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帰り道は穏やかに

 

 兄上にすぐ帰るという手紙を送ったのにも関わらず俺は未だに王都に帰れていません。


 帰ろうと決めたのにすぐに帰れないっていうのはどういうことなんだろうね。

 俺が南部に来た時はどれくらいだったか忘れたけど王都から一週間くらいで到着したと思うんだけど、なんか時間がかかってます。

 行きはスイスイ、帰りはノロノロっていうのは面白くないね。俺一人なら一人旅ってことでそれはそれで楽しかっただろうけど、今は俺の後ろに軍隊が付いて回っているせいで息苦しいから楽しくないね。よくよく考えたら付いてきているんじゃなく俺が率いているみたいだし、自分に対して文句を言うことも出来ないので困ってしまいますよ。


 で、なんで時間がかかっているかというと――


「どうぞお寛ぎください、閣下。何も無い村ですが、閣下にお救い頂いたご恩を少しでも返すことが出来れば幸いと思い、村人一同精一杯のおもてなしをさせていただきます」


 ――こんな感じにいろんな場所で引き留められてしまって一向に進まないわけですよ。


 村長さんとか町長さんが色々とお礼をしたいのだとか言う話なんだってさ。なんでも、俺が軍を率いて帝国軍に勝ってなかったら帝国の奴らに占領とかされちゃって大変なことになっていたんで、助けて貰ったお礼なんだと。


 でも、何も無い村とか自覚してんなら大したもてなしとか御礼も出来ないんだから逆に何もせずに俺を行かせてくれても良いと思うんだけどな。何も無いって住人が自覚してるような所だったら接待もショボいだろうし、それだったら受けずに済ませたいんだけどな。


「えーと、この村の住人はこれくらいだから規模を考えると出せる食糧とか日用品は――」


 あまりにもショボいから、酒とか食糧とか、俺の方が出してやらんと何も無いみたいだしさ。

 なんか、もてなすって言っている割には大抵の村や町に食糧とか物とか落としていっているような気がすんだけど、どうなんだこれ? 何か違うような気がするぞ。


「ごめん、アロルド君。お肉が足りなくなりそうだから、魔物を狩ってきてくれると助かるんだけど」


 まぁ、エリアナさんが何も文句を言わずに色々と物を提供しているみたいだから、良いことなんだろうね。良く分からんけどさ。

 とりあえずエリアナさんが欲しいっていうなら、気前よく物を出すくらいの甲斐性は俺にもありますよ。狩りは面倒くさいから手下にやらせるけどさ。


「誰でも良いからデカい獲物を獲って来い。一番良い獲物を獲った奴には褒美を出すぞ」


 俺はそう言って、手下の冒険者を働かせることにしました。褒美は銀貨が入った袋です。

 話を聞くぶんには庶民が慎ましく暮らそうと思えば数年は大丈夫な額だそうですね。俺からすると数か月で使いきりそうなんだけど、庶民てのはよっぽど金を使わねぇんだなぁって感心半分呆れ半分て感じ。もっと金を使おうぜ。


「んじゃ、俺も行ってこようかねぇ。最近、金欠だしさ」


 そんなことを言いながらグレアムさんが剣を腰に帯び、村の近くの森へ向かいました。

 あの野郎、人妻とか未亡人に貢いでるらしいんだよね。マメなことに一度寝た相手に対してはそれなりに尽くしてるんだとか。

 まぁ、それなら俺がとやかく言うことも無いかなと思うよ。世の中には人妻とか未亡人を騙して体だけを要求して、美味しく頂いたら後は知らん顔をしてる奴とかいるしね。そういう奴らに比べりゃマシなんじゃないの。熟女と寝られる時点で俺としては頭がおかしいとしか思えないけどさ。


「あのぉ、アロルドさん。これじゃ赤字になるんじゃ……食糧とかだってタダで出すのはちょっとマズいような……」


 エイジ君が何か言っているけど別にたいしたことじゃないから無視しよう。

 赤字か黒字かで物事を考えていても仕方ないと思うぜ。つーか、何が赤字になるんだ?


