第1話 ようこそアキバへ!!
「秋津みつばの名のもとに宣言するわ!!私が、この街が素敵だってことを証明してみせる!!!」
オレンジ色の腰まである長い髪を大きく揺らしながら体育館の檀上で言い放つ。その後ろでこの学校の理事長であるみつばの叔父は、この突然の状況を楽しむかのように笑って見つめていた。
彼女はJR秋葉原駅から中央通りを抜けてベルサール方面に向かっていったところにある【インターナショナルスクール】に通っている、秋津みつば。みつばは秋葉原のイメージを傷つけたとある騒動に巻き込まれたことから、今の秋葉原に対する世間のイメージを変えていきたいと決意する。
―――彼女がこの世界に変革をもたらす…とまでは言わないが、秋葉原のイメージアップのために、幼馴染の友人の発明力と、外国人留学生の奇想天外な発想の助けを借りて、全人格と体力を尽くして突き進む。そこには様々な騒動、おふざけ、ありきたりな日常が存在している。リアルに近いが現実でもない…そんな世界の物語―――。
「ん~~。よしっ!」
大きく背を伸ばして眠りから目覚めるみつば。普段から生活リズムが正しく、早寝早起きが基本のみつばだが、今日はいつもより早く目覚めた。みつばは小学校低学年まで秋葉原の神田明神前に住んでいた純日本人だ。しかし親が外交官で、世界七カ国をたらいまわしにされた結果七ヶ国語を操ることができるようになった。そしてついこないだマサチューセッツの学校から転校して、秋葉原にある【インターナショナルスクール】に入学することになっているため、またこの街の学生寮に引っ越してきたのだ。
しかし、たらいまわしにされたおかげで出てきたマイナス面もある。それは、転々としたおかげで、慣れ親しい関係の人間が全然できなかったこと。そのせいで、みつばは緊張する状況や、人間関係のいざこざに関しての免疫がなく、言いたいことが言えなかったり、どもってしまったり、声が裏返ってしまったり…。
そういった状況が得意ではなかった。この学校を選んだのは、その苦手とすることを克服し、アイドルになるというみつばの夢を叶えるためであった。この学校にはみつばのように、自分を変えようと思う人間や、各国の(秋葉原LOVEな)人達がそれぞれの“自分たちの秋葉原”を求めて集まってくる。
「私も今日で高校生か!わくわくしちゃうなぁ。」
鏡を見て身支度をしながら呟く。長いオレンジ色の髪に黄色いイチョウ型の髪飾りを三つつけてから、みつばは枕の横にあった携帯を手に取り、ある番号に電話する。電話をかける相手はイチョウ型の髪飾りをくれた人物なのだが…。
♪♪♪♪♪♪~~~…
流れて来た音楽は、秋葉原に専門のカフェさえある有名アニメのOPソング。ついこないだかけた時は最近劇場版ができたとかニュースになってたロボットアニメのOPソングだったような…。
「相変わらずのセンスね…。ていうかでないし。」
一度切ってからもう一度かけなおす。
♪♪♪♪♪♪~~ガチャ。
「あ!もしもし!?」
ツーツーツー…。
………切られた。画面を確認し、何度か携帯を左右に振る。そして三度目の正直ということで少し間をおいて、もう一度かけてみる。
♪♪♪♪♪♪~~ガチャ。
「もしもし!?もう起きないと間に―――!」
「留守番電話だ。留守番電話とはいつも、二手・三手考えて行うものだ。」
聞こえてきたのは留守番電話を示唆するナレーション…。
「な、なにこれ!!!もう知らない!!!」
みつばは顔をプクゥっと膨らましてから携帯を閉じた。そして、子どものころよく食べた懐かしの万カツサンドを頬張り、コップ一杯のオレンジジュースを飲みほし、学校に向かった。神田川にかかる、万世橋横の元交通博物館跡地に建てられたレンガ造りの寮の玄関を出ると、みつばは目一杯息を吸い込んだ。吸い込んだ息をゆっくり吐くと、みつばの顔には自然と笑みがこぼれていた。iPodのイヤホンを耳にはめて大好きな音楽(美少女大型ユニット)を聴きながら歩き出す。その歌を軽く口ずさみながら登校している内に、携帯が震えだした。
その震えに気づいて立ち止まると携帯を取り出し、ぱっと開く。画面に目を向けるとそこにはついさっきかけていた相手の名前があった。先ほどのこと思い出したのか、みつばの顔はやや険しく眉間に皺がよる。
