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第2話 発動!逆切れ超説教モード!



「だからヲタクって嫌なんだよ」

「それわかるわー」

「秋葉ってやっぱこんなやつらばっかなんだろーな」

「変な奴らで溢れてるんだろーぜ」


みつばを含め、周りの人間に聞こえるように大きな声で、ヤンキー染みた子たちがその言葉を乱暴に吐き散らかしていた。全てのヲタクを否定する言葉。ヲタクでもなくただ純粋にこの歌が、この声が好きだということを否定する言葉。秋葉原を否定している言葉。その言葉にすぐに反応したのがころねだった。


「ちょっと!ちょっと!そんな言い方ないと思うんだけどな!!!」

「そ、そそそ、そうよ!」


機械ヲタクであるころねは、彼らの言葉を黙って聞いていられなかった。みつばも慌ててヤンキーに反抗するが、声がどもった上に裏返ってしまった。


「(本当に嫌になる…。)」


心の中でみつばが呟き、恥ずかしくて俯いてしまう。


「あ?なんだこのちびども。お前らもヲタクか?」

「てかオレンジ髪のちびなんて裏返ってよく聞き取れなかったし。マジうけるわー」


眉間に皺を寄せて、いかにも悪そうな顔をしてころねとみつばに迫る。


「そ、そうだよ!悪い!?それより今みつばを悪く言ったでしょ!!謝って!」

「………」


みつばをバカにされ頭にきたころねがつっかかる。みつばは恥ずかしさや悔しさが入り混じった感情でいっぱいになりながらも、俯くことしかできなかった。


「あぁ?調子のってんじゃねーぞコラ?」


そういいながらさらに迫るヤンキー達に


「あう…。」


少し怯んでしまうころね。


「可愛い顔して中身がヲタクとか残念すぎるな!」

「だな!つーか何?俺らに喧嘩売ってるわけ?気持ち悪いヲタクが俺らに意見するなんていい度胸じゃん!」

「ヲタクは家に引きこもってPCでやらフィギュアやらで遊んでろよ!」

「マジキモいわ!ヲタクなんていらねーって話」


2人のヤンキーが間髪いれずにころねを攻め立てる。

その言葉に対して色々反論したいがころねは何て言ったらいいかわからず、悔しくて目に涙を浮かべながらヤンキーたちを睨むことしかできなかった。隣でみつばが静かに怒りをたたえ体を震えさせていた。


「あん?なんだぁ?その目は!ずいぶん反抗的な目だなぁ!!」


1人のヤンキーがころねに掴みかかろうとする。


「わわわ!」


ころねが怯えた声をあげた。その声に反応したかのように、ころねをつかもうとした手を止めた手があった。みつばの手だ。みつばの手はかすかに震えていた。そしてヤンキーの手を掴んだその瞬間みつばのイチョウ型の髪飾りが淡く光り始め、みつばの「何か」が変わった。


「あんたたちいい加減にしなさいよ?」


怒りのこもった静かな声でヤンキー達に言う。みつばの髪飾りが徐々に強く輝きだす。


「あ?何だてめー―――」

「うるさい」


ヤンキーの言葉を遮って、みつばは冷たく言い放つ。


「さっきからヲタクはキモいだの、いらないだの、黙って聞いてればいい気になって…」

「な、なんだよ!」


みつばの怒りの気迫に押されながらも必死に突っ張るヤンキー。


「実際ヲタクの何が悪いの?人より多少コミュニケーションがとりにくいかもしれない。自分の世界に閉じこもって、周りのことを気にしないかもしれない。…でもね、あんたたちみたいに人様を平気で傷つけたりなんかしないんだから!それに、何かに熱中してその分野を極めてるヲタクは、あんたたちのように中途半端じゃないの!好きになったものがたまたま、フィギュアや、アイドルとか、機械とかそういった物になっただけで、何もおかしなことはない!それをおかしい、キモい、変、っていう人の考えがおかしいのよ!!つまり!!人を傷つけて楽しむあんたたち何かよりずっと素敵な人間なの!わかる!?」


