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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、既に捻くれていた
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“伏見悠榎”は美少女に出会う。が、何も起きない。

 本日は、何と面倒な一日なのだろう。

 放課後になり、生徒の大半は部活動又は帰宅で校内から出ているこの時間。いつもの俺は、校内に残っていても、これといってやることもないので直ぐさま帰るのだが、今回はそうもいかないみたいである。

 原因は、今俺の手元にある、差出人不明の“手紙”である。 中身を見てみたのだけれど、『図書室に来い』としか書かれていない。しかし、丸っこい文字から想像するに、差出人は女性であると俺は推理した。


「……チッ」


 不意に舌打ちをしてしまった。何とも不愉快だ。まず、赤の他人を呼び出すのだから、もう少し礼儀を持って頂きたいものだ。

 別に無視することも出来たのだけれど、呼び出した相手がいつまでも俺を待ち続けている、というのはどうにも気まずくて申し訳ない気持ちになる。仕方がないので、手紙に書かれた場所へと行ってやる事にした。





「……はぁ」


 図書室の前で溜息を零す。あわよくば、これが誰かの悪戯であって欲しい。それならば真相を知った瞬間に、直ぐさま校舎を後にすることが出来るのに……。


「……はぁ」


 再び溜息を零す。しかし、溜息ばかりをついていても仕方がない。俺は扉を開いた。


「………」


 誰もいない、様に見えたけれど、ふと周りを見回すと、窓際の隅の机で、静かに読書をしている女子生徒を発見してしまった。まさかこいつが、俺に手紙を……?

 無いとは思うが、もしかしたらというのもある。とりあえずではあるけれど、その彼女に尋ねてみるとしよう。


「……なぁ、お前この手紙について何か知っている事ないか?」


 きっと相手には、新手の告白か何かだと思っているだろう。実際に、振り向いた彼女の目がそう語っている。しかし、安心しろ。俺には全く、これっぽっちも、そんな気など無い。皆無と言っても良い。


「……知らないわ」

「……そうか」


 余りにも素っ気ない答えではあるが気にしない。そう答えてもらえて、こちらも安心した。

 俺はそのままこの教室を後にしようとした。その時、


「……待ちなさい」


 不意にそいつに呼び止められた。


「……何だよ?」

「……他に何か用は無いのかしら?」


 ……何を言ってやがるのだろうか?


「別にねぇよ」


 振り向きながら素っ気なく答える。その際じっと顔を見た。


「………」


 よく見ると、俺は彼女を知っていた。いや、多分、相手も俺の事を知っているかもしれない。

 彼女――“逢坂皐月あいさかさつき”は、俺と同じクラスメイト。しかも、クラスの男子から絶大な人気を誇る、所謂“美少女”と呼ばれる類の人間である。

 入学式を終えてから数週間位で、何十人の男子から告白されていたのだ。それくらい男子が寄って来れば、俺みたいな男子が近寄り話し掛けてきた際に、他に何か意図があるかも、と勘潜るのは致し方ない。

 だがしかし、


「……もしかしてお前は、俺がお前と接点を増やしたいが為に、この手紙の事を尋ねてきた、と思っているのか?」

「……そうよ。他の男子は大抵私と会話を交わしたいと思っているはずよ?」


 少し自意識過剰っぽい台詞が聞こえたが、それは彼女の体験からして仕方ない事としてスルーしよう。


「残念だな。世の中には、お前と接点を取りたくもない、と思っている男子もいるんだ」

「……へぇ、どのような人かしら?」

「例えば俺」

「……意味が分からないわ」


 ……だろうな。この意味を知るには、少しだけ長い過去話をすることになる。彼女も赤の他人、ましてや興味の無い奴の過去を知りたくもないだろう。俺も教えたくない。面倒だし。


「簡潔に教えるとだな……」


 一つ咳ばらいをし、一区切りの間を開ける。そして一言、





「……俺は“アンチ恋愛主義”なのだ」


 俺は堂々とした気持ちで言い放った。





「……意味が分からないわ」

「………」


 先程と同じような答えが返ってきた。当たり前だ。いきなり“アンチ恋愛”という造語を言われたところで、ただキョトンとするほかない。実際、他の奴にもこのモットーについて話したけれど、やはり全員にキョトンとされた。

 アンチ恋愛。俺はこの言葉を「“異性間における恋愛行為、及び恋愛感情を抱くまでの行程”を忌み嫌う」という意味で使用している。

 とりあえず逢坂に、こういう意味である事を伝えておく。あくまでも簡潔に。


「……簡単に言えば、俺はお前ら“女”が苦手……いや、嫌いなんだ」

「……そう言われるとわかりやすいわ。もっと簡潔にまとめると、貴方は捻くれているのね」

「……その言い方は少ししゃくではあるが、間違いではない。むしろ大体合ってる」

「……フフ」

「………?」


 何故か彼女はクスリと笑った。今までの会話の中で笑える所などあっただろうか?


「……貴方という人は不思議ね。他の男子達とは違う感じがする」

「俺を他の奴らと一緒にすんな。あいつらは気持ち赴くまま女子達に近付きたがるが、俺は違う。“アンチ恋愛”ナメんな」


 俺は逢坂に向けて、吐き捨てる様に言い放った。あんな飢えた狼みたいにホイホイ女子に近付いていく男子達と一緒にされたのは少し侵害だ。

 ……まぁ、俺がこんな考えを抱いているから友人は増えないし、周りから“捻くれ者”と言われるんだけれど。


「本当に貴方は変わってるわね。とても面白いわ」


 何やら好印象を持たれた、と思わせる様な台詞が聞こえたが、俺はそんな言葉に惑わされはしない。元々用事は済ませている事を思い出した俺は、再びこの教室を後にしようとした。


「……ねぇ」


 不意に逢坂が声を掛けて来る。


「……んだよ?」

「名前……」

「……は?」

「貴方の名前……教えて貰えない?」


 別に教えてやる義理もないけれど、それを断る義務もない。致し方なく、


「……伏見。伏見悠榎ふしみはるかだ」


 俺は彼女に名前を教えてやった。


「伏見……ね。ちゃんと覚えたわ」

「覚える必要はないだろ。俺達はもう会わないかもしれないんだから……」


 それを最後の一言とし、俺は今度こそ教室を後にした。






 しかし、


「……そういえば、あいつと俺って……同じクラスだった」


 この事を思い出したのは、校舎から出た帰宅途中の事であった。

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