最終話 エピローグ 『23:57』
――現世。
意識が戻った瞬間、
卓也は反射的に立ち上がっていた。
場所は、見慣れた夜道。
コンビニの白い光が、数十メートル先に見える。
胸ポケットに、紙の感触。
――まだ、ある。
右手で取り出したそれは、
しわだらけになった自動車税の納付書だった。
卓也は、腕時計を見る。
23:57
納期限当日。
残り、三分。
考えることはない。
息を整えることもない。
卓也は走った。
夜の舗道を、
異世界で一度も走らなかった足で、
ただ、走る。
ドアが自動で開く。
蛍光灯の下、誰もいないレジ。
納付書を差し出す。
店員が受け取る。
バーコードリーダーが、紙の上を滑る。
――ピッ。
短く、乾いた音。
「お支払い、完了しました」
それだけ。
卓也は、
深くもなく、浅くもなく、
ただ一度、静かに息を吐いた。
終わった。
何かを成し遂げたわけではない。
世界を救った実感もない。
だが、
払えば終わる――
その当たり前が、
確かに、ここにあった。
――異世界、フィスカリア。
石造りの街角に、
新しい掲示板が設置される。
文字は簡素で、派手さはない。
「税についてのご質問は、こちらへ」
立ち止まる市民がいる。
読んで、首をかしげ、
それでも、去っていく。
制度は続く。
秩序も続く。
だが、そこには、
終わりを知った世界の静けさがあった。
時計は、24:00 を指している。
今日という日は、
きちんと、終わった。




