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シーン8:納付書を見せる
卓也は、何か言おうと口を開きかけた。
だが、言葉は出てこなかった。
視線が、自然と右手に落ちる。
まだ握っていた。
しわになった紙。
端は少し汚れている。
それでも、印字された文字だけは、はっきりと読めた。
自動車税 納付書。
この場には、明らかに場違いなものだった。
卓也は何も言わず、
その紙を窓口の上に置いた。
ただ、それだけだった。
徴税官の視線が、納付書に落ちた。
その瞬間、わずかに眉が動く。
それが、ここへ来て初めての変化だった。
徴税官は紙を手に取る。
ゆっくりと、目を走らせていく。
税目。
金額。
納期限。
使途。
一つひとつを、確かめるように。
言葉はない。
書類をめくる音も、衣擦れの音も、
いつの間にか聞こえなくなっていた。
卓也は、自分の呼吸だけを感じていた。
徴税官は、まだ納付書を見つめている。
沈黙が、伸びる。