「食料など後生大事に抱えていても悪くなるだけだ。さっさと処分するに限る」


 ついでに日用品もね。

 毛布とかエリアナさんが送ってくれた物もあるけど、そういう品だっていつまでも抱えていても仕方ないと思うしさ。まだ寒いけど冬が終わったら無用の長物だし、さっさと捨てて身軽になろうぜ。

 行軍が遅いのは色々と余計な物を抱えているのも原因の一つだから色々と減らしていくのも悪くないと思うんだけどな。


「閣下には村を救っていただいたうえ、このような施しまでいただき……どのように感謝の言葉を申せばいいのか……」


 村長さんが食糧を抱えて震えながら、そんなことを言ってきました。

 抱えてるのは不味くて俺の嫌いな物ばかりだから、代わりに食ってくれるのは俺の方が感謝したいくらいなんだけどね。でもまぁ、俺の嫌いな物で俺が金を払ったわけだし、やっぱり代金は取りたいわけよ。少しくらいは戻りが無いと丸損だしさ。

 まぁ、その辺りもエリアナさんがキッチリやってくれているだろうから俺がとやかく言うことじゃないね。基本的に仕事は出来る人がやるもんで、出来ない俺は大人しくお金が入ってくるのを待ってます。とはいえ、言うべきことは言っておかないとな。


「貸しであることは忘れるな」


「は、はい、それはもちろん心得ております」


 なんだ、この爺もしかして踏み倒すつもりだった? 最悪だな、借りたものは返そうぜ。

 まぁ、踏み倒されても別にいいんだけどね。どうせ捨てるはずの物だったしさ。

 エイジ君は赤字になるとか言っているけど、戦争が始まってその準備の時点で赤字が出まくりだったみたいだから、今更帳簿の負債が増えてもねぇ。

 そういや、ケイネンハイムさんから借りた金はどうなってんだろうか? 返せそうになかったら踏み倒そう。だって、無い袖は振れないし。


「返せないなら、この村が有する諸々の権利は俺の物になるということを忘れるなよ?」


 俺は借りた金は返せないけど。俺から物を借りた奴に対しての取り立てはしっかりします。

 つっても、俺は権利とか貰っても使い方が分からんので大して嬉しくないんだよね。エリアナさんが貰っておけって言ってるから貰ってるだけで、俺としては現金の方が良いなぁ。


「あの、御迷惑でなければ村の者の中から閣下の御世話をさせていただく者達を用意いたしますが如何いたしましょうか?」


 おや、まだ居たんですか、村長のお爺さん。俺はもう特に用事もないから帰っていいんだけどな。


「必要ないな」


 だって、俺の御世話してくれる人はいっぱいいるし更に人を増やす必要性とか感じないんだよなぁ。


「そうおっしゃらずに、この娘などは村でも一番の器量良しでして――」


 俺が必要ないって言ったのに村長さんは女の子を俺の前に呼びつけました。

 村長さんは器量良しって言ったけど、まぁ多少可愛い程度の普通の田舎娘って感じなんで特に何も思わないかな。垢抜けてないし泥くさそうだから、どっちかって言うと嫌いかも。まぁハッキリと嫌う程の興味も持てないんだけどさ。


「決して不快な思いはさせませんので、どうか御側に置いていただきたく――」


 俺は既に不快な思いになってんだけど、どうすんだろうか?

 とりあえず、現実を分からせるために俺は作業中のエリアナさんを指差し、村長にエリアナさんを見るように促す。


「俺は美人を見慣れているし、すでにそばにいる。それなのに何故わざわざ劣るものを近くにおかなければならないんだ?」


「いや、それは――」


「俺には必要ない。ついでに言えば、俺以外の奴にも必要ない。俺の周りの奴らは自分のことは自分で出来るんでな。余計な真似や気遣いをしないでもらおう。邪魔だし必要以上に関わってくる奴は鬱陶しい。分かったな?」


