プロローグ
姿見で、真新しい制服を着た自身を見つめてみた。白のブラウスにグレーのチェックのスカート。紺色のブレザーには、学年を表す赤の校章。大きめのリボンは赤のチェック。そして、紺色のハイソックス。……成程、確かに高校生だ。どこか他人事のように、姿見に映る自身に対してそんなことを思った。
黒崎伊織、今日から通う、東條高校の新入生だ。ざっとチェックを済ませると、伊織は壁に掛けられた電波時計を見た。まだ、出るには少し早い時間だ。それに、今日は同じ高校に通う幼馴染が迎えに来る。
とりあえずテレビでも見て時間を潰そうとした時、ふとテーブルに置かれた携帯が着信を告げた。朝早くから誰だ、とサブディスプレイを見て、伊織は目を瞬かせる。そしてふっと笑みを浮かべると、通話ボタンを押した。
「……はい」
『あ、やっと出た。遅いわよ』
「……まだ五秒もたってないんだけど」
相変わらずだ、と伊織は呆れたように返しながら、ソファに座る。
「で、そろそろ時間なんだけど。どうしたの、母さん」
電話をかけてきたのは、ロスにいる母親・沙織からだった。確かに時計を見れば、丁度昼を過ぎた時間帯だ。
『ちょっとー、冷たくない?折角六日ぶりに電話掛けられたのに』
「細かいこと覚えてるのは相変わらずだよね、本当」
『どんだけ寂しかったと思ってるのよ!……まあ、それはさておき』
いくつになってもこのテンションは変わらない。そんな沙織に微笑を浮かべながら、伊織は寄って来た黒猫を撫でる。
『――入学、おめでとう。式に参加出来なくってごめんね、伊織』
「……ん、大丈夫。母さんこそ、ほどほどにね。ほんとワーカーホリックなんだからさ」
『だって楽しいんだもん。仕方ないじゃないの』
「…………」
仕事中毒と言っても良いほど仕事にのめり込む沙織に、伊織は今度は苦笑を浮かべる。仕方ないか、と半ば諦めつつも再度軽く注意すると、来訪を告げるインターフォンが鳴り響いた。
「……あ、迎え来た」
『麻子ちゃん?』
「そう。……じゃ、行ってきます」
『はい、行ってらっしゃい』
笑みを含んだ声を最後に、通話を切る。今行く、と外で待つ幼馴染の佐野麻子に告げて、ソファでこちらをじっと見つめる黒猫を振り返った。
「……行ってくるね、りんご」
ひと撫でしてそう言うと、りんご、と呼ばれた黒猫も小さく鳴く。それに微笑を浮かべ、伊織は家を後にした。