みつばがこれだけの言葉を一気にまくしたてるのに要した時間は4秒フラット。尋常なスピードではない。しかし何故か言葉の一つ一つは、聞く者にしっかり伝わってくる。この勢いに押され、ヤンキーも目が点になっている。


「なな、なんだお前・・・」

「うるさいっての!!!」


またもや途中で遮る。いつの間にかみつばの周りの人だかり(ヲタク達)はみつばを後ろから応援するかのように、ヤンキー達を睨んでいた。みつばの髪飾りの光は最高潮に輝いていた。


「あなたたちみたいな人は――――――――――――!!!!」


まだまだ攻め立てている。この状況をころねは「あちゃ~」といった様子で見ていた。

普段このような状況に慣れていないみつばだが、感情のボルテージがある一定以上あがると、髪飾りが輝きだし{超説教モード}が発動する。


みつばが幼き頃、気が弱くて発音が悪くてどもりがちだったみつばに、ころねがプレゼントしたのがこの髪飾り。ころねが初めて誰かの為に作った機械だった。元々はみつばが緊張した時、特殊な電気パルス信号を送って言語中枢を刺激、発音を良くして、スムーズに会話ができるようにする機械だったのだが、感情のボルテージが上がりきると副作用として{逆切れ超説教モード}になってしまうようになってしまった。このモードになると、普通の人が日本語を喋ると1秒間に7~8文字だが、{逆切れ超説教モード}になると1秒間に50文字、1分間に300文字を超える字数を放つことが可能になる。滑舌もよくなり、言っていることがちゃんと聞き取れるため、大抵の人は精神的ダメージを受けて耐えきることが出来ずに逃げ出すことが多い。


みつばの{逆切れ超説教モード}が持続できるのは3分間、しかし、説教される側は一息もつかずに連続で3時間以上説教されている状態を疑似体験することになる。


「も、もうそこらへんで勘弁してもらえないっすか…?」


さすがのヤンキーも、多大なる精神的ダメージを負い、波へいさんを前にしたカツオ状態のようだ


「まだまだまだぁ!!!!!!!」


みつばが更にまくしたてる。


「ひぃ…!!!!」

「も、もう無理だ!!!すみませんでした!!!」


と、言ったあとすぐさまヤンキー達は逃げ去っていった。その様子をころねは密かに、しっかりとiPhoneの動画で撮っていた。


「ちょ!!!まだ終わってないのよ!!!!」


みつばが追いかけようとするがころねが止める。


「いいよみつば!これに保存してあるから~。何かしたらいろんなとこにのっけちゃうもんねー」


口元に浅い笑みをにじませながらiPhoneを見せる。ギャラリーのヲタク達は「おおおおーーーー神キター!!!」と歓喜の声をあげていた。

次の瞬間、ころねがみつばに抱きついた。


「それにちょうど3分たったし。大丈夫?」


抱きつかれたみつばの膝が崩れ落ち、髪飾りの輝きはすーっと消えていった。


「ふにゃ~、またやっちゃった~」


みつばの変な声にころねが笑った。それをみたみつばは安心して、笑顔でころねに返す。


「ありがとうみつば。やっぱりみつばはすごいや!」


笑顔のままころねは感謝の気持ちを伝える。


「私は、あの2人の言葉が許せなくて言っただけよ。べ、別にころねだけの為とかじゃ…ないんだから…。ふにゅ~~…。」


「あ!みつば!!!はい!これ!!!」


ころねが秋バナナを渡した。{逆切れ超説教モード}が解けると必ずみつばは過度に脳を酷使したため、全身の力が抜けてしまう。その都度ころねからもらった秋バナナを食べて元気を補充していた。昔からそうだった。ころねはいつも秋バナナを持っていて、体が疲れ果てると毎度待っていたかのように秋バナナを差し出してきていた。過度に酷使された脳には消化吸収がよい食べ物で速効性ある糖分を補給するが一番、ころねは昔から心得ている。引っ越した先にもとんでもない量の秋バナナを送って来てくれていた。「疲れた時に絶対食べてね!」という手紙付きで。