 俺はそう言って村長と女の子に帰って頂きました。

 だって俺の方は村長に関して特に用事無いもん。


「あれって色仕掛けとかそういう類なんですかね?」


 エイジ君が帰って行く村長の背中を見つめながら、そんなことを言っていますが、それは無いんじゃないかな。女の子の方は顔はまぁそれなりでも色気とか全く無いしな。


「色仕掛けにしても俺の周りの見てからにしてもらいたいものだな」


 出来れば今度はもっと綺麗な人を連れてきて欲しいもんだ。エリアナさん達で充分だけれども、多いに越したことはないしね。


 そんなこんなで村長さんとのやり取りを終えてから、しばらくして狩りに出ていた奴らが帰ってきました。

 今は軍隊やってるけど魔物を狩るのが本職の奴らだから成果は中々のようです。南部は魔物が多い土地だからってのもあるんだろうけどさ。


「いやぁ、俺が一番かなぁ」


 そう言うグレアムさんの獲物は巨大な蛇でした。一軒家くらいありそうな大きさの蛇が頭を切り落とされた状態で地面に置かれているわけだけれども、俺としてはなんでこんなの獲ってきたのか聞きたいんだけど。


「アホ抜かせよ、俺だろうが」


 張り合っているのはオリアスさんだけれども、こっちもアレです。なんで張り合えるのか意味が分からない。

 どういう理由かは知らんけど、オリアスさんの傍には体中を魔法で傷つけられて死んだオークが十匹ほど折り重なって詰まれていて、おそらくそれが獲物なんだろうけど、お前は何を考えてそれを獲ってきたのか聞きたい。


 他の奴らも似たような物で何か良く分からん魔物とかが村の広場に積まれていた。いや、なんで魔物しか獲って来ないんだろうね? 俺の言葉を聞いていたんでしょうか。

 なんかもう、気落ち気味の俺だけども獲物が積まれた村の広場を見て回ることにした。多少はマシな物もあるかもしれないと思って探すわけだけれど、やっぱり俺の手下の成果は芳しくない様子です。

 そういやジーク君はどうしてるんでしょうかね。なんか最近付き合いが悪いんだよな、アイツ。

 まぁ子供なりに色々とあるってことにしておきましょう。あのくらいの歳頃の子には反抗期とかそういうのもあるらしいし、そういうのに真正面から付き合ってやる義理もないから、とりあえず放置の方向性で。


 多少期待できそうなジーク君が不参加だったので諦め気味の俺でしたが村の広場の隅にて気になるものがあったので脚を止めました。


「あの、何か……」


 そこにいた村の少年が怯えた様子で俺に尋ねてきます。むしろ尋ねたいのは俺の方なんだけどね。

 キミも何か獲って来たんだろう? キミの足元に並んでいる野兎とか野鳥とかって獲物みたいだしさ。

 村人も少ないけれど参加してたみたいだから


「なぜ、こんな隅に隠れている?」


「それは、その……皆さん凄い物を獲ってきているし俺なんかはこんなものしか……」


 なにが気まずいのか良く分からないけど、その子は自分が獲って来た獲物を見て目を伏せる。

 充分だと俺は思うけどね。少なくともグレアムさんとかオリアスさんとかよりはマシだと思うよ。


「謙遜が酷いな。分かっていて獲ってきたんだろう?」


 まぁ、なんにしろ勝ちはキミですので褒美はあげましょう。

 俺は銀貨の入った袋を少年に手渡しました。

 キョトンとした様子でその子は俺と銀貨の入った袋を交互に見るけれども、なんか不満なんかね。不満ならもう一つくらいつけるけど何がいいんざんしょ?

