シーン4:言葉が戻る
制度盤に、二つ目の語が刻まれた。
「説明義務」
文字は深くも派手でもない。
だが、その下に小さく注釈が連なる。
課税理由の明示
算定根拠の提示
質問への回答義務
誰かが、息を吸った音がした。
世界は、また静かに変わる。
市街地。
税務窓口で、いつも通りの光景が並んでいた。
帳簿。
硬い椅子。
無言で差し出される書類。
――だが、その沈黙が、続かなかった。
税目官が、口を開く。
「こちらは、生存税です」
「生活維持のために必要な費用として――」
声は震えていない。
命じられているわけでもない。
ただ、説明している。
それを聞いた市民が、視線を上げる。
「……なぜ、同じ額なんですか」
一瞬、空気が止まる。
これまで、その言葉は危険だった。
面倒を呼び、記録を増やし、余計な管理を生む。
だから、聞かれない。
聞いてはいけない。
だが今回は、違った。
税目官は眉を寄せ、帳簿を見る。
即答はしない。
「……理由は、平準化思想です」
「不安を減らすため、とされています」
歯切れは良くない。
完全な答えでもない。
それでも。
質問は、否定されなかった。
「そう、なんですね」
市民はそれ以上追及しない。
税目官も、強く締めくくらない。
だが、その場には確かに、言葉があった。
別の通りでは、別の光景が生まれていた。
「この税は、いつまで続くんですか」
「評価額は、誰が決めたんですか」
問いは小さい。
声も荒れていない。
ただ、確認のための「なぜ」。
それに対し、税目官たちは黙り込むこともある。
答えきれず、書類をめくることもある。
それでも、追い返さない。
「後ほど確認します」
「制度上の理由を調べます」
完璧な説明は、まだない。
だが、説明しようとする姿勢が、そこにある。
世界に戻ってきたのは、反抗ではない。
革命でもない。
ただ――
問いと応答だった。
「なぜ?」
その言葉が、初めて、
制度によって拒まれなかった。




