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学園

いじめを乗り越えた先にあるもの

作者: 千路文也

 これは、とある野球部での話だ。学生、特に高校生は年功序列が当たり前の世界であり、社会人の様に『年齢が上なのに後輩』という事は留年を除くと有り得ない。そんな世界に身を置く学生達は先輩に理不尽な要求をされて良く困っている。


 ここに一人の少年がいる。彼は某名門野球部に投手として入部したのだが、ほとんど雑用ばかりでロクな練習をしてもらえない。金属音を鳴らす先輩をよそにボール拾いや雑草抜きをするばかりなのだ。


 おまけに寮に帰るともっと悲惨な事が待っていた。先輩たちが少年の部屋に押し入って漫画やゲームなどの類を全てかっさらっていった。これには少年も『不公平だ!』と腹を立てて先輩に文句を言う。


 そして翌日。監督室に呼ばれたのは少年の方だった。監督は顔を真っ赤にして憤激しながら唾を撒き散らしている。まるで赤鬼だ。


「いいか。三年生は御主人様で、一年生は奴隷なんだよ! 奴隷がご主人様に道具を取られたぐらいでピーピー喚くな!」


「それは納得いきません」


「お前はワシにも刃向うのか! 一年生は奴隷、二年生は召使い、三年生はご主人様で、監督は神様なんだよ!」


 そう言うと、監督は少年に平手打ちした挙句、馬乗りになってボコボコに殴りつけた。と言っても、監督にも人間的部分はあったようで急所を外していた。それでも多少の怪我はあって当分は雑務しか出来ない体になってしまったのだ。


 他の同僚は練習をしているのに、自分だけ球拾いをさせられる。それが我慢できなくなり何度も辞めようと思った。


 だが、何とか耐えた。


 その理由こそ、この屈辱に耐えた先にきっと明るい未来が待っているだろうとボンヤリとした理想だった。この場合は妄想と言ってもいいだろう。だが、妄想でもしない限りこんな地獄には耐えられるものじゃなかった。



 ****************



 あれから二年が経過した。少年はすっかり健康体で日々練習に励んでいる。年齢も18歳になって今では野球部を背負おう立派なエースだ。あれだけ暴力的だった監督も少年に対しては温情になり、一年生に牙を向けるようになった。


 すると、少年に向かって一人の男がぶつかってきた。前を見ていなかったようで「ごめんなさいごめんなさい」と平謝りしてくる。どうやらこの男は最近入ってきた一年生らしく、ここの野球部の厳しさを知っているのか目に涙を浮かべているではないか。


 そんな一年生に向かって、少年は優しく声をかけた。


「俺がキャプテンである以上、あの監督の好きにはさせないからな」


 こうして少年による意識改革は始まった。まず最初に監督の暴力行為をスマートフォンに録画して教育委員会に送りつける。すると当然の如くそれは話題となり新聞やニュースにも取り上げられ、瞬く間にしてその監督は解任される事になった。


 それから、後輩に灯油をぶっかけて遊んでいた二年生達を先生に突き出した。彼らは生徒主任にこっぴどく絞られた後に、退学となった。


 これにより野球部は見違えるように変わった。一年、二年、三年が分け隔てなくワイワイとじゃれあう楽しい部活にだ。


 まさに、少年が夢見ていた瞬間だった。この三年間、色々な屈辱や苦悩に耐え抜いたが、彼は一度も涙を見せなかった。しかし、三年生と一年生が壁を越えて仲よくする姿に、思わず涙を流していた。堪えきれなかったのだ。


「あれれ、なんで先輩泣いてるんですか?」


「なんでもない……なんでもないさ」


 男泣き。これにつきる。




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