 狩人っぽいから弓で良いかな。弓とか大量に俺の所に届いてるし、どっかの名工が作り上げたとかいう凄い弓があるらしいからそれをあげようかな。戦争中、俺に使ってくださいって王国の各地から大量の武具が届いてきてたから、好きに使わせてもらっても良いでしょう。好きに使っていいんだから人にあげてもいいよね。


「その報酬だけで不満があるなら弓も付けよう。誰か一番良い弓を持って来い」


 俺は状況を遠巻きに見ている奴らにお願いしました。

 俺が少年に褒美を渡したことに他の奴らも気付いたようで俺の周りに人が集まってきていました。

 ほどなくして、俺のもとに弓が二つ届きました。持ってきたのは冒険者の見習いらしき子供だったので、小遣いに銀貨を一枚あげておきます。それで菓子でも食ってくれって感じ。

 まぁ、一番良い弓を持って来いって言ったのに二つ持ってきたのは、ちょっと問題だと思うけど子供のやったことなんで許してあげましょう。


「この弓でこれからも狩りに勤しめ」


 面倒くさいから二つあげちゃいます。

 武具なんて消耗品だし、どれだけあっても困らんよね。

 銀貨の入った袋と弓を二つ渡され、少年は状況が分からず目を回しそうな感じになってるけど、それに関しては俺の知ったことじゃないな。体調に関しては自分で整えてください。


「ちょっと待った!」


 おや、グレアムさん、何か用ですか?


「あまりこういうことは言いたくないけど、少しおかしくないかい? 俺達の獲物の方がその子の物より大きいように見えるんだけど」


「それは一目見れば分かる話なんだからおかしくもないだろう。誰が見てもそうだな」


 アホかよ。考えなくてもグレアムさんの方がデカい物獲ってきてんじゃん。


「じゃあ、なんでその子なんだい。別にその子がどういう理由で褒美を貰ったとしても俺は構わないんだけど、出来れば全員を納得させてほしいねぇ」


「納得するも何も無いだろう。俺はこう言ったぞ、『誰でも良いからデカい物を獲って来い。一番良い物を獲って来た奴に褒美をやる』とな」


「言ったねぇ。じゃあ、なんで俺達より小さいのを獲ってきた、その子が貰えるんだい?」


 いや、なんで貰うのがおかしいって話になってんの?

 マジで俺の話を聞いてないの? 俺は条件決めたよね。


「――あ」


 おや、エイジ君はちゃんと思いだしてくれたかな。


「もしかして、大きさと良い獲物の関連性は無いってことか?」


 最初からそう言ってんじゃねーかよ、なんで誰も俺の話を聞いてねぇんだよ。

 大きい物はエリアナさんの依頼の方で、良い物を獲って来いってのは俺の要望な訳よ。みんなで食べるなら大きいのが良いけど、俺個人としてはマシな物が食べたかったの。

 魔物の肉が良い物かって言ったらそうじゃないだろ。別に食えないほど不味くは無いけど、普通の動物の方が食べやすくて美味いわけだから、俺の良い物としては少年が獲ってきた兎とか鳥とかになるのね。そういうわけで一番良い物を獲ってきたのは少年だから、少年に褒美を渡しました。


