に出会った感じだし、意外に悪くないんでな。
「お前が、普段から頭で考えていることの半分でも喋れてれば、状況は全く違うんだけどな。これも混乱の呪いの影響か? 頭で考えていることと、口の喋りの繋がりが悪いようだし。まぁ、思っていることが口に出ていたら、もっとトラブルが多かったから、結果的にはいいのか」
もう終わりなら、さっさと帰してくれませんか。飽きてきたんですが。
「まだ話しあるからな。今度は、お前が既に起こしたことの始末をどうつけるかだ」
えー、面倒だなぁ、帰らせれくれませんかね。
「いや、無理だからな。お前、責任を取るってことも学ぼうな」
それは、なんか勢いでヤっちゃった女の子に言うことですね。それは俺も余裕で責任取れますよ。子どもだってバンバン認知しますよ。まぁ、今まで、そういう機会はなかったんですけど。
「そういう話しじゃねーから! とにかく、これを見ろ」
なんか、そう言ってハルヨシ?は、池に小舟が浮かんでいる風景を俺に見せてきます。小舟には金髪の子どもと、黒い髪の子どもがいます。いやぁ、黒い方は俺によく似てますね。
「黒い方はお前な。金髪の方はお前から婚約者を奪ったウーゼル殿下な。これから、とんでもないことが起こるから見ておけよ」
おっと、黒い方が小舟の上をフラフラと歩きながら、池の中を覗いていますよ。おや、金の方が止めようとして黒いのに手を伸ばしますが、黒いのに避けられました。
うわぁ、どんくさい。避けられた拍子に金の方が池に落ちました。とろいなぁ。おや、黒い方が池に落ちた金髪の頭を掴んで、顔を池の中へ抑え込んでいますね。なんか、黒い方が言っています。
『はは、真冬に水泳とは酔狂ですな、殿下。水泳は良いですが、それでは駄目です。まずは水に慣れませんと。ほら、こうやって顔を水の中へ」
なんだ、水泳の練習だったのか。いやぁ、早とちり早とちり、しかし金の方は駄目だなぁ。一分くらいで息が続かなくなって、もがいてやがる。黒い方も大変だぜ、いちいち頭を持ちあげて息継ぎさせてやんのも面倒くさいだろうに。その度に暴れるから、頭を沈めさせんの手間取るし。
「いや、傍目から見たら、殺そうとしているようにしか思えないから! 溺れさせようとしてるからな、これ!」
おっと、水に慣れるのは終わりか? 黒い方が、金の方を軽々と持ちあげた。
『では、実践をしましょう。私が最後まで、しっかりと見届けますので、どうぞ水の中を御堪能ください』
黒い方が金の方を投げ飛ばしました。いやぁ、軽いせいか、良く飛びますね。金の方は見事に着水、すっげぇ、もがいてます。あれで水泳やりたいとか、頭が悪いのかしら、親の顔が見てみたいね。おや、金の方が動かなくなりましたよ。溺れたんですかね。黒い方が自分も池に入って助けに行きました。黒い方は見事な泳ぎで、金の方を助けました。いやぁ、立派立派。
「おまえ、これ自分のことだぞ! つーか、事実をキチンと把握しろ!」
ふむ、黒い方が金の方を背負ってどっかに帰りますね。どこに帰るのでしょうかって、親父の領地の屋敷じゃねーか! もしかしなくても黒い方は俺じゃねーか!
