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『納付書を握りしめたまま異世界に転生した男は、期限までに帰ってこれるのか』  作者: 南蛇井


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シーン8:ザイゼルとの短い言葉

ザイゼルは、制度盤から視線を外し、卓也を見た。


その目には、怒りも警戒もない。

敗北の色も、なかった。


ただ、確認するような静けさ。


「秩序は、壊れていない」


言葉は短い。

断定だった。


卓也は、わずかにうなずく。


「はい」


それだけで終わらせることもできた。

だが、もう一言だけ、付け加えた。


「少し、呼吸ができるようになっただけです」


説明ではない。

説得でもない。


現象の報告だった。


ザイゼルは、返答しなかった。


否定も、同意も示さない。


だが、机の上に置かれた帳簿に、

その指が軽く触れる。


ほんの一瞬。


それは、制度を確認する仕草であり、

同時に――


この世界が、まだ続いていくことを

受け入れた合図にも見えた。


二人の間に、言葉はもう要らなかった。


対立は、終わっている。


壊れたのは秩序ではない。

締め付けすぎていた、空気だけだ。


静かな評議場に、

誰にも邪魔されない沈黙が、

少しだけ、長く流れた。

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