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迫る影

 ノール皇子と酒を飲んでから少し日が経った。


 あれ以降、ノール皇子の雰囲気は少し違うようだけれども理由は分からないな。まぁ、それほど興味も無いので詮索しようという気も起きないけどさ。

 そんな風にノール皇子とは深く関わらないようにはしているけれども、浅くは関わっている日々です。何をしているかというと二人で酒飲んだり、盤上遊戯とカードをして時間を潰したりとかそんな感じです。


「アロルド殿は弱いな」


「そちらも俺の事を言えるほどでもないだろう」


 格好をつけて紳士のボードゲームである軍騎盤を遊んでいるわけだけども、お互い上手くいかないんだよね。

 歩兵とか騎兵とかの駒を動かして、王を取るか王の側近を根絶やしにするとかそういうルールだけども、これおかしいよな。


「なぜ互いに同じ数の駒になるんだ?」


「確かにそれは言えているな。私ならば同数では絶対に戦わないのだが、何を考えてこんな戦場に設定しているのか」


「真正面からぶつかるとか阿呆としか言いようがないと思うんだが」


「それはまぁ良いだろう。どちらも猪と大して変わらん頭なのかもしれん。だが、少し敵陣に踏み込めば王に届くなど陣の張り方が甘すぎる」


 ゲームのルールに文句ばっかりつけてる俺達です。

 そのせいか、エイジにすら負ける有様で困った困った。当然、グレアムさんとかオリアスさんには勝てません。まぁ、そんな感じでも、あまりムキにならず程々に遊んでいます。

 たまに軍騎盤で用兵の才能が分かるとかいう貴族の人がいたりするけど、そういう人の言っていることは俺は全く分からんね。実戦だと、上から戦場を見ることは出来ないし、順番に行動してくれるわけじゃないし、そもそも駒の数も種類も違ったりするから、軍騎盤と実戦を同じく考えるのは無理じゃね。

 まぁ、そう言う人達には、そう言う人達の考えがあるんだろうから俺は何も言わんけどさ。


「ゲーム中に考え事は良くないな。詰みだぞ」


 おっと、そんなことを考えている内に負けそうです。しかし、イカサマしてるよねコレ。

 盤上と盤上から除外された駒の合計の数が最初よりも明らかに増えているんだけど。これはノール皇子が途中で追加したよね。

 イカサマはやってる時に言わなければイカサマじゃないからなぁ。まぁ、これは仕方ないな。仕方ないんで盤をひっくり返し勝負を無かったことにするために、俺は手を伸ばしたのだけれど――


「これで三回目だぞ」


 ノール皇子の手に阻まれてひっくり返すことは出来なかった。

 この野郎ひでぇな。自分を棚に上げていやがる。


「そちらは既に三回やっているようだがな」


 お互い敗けそうになると、盤をひっくり返して無かったことにしているので互いのやり口は分かってるわけで、俺も防がれることは分かっているので、やりようはある。


「まぁ、いいさ。そもそも俺の方は不利でも何でもないのでな」


 防がれた瞬間に駒の位置を動かしておきました。

 一マスとかじゃなく、十マスくらい一気に動かしても気づかなければ良いからね。


「確かに不利では無さそうだな」


 皇子も納得して再び駒を動かす。やっぱり駒が増えてんだけど、この野郎、あからさまに投入してきやがった。投入してきた瞬間を見てなかったから何も言えないけど、いつの間にか皇子の方の駒が最初の二倍とかになってるのはやりすぎじゃなかろうか。


 とまぁ、こんな風に俺達が遊んですごしている内に更に日が経ち、セーレウム城に来客が現れる。

 まぁ客っていうような関係でもないんだけどさ。


「久しぶりね、アロルド君」


 やって来たのはエリアナさんです。

 前から来る約束になっていたのが、ようやくやって来たというわけで。まぁ、驚くことでも無いな。

 ただまぁ、ノール皇子と遊んでいる最中に来られるのはちょっと困るというかなんというか。


「出迎えの対応が甘くないかしら。もっとこう華やかにしてくれても良いと思うのだけれど。戦争には勝ったわけだし、ここからは緊縮財政は止めにして何でも派手に行かないと」


