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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、既に捻くれていた
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“伏見悠榎”は少しばかり考え込む。そして、疑問は晴らされた……気がする。

 洗練されたぼっちである俺には、隠された特技が幾つかある。まぁ、別に隠してた訳じゃないけど、伝える友人がいないだけだけど……。あ、何か目から汗が……。

 いやいや、卑屈になっちゃ駄目だろ、俺!

 とりあえず今日は、神城達のグループを詳しく観察してみようと思う。

 事の発端は昨日の疑問だ。俺と逢坂の帰路をつける人影を見たとき、何かモヤモヤっとした疑問が生まれたのだ。けど、どう言えば良いのかわからない。むしろ、自分自身が何に疑問を抱いているのか分からないのだ。

 だからこその人間観察である。

 俺は自分の席に着くや否や、ポケットからイヤホンを取り出して耳に装着、音楽を少音量で再生して机にうち伏せた。所謂、寝たふりである。

 そのまま視線のみをあいつらに向けて観察を開始する。

 ここで俺が注目するのは、彼らの“視線の動き”である。

 大抵の人間は視線の動きに応じて心情にも何らかの変化が生じる。例えるなら、焦ったときや頭が真っ白になった際、視線がキョロキョロと泳いでしまうようなものだ。

 この視線の動きを見ることで、この疑問を解決できる策を練るのだ。はいそこ、気になるなら彼らに尋ねてみれば? とか言わない。聞きづらいっつーか、言い出しづらいからこんな事をしているんでしょうが。むしろ逆説的に俺は視線の動きだけでコミュニケーションを取れていると言っても過言……でしたね、はい。

 ……話逸れた。という訳で、観察開始。

 ……ふむ、なるほど。

 ……全然分かりませんね。

 分からないなりにも粘って観察を続けていた所、不意に目の前に人が立ち塞がる。

 ……あぁ、もう、誰? いきなり目の前来るとか、邪魔なんだけど。

 そっと視線を上げると、そこには逢坂がぽつりと立っていた。何だよ、何か用かよ。


「……何しているのかしら?」

「……人間観察だよ」

「誰の?」

「あいつらの」

「何で?」


 ……え、何? 何で俺こんなに質問とかくらってんの?

 心無しか逢坂の顔がいつもより怖い。もしかして怒ってんの? こいつ、ほぼ無口・無表情だから分かりづらいんだよな。

 まぁ別に、この件については逢坂に伝える義務もない。自分の疑問を解くのに他人を巻き込むのは何だか嫌な感じだ。


「……別に」

「……そう」


 どうやら逢坂も諦めてくれたみたいだ。やはり、逢坂は話が早くて助かる。

 ふと予鈴がなる。仕方がない、観察はまた次に持ち越しだ。そう思いながらふと神城達の方を向く。


「………?」


 すると、あいつらのグループの一人が、こちらを伺っている。

 ……いや、違う。瞬時にそう思った。確証は……全く無いけれど……。

 っつーかあいつ、どこかで見たような……。






「……分からん」


 昼休みになるけれども、今だ疑問が晴れる様子はない。むしろ考えすぎて授業が頭に入ってないレベル。重症だ。


「何々? どしたの、頭なんか抱えて……」


 ふと横から神城の声が聞こえる。畜生が。元はと言えばこいつがあんな依頼さえしてこなければ万事解決だったのに……。


「………!」


 ……あ、そうだ、思い出した。

 こいつから依頼を受けたとき、あの教室には確か俺と神城と里中……、そして、もう一人いたはずだ。そしてそれは、多分あいつ……こちらを見ていた奴だ。ちなみに“里中”と言うのは昨日あの場所にいた爽やか系イケメン君の名前である。本名、“里中昂輝さとなかこうき” である。

 話を戻すけれど、何であいつは、こいつら二人に便乗してそこにいたのだろう。そこにいたということは、それなりの理由があるのではないか、と俺は推測した。


「なぁ、神城……」

「え! な、何?」


 俺がいきなり尋ねたからだろうか、神城は何やら驚いた様子でこちらを見詰める。

 ……聞きたいことがあるのだけど、まず……、名前が分からん。

「あ……と、い、依頼してきた時さ、確か里中とお前と……あと一人いたよな……あれ誰?」


 とりあえず名前を聞いてみた。


「え? ……あ、あぁ、彼ね、彼は田代君だよ」

「その田代君だかは、何であの場にいたわけ?」


 依頼をするのは神城なわけだから田代がいる必要は無いし、むしろ里中も必要無いのである。


「え、とね……それはぁ……分かんないなぁ」


 えへへと笑いながらごまかす神城。うぜぇ。

 ……だけど、大体の検討はついた。あくまで俺の推測だけれど……。

 しかし、まだ情報が足りない。再び田代の方を見てみると、不意に視線が合った……気がした。いや、実際には視線は合っていないのだろう。

 田代はこちらを見ていない。あの時も多分同じだ。




 あいつは……逢坂の事を見ているのだ。




 それならその先の推測も簡単だ。

 多分昨日の人影の正体は田代だ。あいつは逢坂の後を追っていたのだろう。

 何故かって? みなまで言うな。思春期男子にはよくあることだ。え? ストーカーは……ケースバイケースでお願いします。


「……神城」

「ん、何?」

「放課後、田代の奴を図書館に呼べ」

「えっ?」


 神城は何のことか分からずキョトンとしている。


「………」


 俺は基本的に他人への協力はしない。ちょこちょことはすることもあるけれど、大々的な協力は正直好まない。

 だけど、俺は、田代にちょこちょこと協力する。協力というよりも、どちらかと言えばキッカケを与えるだけなのだけれど。あらやだ俺ってば優しい。そんな訳あるかです。





 そして、放課後がやって来た。

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