「いやぁ、なんか騙されたような気分なんだけど……」


 グレアムさんの気分に関しては自分で何とかしてください。俺にはどうすることも出来ませんので。

 まぁ、なんにせよ、みんな納得してくれるだろうから大丈夫でしょう。

 褒美は渡したわけだし、さっさとご飯でも食べましょうか。お前らはさして美味くもない魔物の肉を食えよ、俺は兎とか鳥を食うからさ。

 そういうわけで調理はよろしく。俺は調理とかできないんで、ノンビリと待ってますんで、出来たら呼んでください。


「……えーと、さっき渡した弓って話によると、金貨十枚以上するらしいんですけど。それを簡単に渡して良かったんですかね?」


 エイジ君がそんな情報を俺に伝えてきましたけど、別にどうでも良いかな。

 金貨十枚って言われても贈り物だからタダで貰った物だから人にあげても懐は痛まないし、なんとも思わんよ。だから簡単に人にあげられるんだけどね。

 いらない物を処分したと思えば、むしろ人にあげるってのはアリじゃないか? 俺は身軽になってもらった人は喜ぶ万事解決で良かった良かった。

 嫌な思いをしている人もいるかもしれないけれど、それに関しては俺が思い当たらない以上、嫌な思いをした人は存在しないも同じなんで、みんな幸せだから良い結果じゃん。

 問題なく終わった弓とか狩りの事なんか忘れて、さっさとメシ食おう。

 そうしてメシを食い、今日は終わりと――そうなるはずだったけれども、まぁ問題が起こりました。


「すまん、トラブルだ」


 オリアスさんにそう言われて真夜中に俺は起こされ、寝床から引っ張り出されました。

 眠いから寝たいんだけどな。俺の事は放っておいて眠くない人達で解決してくださいって感じなんだけど、困ってるようなんで我慢して付き合ってやることにしました。

 そうして付き合うことにして、連れて来られた場所は村の納屋でした。納屋の中にはグレアムさんもいたし、他に何人かの冒険者もいて、そいつらが簀巻きにした三人の男を取り囲んでいます。


「こいつらが村の女の乱暴しようとしてな。どうするか決めようって所だ」


 オリアスさんはそう言って、男の一人を蹴飛ばしました。


「こいつらは?」


「義勇兵で俺達と一緒に王都に帰る予定だった奴らだ」


 義勇兵ねぇ。クソの役にも立ったようには思えなかったけどヤることはやるんだね。

 こういう奴らが増えると空気が悪くなるし治安とか悪くなりそうだから、殺しておいていいんじゃないかしら?

 つーか、無理やりやろうって気持ちが分かんねぇよ。お金でも払って穏便に事を済ませようとはしなかったのか?


「俺は女で遊ぶ程度の給料も渡していなかったか?」


 とりあえず、その場にいた冒険者に聞いてみると俺が聞いた冒険者は頷いた。

 マジか、足りなかったの? 今度からもっと出してやろう。


「まぁ、少し足りなかったと思う奴はいるかもしれませんね。倹約すれば困りはしなかったでしょうけど、豪遊は厳しかったと思いますよ? 義勇兵に関しては分かりませんけど、俺達よりは給料は少なかったかもしれないんで、禁欲が必要だったかもしれないですけど」


「ふむ、金が足りないからといって無理矢理という奴は多かったのか?」


「いやぁ、そんな恐ろしい真似はとても。そんなことをしたってのが大将の耳に入れば、どうなるか分かりませんで、恐ろしくて恐ろしくて、悪い考えを抱いても萎えてしまうものですから」


 案外、行儀良くやってんのね俺の手下は。

 まぁ、俺自身が禁欲してんのにお前らが良い思いしてるのは面白くないよね。金払って商売の上でどうこうしてるのを止めるのは野暮だからやらんけど、無理矢理ってのは何か話聞いてても気分良くないから許さんよ。


「ふざけんな! てめぇらばっかり良い思いしやがって何様だ! 俺達だって命を賭けて戦ったんだから、少し良い思いしたって良いだろうが!」


「俺はあまり良い思いをした記憶もないがな」


 クソ田舎に来て、毎日戦争の話だぜ。うんざりだよ。

 それに良い思いってなんだ? お前らにとっては女を抱くのが少しの良い思いなら、俺はその少しの良い思いも無かったんだが。


「俺は童貞なんで女を抱くという良い思いもしていない。金は減るばかりだ。食事だって、王都にいた時と比べると劣ったものしか出て来ない。これでも良い思いをしていると?」


 なんか言いたそうにしてるけど、男たちは俺の目を見るなり黙ってしまいました。

 そんな急に大人しくなるなら、普段から大人しくしていてこういう事件は起こさないで貰いたいな。


「仮にお前らの問題行動が、待遇の悪さからきているなら、それを改善すれば今後お前らのような奴は悪事を働かないのか? だったら、義勇兵の分の給料も俺の懐から出してやる、それで満足だろう?」


