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勝者は決まり……

 

「いってぇ……」


 ぶっ倒れているオワリを見下ろしても、口から出さるのは泣き言ばかりだわ。

 なにせ、膝の裏からはドクドクと血が流れてるし、自分で潰してから元に戻した左目も回復魔法のかかりが甘いのか、見えるのは見えるけれどもスゲー痛い。

 もう片方の目が染みて開けられなかった右目の方も大丈夫な感じにはなってきたけども、やっぱり目の中に塵でも入っているような感覚は消えないので目を洗いたい気分だ。


 まぁ、そんなことよりもとりあえず脚の怪我をなんとかしないとなぁ。

 魔力が尽きたから回復魔法で治すのは無理だし、適当に布でも破って傷口に巻いておこう。止血さえしておきゃいいんじゃないかと思うし。


 そういう感じに傷口に布を巻いて止血し、俺はひょこひょことした足取りで動き出す。

 オワリと戦ってる時に、ちょっと無理して動いたこともあって走るのは難しい感じだが、一応は歩けるし、まぁなんとでもなるかな。


 ああ、そうだ。なんとでもなるついでにオワリの首を落としとかないとな。

 出血ヒドイから放っておいても死ぬだろうけど、もしもの事もあるし確実にっておきましょう。まぁ、生き残っていても片腕だったら何も出来ないだろうけど。


 まぁ、何が出来るとか何が出来ないとかは関係なく殺しておいた方が俺的には安心だし、容赦する気も起きないんで、躊躇なく首を落とせますよ、俺は。

 そういうわけで、俺は倒れたオワリに近づく。脚が良くないんで剣を杖のようにしながら、よたよたと歩く様は情けないけれども、誰も見てないから良いだろう。

 そういや、この脚だと踏ん張りが効かないから首を斬って落とすのは無理だな。体重掛けて首に剣を突き立ててグリグリとやって引き千切るようにするしかないかな。痛そうだけど、ごめんね。


 俺は杖代わりにしていた剣を持ち上げると、オワリの首に突き立てるために切っ先を首へと向けて構える。

 後はそのまま下ろすだけだ。そうすりゃ首に剣が突き刺さって終わりだ。だが――


 オワリの首に突き下ろそうとした剣が横合いから弾かれ、俺は剣を止めざるをえなくなった。


 何によって弾かれたかは正確には分からないが、たぶん銃弾か何かだろう。

 突き下ろそうした剣に銃弾が当たり、軌道を逸らされたんだと思うが、まぁどうでもいいな。

 俺は銃弾が飛んできただろう方向へ顔を向ける。すると、俺が顔を向けた先には爽やかな顔立ちの美男子が火縄銃を構えていた。


「ことここに至っては無駄に命を奪うこともないだろう。私は投降する」


 美男子がそんなことを言ってきた。

 いやぁ、投降するって言われても、アンタが誰だか知らないし投降したからって何か特別なことでもあんでしょうか? たぶん無いと思うんだけど、どうなんだろうね。

 あと、無駄に命を奪うなっていうけど、無駄かどうかなんて、この場で結論を出せることじゃないから、そういうのは無しで。将来的には殺しておくことが有意義なことだったなんてことになるかも分からないんだから、今現在の状況だけで安易に判断するのは良くないんじゃないかな?

 まぁ、やめてって言うならやめるけど。

 俺は殺したいけど、殺さないで欲しいって言ってる人がいるなら、その人の気持ちを尊重しよう。本人が死にたくないと命乞いしたなら殺すけどもさ。

 なんか戦うって雰囲気でもないし、俺に危害を加えようとか企んでいないなら、放っておいても良いようにも思いますしー。


 そんなことを考えていて、ちょっと美男子の素性を尋ねるのが遅れたけど、そういやコイツ誰だよ。まずは、そこからなんとかしようぜ。

 そういえば、どっかで見たことある顔だけど、どこで見たっけ?


「何者だ?」


 分かんないので素直に聞いておきます。

 場合によっては捕虜にすんのも面倒なんでコイツをぶった斬ってもいいんじゃないかな。つーか、脚が痛くて連れてける余裕とか、そんなにないし。


「ノール・イグニスと言えば分かるか?」


 いや、分からん。どちらさんでしたっけ?

 どっかで聞いたことある気もするけど、なんか疲れてるせいか記憶を掘り起こすのが大変だし、面倒くさいから思いだすのは後でいいや。


「そうか」


「随分と淡白な反応だな。これでも皇子なのだが」


「そうか」


 ああ、そうだ。

 ノールと言えば、ノール皇子だった。さっきまで俺も探していたんだった。オワリと戦ってて、すっかり忘れてしまっていた。


「王国の将は敵国の司令官の顔も憶えていないのか?」


「憶えていないな。顔を合わせる機会が無いのだから憶えられるわけもないだろう」


 ついでに俺の記憶力は怪しいから難しいのよね。

 つーか、よくよく考えると国交が殆ど無くて、初接触が戦だったら相手の皇族なんか分からんよ。

 だから、俺は悪くないんじゃないかな。

 まぁ、それは置いといて、この皇子はどうしましょうかね。っちまう?


