表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、既に捻くれていた
3/33

“伏見悠榎”は部活動に誘われた。当然、彼は断った、のだけれど……。

 いつも通り独り孤独に過ごす昼休み。


「今日も一人ね」

「……大体がお前のせいだよ」

「あら、そうなの?」


 いつものように逢坂が話し掛けてきて、いつものように周りから視線を送られる。

 慣れって怖いな、とつくづく実感した。


「あ……そういえば」


 逢坂は不意に上に視線を移し、何かを思い出したように呟いた。そして再びこちらに振り返るのである。


「伏見君は、部活動――もとい新聞部に興味はないかしら?」

「……ねぇな」


 俺はサラっと答えた。


「その理由を述べよ」


 逢坂は仕返しにと言わんばかりに、まるで問題冊子に出て来る問いのような感じに尋ねてきた。

 勿論、適当に断った訳でわない。


「勧誘するって事は、お前もその新聞部に入ってんだろ?」

「えぇ、一応ね」

「お前と親しくしていると、男子の連中から痛々しい視線を向けられる。意外と困ってんだ」

「新聞部に男子はいないから大丈夫」


 ……ぐっ。それはそれで嫌だな。


「…女子だけの部活動に、男が混ざるのってのは迷惑なんじゃ……」

「それも大丈夫。了承は得ているから」


 ……何の了承だよ。


「……俺人見知りだし、部活の雰囲気とか馴染めないと思うんだけど……」

「大丈夫。私が全力でカバーするから」


 ……くそっ。手際が良すぎて断りきれない。この人どんだけ俺を新聞部に加入させたいんだよ。

 俺は、逢坂という美少女の本気を垣間見た。気がした。


「……駄目?」


 ふと逢坂は俺の視線より頭を下げ、上目遣いで俺を見詰めてきた。

 これは反則だ、と大抵の男子は呟くだろう。イイネ、もされるかもしれん。しかし俺には通用しない。だが、


「……分かった、入部するよ」


 俺はあっさりと逢坂の要求を了承する。無意味な争いは、言葉の通り意味が無い。こういう時は、先に諦めた方が勝ちなのだ。それに、周りの視界がやはり痛い。


「……よかった」


 彼女がそう呟くと同時に予鈴が鳴る。次は移動教室での授業の為、俺達はさっさと移動の準備へと取り掛かる。

 心なしにか、振り返る際の逢坂の顔が、少し微笑んでいた気がした。が、気のせいである。






 放課後になり、俺は逢坂に連れられて、とある教室の前に立っている。


「部室って……図書室かよ」

「そうよ。多分みんな来てると思うからちょうどいいわね」

「え? 何に?」


 “何”にちょうどいいか、なんて理解している。どうせ俺の自己紹介か何かだろう。理解した上で、俺は惚けてみる。


「……わかった上で惚ける気?」


 逢坂には全てお見通しのようだ。彼女はグイグイと背中を押して来る。


「わかった、わかったから、押すな押すなぁ!」


 逢坂の行動に対し抵抗してみる。まぁ、出入口付近での攻防、しかも扉は全開なのだから、新聞部員達には丸聞こえな訳で、


「あらあら、仲の良いお二人ですね」

「……なっ!」

「………!」


 俺達はまんまと茶化されてしまうのであった。 






「逢坂さん。そちらが例の……?」

「はい、そうです」


 眼鏡を掛けた女性が逢坂に尋ねる。俺はその様子を見ながら、とりあえず目の前にいる新聞部員全員を確認する。

 ……俺はこの人達を見たことが無いけれど、クラスメイトではないことは確かだ。俺はクラスメイトの顔を半分も覚えていないのだけれど、逢坂に話掛けていた女子生徒の数くらいは覚えている。目の前の席での出来事だからな。深い意味はない。多分。


「とりあえず、自己紹介お願いできるかしら」

「………」


 とりあえずコクりと頷く。相手の素性がわからない以上、こちらからむやみに動くのは得策ではない、と俺は判断した。別に相手が襲ってくる訳じゃないのだから必要のないことだけど……。