 治安維持のためには仕方ないね。

 俺としてはどうでも良いけど平和な方が喜ぶ人も多いし、悪い奴を出さない方向性で行きましょう。そうすりゃ平和だ。

 俺の考えに同意したのか、男たちも頷いてくれています。良かった良かった。じゃあ、後始末をしようか。


「では、お前らの処刑に移る」


 俺の言葉に頷き、グレアムさんが剣を抜き男の内の一人の首を斬り飛ばす。


「は、話が違う!」


 何言ってんだ、この野郎。悪いことやったんだから大人しく罰を受けろや。

 お前らみたいな悪い奴を生かしておくと、殺されないなら自分も悪いことやっていいんじゃねって思う奴が出てきそうだから悪いことやった奴はキッチリ始末します。

 悪いことやっても見逃されるんじゃねって空気になるのは良くないような気もするんで厳しくいこうぜって感じ。


「話は違わないさ。最初から俺はお前らを生かしておくとは言っていないだろう。それにお前らの願いの義勇兵の待遇改善も認めたんだから、安心して死ぬといい」


「それは、俺達が生きてないと意味が――」


 もう一人の男の首も飛びました。

 お前らが死んでも他の義勇兵はマシになるんだから良いじゃないか。

 それとも何か?


「お前らの行動は待遇改善を求める義勇兵の不満が爆発したことの現れであって、間接的に待遇改善を訴えるためのものではないのか? それとも単純に自分たちの不満を解消するだけの行動で、その正当化のために義勇兵全体が不満を抱えているという題目を掲げたのか? 前者だったら、待遇改善は為され、お前らの目論見は叶ったんだから喜んで罰を受ければいい。後者だったら、お前らは卑怯なんでさっさと死ね」


 よくよく考えたら問答する必要なくね。どっちにしろ死ぬわけだしさ。

 俺がそんなことに気付くと同時、グレアムさんが最後の一人の頭を斬り飛ばしていました。

 うん、これで問題は解決だぜ。

 まったくオリアスさんも、こんなことのために呼ぶなよって感じだぜ。町や村に泊まるとだいたいこんな事件は起こるんだし、いつものことなんだから勝手に始末つけてくれよな。

 まぁ、殺しはしないで折檻にかけるだけの時もあるから、その判断を俺にして欲しいのかもしれんけどさ。つっても折檻も大概死んじまうけど。暴行未遂の時は麻酔無しでナニを斬り落とすし、盗みを働いたら腕を斬りおとしたりだからなぁ。

 俺の手下になってんだから悪いことはすんなよって言い含めてるのに、悪いことをしでかすんだから酷い目にあっても仕方ないよね。悪事を働かれると上司にあたる俺の評判も悪くなるし、なんかそういうの嫌だから悪いことをしないように厳しく取り締まらないとね。


「うわぁ、今日もですか……」


 始末がつくとエイジ君が納屋の中に入って来た。

 死んだ奴の素性をまとめて帳簿かなんかに着けておく必要があるんで、それの確認をエイジ君に任せているわけだけども、エイジ君もだいぶ慣れてきているおかげで特に問題も起こらない。最初の頃は泣きそうになっていたけど、毎日のように死体の確認をさせていたら特に何も思わなくなったようだ。


「もう少し抑えめに行きません? 怯えている人多いですよ?」


「悪事を働かなければ何もしないのだから怯える必要は無いと言っておけ」


 穏やかに真面目に生きていこうぜ。俺の手下の冒険者なんかは悪ふざけはするけど悪事は働かないぜ。皆そういう精神で生きていってもらいたいもんだ。まぁ、王都に着く頃にはそういう奴も増えるだろうから心配はしてないけどさ。


「では、俺は寝るぞ。死体の後始末はいつも通り頼む」


 一段落したと思うので俺は納屋を出て、明日に備えて眠ることにする。

 なんか色々とあったような気もするけど、だいたいいつも通りの穏やかな日々だ。村で歓待を受けるのもいつものことだし、真夜中に馬鹿を処刑するのもいつものことだし。何一つ特別なことは無いな。

 こんな毎日だったら気楽でいいんだけど、なんかそうもいかなくなりそうな気がするんだよなぁ。まぁ、その時になったら、なっただし気にしてもしょうがないな。


 今はなんか起きた時の為に穏やかな日々で英気を養いながら帰るとしますかね。






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