「……すまないが、そこの異国人の手当てをしてくれないか? 敵国の皇族の頼みが聞けないというのなら、私が手当てをするのを許して欲しいのだが」


 おっと、少し考え事をしていました。

 手当ねぇ、まぁ良いけどさ。手当てしてる最中に、その手に持っている銃で後ろからズドンとやられなければの話だけども

 俺が皇子の手にある銃に視線を向けていると、それに気づいたのか皇子が肩を竦め、銃を放り捨ててくれた。

 はい、どーもね。じゃあ、手当てをしてあげるとしましょうか。

 偉い人の言うことは聞いておいた方が良いような気もするしさ。つっても、手当したところで腕は戻らないし、死ぬ可能性も高いだろうけどね。

 とりあえず血が流れないように出血だけ止めておこうか。やることやって死んだんなら皇子も文句は言わないだろう。

 なんかノンビリ雰囲気になってきて毒気が抜けてきちゃったし、気を抜いてもいいんだろうか? 

 まぁ、いいってことにしておこうかね。皇子は俺をどうこうしようって感じは無いし、俺も正直疲れてるから皇子をどうこうしようって気力もないしさ。


「異国人の命を救うことを望むのはおかしいか?」


 俺が手当てをしていると皇子がそんなことを言ってきた。

 まぁ、いいんじゃないかな。つーか、人の行動の是非を問われても困るんだよなぁ。

 皆が皆、自分の事情とか思惑に従って生きてるわけだし、そういう事情とか思惑を何も知らない俺が何か言う方がおかしいと思うんだけどな。


 皆好きにすりゃあいいじゃん。俺も好きにやるしさ。

 その過程で協力する必要があったり、お互いが邪魔になったりしたら、後はその場の流れで良いと思うのよ。で、俺はその流れに従ってオワリを斬って、ノール皇子に頼まれて、オワリを手当てしてるわけだ。


「生きる目があるならば、将の務めとして部下を使うことも厭わんが、オワリがやられた以上、私自身が生き残る目はない。あの世まで連れていくのが忍びなかったというだけだ」


 そうっすか。まぁ、どうでもいいかな。

 さて、手当て終了したけど、どうすんだろうね、これから。あんだけグダグダと戦っていたけど、こんな風にアッサリ負けを認めていいんだろうか?


「自分で戦っても良かったんじゃないか?」


「無茶を言うな。貴公やオワリに比べたら私は弱い」


 まぁ、それは見れば分かるけどね。身のこなしが俺の知ってる範囲だとグレアムさん辺りと全く違うしさ。

 俺も脚を怪我してるから現状では良い勝負だけど、脚の具合が良くなったら殆ど苦戦しないと思うね。

 なんにせよ、皇子を捕虜に出来たから良かった良かった。俺の方で処刑とかしても良いんだろうか? 一応ウーゼル殿下にも会わせておくべきなんだろうか?


 なんにせよ、何時までも城の中にいる必要はないわけで、俺は剣をノール皇子に突きつける。


「じゃあ、城の外までついてきてもらおうか?」


「それは構わないが、オワリを運ぶのも手伝ってもらえると助かる」


 いや、無理だから。俺、脚痛いし、人を抱えるのはちょっと嫌だ。つーか、見た感じじゃ、アンタが一番無傷なんだからアンタが運んでくれよ。

 そんな思いが顔に出ていたのか、ノール皇子は肩を竦め、意識の無いオワリの体を起こすと肩を貸して歩きだした。

 俺は二人の後ろにつき、剣を突きつけながら、ゆっくりと歩く。歩く速度が遅いのはどうにもならんね。やっぱりちゃんと治療しないと駄目だわ。

 そういや、回復薬どうしたっけ?

 持ってきたと思うんだけど……。ああ、瓶が割れてて全部ダメになってら。ついてないなぁ。


「最後に頼みがあるんだが……」


 嘆いている俺に対して、ノール皇子が肩越しにこちらを振り返り、そんなことを言ってきた。

 気持ちが落ち込んでいるので、勝手にしゃべってくださいって感じの視線を送っておく。


「アロルド・アークス殿に私の言葉を伝えて欲しい。『私は王国ではなく貴公に敗れた。貴公の軍事的な才覚には簡単を禁じ得ない。一人の将として貴公に惜しみない賛辞を贈る』とでも伝えてくれ」


「……アロルド・アークスは俺だが?」


 同姓同名の人が居たかもしれないし、その人のことだったら恥ずかしいけど確認は大事だし、名乗っておいた方が良いよね。なんか目を丸くして驚いてるけど、どうしたんでしょうか?


「はは、そうか。そうだったか。いや、なんともはや私の人を見る目も甘かったということか」


 ノール皇子は驚いた後になんとも楽しそうな顔で笑っている。

 笑いどころがわかんねぇんだけど、俺はどうすりゃいいんだろうね?


