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信じられるもの  作者: とてと。
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運命

(^v^)

「ずっと愛しているわ」


琥珀色の瞳をした、美しい濃紺の髪を持つ女性が感情を深く込めた声色で語りかける。


「ずっと愛しているよ」


瑠璃紺の瞳と同色の艶やかな髪の男性が、それに応える様に想いを倍に込めて反応する。


そして貴族服を身に纏った二人は、城下町を一望できるベランダでそっと寄り添う。そのまま顔を近づけ、ゆっくりと口づけを交わす。


「いやはや、御二人の愛情は永遠不滅ですな」


その様子を窓の陰で見守っていた家臣は、まるで成長した子供を見るような目で二人の姿を見詰める。そのまま目を横にずらし、女性に仕えている少年を視界に入れ、口を緩める。


「___様を密かに恋焦がれている君は___様が憎らしいかい?」

「………いえ、___様が幸せならば、私は満足でございます。」


少年は女性を優しい瞳でしばらく見つめた後、手元にあるティーカップに紅茶を注ぐ。女性のもう一人の世話係の少女は、ティーカップの傍にある小さなプレートに城抱え自慢のパティシエが作った焼き菓子を丁寧に盛り付ける。


「___。仕事に慣れてきましたね」

「えぇ。___さんが教えてくださった御蔭ですわ」


少年が少女に話しかける。少女はまだ手が震えていたりと未熟なものだったが、焼き菓子は綺麗に盛り付けられていた。


しっかりと磨いたワゴンにプレートをいくつか乗せ、少女がベランダまで押す。

家臣はにこやかにその平和な様子を見て警備員に挨拶をし、仕事に戻っていった。

少年がベランダの傍まで行き、お茶にしましょうと言う。









「………また夢か。」


田辺由梨は寝ぼけた目を擦りながら起き上り、背伸びをした。カーテンを開けると鳥たちの泣き声が響き、朝日が部屋の中に舞い降り、爽やかを演出している。

由梨は物心つくころからずっとこの夢を見ていた。


否、夢ではない。あの女性は、由利自身だった。自分という確かな保証はないが、あの女性と同じ感覚だったのだ。彼が愛しいと、全身で感じるのだ。


洗面所へ向かい、身支度をし、朝食を作り、摂る。

由梨の両親はもういない。幼いころに交通事故で亡くなってしまった。今は安いアパートで海外にいる叔父の金銭的な力を借りつつも、一人で家事をこなし1人で暮らしている。


玄関に鍵を掛け学校に向けて歩む。道沿いに咲く桜が美しく咲いている。

今は4月。由梨は今日から高校生となる。

私立の有名な金持ち学校で、有名な財閥の息子や令嬢も入学してくるほどだ。

授業料や寄付金は膨大な額になるが、この学園に入ると必ずいい職に就ける、いい学歴になると人気なのだ。


由梨は多額な金など持っていないから普通は入れないが、叔父に迷惑はかけられないと死ぬ気で勉強し、見事奨学生として全学費免除で入学することを許可された。


薄桃色の花びらで出来た絨毯を歩き、体育館へと移動する。

中に座っているのは皆美しい美貌を持った者がほとんどで、髪飾りや腕時計が有名なブランド品で中に入るのに気が引けたが、周囲の視線を受けつつも自分の指定された席へと座る。


由梨の前世、ヴィオラは大変美しい女性だった。もとは町娘で、彼レイディーン、通称レイがお忍びで城下町に忍び込んだ時に、花屋で働いているヴィオラに偶然出会ったのだ。一目見てお互い運命だと思い、レイはヴィオラに城へ住むよう説得し、それから幸せに暮らしたのだ。


現世。由梨はあまり顔立ちが美しくなかった。「平凡」だった。琥珀色の瞳も、濃紺の髪も、いつも潤んでいた唇も、何一つ引き継いでいなかった。

黒髪、黒い瞳、少し痩せていていまにも折れそうな腕。乾燥気味の唇。

ヴィオラは由梨にとって前世の自分であると同時に、憧れでもあった。



「今から入学式を始めます。」


理事長のマイクを通した声が体育館に響き渡る。

「まずは学園長の言葉より…」



やはり、どこの学校も校長や学園長の挨拶は長いのだと由梨は少し恨めしく思った。学園長はもう始まってから30分は話している。

どれも学園の歴史や自身の経歴を汚点なく並べているだけだ。


由梨には何の面白味もなく聞いてると眠気と戦い苦痛しかなかったが、周りの御曹司達はそうは思わないらしい。


財閥の息子や令嬢は、この学園では本でいう表紙のようなものだった。表紙の出来栄えでその中身がある程度わかる。学園で彼等達に不都合なことが降りかかり傷つくと、手に取ってもらえなくなる。つまりは交渉が成立しないのだ。

学園長の話も、聞く姿勢も、どの生徒と交流するかも、取引につながる。

故に生徒たちは熱心に話を聞いている。


由梨は改めて令嬢じゃなくてよかったと考えていると、校長の話はようやく終わっていて、新入生代表の話に移り変わっていた。

本当は首席の由梨が行うべきだったが、家柄が特別ではないという理由で、次席の生徒が話すことになった。


隅に寄せていた視線をステージに移すと、美しい金髪と透き通った碧眼の外人が立ていた。由梨に衝撃が走る。


「アル…」


思わず小さな声が口から零れ落ちた。呼んだ名は、ヴィオラに仕えていた少年の名前だった。


吃驚したのだ。まさかこんなに早く前世の人に出会えるとは思っていなかったからというのもあるが、壇上の少年は由梨とは違い、前世と全く同じ姿かたちをしていたからだ。


「……新入生代表、アルベール・エマニュエル」


固まっているとアルベールは話を終えてお辞儀をしていた。周りの人間が彼の素晴らしいスピーチに盛大な拍手を送る。


はっとして彼を見詰めると、アルベールは壇上から去る寸前にこちらをみて微笑んだような感じがした。

唇が動く。音を発しなかったが、由利にはしっかりと伝わった。


「ヴィオラ様」と。

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