「まったく…」
と声をもらしてから電話にでる。
「もしもし?」
少し声のトーンを下げながらみつばは言う。
「みーつーばー!!!!」
「うわ!!」
いきなりのでかい声で驚き、さっと電話を耳から遠ざける。受話器からは遠ざけても聞こえるでかい声がさらに話す。
「寝坊しちゃったよー!目覚まし時計作っておいたのにー!!!」
「だから起こそうと電話したのにあなたが出なかったり、切ったり、留守電にしたりするから!」
みつばも少し大きい声で応答する。
「寝坊しないように5神変形合体ゴット目覚まし時計作ってたら、寝るのが遅くなっちゃって…」
「またロボット…。あなたねぇ…ホントに抜けてるわ。」
何とも普通に会話しているが、目覚ましを作るというのは普通に考えておかしい。でも今みつばが会話する相手は普通ではない。手ノ原ころね。それがみつばと会話する相手。ころねとは幼馴染で、みつばが引っ越した後でも頻繁にSkypeで連絡をとっていて、とても仲がいい。先日に感動の?再開をはたして、二人で一緒に学校に行こうと約束していた。寝坊の心配をして電話したのだが…結果は先ほどの通り。ころねはいつもどこか抜けていて、目を離すと何をやらかすか分からないといった少し…少し…?まぁ世話が焼ける性格をしている。さらに、ころねの祖父の影響で無類の機械ヲタクで、何でも作ってみたりする。もちろんスーパーロボットという類も大好きだ。今回は目覚まし時計を自作したようだが、うまく機能しなかったらしい。しかもそれを作るために夜更かしをして寝坊をしてるとは…。本末転倒もいいところだ。
「抜けてなんかないもん!!抜けてたのは、アンビリカルケーブルだもん!!」
抜けてると言われてころねはムキになって反応する。
「そんなケーブル知らないわよ!!とにかく早く支度しなさいいいいいい!」
みつばが携帯に向かって怒鳴った瞬間に
「うわーーーーーー!!!」
という悲鳴とともにじりりり~、ちゅどーんちゅどーん、ポッポーという意味不明な音が聞こえてきた。
「なななな何々??」
そのみつばの声は何とも荒々しいアラームのせいでころねには聞こえていなかったらしく、ころねはばたばたと、ゴット目覚ましの音を消すのに悪戦苦闘していた。はぁはぁと息を切らして、アラームの音を消すことが出来るのに五分は経過していた。ゴット目覚まし…恐るべし。
「じゃ、じゃぁ、支度するから、またね!」
「う、うん、気をつけて来なさいよね?それじゃぁまた。」
パタンと携帯を折りたたみ、はぁ。と深くため息をついた。
そしてまた、学校に向かい始めた。
Skypeでころねから今の秋葉原は最先端機器や、サブカルチャーがそこらじゅうに溢れかえっていると聞いてはいたが、六年ぶりに秋葉原に訪れるみつばにとってかなり新鮮なものだった。だが、昔のイメージの秋葉原とは少し違っていると感じていた。みつばの過去の秋葉原のイメージはもっとコスプレをしている人や、頭にバンダナを巻いてトレーナーをズボンの中にinしている人、メイドさんがいたるとこにいるものなどだった気がする。実際の秋葉原の街は高層ビルが立ち並ぶ、一般的なオフィス街に見えた。iPodで音楽を聴きながら、イメージの食い違いに少し複雑な感情を抱くみつばだが、人だかりを見つけて足を止める。
「こんな朝早くから何だろう。」
気になって様子を見に行くと、ソフマップアミューズメント館で何か販売していて、それを目当てにたくさんの人が集まっていた。店の前に大きなテレビが置いてあり、そこにはその商品のプロモーションビデオが流れていた。どうやらどこかのアーティストが歌ったリズムゲームを販売しているらしい。歌が大好きなみつばはその歌が気になってイヤホンをとった。
「え?何…。この声…。」
それがみつばの一番最初に感じた感想で、つい声に出てしまっていた。歌を歌う声はとても澄んでいて、人に出せる声なのか疑いたくなるような声だった。ゲーム画面では、緑色をした髪の長いツインテール少女が歌っている。みつばは終始その歌声に聞き入っていた。時間を忘れ、ただただその声を聞いている。すると後ろからいきなり抱きつかれた。
「ひゃ!!!!」
