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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、既に捻くれていた
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“伏見悠榎”は初めて部活動を行った。しかし、彼には少し荷が重すぎたのかも知れない。

 基本的に皆は「一人ぼっち」――通称「ぼっち」に対して何か勘違いを抱いているようである。

 ぼっちは、積極的に他人と関わろうとしないからぼっちになるわけじゃない。俺みたいな状態に陥った者は結局、積極的に関わった所で誰も相手にしない。むしろ逆に相手が避けていくだけである。

 だからぼっちは、他人との関わりを諦め、ぼっちとして生きていく道を選ぶのである。

 結論……ぼっちはどこにいってもぼっちである。

 無論、ぼっちである俺が、多人数の群れを作っている“部活動”に参加する際にも同じ現象が起こる訳で……。


「………」


 むしろ女子の群れに唯一の男子である俺が交ざることによって、その場の空気は予想の斜め上をいく気まずさなのである。


「………」


 しかし残念な事に、俺はこの状況下に対して、何の気も感じていない。一般的レベルのぼっちならば、相手が女性ということもあり、普段より数段落ち着きがなくなるのだが、崇高な恋愛アンチである俺にかかれば何のその。あたふたする所か、自らが徹して空気になるという親切。

 それでも彼女達は、微妙な視線をこちらに向けてくる。これ以上は彼女達の作業にも支障が出るかもと思い、俺はトイレに行くと偽って、図書室を後にした。

 ……なんて優しいんだろ、俺。





 だがしかし、一体どこで時間を潰せば良いだろうか。時間潰しの聖地である図書室は、先程抜け出して来たために選択不可能。かといって他の場所に時間を潰せそうな場所は思い当たらない。こうなるのなら学園内を探索して、マイテリトリーを見つけておくべきだった、と今更ながら後悔。


「……さて」


 行く宛ても無い俺は、とりあえずトイレへと向かって歩きだすのであった。





 トイレへと向かい、そのままの足取りで購買にある自販機で飲み物を購入、そのままフラフラと歩き回って数十分後、俺はようやく図書室へと戻ったのである。

 すると、室内には部員達の姿はなかった。時計を見ると既に6時を過ぎており、そこから推測するに、本日の部活動は終了したのだろう。

 グッと天にむけて腕を伸ばす。伸びをしたまま左右に腰を捻り、軽いストレッチをする。

 ……まぁ、分かってた事だ。特に落ち込みはしない。むしろ同性との交流もままならない俺が、異性しかいない空間で交流など出来るはずが無いのだ。それは逢坂ですらカバーする事は不可能だ。責める理由にならない。

 ……明日、退部届けを出しておこう。

 多分、彼女達は俺という“異性”の存在が自分達のテリトリーに入り込んで来たことに、若干の嫌悪感を抱いたのだろう。確かに彼女達から見る“男子生徒”は、なにやら下品で下心丸出しの目付きでこちらを見てくる“野蛮な生き物”に見えているのかも知れない。だからこその微妙な空気なのだ。

 しかし逆も然別。俺から見る彼女達は、どっからどう見てもイケイケビッチにしか見えない。むしろ近付いてきて欲しくないレベル。そう考えたらお前らも大抵他人のこと言えねぇじゃん、と思うのは俺が捻くれているからでしょうか? そうですか。

 しかし今日の出来事を見て分かった事で、彼女達の作業に支障が出る原因となるのなら、退部という考えは致し方ない判断である。

 別に、俺は悲しく無い。

 むしろ傷付くことに関しては慣れっこである。

 それがぼっち。ILove千葉な捻くれぼっちさんもそう言っていた気がするが、どう考えても気のせいな気がしてきた。






 次の日のホームルーム後。俺は直ぐさま職員室に向かい、素早く退部届けを貰い、その場で記入し提出した。

 後悔はしない。むしろ立派な決断であると自分を褒めたたえてもいいくらいである。

 だがしかし、せめて逢坂には謝っておこう。せっかくの勧誘を無駄にしたのだから、当然俺には謝罪する義務が枷られる訳だ。






 昼休み。いつものように逢坂はこちらに振り向く。


「……悪い、逢坂」


 彼女が弁当の感想を述べるより前に、俺は素早く謝罪の言を述べた。


「……やっぱ、俺には向いてないみたいだ。部活動はさ」


 弁当の箱を開けながら、如何にも何でもないかの様に語る。


「……そう」


 彼女も理解してくれた様子。こいつはこういう事に対する飲み込みは早い。それは有りがたい。

 しかし、


「……じゃあ私も退部するわ」

「……は!?」


 俺の発想の斜め上……いや、むしろ真上の発言は止めてほしい。心臓に悪いから。


「何でお前まで止めんだよ」

「貴方がいないと面白くないから」


 何こいつ俺が好きなの? 勘違いさせたいの? しないけど。

 そう思いながらも、俺はふと彼女の今までのクラスでの人間関係を思い出してみた。 そうだこいつ、異性はちらほら近寄って来てんのに、同性が近寄って来てんの見たこと無い。むしろ距離置かれている感じ?

 まぁこいつ、容姿端麗の美少女だしなぁ……(クラス内男子談)。容姿が良すぎる、ってのもいろいろ大変なんだな。どうでもいいけど。


「……勝手にしろ」


 言葉だけ聞けば刺々しいかもしれないけど、別にこいつが退部しようが関係ないと思うとそうでもない。


「……そうするわ」


 そう呟くと彼女は席を立ち、足早に教室を出ていく。多分、目的地は職員室である。

 俺は彼女の後ろ姿を、頬杖をつきながら見詰める。そして軽く溜息を零すのだった。

 今日は早めに五限の準備を済ましとこう。そう思い机の中を漁る。すると、一切れの紙が机の中からヒラヒラと落ちてきた。


「………?」


 俺はそれを拾う。二つ折されており、それを開く。


「……なっ!」


 驚愕である。紙切れには丸っこい文字が書かれていた。






 その文字はいつぞや見た手紙に書かれていた文字と類似していて、しかも、その紙切れに書かれている内容もほぼ全く同じ、所謂「○○に来い」シリーズであった。

 何これ告白? その発想はなかった。せめて隣の奴に、……って間違いであってほしい。あ、でも、俺の隣って女子だっけ? ガチ百合系は、正直フォロー出来ない。

 そんな茶々を頭ん中で呟きながら、俺は前回と同じ様に、“軽い悪戯”と考えつつも、放課後にそこに行ってみる事にしたのであった。

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