「最も油断していたのは私だったわけか、初めて見たあの時に見逃さずにいれば、貴公と今の私の立場は逆だったかもしれないな。今更言っても無駄だがな」


 そうでもないと思うけどね。失敗を口に出すのは大事なことなんじゃないかな。頭に焼き付いて同じ間違いを起こさなくなりそうだしさ。

 まぁ、俺は失敗したことを忘れるから、それは無理だけど。


「願いは叶ったんだ。もういいだろう、さっさと歩いてくれないか?」


 楽しそうにしている所悪いけどさ。

 脚が止まってんだよね。早く歩いてもらいたいんだけど。


「ああ充分だ。だが、改めて称賛の言葉を贈らせてくれ。私は貴公に敗れた、貴公こそが勝者だと、その強さを讃えよう。有象無象に物量差で負けるのは愉快ではないが、貴公にならば敗れたとしても誉となるだろう」


 ノール皇子は歩きながら愉快そうに話している。

 俺の事を褒めてるようだから俺も気分が良いので見逃してあげましょう。

 そうして、皇子が俺を褒める言葉を聞きながら、俺達は城の入り口へと辿り着いた。すると、皇子は再び肩越しに俺の方を振り向くと微笑みを浮かべながら言うのだった。


「敗れはしたが、私もタダでは終わらなかったようだな。どうやら、最後の最後に貴公を出し抜くことが出来たようだ」


 なんざんしょ?

 って思ってると、城の外から地響きがする。外と言っても山の方だがなんだろうね?


「山道を崩落させてもらった。殿として残った以外の兵は既にコーネリウス山脈に逃げ込み、帝国へと脱出の途についただろう。もっとも、帰れる可能性は低いが。それでも兵を帰還させる手筈を整えられたのが私の最後の成果だ。山道が崩落した以上、貴公らは撤退する兵を追えんし、帝国へと逆侵攻することもできない」


 そりゃ凄い。けどまぁ、俺には関係ないな。俺の仕事はノール皇子を捕まえた段階で終わったしさ。


「そうか。では、成果を出した後は、その反省と後始末といこうか」


「ああ、そうだな」


 皇子は軽く微笑むとそう言って、前へと歩き出す。向かう先は城の外だ。

 皇子は城の外へ出るなり、オワリに肩を貸したまま、戦闘中の敵味方に向かって叫ぶ。


「帝国の将兵よ、武器を捨てよ!」


 皇子に続き、俺も前に出る。

 抜き身の剣を皇子に突きつけ、俺の方が優位に立っていることを衆目に知らしめておく。こうでもしないと、帝国の奴等も武器を捨てないだろう。俺が剣を突きつけたことで、事情を悟った帝国兵の何人かが武器を捨てる姿が見える。


「戦の趨勢は定まった! 我々は降伏する! これ以上の争いは無益だ!」


 これまで散々戦ってきて何を言ってんだかって気もするけど、そう言わんと武器を収めないもんなのかな。

 まぁ、決着が着いたのは良いと思うよ。こうやって、ハッキリと自分たちの負けだって認めてくれると楽でいいよ。ズルズルと勝敗をハッキリさせないまま終わるのが一番めんどいと思うし。

 敗北が決まったことを理解したのか、城内の帝国兵が次々と武器を捨て膝をつき始める。

 俺の味方はなんか騒ぎ出したいけども、ちょっと待機中


「とりあえずはこれで良いだろう。なるべく寛大な処置を頼む。抵抗する者がいるならば、その時はそちらの都合に任せるしかないのが敗者の苦悩だが、敗れた者が何を言っても無意味か」


 まぁ、勝たなきゃ駄目だったよね。

 頼まれたから考えるけど、ぶっちゃけ生かしておいても得が無いんだよなぁ。殺したところで、文句を言ってくる相手は遥か南の国交のない国だし、文句言われたところで実害がないからね。

 一応、気をつけてはみるけど、面倒くさくなったらどうなるかは分からないんで、そこら辺は勘弁してもらいたい。


 まぁ、なんにせよ勝ってよかったかな。さて、これからどうしたもんか。


「勝者が勝利を宣言しなければ終わらない。敗者は去ろう、ここからは勝者の出番だ」


 そんなことを考えていると、ノール皇子が場所を譲ってくれた。なんだろうか、良く分からんけども、俺に何か言えってことなんかね。まぁ、とりあえず言うべきことは言うとしますかね。


「俺達の勝利だ」


 上手い言葉が見つからないんで、たった一言で済ませました。

 静まり返った場に俺の声だけ響き、そして――


 俺の言葉を待っていたように、俺の言葉が届くと同時に一斉に雄たけびがあがり、王国の兵士や冒険者たちは武器を天に向かって掲げ上げた。


「戦は終わりだ。勝利を祝え」


 届いているかは分からないが、まぁ理解しているので良いんじゃないかな。

 敵の総大将が敗北を認めて降って来たのだから勝利といっていいだろうし、誰も文句は言わないだろう。

 だから、ハッキリと言える。


 王国の勝利。


 それが、この戦の結末だ。













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