この秋バナナ、実は秋葉原にそびえるウルトラデラックスビル前の乾物屋さんの裏庭で栽培されているらしい。秋葉原に「やっちゃば」と呼ばれた青果市場があった頃の名残かもしれない。


昔と変わらないころねのフォローに対する安心感と脳に糖分が補給されたことで、みつばの体力が戻ってくる。食べ終わってからころねに礼を言う。


「…はむ、ほむ。…んっ、はぁ。ありがところね」


「ううん!元気でた?」


「うん!」


一息ついたみつばだが、心の中には先ほどのヤンキーの言葉がループしていた。ヤンキーが言っていた否定的な言葉はきっとどこでも吐かれているのだろう。それが今の世間の常識になっているのかもしれない。だからどこにいても秋葉原は悪いイメージだと決めつけられ、この街を何も知らない人たちが誤解して、悪いイメージを他者へとまた広めていく。ヲタクだから、秋葉原にいるから、そんな理由で毛嫌いされるのは間違っている。


「…つば、みつばー!みつばったら!」

「うひゃう!!」


また変な声が…。考え事をしていたせいで全く気付かなかった。


「そんな驚くことじゃないでしょ?どうしたの?急に難しい顔して。」

「ううん、なんでもないの。それより…」


ふと時間が気になって時計を探して時間を確認する


「もうこんな時間!?」


入学式が始まる時刻に迫っていることに気づき、慌てるみつば


「ホントだ!でも大丈夫!このころね号Mark3は2人のりだから!」


そう言って超電導自転車にまたがり、自慢げにアクセルを吹かせようとする。すると、シュルルルウゥゥウウゥウ…ゥゥゥウゥ ……。動かなくなった。


「あれ!?ちょっと!!!ねぇ!Mark3!!」

「何となく予想できたわ…」


ジト目で告げるみつば


「動け!動け!動け!!動いてよー!!」


……無意味な叫びで終わった。


「言ってみたかったの」


そう言って、てへっと舌を出して笑うころね。きっと何かロボットアニメのセリフなのだろうと思って


「はいはい…」


と軽くスルー。


「何で急に壊れたんだろう。ん~~~~~。」


とその場で解体して原因を調べようとするころねを慌てて止めて


「いいから!学校で調べましょ!!早くいかないと遅刻しちゃうわ!」

「ちょっとだけ!」

「遅れちゃう!」

「ほんの少し!」

「だーめ!!!」

「仕方ない、ころねの宝ものでもある―――」

「いらないから行くわよ!」

「何かも聞かにでー!!む~~~!!!」

「後でね!はい!いこうねー!」


無理やり言いくるめて学校に向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



壊れた超電導ディスクウィール式自転車を2人で押しながら学校に向かう途中様々な人を見かけた。特に目立ったのはやはり外国人だ。

やたら背の高いピンクの髪をした人や、生きたフランスドールのような風貌の人、頭に冠をかぶって、いかにも王子様的なオーラを醸し出す人など本当に個性豊かな人たちがいた。みつばはその人達を見ると、自然と気持ちが舞い上がってしまっていた。


「みつば、顔がにやけてるよ?」

「ふえ!?そ、そんなことないわよ!」


いきなりころねに指摘されて慌てて否定する。


「ふ~ん。まぁわからなくもないけどね!」


そういって笑いかけてくるころね。


「ころねには私のこと見透かされてるのかしら」

「もちろん!みつばと機械のことなら何でもわかるんだから!」

「機械ではころねに勝てる子なんていないわね…」


と呆れ気味で言うと、後ろから


「それはどうかな?そんなオンボロ作っているようでは。」


と、不穏な声がした。振り向くとその声の持ち主がいた。褐色の肌の少年が佇んでいた。



―――――――――――――――第三話へ続く




※この小説に関する著作権はHP:AKIHABARA OMOTENASHI PROJECTの著作権管理規約に則っています。 

URL: http://akiba-brand.com/


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