 そんなことを言われてもなぁ。俺って無駄に金を使うのは好きだけど、得意じゃないんだよなぁ。何に金を使えば良いか分からないしさ。


「あら、そちらの方はどなたかしら?」


 おや、ようやく俺と遊んでいたノール皇子に気付いたようです。ノール皇子が目立たないように大人しくしていたとはいえ、なんだか忙しいこったね。まぁ、それは置いといて、俺が気づかないと思って盤上を好きにいじくりまわすの止めてくれないかな。


「ノール・イグニスと申します。どうか、お見知りおきを」


「ええと……イグニスっていうのは、あの……」


 エリアナさんが俺の方を見てきたので頷いておく。

 その直後、エリアナさんの顔が真っ青になってしまいました。まぁ、猫被っておいたほうが良さげな相手の前で素だったしね。失敗したなぁって思っても仕方ないかも。つっても、そんなに気にする相手じゃ無い気もするから別に大丈夫だと思うんだけどさ。


 失敗した自覚はありそうだけれどもエリアナさんは頑張って取り繕い、優雅に一礼して見せる。


「エリアナ・イスターシャと申します。先程はご無礼をいたしました」


「気にする必要はない。帝国の皇族は無礼など慣れたものだ。一々気にしていたら精神を病むからな」


 帝国だと皇族は諸侯貴族とかに舐められているみたいです。

 舐められ過ぎて慣れたもんだってことで大概の無礼は許してくれるので有り難いね。


「それはまぁ、なんというか……」


 微妙に困った様子のエリアナさんが俺の脇腹に拳を叩き込んできますけど痛くないので無視。


「早く言ってほしかったのだけど?」


 俺だけに聞こえるようにエリアナさんが小声で文句を言ってくるんで、ごめんなさいって気分だね。

 正直言うと悪いって気持ちはないから反省はしてないし繰り返すと思うけどさ。


「お二人のお邪魔をしては悪いので私は失礼しますわ」


 エリアナさんは再び優雅に一礼すると踵を返し入って来たドアの方へと向かう。

 俺にもちょっとついて来いみたいな感じなので、一応エリアナさんの後を追って部屋の外へと出る。


「あまり敵国の要人と仲良くするのは感心できないわ」


 部屋から出るなりエリアナさんにそんなことを言われました。それ言ったら俺にだって言い分はあるわけで。


「どうせ、処刑される人間だ。死ぬ間際までは不便ないように暮らさせてやるのも構わんだろう」


「まぁ、私は良いけれども。ウーゼル殿下は面白くないと思うわ。つい先日、帝国の残党を倒して殿下も面目を保てたけれども、戦果で言えばアロルド君に水を開けられているわけだし、この戦争で英雄になって王座を盤石の物にしたかったウーゼル殿下にとってアロルド君は自分の成功を邪魔した存在になるわけなんだし、嫉妬やら何やらに狂って何をしでかすかは分からないんだから注意は必要よ」


 ごめん。長くて聞いてなかった。

 とりあえず、殿下と仲良くすりゃいいんだろ。それだったら、俺と殿下は仲悪いわけじゃないから大丈夫なんじゃないかな。少なくとも俺は殿下の事は嫌いとか思ってないわけだし、俺が嫌ってないなら殿下だって俺の事は嫌いじゃないと思うよ。

 それに、なんとなくだけど何をしでかすか分からないってことは無いんじゃないかな。そういう性格じゃないと思うしさ。


「私が心配しなくても大丈夫だと思うからアロルド君には一々言わないけど、気をつけるのだけは忘れないでね。――で、本題だけど、お兄さんから手紙が来てたから渡しておくわ。それと、アークス伯爵家の私兵は早めに領地に戻すようにって連絡もお兄さんから来たから戻しておいたわ」


 兄上から手紙ねぇ……。

 まぁ、それはいいとしてアークス伯爵家の私兵を戻すって、そんな奴らいたっけかな?

 いたような気もするけど、糞の役にも立っていないような気がするし帰ってもらっても平気かな。


「じゃあ、渡したから私は自分の仕事に入るわ。アロルド君はノール殿下の御相手をしてても良いけど、あまり仲良くなりすぎないようにね」


 仲良くなりすぎるってことは無いんじゃないかな?