「え…と、伏見っす。伏見悠榎。一年で……えと……」


 ど、どど、どうしよう。言葉が浮かばない。ぼっち生活に慣れてくると、人への自己PRの不必要性に気付いてくる。その為こういう自己紹介の際にはあたふたしてしまう。それがぼっちの特徴である。

 かく言うこの俺も、その状況になっている訳で、


「え…と、あの、その……」


 視線を泳がせながら、何とかして言葉を紡ごうとする。一体、何を語ったら良いものか……。

 ……あ。


「……コホン」


 あたふたしたわりに偉そうに咳込みを入れてみる。そうだ、これがあるじゃないか。俺はとりあえず堂々と、とは言えないものの、


「俺は、女性が苦手……っす」


 と、言い放ってみる。

 すると、そこには何とも言えない沈黙が……。あぁ、これは痛い。痛々しいぞ。


「……ふふふ」


 ほら笑われた。分かってたさ、そのくらい。俺は眼鏡を掛けた女性にジト目を向ける。


「ごめんなさい。あまりにも逢坂さんの話していた人物像と同じだったもので……」


 俺のジト目は、そのまま逢坂にへと向かう。この野郎、何を話しやがった。勿論、逢坂は無視なのである。


「私は久須美。二年生です。一応、部長って立場なのだけど、気軽に話し掛けてもらって構わないわ」

「……はぁ」


 そんな事を言われても話す気にはならない。彼女が悪い訳ではない。俺の中の例の件――恋愛アンチ的趣向が悪いのである。所謂、罪を憎んで人を憎まず、というやつである。

 その他の部員の名前を聞いたけれど、覚える自信は全くない。


「私達“新聞部”はどんな活動をしているかというと、それぞれが書いた記事を新聞という形にして掲示板に掲示するの」

「……はぁ」


 何となしに理解していた。新聞部というのだから、それなりの何かを掲示するとは思っていた。問題はその記事の内容である。


「……んで、内容はどんなのを……」

「自由よ」

「……えっ」


 自由……とは? そんなんじゃ新聞のていを成さないんじゃ……?


「とりあえず、皆は自由に記事を作成する。その後ちゃんと編集してから掲示するから大丈夫なの」

「はぁ……」


 どう大丈夫なのかはわからないけれど、この体制で動いているのだから、俺がそれに口出しするのは野暮である。

 そんなこんなで説明を聞き、本日の部活は解散となった。






「……どうだったかしら?」


 帰路の途中、逢坂が尋ねてきた。


「どうもこうも……。お前は俺に面倒を押し付けんの上手な」

「そうでもないわ。まだまだね」

「褒めてねぇし、これ以上面倒を増やさないでくれ」


 この場面を見られるとまた男子共が騒ぐんだろうな、なんて思いながら歩いている途中、俺はふと思った。

 何故、逢坂は俺と同じ帰路を歩いているのか、と。

 目の前には住宅街に佇む我が家が見える。俺が我が家の前に止まると、逢坂は家をじっくり観察したあと、


「それじゃ、さようなら」


 といって再び歩きはじめた。

 この野郎。とうとう俺の自宅までも特定しやがった。どこまで俺に面倒押し付けようとしてんの? 趣味なの? 俺弄りが。


「おい、逢さ……」


 彼女の名を叫び呼び止めようとする。すると彼女は、我が家の隣の一軒家へと入っていった。

 不意に言葉を失う。思考も少し混乱しているようだ。落ち着け。落ち着くんだ。隣の家はまだ空き家だったはず……。


「……あ」


 そういえば高校入学前に、引っ越しの挨拶だといって、とある夫婦からお土産を貰った記憶がある。確かその時に聞いた名前が……。


「逢坂って……言ってた」


 開いた口が塞がらない。隣の表札を確認してみると、案の定「逢坂」と書かれていた。

 絶望的ではないか。俺の口から深々と溜息が零れた。疲れた、この一言に限る。

 逢坂の勧誘により新聞部へと入部し、逢坂がお隣りであるという事を知った、とある一日の夕焼け時であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