「だから、言ってんじゃねーか! さっき人の話しをよく聞けって言ったよな! まったく出来てないじゃねーか!」
おや、なんか色んな人が俺を取り囲んでいますね。子どもの俺が何か説明してますよ。
『溺れていた所を助けました』
なんか、そう言ったら、周りの人々が俺の事を褒めたたえていますね。昔の俺が褒められているのを見るのも良いものです。なんか、俺の勇気とか、忠誠心とかを褒められてますね。
「みんな、すっごい勘違いしてるからな、これ。お前の国の国王とかもお前の勇気を讃えているけど、お前に全ての原因があるぞ。父親についてお前の家に来た王子を、お前が無理矢理連れ出して、護衛の目とかかいくぐって池で遊び始めたんだからな。それなのに、お前があまりにも堂々としているんで、王子が一人で池で遊んでたって思ってるからな、事情を知らない奴らは」
おや、場面が変わりましたね。金の方がベッドで赤い顔をしながら苦しんでいますね。
「真冬の池で溺れかけたんだ。風邪ぐらいひく。お前はピンピンしてたけどな! ちなみにコレが後々、マズいことになる出来事だ。風邪だけだったら良かったんだが、この後、王子は免疫力が弱っていたせいか、他の病気も発症し、高熱を出して数日寝込むことになる。ちなみにお前はピンピンしてた」
身体鍛えてましたから。病気になんてなったことありませんよ。
「この時は病気になっても勝手に抜け出した王子の自業自得って感じで終わったんだけど、実は誰も気づいていないが、大きな後遺症が王子に残ったんだ」
誰も気づいてないんなら、別に問題なんじゃないんですかね。
「いや、問題あるからな。つーか、ヘタな怪我よりも大きな問題だ。数日間、高熱に侵されたお前の所のウーゼル王子は種無しになった」
そりゃ、大変ですね。子ども作れないのかぁ、困るね、それ。
「淡々としてんじゃねぇよ! 今は誰も気づいてないし、王子を種無しかどうか調べるような、不敬なことをする奴いないから、公になってないが、後で跡継ぎ問題とか絶対揉めるからな、これ! ついでに言うと、お前、ウーゼルの弟の方も似たような経緯で種無しにしてるからな! お前一人で王家潰しかけてんだからな!」
王家を打倒した男とか良い響きですね。男ならば、そうありたいものだ。
「とにかく、このせいでアドラ王国は将来、絶対に荒れる。間違いなく人口減だ。それにアドラ王国が荒れれば、南にある帝国が王国に攻めてくるんで、人口減は加速する。人口が減ると、俺の上司の力が落ちるんで、上司が不機嫌になるから、それはやめて欲しい」
人なんて減っても、そのうち増えるもんでしょうに。
「それでも、急に減ったりすると面白くないんだとよ。細かく説明するのも面倒だが、俺の上司は人間を対象に力を得るタイプらしい、人口とか生活満足度とか文明の発達レベルによって、力を増していくらしくてな。現状では、この世界は人が少なすぎて、駄目なんだと。この世界は三百億人までなら問題なく生きさせることができるキャパシティがあるから、とにかく人を増やせと。戦争もベビーブームが起きそうなら、やっても良いけど、奴隷が増えるようなのは駄目だとさ」
何を言ってんですかね、この人は?
「俺も何を言ってんのか分からんけど、とにかく内乱はヤバいので、お前が責任をとって何とかしろってことだ。内乱が起こっても、早期に終結させることができるように準備をしておいて欲しいというか、そういう努力をしろ」
まぁ、頼まれたからには何とかしましょう。困っている奴を助けるのが人の道って奴だからね。
「人の道とは言うが、お前が無自覚にしでかしたとんでもないことが巡り巡ってお前に返ってきてるだけだからな。他にもいっぱいあるからな、次は教会関係な」
教会ですか……『教会に行くのは今日かい?』とか、思いついたんですが、どうでしょうかね?
