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豺狼  作者: 風祭ともこ
4/8

裏切り

「なっ!?」

 日中、豺狼は外へ出かける、不規則ではあるが一度、出かけたらしばらく戻ってこない。

 それなのに、出かけてすぐ誰かが入る音がして、揚華は剣を懐に持ち、身構えた。

「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」

・・・案の定、知らない男だった。

 誰も居ないと思っていたのだろう、酷く困惑した様子を一瞬見せた男だったが。

 すぐに男は見覚えのある表情を浮かべた。

 この表情を知っている。

・・・ああ、昔、犬に会った時の俺の顔だ

 そう思ったとき、ひどく鬱々とした気持ちがこみ上げてきた。

 瀕死の犬・・・それが今の揚華だ。

 腫れ、爛れた体にろくな治療も無いまま、幾重にも傷を重ね

 出血を抑えるため巻かれた布は、取り替えることも無く、悪臭を放っていた。

「・・・こりゃあ・・・ひでえ」

 男の言葉に我に返り、慌てて、左目を髪で隠したが、男はそこまで目が行かなかった。

・・・それほどまでに酷い有様だったから

「・・・・これを、あいつに?」

 心を許した訳ではなかったが、とりあえずうなづいた。

 男の表情に同情の色が広がっていく

「なぜ、そんな思いをして、ここに居るんだ?」

「・・・・他に・・・行く場所が無いんだよ」

 うめくような声で言った・・・・ずっと、心の中でグルグルと回っていた、揚華の本心だ。

 男が後ろを向き、目配せをする、すると複数の男達がぞろぞろと入ってきた。

「・・・なんだ!?」

 驚いたが、恐怖はない・・・皆、体格も普通、麻の粗末な着物を着ている。

「俺達は少し先の集落に住んでいるものだ」

 最初に入ってきた男が言う、豊かな暮らしではない事は目に見えて解る。

「数日前にここの男に襲われた」

 男の声は震えている。

「・・・・一度の事ではない、その前も・・・何度もだ」

 金に困ると奪いに来るようだ。

「・・・盗賊と大差ないな」

 ふと、そんな言葉が漏れて揚華は最初に会った時、襲ってきた盗賊達のことを事を思い出した。

「盗賊?・・・そんなの比ではないわ!」

 男達の間にそんな言葉が漏れる。

 盗賊たちは、自分の事を塵屑としか、見ていなかった

・・・・そんな風に豺狼も村を襲ったのだろう。

「・・・それで、あんた達は復讐に来たんだね」

「物分りのいい子だ」

 男は感心したように言った。

「あの怪物が帰ってくる前に家に忍び込み、戻ってきたところを一斉に叩く。

・・・そのつもりだったのだが」

 男が揚華を見極めるような目つきで眺めた。

「・・・・・・・」

 魂胆が見え見えだ

「・・・・大丈夫だ、俺はそれをばらしたりなんてしない・・・この姿を見れば解るだろ?」

 ボロボロな体、それは大事にされていない、何よりの証明だった。

「協力してくれないか」

 確信したように男は言う。

「君だって、こんな暮らしは嫌だろう・・・成功すれば、村で引き取ってやる」

 男はまたとない好条件のようにいうが、それに揚華は全く惹かれるものがなかった

 それは、今まで繰り返してきた行動だった。

「・・・・あんたらは、すぐに俺を捨てるよ」

「?」

 不思議そうな顔をされたが、揚華は言わないと気がすまなかった。

・・・身を切られる以上に痛い、心の傷が疼いた。

 だけど

「この生活を終わらせられるなら・・・俺、手伝うよ」

 ここ以上の地獄を揚華は知らない、村人達は安堵の表情を浮かべた。

「これは?」

 懐から出された小さな袋を渡され、揚華は聞いた。

「催眠薬だ・・・湯に溶ける、味はしない」

 男は淡々と言った。

「これをヤツに飲ませてくれ・・・寝込みを襲う」

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