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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、既に捻くれていた
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“伏見悠榎”は注目を浴びた。しかし、本人曰く、「No Thank you」

 今現在、教室中がザワザワと騒がしくなっている。理由は簡単。それは、現在進行形で行われている“席替え”が原因である。

 高校入学して初めての席替えだ。誰の隣になるのかドキドキしているだろうし、意中の奴の隣を狙っている奴も少なくはないだろう。

 しかし、特に何の目的もない者にとっては、ただ騒がしいだけの苦痛な時間である。せめてもう少し静かにして欲しいものだ。

 ちなみに席替えの方法はくじ引き制だ。黒板に番号が書かれており、引いた紙に書かれた番号と一致した場所に決まる、という比較的見たことのある方法である。

 俺の引いた席は、窓際の一番後ろ。前回の席から移動させるのが面倒ではあるが、人に囲まれている席、というのもあまり好ましくなかった。

 この席は良い。前と後ろ、あと斜め右に他の席があるだけで、前回の様に四方八方に人がいる訳ではない。願わくば、後から来る周りの奴らが物静かで、尚且つ“女”でなければいい。





「……はい、これで新しい席は決まったね」


 担任の声が教室に響き渡る。それと同時に授業終了の予鈴も鳴った。周りから様々な声がざわめきとして聞こえて来る。目的の席に座れた者。友人と離れてしまった者。どうでもいいと考えている者。

 俺はというと、まぁまぁな席だと思っている。

 ……ただ、


「……はぁ」


 俺の願いとは裏腹に、前後斜めを、何と全て女子に囲まれた。いやいや、その発想はなかった。いや、マジで……。

 それだけならまだマシも、目の前の席に座るのは、あの有名な逢坂皐月なのである。どうしてこうなった。

 “逢坂の席”の近く、ということで、他の男子生徒からは、嫉妬のような視線が突き刺さって来る。別に変わってやっても良いのだけれど、俺の面倒臭がりな性格が災いし、断固として、もうこの席から動きたくないのである。


「………」


 仕方ない。「人の噂も七十五日」という諺にもあるように、男子からの嫉妬も時間が立てば直ぐに収まるだろう。その間、俺が影を潜めていけばいいだけ……。


「あら、伏見君。席が近くなのね」

「………」


 先程まで騒がしかった教室中が、時が止まったかの様に静まり返る。


「私、伏見君の席が近くで、よかったわ」


 静まり返る教室に、逢坂の台詞だけが響き渡る様に放たれていく。この野郎。もう喋んな。


「えぇぇぇぇっ!!!?」


 あぁ、五月蝿い。静まり返っていたクラスメイト達から驚きというか悲鳴のような叫びが再び教室に響いた。俺は耳の穴に指を突っ込み、その喧しい音を遮断した。

 女子達はひそひそと俺について話している。様子を見るだけでもわかる。わかりやすすぎる。まぁ、大抵が逢坂との関係性とか、俺に対する誹謗中傷だとは思うけれど。また、男子からは、嫉妬を含む視線が一転、敵意を剥き出しにしたモノへと変貌していた。

 俺の味方はもう、この教室にはいないようだ。早くも諦めムードな俺。





 高校初めての席替えの日。俺の席と同時に三年間のぼっち生活が、俺の中で確定した瞬間である。





 昼休み。元々一人で飯を食っていたけれど、改めて周りを見回すと、本当に独りなんだなって実感した。この現状を寂しいだとか思ったりはしない。昔から友人と呼べるほどの知り合いの少ない俺にとって、むしろこの状況が日常的と感じるほどである。

 しかし、逢坂のやつ。空気になろうとしているんだから、そこんところ空気読めよ。

 ……空気になろうとしているだけに?

 ……笑えねぇよ。これだから女は……。

 ……と心の中でぼやきながら、俺は自分で作った弁当を黙々と食す。


「………」


 何だかジッと隣から見られている気がする。チラッと視線のみを移すと、隣に座る女子が俺の弁当に向けて執拗に視線を送ってやがる。


「………」


 ここは、「何か用か?」と尋ねる場面ではあると思うけれど、俺はあえて無視を決め込む。女に関わるとろくなことがない、と先程学んだばかりであるが故に話し掛けれない。それに話し掛けた所で、俺にも彼女にもデメリットしか生まれないだろうし。


「……へぇ、伏見君って、弁当持参なんだ」


 隣の無視を決め込んだら良いけれど、前の席の存在を忘れてた。

 逢坂は、自分がどれ程有名なのか知った方がいい。そして、俺の無名さと現状も一緒に知ってほしい。


「……無視するの?」

「………っ」


 アホか。無視せざるを得んだろうが。周りを見ろ。男子からも女子からも、痛々しい視線が降り注いでいるだろうが。ましてや俺は、隣の奴に対して無視を決め込んでいる。容易く他人と会話出来る状態ではないし、会話すんのがめんどくさい、という意味を込めて、俺は逢坂の目を見る。


「………」

「………」


 ……何故、お前も目を見つめ返して来る?


「……そんなに見つめないでくれないかしら?

 ……惚れてしまうから」

「んなっ!!?」


 何を言い出すんだ!? このクソアマが!!

 先程の発言には、流石に無視は出来ない。これ以上、傷口を開きたくないのに、この野郎は……。


「……ちょっとついて来い!」


 俺は逢坂の手首辺りを掴み、教室を出ようとする。


「まぁ……強引ね」


 五月蝿い! これ以上喋らないでくれ。周りからの視線が痛い。痛いからぁ!!





「……おい、逢坂。貴様、わざとだろ!?」


 屋上まで彼女を連れだし、問いただすような形で尋ねる。


「……何がかしら?」

「惚けんな。席替えん時も、さっきの台詞だってそうだ。思わせ振りな台詞吐きやがって……」

「あれは全て、本心よ。それに、貴方はこういう台詞には惑わされないんじゃなかったかしら?」

「あぁ、そうだよ。恋愛アンチの俺は惑わされねぇよ。けど、周りは違うだろ?」

「……そうね」

「お前はクラスでは有名人なんだ。そこんところわきまえて喋れ。わかったな?」

「……えぇ、わかってる」

「ぁ~……あと、空気読め。以上」


 言いたいことは全て話したつもりだ。ただ、二人同時に帰るっていうのは、何だか気まずい。


「……勝手に連れ出して悪かった。逢坂は先に教室帰れ」

「……貴方は?」

「俺は別に……図書室とかで時間潰してから戻っから、気にすんな」

「……そう」

「あと、他んやつらから、俺らの関係性を聞かれても無視しろよ。あいつらはそういう話のネタが欲しいだけだから」

「……えぇ」


 後半から、やけに素直ではないか。まぁ、どうでもいい。


「最後に、俺に絡むとろくなことねぇぞ。嫌な思いを必ずするから」


 ……特に俺が。いや、むしろ、お前が加害者で、俺が被害者。

 とりあえずこれだけ伝えると、俺は彼女を放置し、スタコラと校庭へと向かった。

 ……何故、校庭に?

 ……理由はない。

 ……図書室行けよ、と自らツッコミをいれる。そうやって気を紛らわしながら、さっさっと逢坂から離れて行った。





「……別に私は、嫌な思いなんて、していないのにな……」




 数十分後、教室に戻っり、食べかけの弁当に再び箸を付けようとした瞬間、クラス中の男子(もしかしたら他のクラスの奴もいるかも知れない)に囲まれて、逢坂との関係性を、昼休みが終わるまでミッチリと尋ねられた。

 その次の日から、俺は同級生一同から、嫉妬の視線と注目を浴びてしまうのは、言うまでもない。

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