急に抱きつかれたために、何とも恥ずかしい声がでてしまった。慌てて振りほどき、抱きついてきた相手を見た。するとそこにはころねがいた。ころねの姿は黄色のショートヘアーで背丈はみつばとあまり変わらず、まぁちびというほどでもないが小さい方だろう。服装は緑のつなぎ姿で、首には黒のネックピロー型の工具箱?をつけている。そんなころねの姿で一番印象を受けるとしたら、何と言っても笑顔だろう。天真爛漫、純真無垢。そんな言葉がぴったりな笑顔。こんな笑顔は誰が見ても可愛いと思ってしまう。
「変な声~~。」
そう言って満面の笑顔を見せるころね。
「そ、それは突然で…びっくりしちゃって…」
「ふ~ん」
みつばの言い訳を全く気にせず、にやにや不敵な笑みをみせるころね。
「なにその顔…。いや~な感じだわ」
「えへへ~」
「まぁいいわ。それにしてもずいぶん来るの早かったじゃない?」
「まぁねぇ。これに乗ってきたから!」
これと言って指差した先にはスクーターのような、自転車のような…。ディスク状のタイヤが取り付けられていて、その乗り物はシュイ~ン、シュイ~ンという甲高い音をひびかせながら止まっている。うっすらドライアイスの冷気のようなものが流れ出ている。普通の電動型自転車とは一風違った乗り物にみつばは顔を引きつらせながら尋ねた。
「これは…何?」
「超電導自転車ころね号Mark3!速さに特化したこのMark3は伊達じゃないんだよ!?」
Mark3ということはMark1,Mark2も存在しているのか…。改めてころねの機械ヲタクには驚かせられる。いや、六年経って改めて目の当りにしたころねのヲタクぶりは、もはやヲタクの領域じゃないだろう。
「どこで作ってきたのよ…」
「秋葉のパーツショップ!」
「どうやって作ったの?…って聞いても私じゃ分からないだろうから聞かないでおくわ」
「そこを一番聞いて欲しい!超合金ニューZβの如く素晴らしい金属を―――」
「あーはいはい。それはすごいわねー」
「みつば…冷たい。」
そう言ってころねはジト目で睨む。その目をみつばは普通にスルーして画面の中の少女に視線を戻す。
「何を見てるの?掘り出し物の真空管かなんか!?」
「違うわ!」
どこまで機械好きなのかとあきれながらツッコむ。
「リズムゲームのPV…だと思うんだけど」
そういってみつばは説明すると、ころねは画面に目を向ける
「この人の声、とても素敵だと思わない!?どうして本人映像にしないのかしら」
「え?このキャラクターだよね?」
ころねが不思議そうに尋ねる
「そうよ?」
「あの画面に映ってる歌だよね?」
「…そうよ?」
ころねの態度にみつばも不思議そうに答える。
「くく、ふふふ…」
「何!?どうしたの!?」
「くっくっく、はははは!!!」
「え!?ちょっと!!何!?」
急に笑いだすころねに、すこしムキになって問い迫るみつば。
「いや、だってそれを人だっていうから、ふふふ」
「どーゆーこと!?」
ころねが言っていることが理解できずに戸惑うみつばにころねはふぅ、と笑いを納めてから言う。
「あの子はね、人じゃないんだよ?」
「…え?」
「あの声の持ち主は機械なんだよ。正確にいえばソフトになるんだけど。」
「あの声が人じゃ…ないの?」
「今流行りの【ソングアンドロイド】通称【ソイド】ってやつ。聞いたことない?」
「そーいえば…テレビかなんかで聞いたような。」
みつばは驚いて目を見開いたまま会話していた。そのまま唖然としてしまう。
「機械ってすごいでしょ?」
何故かころねが得意げに言うが、正直、素直にすごいと思っていた。
「あのソフトを使えばあの声を使って色々な―――」
と、ころねが何か思いついたらしいので、みつばはとっさに
「あの声を悪用しちゃだめ!」
「そんな!悪用だなんて―――」
「やだ!」
「いや、で―――」
「無ー理!」
「…むぅ~~」
ころねがあの声を使って何をするのか分からないけど、きっととんでもないことになるので全力で抑圧した。そう思ってしまうくらいあの声はみつばにとって大きな何かになったのだった。
ころねとそんなやりとりしていると後ろから声が聞こえてきた。
「うわー。こいつらマジキモいわぁ。」
「こんなん買うのにならんじゃってばかじゃねぇの?」
二人はその声に振り返った。
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