02:知らない写真
スマートフォンの写真を整理していた。
最近は撮るだけ撮って、そのままにしていることが多い。
いらない写真を消していると、見覚えのない一枚が出てきた。
夜の道だった。
街灯の下に、古い自動販売機が写っている。
その横に、細い道が続いていた。
写真を見ても、どこなのか分からない。
私は少し考えた。
「……こんなところ、行ったっけ」
撮影日時を見る。
三日前の夜、11時42分。
その時間なら、私は家にいたはずだった。
念のため、カレンダーを確認した。
その日は仕事から帰って、夕食を食べて、家で動画を見ていた。
外に出た覚えはない。
それでも、写真は確かに私のスマートフォンの中にあった。
間違えて撮ったのかもしれない。
そう思って、写真を閉じた。
翌日になって、そのことはすっかり忘れていた。
仕事から帰って、何気なく写真を眺めていたとき、また目に入った。
知らない写真。
今度は、少し違って見えた。
写真の端に、小さな公園が写っている。
ベンチの前に、黄色い花が咲いていた。
私はそこで、妙な感じがした。
この公園を知っている気がする。
どこにあるのかは分からない。
けれど、写真を見ていると、右手の奥にコンビニがあるような気がした。
そんなはずはないと思いながら、私は画像を拡大した。
確かに、遠くに白い看板が写っている。
コンビニだった。
それを見た瞬間、なぜか道順まで頭に浮かんだ。
家から出て、交差点を一つ渡る。
まっすぐ歩いて、二つ目の角を右に曲がる。
その先に、この公園がある。
私はスマートフォンを見たまま動けなかった。
そんな場所は知らない。
少なくとも、今まで行ったことはない。
気になって、地図を開いた。
しばらく探していると、似たような場所が見つかった。
市内の外れだった。
私は次の休日、そこへ行ってみた。
写真に写っていた道を見つけるまで、それほど時間はかからなかった。
街灯。
自動販売機。
細い道。
写真と同じだった。
少し先に、公園もあった。
ベンチの前には、黄色い花が咲いていた。
私は立ち止まった。
写真では、花の横に白い小さなものが写っている。
よく見ると、猫だった。
その猫は、今も同じ場所にいた。
私に気づくと、ゆっくり顔を上げた。
なぜか、懐かしい気がした。
私はしゃがんで、猫を見た。
すると猫は、私のところへ歩いてきた。
足元まで来ると、何度か私の靴に体をこすりつけた。
その瞬間だった。
頭の中に、一つだけ映像が浮かんだ。
この公園のベンチに座っている自分。
隣に、誰かがいる。
でも、顔が見えない。
私はその人に向かって、何か話している。
内容は思い出せない。
ただ、最後にその人が言った言葉だけが、はっきり聞こえた。
「また来る?」
私は立ち上がった。
そんな記憶はない。
それなのに、なぜかその言葉を知っていた。
怖くなって、私はその場を離れた。
帰宅してから、もう一度スマートフォンの写真を開いた。
あの写真を見つける。
今朝まで気づかなかったものが、もう一つ写っていた。
公園のベンチの端。
誰かの手が写っていた。
袖だけが見える。
その服には、見覚えがあった。
自分がよく着ているコートだった。
私はしばらく画面を見ていた。
そして、写真の撮影日時をもう一度確認した。
三日前。
11時42分。
その時間、私は家にいた。
そう思っていた。
けれど、写真の中の自分は、誰かの隣で笑っていた。
まるで、何度も来た場所のように。




