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三年契約。  作者: 香月紫陽
chapter 1
3/19

放課後discovery




 教室に戻ると、早くも友人を作ったらしい麻子がこちらに気付いてやって来た。荷物を回収して廊下に出ると、麻子が隣に並んだ。


「相変わらず麻子は友達作るの早いよね」

「うーん……どっちかっていうと、あの子たち伊織ちゃんのファンって感じかも」

「……は?」


 思わぬ一言に、伊織は目を瞬かせる。なんだそれは、という目をすれば、麻子は苦笑を浮かべて続けた。


「……なにそれ」

「だって伊織ちゃん、カッコいいから」

「…………」


 完全に把握しかねる話題であったらしい。伊織はそれ以上何も突っ込まなかった。それよりも、この学校でも麻子が燥げるほどの友人が出来たのなら良かった、と伊織は麻子の頭を撫でる。彼女はとにかく、麻子に甘かった。






- - -






 まさに昼時にケーキバイキングに入った為に、人が多かった。それでも平日なだけあって、まだましと言えるだろう。かろうじてタイミングよく空いた席を発見し確保すると、先に麻子にケーキを選ばせることにした。

 内装がお洒落なこのカフェは、人が多くてもゆっくり過ごせそうな雰囲気だった。店内を軽く見回してみると、細部にまでこだわっているのが分かる。


「お待たせ。はい、ティラミスとアイスティー」

「ん、ありがと。じゃ、行ってくる。いつもの?」

「うん、お願いします」


 戻ってきた麻子と入れ替わりに、今度は伊織がスパゲティーを取りに行った。それにしても、ケーキバイキングは久しぶりだった。元々甘いものが好きな二人は、よくケーキを食べたりする。数年前まではしょっちゅうケーキバイキングにも行っていた。行かなくなったというよりも、主催していた近場のホテルが廃業になってしまったからだが。

 二人分を持って席に着き、早速食べ始めた。味は中々のもののようで、麻子が始終笑顔でいたことに、伊織も上品に笑う。それを見て、麻子はミルクティーに口をつけた。


「……伊織ちゃん、ほんと一般家庭の人とは思えないんだけど」

「……なにが?」


 ぽつりと呟いたそれに気付いて、伊織は首を傾げる。その仕草であることを指摘すれば、納得したように頷いた。


「母さんが、“お嬢様”らしくない“お嬢様”だったからかもね」

「あ、そうだったんだ。確かに品のある方だと思ってたけど」


 伊織の母親は、確かに正真正銘のお嬢様だった。しかし、癖のある。元々そういう気質ではなく、ただ家にいてじっとしているということがとにかく苦手だったようで、やはりというか、家を出て勝手に働き出していたらしい。唯一の救いと言えば、彼女の両親が温厚でその事業の成功を見守ってくれたことだろう。

 立ち上げたブランド服の会社は、今や有名もののひとつとして名を馳せている。


「そういえば、日向くんだけど……伊織ちゃん、覚えてる?」

「……誰だっけ」

「伊織ちゃんの右隣の席の人」

「……ああ、そんなのいたような……」


 伊織は思案顔になる。既にティラミスに手を付け始めており、一角を口に含んだ。


「……うん、その分じゃ全くと言っていいほど記憶にないんだね」

「何かあったと言われれば、今日さっき中庭で修羅場ってた光景くらいしか」

「え、なにそれ面白そう」


 切り替わりの早さに苦笑しつつ、あらましを話して聞かせた。話し終えた時の麻子の表情が呆然としていて、伊織は怪訝な表情になる。


「……なに、なんかあった?」

「……うん、やっぱりほんとだったんだ」

「なにが」

「遊ぶのやめたって噂」


 噂、という言葉に、益々顔を顰める。伊織から聞いたわけではないが、麻子は噂について様々なことを離してくれた。そのひとつが実証されたらしいことに麻子は驚いているのだというが、伊織には今一つ良く分からない。

 ただ、ひとつ。言えることは――。


「なんでもいいけど、麻子は引っ掛かんないでよ。もうあんな面倒事はごめんだからね」

「それは……まあ、うん。わたしは大丈夫だけど……」


 煮え切らない答えに、伊織は疑問符を浮かべる。それに気づいた麻子は、慌てて首を振った。


「え?あ、ごめん、なんでもない!そ、それよりさ!折角来たんだし、もっとケーキ食べようよ!」

「……良いけど、控えめにしときなよ」

「うん、それは大丈夫!」


 なんだか様子がおかしいが、気にするまでもないのだろう。そう自己完結して、伊織は別のケーキを取ってこようと席を立った。

 目を引いた新作、という文字に、なんとなくつられる。次はこれにしよう。そう決めて皿に取った。






- - -






 翌日、たまたま目にした求人広告に、昨日のカフェが載っていることに気付いた。


「(……まあ、味も良かったし、何より店内の雰囲気が結構好みだったしな……)」


 バイト、してみようか。浮かんだのは、それだった。

 中学は部活に所属していたが、高校ではどこかに入部するつもりはない。しかし、そうなると放課後が暇になる。考えて、伊織は掲載されている連絡先にかけてみることにした。

 相手方も急いでいたようで、面接が明日行われることになり、詳しい時間を訊いて電話を切る。


「……母さん、なんて言うかな」


 笑みを浮かべながら寄って来たりんごに尋ねるように口にすれば、りんごはひとつ鳴いた。




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