 良く分からんけどさ。とりあえず、エリアナさんが立ち去ったので部屋の中に戻ることにした。


「素敵な女性じゃないか。奥方か?」


 部屋に戻るなりノール皇子はそんな言葉をかけてきた。

 エリアナさんは綺麗だけど、そんなに大騒ぎすることでも無いと思うのはアレかな。俺が見慣れてるからかな? まぁ、見慣れてない奴は仕方ないかな。

 しかし、エリアナさんを俺の奥さんとか言うのはコイツの目は節穴か何かなんだろうかね?

 エリアナさんだったら、もっと良い男を捕まえられると思うし、俺を相手だと推測するのは読みが甘いとしか言いようがないな。


「俺は結婚していない」


「それなら私と同じだな。私も妻の一人や二人くらいはいても歳なのだが生憎と相手がいなくてな。皇族に嫁いでくれるような女性が稀なせいだがな」


「自分自身に魅力が無い可能性は?」


「あるかもしれないが、その可能性は低いと思いたいな」


 さいですか。まぁ、俺は皇子の女性関係とか興味ないし、今は兄上からの手紙でも読みますかね。

 えーと、内容はと……。


 ……特にたいした内容じゃないな。

 アークス伯爵家の領内の治安の悪化が懸念されるから兵を早めに戻すとかウンタラカンタラってのと、全てが終わったら王都の屋敷に顔を出せとかそんなことくらいしか書いてないし。

 しかし、終わったらにしてもなぁ。どこまでいけば終わりなのやら良く分からんのが問題だね。主だった残党はウーゼル殿下と中央貴族の軍が叩き潰しても、散り散りになった帝国の残党は南部にまだ潜伏しているみたいだしどうすんのかしら?


「悩み事か?」


 俺の様子を見てノール皇子が口を開くけど悩んでるって程でもないんだよね。


「帝国の残党をどう始末しようかと考えていた所だ」


「だったら、待っていればいい。散り散りになった帝国兵は食糧など殆ど持っていないだろう。放っておけば飢え死にするか進退窮まり表立って行動し食糧やらを得るために行動する。そこをどうこうすれば済むだけの話だ」


「味方だろうに冷たいな」


「悲しいことに私を味方だと信用してくれている奴らがどれだけいたのか疑問なんでな。信用してこない相手に対して暖かい対応は今となっては難しい」


 もっと情に篤くなろうぜ。俺はならんけどね。

 なんにしても、放っておきゃ出てくるってことなんかね。出て来ないって時は誰かが匿ってくれてるとかかな。

 なんだか怖いなぁ。敵国の人間を匿うとか絶対ヤバいことやるつもりじゃんね。つっても、匿うにしても難しいだろうにどうすんのかね。


「王国に帝国の人間を手引きする奴がいるのなら身を隠すことも容易だろうがな」


 ノール皇子が何かを思いついたようで口を開きますが、できれば簡単で短い話が良いんだけどな。


「戦が終わり、兵がそれぞれ帰郷の途につくこれからの時期ならば、武装してさえすれば戦場帰りの兵だということで疑われこそすれ積極的に関わってくるものはいないだろう。人の移動も多いのだから紛れ込むのも容易だ。後は手引きした者が領地を持っている者ならば自分の領地で匿えばいい」


「そんなまだるっこしいことをしなくても。帝国の兵を拾って、コイツ等は装備は違いますけど王国の兵ですと言って一緒に連れていけばいいだろう。領地に入れば、王家も誰も簡単には手出しが出来ない。王家が強いと言っても領主の意思は無視できないわけだからな。もっとも、それは帝国と王国の貴族が通じていたという場合の話だが」


 そういえば、どっかの兵隊が急に帰るって話をしていたような気もするけど、どこだっけか。

 まぁ、なんか調子悪くなって急に帰るって可能性もあるし、それだけ帝国の奴らを連れて帰ろうとしてるな!とか難癖つけたら、俺の頭がおかしいみたいだからやめておこう。


 しかし、戦争終わっても。面倒くさいことばかりだなぁ。

 なんか部屋の外に武装した奴らがいるみたいだし何が起きてんでしょうかね。

 まぁ、降りかかる火の粉は払わないといけないし、どこの誰が調子こいてるのかは知らんけど、ぶっ殺すしかねぇわな。





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