「お前が司教を追い込み過ぎたせいで、発狂した司教が悪魔を呼び出したのは、知っていると思うが、それが、もとで教会の派閥争いが、貴族連中も巻き込んで表面化しだすだろうよ。
お前が自分の側に回ってくれたから、お前がデブ司教と呼ぶ奴は強気に出られたんで、それが全ての引き金だな。お前が、もうちょっと思慮深く立場を明確にせずにいたら、あの司教も動かなかったろうよ。追放されたとはいえ、お前がアークス伯爵家と関わりがあると勘違いした結果だろう。お前の言葉がアークス伯爵家の総意に聞こえ、何かやってもアークス伯爵家が守ってくれると思ったんだろうな」
なんだか、むずかしい、はなしです、ぼくには、よくわかりません。
「結局、お前に泳がされたと思った司教は、最終手段で悪魔を召喚して、全てを無かったことにしたかったようだが、結局、無駄に終わった。革新派の司教が邪悪な悪魔と契約をしていたというとんでもない醜聞が広まるのは間違いないだろうし、それを材料に守旧派と守旧派を庇護する貴族連中は革新派を糾弾するだろう。まぁ、革新派と革新派を庇護する貴族は反発するだろうから、荒れるだろうな。今後はどうなるかは分からんが、守旧派の貴族と、革新派の貴族で内乱になるかもな。そうなったら、宗教戦争ってことで、凄まじく荒れるだろう。なんというか、お前が問題で、すでに内乱の種が二つ芽吹きそうなんだが、責任取れよ」
いやぁ、面倒。神様の話しでそんなに盛り上がれるとか凄いね。あれって、妄想でしょ。俺、直接見たことないし。
「まぁ、この世界は、お前らが言うような神的な存在を設定してないから、本当にいないけど、あんまり、神様を否定するようなこと言うなよ。現状、この世界の文明レベルだと神様が存在することが前提になってるんだからよ。神を信じないとか、神を冒涜するような発言をすると生きづらくなるから止めとけ。まだ、この世界には破門って概念がないから、そこまで生きていくのに問題が生じるとは思えないが、トラブルは起こりやすくなるからな、これもちゃんと理解しとけよ」
あんま聞いてなかったけど、神様を馬鹿にすんなって話しだろ? 了解しましたよ。
「まぁ色々と言ったけど、宗教問題で国が荒れたら、当然、南にある帝国が攻めてくるんで、この争いに関しても何とかしろ。お前が撒いた種だからな」
いまいち理解できないけど、なんか面倒だな。
「面倒だったら、深く考えなくても構わない。とにかく、長期に渡ってマイナスにならなきゃ良いんだ。最悪なのは、人口がごっそり減ること。奴隷のように活力が無くなっている人間を増やしすぎない。文明レベルを停滞させるまで争わない。それくらいのこと守ってくれりゃ、俺が怒られないで済むし、俺も怒らないで済む」
うーん、良く分からないですねぇ。
「まぁ、俺も良く分からないよ。とりあえず、あんまり酷いことにならないようにしろってことと、お前があんまり酷いことをしないようにしろってだけだ。色々言ったが、自重を覚えつつ、好きに生きろ。トラブルは起こすな、将来の大事件に繋がりそうなことはするなとか、言いたいこともあるが、こっちも変な呪いをかけた立場だし、あまり強くも言い難い立場なんでな。個人としては凄く言いたいことはあるが」
うーん、結局、好きに生きろってことか?
「それをやられると俺がすごく困るんで止めろ。……まぁ、もうここは創った奴からも捨てられた世界だし、最終的にはどうなっても構わないんだろうがな。俺の上司も気にしてはいるが、無くなったらなくなったで、構わないと思ってるだろうよ。だから、一応・かなり・すごく、気にしながらも好きに生きろよ。俺に迷惑をかけない範囲で」
え、なんだって? 聞いてなかった。
「もういいよ、疲れる。そろそろ起きる時間だ。また呼び出すこともあるだろうと思うから、その時はキチンと報告・連絡・相談のホウレンソウを忘れんな。俺に何を伝えるかハッキリさせとけ」
問題ない。任せとけ。そう思った瞬間、身体が溶けていく。
『捨てられた世界で、捨てられた奴らが集まって何かを成すとか、話が出来過ぎで気持ち悪いが、まぁ頑張れ。家から捨てられた貴族に、捨てられた魔法、捨てられた信仰とか、変なものばかり集まっていくのも困りもんだが、どれも悪くはない物だ。思い知らせてやるのも悪くないだろうよ。お前らを捨てた奴らがどれほど価値があり、恐ろしいもの捨て去ったのか、そしてそれが牙を剥くということがどういうことなのかを、懇切丁寧にその身に教えてやれ』
なんか、最後にどこの誰かの変な声が聞こえて、俺の身体は溶け、意識は消えていく――
――なんか、凄く良く寝た。いやぁ、ホウレンソウ食べたい。そう思った瞬間、どこから、凄まじい怒りと楽しそうなものの二つの気配を感じたけれど、気のせいでしょう。
さて、今日は何をしますかね。